なんだか寝付けずに、夜が更けても蜜柑は布団も敷かず座卓の前でぼんやりと物思いに耽っていた。
いよいよ林檎の開発も大詰めらしい。今夜はイカボットが泊り込んでいるそうだ。そうだ、と言うのは、それから一度も姿を見かけていないからである。夕餉も林檎と一緒に、研究室で摂ったようだ。
「はぁ~」
なんだかため息ばかりが出る。なにが不安なのかわからないが、漠然としたもやが心の中で淀んでいた。
「ミカンさん」
急に呼びかけられて蜜柑はびくっと肩を震わせた。行燈の薄明かりが障子の向こうにいる人影を映している。かぶりものみたいな影を見るまでもなく、声でイカボットとわかる。
「あ……はい」
「よろしいデス?」
「あ、ど、どうぞ」
夜中になんの用だろう。相変わらず行動の読めない人だ。
イカボットはするすると障子を開け、するりと滑り込んできた。なぜか蜜柑の背筋にぞくっとするものが走る。
闇夜の中で見るからだろうか、濃紺のマントは異色さに加え、禍々しい印象すら与えてきた。真っ赤な口元がにこやかに笑っているのが、逆に怖いのだ。
「あの――なにか」
「ワタシ、リンゴさんのために一皮剥けることにしました」
「剥ける?」
「オウ、一皮脱ぐ、でしたね」
「……脱皮しそうな間違い方しないでください」
「とにかく、アナタが覗いた実験のために、ちょと協力して欲しいのデース」
「はあ。……って言うか一肌脱ぐのはあたし?」
「そうデス。日本語むつかしデスネ」
「いや、ちょっと。そこ重要なところだから間違えないで。整理して話してくれますか?」
「UHHHH……。つまりアナタはリンゴさんの実験に付き合う、オーケイ?」
「林檎姉の実験になら、いつも付き合ってるんですけど……」
「オウ、そーでしたか。ならば話は早いのデス。さっそく始めましょうー」
「はあ」
幽明境から現れたような姿の癖に、やけにうきうきしている。そのイカボットの様子に安請け合いだったかなと若干後悔しつつ、蜜柑は成り行きに任せることにした。
イカボットはいつも顔の上半分を覆っている頭巾に手をかける。
「アナタには特別にワタシの正体をお見せしマス。きっと驚くネ」
ばっと頭巾が払いのけられた。
蜜柑は現れた顔を見て、思わず叫んだ。そこには黒髪黒目、欧米人とは似つかない大和美人の造作が隠されていたからだ。
「日本人!?」
「ノー。生まれも育ちもイングランド。しかし両親は日本人デース」
「なんだ、つまんない」
「ホワット!?」
「あ、ああ、ごめんなさい。でも、声と同じでとっても綺麗ですね。隠してるなんてもったいない」
薄明かりに照らし出されたイカボットの造作は非常に整っていた。髪形こそ日本ではあまり見ないざんばら風だったが、氷を削りだしたような透明感のある肌をしている。生命力溢れる蜜柑の美しさとは対照的な、夜の静寂を感じさせる美だ。年齢はぱっと見た感じでつかみにくいが、おそらく杏子と同じくらいだろう。
「ミカンさんには負けるアル」
「ある?」
「ワタシ、ひそかに夢見てましたー。アナタのような若くてエロティックな女性とたわむれること」
「は、はあ?」
「そしておとずれたのデス! そのチャンスがついに!」
イカボットはマントに手をかけ、そして一気に脱ぎ去った。
「わ、わあっ!」
マントの中身を見て、蜜柑は悲鳴を上げた。
その下の身体は胸をむき出しにして随所に網目の入った、てかてか光る樹脂素材の真っ赤な服で覆われていたのだ。いや、覆うと言う表現でははずかしくなるほど、服の面積は小さい。下半身なんか股間をほんの申し訳程度に隠しているだけだ。
「コレ西洋のボンテージ言います。最新流行」
「う、うそつけ!」
「さてミカンさん……ここからが本題デス。貿易商人と言うのはワタシの仮の姿に過ぎません。ワタシの本職は催眠術師。知ってますか?」
「え、ええ……ちょっと前にそういうの流行りましたから」
「グレイト。ワタシのは西洋式、きっとミカンさんも愉しんでもらえるとおもいマス」
「それと林檎姉がどう関係あるんです?」
その服も、と付け加えることを、蜜柑は躊躇した。
「リンゴさんの開発には、あるものが足りなかったのデス。すなわち若い娘の愛液、それを尺貫法で言うところの一升ほど搾り取らせてもらいマース」
「はあ!?」
「だいじょぶ、アナタには催眠術かけマス。とっても気持ちいいこと受け合いネ」
「意味わかんない。やだって、死んじゃう」
蜜柑はどうやら本気らしいイカボットから逃げようと立ち上がった。とにかく杏子の部屋へ逃げ込むべきだ。
「オウ、愛液搾れるのアナタしかない。逃げちゃダメよ」
イカボットがパチンと指を鳴らした。
そのとたん、足から力が抜けてへなへなと座り込んでしまう。
「え? ……え?」
立ち上がろうとしてもどうしても足が動かない。手で叩いても動かないしつねっても動かない。痛いだけだ。痛みは感じるから、感覚がなくなったわけではないのに、動くことだけができなくなっていた。
「すでに我が術中の中ネ。サァ、ミカンさん、服を脱ぐのデス」
もう一度パチンと指が鳴らされた。今度はその指からぼっと一瞬炎が上がり、それを見た瞬間、蜜柑の脳裏が真っ白な閃光で塗りつぶされた。
はっと気がついたときには、自分の意思とは無関係に手が動き、着物の帯をはずし始めている。
「ちょ、ちょっとちょっと、やだ!」
あわてて叫んだところで手は止まらず、別の生き物のように着物を身体からはがしていった。
簡単な夜着だけ羽織っていた蜜柑は、たちまち全裸に剥かれる。
「日本の衣装、脱がせやすくて好きデス。とても扇情的」
「うう……」
胸と股間を腕で隠して、蜜柑は涙目でイカボットを見上げる。
どこからともなく一升枡を取り出したイカボットは、そんな蜜柑に嗜虐的なまなざしで一笑すると、枡を畳の上へ置いた。
「はじめましょう。ミカンさん、座卓へ腰かけなサイ」
ふらふらと操られた蜜柑は座卓へ腰を乗せ、イカボットの指先ひとつの動きで大股開きに座らされる。羞恥と屈辱で真っ赤になった蜜柑は、せいぜい睨みつけるだけだ。
「いいですかー? 三つ数えます。数え終わったらアナタはとってもシたくなる。股間が疼いてどうしようもなくなる……」
イカボットは手拍子を加え、数え始めた。
「三」
パン
「二」
パン
「一」
パン!
「ああうっ!?」
突然として強烈な情動が突き上げた。
頭の中が焼け付くような性衝動が背筋を駆け上り、動かせない足の内ももを震わせる。
女陰をまさぐりたい欲望が抑えきれない。恥ずかしげもなく伸ばした手は、しかしイカボットに止められてしまった。
「もっと、感覚を高めましょう。……おっと、ガマン汁が、もったいナイ」
座卓の端から突き出した尻を伝い、早くも蜜柑の花弁は蜜を驚くほどの量吐き出していた。イカボットはその下へ一升枡を移動し、指先で軽くすくい取って味見する。
「リンゴさんの言ったとおり、すごい濡れやすさネ。味もよろしよ」
「うう……変態……」
「そんなクチをきく余裕があるとは驚きデス。これはもっときつくせねばなりませんネ」
パチンと指が鳴らされ、心臓が跳ね上がるような感覚とともに性欲が倍加した。蜜柑は喉を反らして口をパクパクとさせる。身体はそれでも、縛られたかのように不自然な姿勢で倒れなかった。
「ミカンさん……見て」
触りたいのに触れない葛藤で狂いそうになっている蜜柑は、目の前に差し出されたイカボットの指を見てもなんのことかよくわからない。いつの間にか、服と同じテカテカの素材の手袋を身につけていた。腕まで長さがある品だ。
「この人差し指一本、これがミカンさんの中で、アナタがいつも突っ込んでいる張り型と同じ大きさに感じられマス。いいですか、指一本が張り型ひとつデスよ……」
その指がすっと下へ下げられ、股間にあてがわれた。それだけで蜜柑は震える。
「い、入れて……!」
「ふふ、欲しいのデスか?」
「はやく、はやくぅ」
「ふふふ、ホラ」
ずぶっ!
「っはあぁぁあああ!」
再び蜜柑は喉を反らした。
絶叫に近い嬌声が肺を押し上げて喉からほとばしる。
いよいよ林檎の開発も大詰めらしい。今夜はイカボットが泊り込んでいるそうだ。そうだ、と言うのは、それから一度も姿を見かけていないからである。夕餉も林檎と一緒に、研究室で摂ったようだ。
「はぁ~」
なんだかため息ばかりが出る。なにが不安なのかわからないが、漠然としたもやが心の中で淀んでいた。
「ミカンさん」
急に呼びかけられて蜜柑はびくっと肩を震わせた。行燈の薄明かりが障子の向こうにいる人影を映している。かぶりものみたいな影を見るまでもなく、声でイカボットとわかる。
「あ……はい」
「よろしいデス?」
「あ、ど、どうぞ」
夜中になんの用だろう。相変わらず行動の読めない人だ。
イカボットはするすると障子を開け、するりと滑り込んできた。なぜか蜜柑の背筋にぞくっとするものが走る。
闇夜の中で見るからだろうか、濃紺のマントは異色さに加え、禍々しい印象すら与えてきた。真っ赤な口元がにこやかに笑っているのが、逆に怖いのだ。
「あの――なにか」
「ワタシ、リンゴさんのために一皮剥けることにしました」
「剥ける?」
「オウ、一皮脱ぐ、でしたね」
「……脱皮しそうな間違い方しないでください」
「とにかく、アナタが覗いた実験のために、ちょと協力して欲しいのデース」
「はあ。……って言うか一肌脱ぐのはあたし?」
「そうデス。日本語むつかしデスネ」
「いや、ちょっと。そこ重要なところだから間違えないで。整理して話してくれますか?」
「UHHHH……。つまりアナタはリンゴさんの実験に付き合う、オーケイ?」
「林檎姉の実験になら、いつも付き合ってるんですけど……」
「オウ、そーでしたか。ならば話は早いのデス。さっそく始めましょうー」
「はあ」
幽明境から現れたような姿の癖に、やけにうきうきしている。そのイカボットの様子に安請け合いだったかなと若干後悔しつつ、蜜柑は成り行きに任せることにした。
イカボットはいつも顔の上半分を覆っている頭巾に手をかける。
「アナタには特別にワタシの正体をお見せしマス。きっと驚くネ」
ばっと頭巾が払いのけられた。
蜜柑は現れた顔を見て、思わず叫んだ。そこには黒髪黒目、欧米人とは似つかない大和美人の造作が隠されていたからだ。
「日本人!?」
「ノー。生まれも育ちもイングランド。しかし両親は日本人デース」
「なんだ、つまんない」
「ホワット!?」
「あ、ああ、ごめんなさい。でも、声と同じでとっても綺麗ですね。隠してるなんてもったいない」
薄明かりに照らし出されたイカボットの造作は非常に整っていた。髪形こそ日本ではあまり見ないざんばら風だったが、氷を削りだしたような透明感のある肌をしている。生命力溢れる蜜柑の美しさとは対照的な、夜の静寂を感じさせる美だ。年齢はぱっと見た感じでつかみにくいが、おそらく杏子と同じくらいだろう。
「ミカンさんには負けるアル」
「ある?」
「ワタシ、ひそかに夢見てましたー。アナタのような若くてエロティックな女性とたわむれること」
「は、はあ?」
「そしておとずれたのデス! そのチャンスがついに!」
イカボットはマントに手をかけ、そして一気に脱ぎ去った。
「わ、わあっ!」
マントの中身を見て、蜜柑は悲鳴を上げた。
その下の身体は胸をむき出しにして随所に網目の入った、てかてか光る樹脂素材の真っ赤な服で覆われていたのだ。いや、覆うと言う表現でははずかしくなるほど、服の面積は小さい。下半身なんか股間をほんの申し訳程度に隠しているだけだ。
「コレ西洋のボンテージ言います。最新流行」
「う、うそつけ!」
「さてミカンさん……ここからが本題デス。貿易商人と言うのはワタシの仮の姿に過ぎません。ワタシの本職は催眠術師。知ってますか?」
「え、ええ……ちょっと前にそういうの流行りましたから」
「グレイト。ワタシのは西洋式、きっとミカンさんも愉しんでもらえるとおもいマス」
「それと林檎姉がどう関係あるんです?」
その服も、と付け加えることを、蜜柑は躊躇した。
「リンゴさんの開発には、あるものが足りなかったのデス。すなわち若い娘の愛液、それを尺貫法で言うところの一升ほど搾り取らせてもらいマース」
「はあ!?」
「だいじょぶ、アナタには催眠術かけマス。とっても気持ちいいこと受け合いネ」
「意味わかんない。やだって、死んじゃう」
蜜柑はどうやら本気らしいイカボットから逃げようと立ち上がった。とにかく杏子の部屋へ逃げ込むべきだ。
「オウ、愛液搾れるのアナタしかない。逃げちゃダメよ」
イカボットがパチンと指を鳴らした。
そのとたん、足から力が抜けてへなへなと座り込んでしまう。
「え? ……え?」
立ち上がろうとしてもどうしても足が動かない。手で叩いても動かないしつねっても動かない。痛いだけだ。痛みは感じるから、感覚がなくなったわけではないのに、動くことだけができなくなっていた。
「すでに我が術中の中ネ。サァ、ミカンさん、服を脱ぐのデス」
もう一度パチンと指が鳴らされた。今度はその指からぼっと一瞬炎が上がり、それを見た瞬間、蜜柑の脳裏が真っ白な閃光で塗りつぶされた。
はっと気がついたときには、自分の意思とは無関係に手が動き、着物の帯をはずし始めている。
「ちょ、ちょっとちょっと、やだ!」
あわてて叫んだところで手は止まらず、別の生き物のように着物を身体からはがしていった。
簡単な夜着だけ羽織っていた蜜柑は、たちまち全裸に剥かれる。
「日本の衣装、脱がせやすくて好きデス。とても扇情的」
「うう……」
胸と股間を腕で隠して、蜜柑は涙目でイカボットを見上げる。
どこからともなく一升枡を取り出したイカボットは、そんな蜜柑に嗜虐的なまなざしで一笑すると、枡を畳の上へ置いた。
「はじめましょう。ミカンさん、座卓へ腰かけなサイ」
ふらふらと操られた蜜柑は座卓へ腰を乗せ、イカボットの指先ひとつの動きで大股開きに座らされる。羞恥と屈辱で真っ赤になった蜜柑は、せいぜい睨みつけるだけだ。
「いいですかー? 三つ数えます。数え終わったらアナタはとってもシたくなる。股間が疼いてどうしようもなくなる……」
イカボットは手拍子を加え、数え始めた。
「三」
パン
「二」
パン
「一」
パン!
「ああうっ!?」
突然として強烈な情動が突き上げた。
頭の中が焼け付くような性衝動が背筋を駆け上り、動かせない足の内ももを震わせる。
女陰をまさぐりたい欲望が抑えきれない。恥ずかしげもなく伸ばした手は、しかしイカボットに止められてしまった。
「もっと、感覚を高めましょう。……おっと、ガマン汁が、もったいナイ」
座卓の端から突き出した尻を伝い、早くも蜜柑の花弁は蜜を驚くほどの量吐き出していた。イカボットはその下へ一升枡を移動し、指先で軽くすくい取って味見する。
「リンゴさんの言ったとおり、すごい濡れやすさネ。味もよろしよ」
「うう……変態……」
「そんなクチをきく余裕があるとは驚きデス。これはもっときつくせねばなりませんネ」
パチンと指が鳴らされ、心臓が跳ね上がるような感覚とともに性欲が倍加した。蜜柑は喉を反らして口をパクパクとさせる。身体はそれでも、縛られたかのように不自然な姿勢で倒れなかった。
「ミカンさん……見て」
触りたいのに触れない葛藤で狂いそうになっている蜜柑は、目の前に差し出されたイカボットの指を見てもなんのことかよくわからない。いつの間にか、服と同じテカテカの素材の手袋を身につけていた。腕まで長さがある品だ。
「この人差し指一本、これがミカンさんの中で、アナタがいつも突っ込んでいる張り型と同じ大きさに感じられマス。いいですか、指一本が張り型ひとつデスよ……」
その指がすっと下へ下げられ、股間にあてがわれた。それだけで蜜柑は震える。
「い、入れて……!」
「ふふ、欲しいのデスか?」
「はやく、はやくぅ」
「ふふふ、ホラ」
ずぶっ!
「っはあぁぁあああ!」
再び蜜柑は喉を反らした。
絶叫に近い嬌声が肺を押し上げて喉からほとばしる。
この記事へのコメント
イカボットは日本人で変態です。
そんなこの人が大好きですが、キャラが濃すぎてからめにくいです。
この辺りまで読んでいただければだいたい分かったと思いますが、本作品は「江戸時代」のまま鎖国を続けた近未来世界の日本です。
文化的なレベルは現代よりもはるかに低いですが、科学技術の妙な部分だけ突出していたりする設定になっています。
そんなこの人が大好きですが、キャラが濃すぎてからめにくいです。
この辺りまで読んでいただければだいたい分かったと思いますが、本作品は「江戸時代」のまま鎖国を続けた近未来世界の日本です。
文化的なレベルは現代よりもはるかに低いですが、科学技術の妙な部分だけ突出していたりする設定になっています。
2008/08/18 (月) | URL | 七輪 #grGQ8zlQ[ 編集]
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