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Keep to me... その5
 それからのおれたちは、一見して変わらなかったと言えるだろう。
「シュウ! なにぼーっとしてんのよ」
 後頭部をはたかれて振り返ると、ランが色のうすい髪を朝陽に輝かせて、仁王立ちをしていた。
「あ? ホームルームまで席に座っててわりーのかよ」
「ほんっとなにも聞いてないのね。今日は臨時の全校集会が朝からあるの! さっさと移動しないとおいてけぼりくらうよ」
 見ると、周囲の人間は次々に席を立ち、廊下へ向かっている。すでに教室の外はけっこうな混雑だった。
「あー、集会か」
 めんどくせぇ、と立ち上がりながら、ふと思い出す。
 たしかランには、昨日――。
「いいぜ、さっさと行こう」
 にやりと笑ってランをうながした。急に乗り気になったおれを不審がりながら、ランは混雑でごった返す廊下へついてくる。
 表面上はなにもかわらない。
 ランは相変わらず突っかかってくるし、優秀な生徒会長の仮面で周りの羨望を集め続けている。おれも『ランによく世話を焼かれる幼馴染』と言う立場を変えていない。
 ただし――それは表面だけのことだ。
「だいたいシュウはのんきに構えすぎなのよ――ひゃっ!?」
 ブツブツと小言をのたまうランの尻を、スカートの上から思いっきりわしづかみする。
 廊下は身動きが取れないほどの混みようだ。急の召集で、全校生徒が一気に体育館へなだれ込んでいるせいだ。
 だから少々尻をもんだくらいではだれも気がつかない。
「あ……やぁん……」
「お、ちゃんと言いつけを守ってきたな」
 なでなでむにゅむにゅと、いやらしい手つきで尻をもみ回す。スカートの下に感じられるはずの、下着の線はまったくなかった。
 昨日の夜、電話で下着をつけてくるなと命令しておいたのだ。
 それともうひとつ、命令したことがあった。
「スカートの丈も短くしてきたか?」
「う、うん……。3センチだけ……」
「バカ。5センチっつったろ?」
「だってぇ……見えちゃうよぉ……」
「さんざん、どれくらいなら見えないか実験しただろ。5センチだ。1ミリたりともまからん!」
「うぅ……わかったよぉ……。控え室でちゃんと詰めておくから」
「控え室?」
「あたし、集会で演説するの。生徒会長として」
「へぇ……。じゃあランは、超ミニのノーパン姿で全校生徒の前に出るんだ」
 ピクピクっと尻のあたり……正確には股の付け根が痙攣し、真っ赤になったランは顔を伏せた。
「想像したんだ」
「…………」
 固まったランの内ももに手を滑り込ませ、手のひら全体を使って愛撫する。
 そこは上の方から滴り落ちてきた愛液でぬるぬるになっていた。
「これじゃ、みんなにノーパンだってばれちゃうかもなぁ」
「……どうしよう、シュウちゃん。あたし言いつけを守れないよぉ」
 困った顔で見上げてくる。その表情はノーパンがばれる危惧よりも、おれの命令を実行できないことに対する不安を滲ませたものだった。
「ランが見られて感じなかったらいいだけだろ。それにステージには演台も置いてある。目隠しになって足なんか見えないから、ステージへ上るときと降りるときだけばれなきゃいいんだよ」
「うぅ……わかった。あたし、がんばるから見ててね」
「ああ。じっくり見といてやる」
「もぉ、そんなに見たらまた濡れちゃうよぉ……」
 混雑は体育館の入口に達し、おれはランと別れてクラスの列へ入った。
 緊急の集会は、インターハイ優勝の生徒が出たとか言う報告会みたいなものだった。本校初の快挙で、このまま祝賀行事のようなものまで行われるらしい。
 手始めの校長の無駄話が延々と続いて、おれを含めた生徒たちはみんなすぐにうんざりする。
《続いて、生徒会長のお話です》
 そうアナウンスが入ると、周囲は水を得た草花みたいに精彩を取り戻した。特に男どもにとって、ランの姿をあますところなく堂々と見られる会長演説は、学生生活の清涼剤なのだ。
『おぉ……』
 ランがステージの袖から現れると、低いどよめきが伝播していった。
 日本人ではけっしてありえない白さの足が、ぎりぎりまでむき出しになっている。ひとめでわかるほどスカートが短いのだ。
 しかしその足も、すぐに演台で隠されてしまう。
《みなさん、おはようございます。今日はわたしたちにとって、すばらしい報告がありました。この――》
 演説がはじまる。
 はきはきとよく通る声が、だれていた生徒たちを覚醒させていく。ランの美貌は、生き生きとした所作は、自然とだれしもの視線を集めてやまないのだ。
《……である、陸上部の選手たちは全力を尽くし――》
 だがおれだけは知っている。
 紅潮した頬は、インターハイの成績を喜んでいるんじゃない。うっとりとしたまなざしは、選手を称賛しているんじゃない。
 自分の履いてない姿を衆目に晒して昂奮している、一匹の雌の表情なのだ。
(お……)
 演台の上に置かれていた手が片方、自然な動作でその下におろされた。
 とたんに、ランの表情に艶やかさが増す。
 なにも知らない連中には、生徒会長が感情移入して、弁舌に熱がこもってきたと見えるだろう。
 だがおそらく、あの見えない演台の内側で、ランは短いスカートをまくりあげ、股間をいじりはじめているのだ。
「な、なんか今日の会長、色っぽくないか……?」
「だよな……スカートも妙に短かった気がするし……」
 しかしスケベな男子を中心に、薄々なにかおかしいと勘付きはじめている連中がいた。
 それは壇上のランにもはっきり伝わったようだ。
 前に聞いたことがあるが、ステージの上から見るおれたちは、想像以上になにをしているか、なにを考えているかわかるものらしい。きっと注目されると集中力が増すからだろう。
 何度か肩がピクピクし、語尾に震えが混じってくる。
 あれはイキそうになっているときの反応だ。
 見られて、感づかれはじめ、さらにあんなところで自慰に耽っている倒錯が、ランを絶頂へ押し上げている。
《……の努力に、惜しみない賞賛を、あ、与えてください。い、以上ですっ!》
 最後にはどもりを交えて、無理やり演説を終わらせたランが一礼する。
 うがった見方さえしなければ、感極まって泣きがはいってしまったとしか見えない様子だ。現に、直後から巻き起こった拍手は、まるでランが優勝した選手であるかのように盛大なものだった。
 それを一身に浴びながら、ランは頭を下げたまま、しばらく動かなかった。
(あれは、イったな……)
 うまくアクメ顔を隠したもんだ。おれも精一杯の拍手を送るが、みんなとは少し意味が違っていただろう。
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