2
「あーっはっはっは。いやぁ、傑作だったぞ」
お猪口片手に呵呵大笑しているのは、ほろ酔い加減のユキだった。
夕餉の膳を囲み、むすっと不機嫌なツバキと、おろおろしているアゲハが向かい合っている。
「笑い事ではございません。わたくし、アゲハさんのことは双子の姉であると聞き及んでおりました」
ぴしゃりと言い放つと、笑っていたユキもさすがに口元を引き締め、うーん、とうなった。そもそも、すべて知っていてふたりを風呂場へ向かわせたのはユキなのだ。
「まぁ、本家の人間もアゲハを女だと思ってるしな。おそらくいまじゃ、こいつが男だと知っているのは、ここの三人くらいだろう」
「わたくしが訊きたいのは、なぜアゲハさんがこのようにふしだらな姿で生活しているかということです!」
「ふしだら……」
ぼそっとアゲハがつぶやいた。納得いってない様子だ。
ツバキがにらみつけると、あからさまに身を縮込めて膳に集中する振りをした。
「まぁまぁ。その件については、アゲハが悪いわけじゃない。すべて私の趣味だ」
「言い切りましたね」
「そもそも私だってこいつを預かる時、女だと思ってたんだ。赤ん坊のころはおチンチンがちっこくてな。玉の間にうずもれてて、それが女の子のワレメそっくりだったんだよ。加えていっしょに生まれたツバキが女子だった。双子といえば性別が同じって先入観もあるしな」
「左様ですか」
食事中にチンコだのワレメなど聞かされて、ツバキはすっかり食欲をなくしてしまった。
夕餉は騒動を起こしながらツバキが入浴しているうちに、ユキが用意してくれたものだ。そのあたり、やはり気の回る人間であるのは間違いないらしい。
夕餉に出された料理は、人里離れた場所とは思えない、さまざまな食材が使われたものだった。
食料は本殿の支援品のほか、かつてユキが巫女をしていたころの信者たちが持ってきてくれるらしい。ユキは神託によって村をいくつも救っており、土地によっては神のようにあがめられているのだそうだ。
「……ボク、女の子の方がよかったのに」
再びぼそりとアゲハがつぶやいた。今度はすねたような口調だった。
ツバキはあきれたようにいった。
「そうなんですか? お兄様」
嫌味がわかったのか、アゲハはむぅと膨れる。
「ずっと女の子だって思ってたんだ。いまさら男だなんて、考え方が切り替わらないよ」
「おいおい、アゲハが男だって自覚したのは何年も前だろ? いい加減あきらめろって。……ツバキ、一応こいつの名誉のために断っておくと、アゲハは同性愛者でもオカマでもない。他よりちょっと美少女顔で女装趣味の男の子さ」
ユキの弁護に、ツバキはため息で応じた。
「充分に変です。ユキさん、わたくし失望しました。このような場所で生活していけるのか、常々不安でしたけど、憂慮が深まった気持ちです」
そのまま箸を起き、立ち上がる。
あまり減っていない膳の中身に、ユキが眉をひそめる。
「なんだ、もういいのか?」
「ごめんなさい。おいしかったのですけど、あまり喉を通らなくて」
「ふむ。……ツバキ、ちょっと耳を貸してくれ」
「はい?」
手招きに応じて、ツバキはそばへ移動し、顔を寄せる。
「今宵、夜更けに私の部屋へ来てくれ。あまり足音を立てず、そっとな」
「はあ」
「アゲハがちゃんと男だってところを見せてやるよ」
にやりと笑ったユキに不審なものを感じ――ちらりとアゲハへ視線をやると、女装の美男子は一生懸命焼いたイワナから骨を外していた。
3
夜。
あてがわれた部屋で横になっていたツバキは、夕餉の時にいわれたことを思い出してユキの部屋へ向かった。
すでに庫裏の中は一通り案内してもらっている。
ユキがアゲハをつれて移り住んだ当時はもっと多くの人が住んでいたそうで、増築された離れやツバキの部屋になっている客間など、部屋数は思ったより多かった。
奥まった位置にあるユキの部屋へ近づくと、なにやらうめき声のようなものが聞こえてきた。
なにかを堪えるような、泣き声のような……。
ツバキは足を速め、わずかに開いている部屋の障子から、中を覗き込んだ。
「――っ!!」
そこで見た光景に、思わず大声を上げかける。
一組の男女が、布団の上で絡み合っていたからだ。
男女とは、ユキとアゲハのふたりのことだ。
「くっ……ふっ……うぅ……うん……」
泣き声のようなものは、組み敷かれたユキが結んだ唇から洩らす喘ぎ声だった。
裸体のアゲハが、割り入った股の間で、小刻みに何度も腰を動かしている。
お姫様育ちとはいえ、さすがのツバキもその行為がなんであるか、知らないわけではなかった。
(そんな……ふ、ふたりがまぐわいを……)
衝撃で膝に力が入らない。
すとんと落ちるように床へ座り込んでいた。
「くふっ……うぅん……ん? ……うふっ、ふふ……ぁあん!」
わずかな物音に気づいたユキが、仰向けのままツバキのほうに目を向けた。
口元に笑みを浮かべると、抑え気味の声を開放する。
アゲハのほうは夢中になっていて気づかなかったようだ。
「あんっ、あんっ、ああ、いい……! アゲハ、そこいい……!」
「だ、ダメだよユキさん。声……抑えないと。ツバキちゃんに聞こえちゃう」
「もう、いいじゃないの。どうせばれるんだから、聞かせちゃいなよ。ね?」
最後の問いかけは、ツバキのほうへ目を向けて発せられた。
半分腰の抜けたまま、ツバキは動けずにいる。
どうしていいのかわからずに、ただ目の前の情事を見続けるしか出来なかった。
アゲハの長い髪が川のように白い背中を流れている。
腰使いはひどく野生的で、暴力的で、そして――男性的だった。
力強かった。
大きな力の塊を、女の大切な部分へ叩き込むように、何度も何度もアゲハは交接し、そのたびに歓喜の声をユキは上げた。
(すごい……)
呆然としていたツバキは、すでに眼前の情景に呑まれている。
ふたりの交わりを横から見る形で、それが余計に、そこでどんな行為がどのように行われているのか、はっきりとわかることとなった。
(なよなよとしたアゲハさんが……こんな)
正直な印象はそれだ。
明るくて元気で、どこか子供っぽいアゲハが、長い手足や高い身長を使ってユキを羽交い締めするみたいに抱き、あけっぴろげに開かせた足の間で思うさま腰を振るっている。
昼間の様子からはまるで想像できない。
獣じみていて、野蛮な、本能まるだしのその動きは、やはり男のものだった。
(不潔……不潔よ……)
そう思いながらも、ツバキは目を逸らすことができず、自分の身体が熱く火照ってきていることにも気づかない。
「んあぁ! はぁっ、いい、最高、アゲハの、おチンチン最高! すごいの……奥まで、奥の――ああん! そこよ、そこ、奥の子宮の、そこ、そこ、そこぉ!」
ユキが本当に泣き出しそうな声で、布団を両腕でむちゃくちゃにかき回し始めた。
ツバキは喉を鳴らし、その痴態を見守る。
「そこいい! 子宮のこりこりいいの! もっと、もっとぐりってしてぇ、アゲハ、太くてたくましいあんたのチンポで、いっぱいして、突いてかきまわして!」
「んっ――ユキさん、一回先にイっちゃう?」
「うん、イカせて、チンポでいかせて。私、このまま、果てる、果てたいの。アゲハのたくましいので、思いっきりイカせてちょうだい!」
「なんだか、今日のユキさん、激しいよ――」
そういったアゲハの腰使いが明らかに変化した。
腰と腰が離れそうなほど引き抜き、一気にいきおいをつけて貫き通す。
パンッ、と肉のぶつかり合う音が濡れて響いた。
その瞬間、ユキが背中をぐいっと反らした。
「くぅん――いい――イク、イカされるぅ……!」
「いいよ、イっちゃって。ほら、ほらっ!」
アゲハはその大振りな動きをくり返し始めた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
卑猥な肉音が規則的に響き始め、ユキのあえぎ声はいよいよ切羽詰ってくる。
「イクッ、イクイクイクイク――くぅぅぅん!!」
激しい突き上げがくり返されているうちに、ユキの身体が跳ねるように暴れた。
ぎゅっと布団を握り締め、背筋が弧を描いてしなる。
アゲハは浮いたその背を抱きしめ、とどめとばかりに腰を打ち降ろした。
「……かっ……あっ……」
声をなくした喉からは、空気の塊だけが吐き出され、目を見開いたユキは仰け反った不自然な姿勢のまま、おこりのように震え続けている。
(し、死んじゃったんじゃないのかしら……)
あまりに異常なその様子に、ツバキはすこし恐怖を覚える。
やがて力が抜けてぐったりとするユキは、まるでアゲハという猛獣に狩られてしまった小動物のようだった。
豊満な胸を上下させて、荒い息を吐いているのが見える。死んではいないようだった。
「あーっはっはっは。いやぁ、傑作だったぞ」
お猪口片手に呵呵大笑しているのは、ほろ酔い加減のユキだった。
夕餉の膳を囲み、むすっと不機嫌なツバキと、おろおろしているアゲハが向かい合っている。
「笑い事ではございません。わたくし、アゲハさんのことは双子の姉であると聞き及んでおりました」
ぴしゃりと言い放つと、笑っていたユキもさすがに口元を引き締め、うーん、とうなった。そもそも、すべて知っていてふたりを風呂場へ向かわせたのはユキなのだ。
「まぁ、本家の人間もアゲハを女だと思ってるしな。おそらくいまじゃ、こいつが男だと知っているのは、ここの三人くらいだろう」
「わたくしが訊きたいのは、なぜアゲハさんがこのようにふしだらな姿で生活しているかということです!」
「ふしだら……」
ぼそっとアゲハがつぶやいた。納得いってない様子だ。
ツバキがにらみつけると、あからさまに身を縮込めて膳に集中する振りをした。
「まぁまぁ。その件については、アゲハが悪いわけじゃない。すべて私の趣味だ」
「言い切りましたね」
「そもそも私だってこいつを預かる時、女だと思ってたんだ。赤ん坊のころはおチンチンがちっこくてな。玉の間にうずもれてて、それが女の子のワレメそっくりだったんだよ。加えていっしょに生まれたツバキが女子だった。双子といえば性別が同じって先入観もあるしな」
「左様ですか」
食事中にチンコだのワレメなど聞かされて、ツバキはすっかり食欲をなくしてしまった。
夕餉は騒動を起こしながらツバキが入浴しているうちに、ユキが用意してくれたものだ。そのあたり、やはり気の回る人間であるのは間違いないらしい。
夕餉に出された料理は、人里離れた場所とは思えない、さまざまな食材が使われたものだった。
食料は本殿の支援品のほか、かつてユキが巫女をしていたころの信者たちが持ってきてくれるらしい。ユキは神託によって村をいくつも救っており、土地によっては神のようにあがめられているのだそうだ。
「……ボク、女の子の方がよかったのに」
再びぼそりとアゲハがつぶやいた。今度はすねたような口調だった。
ツバキはあきれたようにいった。
「そうなんですか? お兄様」
嫌味がわかったのか、アゲハはむぅと膨れる。
「ずっと女の子だって思ってたんだ。いまさら男だなんて、考え方が切り替わらないよ」
「おいおい、アゲハが男だって自覚したのは何年も前だろ? いい加減あきらめろって。……ツバキ、一応こいつの名誉のために断っておくと、アゲハは同性愛者でもオカマでもない。他よりちょっと美少女顔で女装趣味の男の子さ」
ユキの弁護に、ツバキはため息で応じた。
「充分に変です。ユキさん、わたくし失望しました。このような場所で生活していけるのか、常々不安でしたけど、憂慮が深まった気持ちです」
そのまま箸を起き、立ち上がる。
あまり減っていない膳の中身に、ユキが眉をひそめる。
「なんだ、もういいのか?」
「ごめんなさい。おいしかったのですけど、あまり喉を通らなくて」
「ふむ。……ツバキ、ちょっと耳を貸してくれ」
「はい?」
手招きに応じて、ツバキはそばへ移動し、顔を寄せる。
「今宵、夜更けに私の部屋へ来てくれ。あまり足音を立てず、そっとな」
「はあ」
「アゲハがちゃんと男だってところを見せてやるよ」
にやりと笑ったユキに不審なものを感じ――ちらりとアゲハへ視線をやると、女装の美男子は一生懸命焼いたイワナから骨を外していた。
3
夜。
あてがわれた部屋で横になっていたツバキは、夕餉の時にいわれたことを思い出してユキの部屋へ向かった。
すでに庫裏の中は一通り案内してもらっている。
ユキがアゲハをつれて移り住んだ当時はもっと多くの人が住んでいたそうで、増築された離れやツバキの部屋になっている客間など、部屋数は思ったより多かった。
奥まった位置にあるユキの部屋へ近づくと、なにやらうめき声のようなものが聞こえてきた。
なにかを堪えるような、泣き声のような……。
ツバキは足を速め、わずかに開いている部屋の障子から、中を覗き込んだ。
「――っ!!」
そこで見た光景に、思わず大声を上げかける。
一組の男女が、布団の上で絡み合っていたからだ。
男女とは、ユキとアゲハのふたりのことだ。
「くっ……ふっ……うぅ……うん……」
泣き声のようなものは、組み敷かれたユキが結んだ唇から洩らす喘ぎ声だった。
裸体のアゲハが、割り入った股の間で、小刻みに何度も腰を動かしている。
お姫様育ちとはいえ、さすがのツバキもその行為がなんであるか、知らないわけではなかった。
(そんな……ふ、ふたりがまぐわいを……)
衝撃で膝に力が入らない。
すとんと落ちるように床へ座り込んでいた。
「くふっ……うぅん……ん? ……うふっ、ふふ……ぁあん!」
わずかな物音に気づいたユキが、仰向けのままツバキのほうに目を向けた。
口元に笑みを浮かべると、抑え気味の声を開放する。
アゲハのほうは夢中になっていて気づかなかったようだ。
「あんっ、あんっ、ああ、いい……! アゲハ、そこいい……!」
「だ、ダメだよユキさん。声……抑えないと。ツバキちゃんに聞こえちゃう」
「もう、いいじゃないの。どうせばれるんだから、聞かせちゃいなよ。ね?」
最後の問いかけは、ツバキのほうへ目を向けて発せられた。
半分腰の抜けたまま、ツバキは動けずにいる。
どうしていいのかわからずに、ただ目の前の情事を見続けるしか出来なかった。
アゲハの長い髪が川のように白い背中を流れている。
腰使いはひどく野生的で、暴力的で、そして――男性的だった。
力強かった。
大きな力の塊を、女の大切な部分へ叩き込むように、何度も何度もアゲハは交接し、そのたびに歓喜の声をユキは上げた。
(すごい……)
呆然としていたツバキは、すでに眼前の情景に呑まれている。
ふたりの交わりを横から見る形で、それが余計に、そこでどんな行為がどのように行われているのか、はっきりとわかることとなった。
(なよなよとしたアゲハさんが……こんな)
正直な印象はそれだ。
明るくて元気で、どこか子供っぽいアゲハが、長い手足や高い身長を使ってユキを羽交い締めするみたいに抱き、あけっぴろげに開かせた足の間で思うさま腰を振るっている。
昼間の様子からはまるで想像できない。
獣じみていて、野蛮な、本能まるだしのその動きは、やはり男のものだった。
(不潔……不潔よ……)
そう思いながらも、ツバキは目を逸らすことができず、自分の身体が熱く火照ってきていることにも気づかない。
「んあぁ! はぁっ、いい、最高、アゲハの、おチンチン最高! すごいの……奥まで、奥の――ああん! そこよ、そこ、奥の子宮の、そこ、そこ、そこぉ!」
ユキが本当に泣き出しそうな声で、布団を両腕でむちゃくちゃにかき回し始めた。
ツバキは喉を鳴らし、その痴態を見守る。
「そこいい! 子宮のこりこりいいの! もっと、もっとぐりってしてぇ、アゲハ、太くてたくましいあんたのチンポで、いっぱいして、突いてかきまわして!」
「んっ――ユキさん、一回先にイっちゃう?」
「うん、イカせて、チンポでいかせて。私、このまま、果てる、果てたいの。アゲハのたくましいので、思いっきりイカせてちょうだい!」
「なんだか、今日のユキさん、激しいよ――」
そういったアゲハの腰使いが明らかに変化した。
腰と腰が離れそうなほど引き抜き、一気にいきおいをつけて貫き通す。
パンッ、と肉のぶつかり合う音が濡れて響いた。
その瞬間、ユキが背中をぐいっと反らした。
「くぅん――いい――イク、イカされるぅ……!」
「いいよ、イっちゃって。ほら、ほらっ!」
アゲハはその大振りな動きをくり返し始めた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
卑猥な肉音が規則的に響き始め、ユキのあえぎ声はいよいよ切羽詰ってくる。
「イクッ、イクイクイクイク――くぅぅぅん!!」
激しい突き上げがくり返されているうちに、ユキの身体が跳ねるように暴れた。
ぎゅっと布団を握り締め、背筋が弧を描いてしなる。
アゲハは浮いたその背を抱きしめ、とどめとばかりに腰を打ち降ろした。
「……かっ……あっ……」
声をなくした喉からは、空気の塊だけが吐き出され、目を見開いたユキは仰け反った不自然な姿勢のまま、おこりのように震え続けている。
(し、死んじゃったんじゃないのかしら……)
あまりに異常なその様子に、ツバキはすこし恐怖を覚える。
やがて力が抜けてぐったりとするユキは、まるでアゲハという猛獣に狩られてしまった小動物のようだった。
豊満な胸を上下させて、荒い息を吐いているのが見える。死んではいないようだった。
| ホーム |