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待ち合わせ
 僕はね、ずっと待ってるんですよ。
 え、誰をかって?
 そんなことどうだっていいじゃないですか。僕ががここで人を待ってる。そこへあなたが来る。路傍へ腰掛ける。僕が話しかける――これだけのお話ですよ。
 ええ。この時期霧が深くなるんです。特にこの時間は。夕刻に霧なんて珍しいでしょ?
 夕刻はねぇあなた、昔から逢魔が刻と申しましてね。この世ならぬものと出会うそうです。
 はは、脅かすなって? だって黄昏時って言うでしょう。元は誰そ彼はと言うのが訛ってたそがれと言うようになったそうですよ。だんだん暗くなって相手の顔が見えなくなる。あれは誰だ――そう、そこですよ。誰だかわからないその人影は、本当に人なのだろうか。
 ああ、すいません。脅かしすぎましたね。どうか座って。この霧でうろついたら危ない。僕も話し相手がいなくなってはつまらない。
 ――え? もういいじゃないですか、僕が誰を待っていようと。
 そりゃ待ち合わせの約束もしていませんがね、待つって言うのは元来そんなものでしょう。約束があるのに待っていたら、早く来すぎたか相手が遅かったか、もうこれは別の現象だ。
 ね、待つって言うのは、そう言うことなんじゃないですか。
 どうしました、そわそわして。
 あなたも待つ身だ。この霧が晴れるのをね。もっとどっしり構えましょうよ。
 うん? ああ、わかりました。他言はしません、どうぞおっしゃってください。
 十年前――ちょうどこの辺りで霧に紛れて人を殺した。身包み剥いで死体は打ち捨てた――と?
 なるほど、そわそわしなさるわけだ。この霧の向こうから、逢魔が刻に死人がやってくる。確かにそりゃ恐ろしいですな。
 いやはや僕も待った甲斐があった。そうきょろきょろしなさんな。今、僕の居場所を教えますから。
 ほら、あなたの腰掛けている石の裏。草むらに白いのが見えるでしょう。
 そう、僕は十年前お前に殺されたんだよ。
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