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-chapter10- シーン3



 体中に力がみなぎっている。
 自らを死に至らしめた神殺しの力が。
 体から溢れ出した力は、炎のようにディラックの周りにまとわりついて輝きを放っている。
「ディラック……」
 腕の中でシリンが弱々しく呟いた。力は溢れても以前のような再生の力が働かない。シリンの肉体は限界に達していた。今も土くれがはがれるように体の崩壊が進んでいる。
「もうすぐだ」
 シリンを抱きかかえ、ディラックは飛ぶような勢いで階段を駆け上っていた。
 最上階に居る天照の現人神、ユキの力ならあるいは助けられるかもしれない。根拠はなかったが今頼れるのはそれだけだ。
 ユキ。
 妖艶で得体の知れない連邦の最高幹部。
 いつかユキはディラックが自分を愛していると言った。馬鹿げているが、全てを知っているユキが言うのだから、それは本当なのかもしれない。
 だがシリンを想うこの気持ちは一体なんなのだ。
 全てを投げ打っても助けなければならない――今も強くそう感じる。これが愛ではないというのだろうか。それとも、これもまた愛だと?
 なぜシリンに執着するのかわからない。ましてやユキを愛しているかなどわからない。
 地下から数えて八十七階。防壁を蹴り開け、上へ進もうとしてディラックは足を止めた。階段が続いていない。ここから先は別のルートを探さなくてはならないようだ。ディラックは八十七階のフロアへ飛び込んだ。
 そこは一面に畳が敷かれた広大なスペースだった。床の面積は一般的な学校の体育館くらい、天井も通常のフロアの二倍ほどありそうなほど高い。
 足を踏み入れたことはなかったから知らなかったが、こんな場所を何に使うというのだろうか。奥には床の間のようなスペースに掛け軸がかかっている。
 それらを確認してから、ようやくディラックは、床の間の前に金髪の人物が背を向けて正座していることに気づいた。眉をひそめて問いかける。
「あんた――何をしている?」
「まったく、我が祭神は気まぐれだな。お前がそのまま黄泉へなり根の国へなり行っていれば、めんどうが減ったものを」
「なんの話だ。おれを――知っているのか?」
 ピリピリとした感覚がその人物を敵と判断している。ディラックはシリンを畳へ寝かし、慎重に歩を進めた。
 床の間の前から金髪が立ち上がった。長身のディラックよりもまだもう一つ高い。広い肩幅に制服の上からでもわかる引き締まった肉体。
その人物がゆっくりと振り向く。額についた特徴的な傷跡を見るまでもなく、それはライア中将であると知れた。
「中将。ここで何を」
 ディラックは足を止める。ライアは皮肉気に口元を歪めた。
「ルーデンス少佐。貴様を待っていた。ユキの元へ行かせるわけにはいかん」
「なぜだ!」
 ディラックの激情に反応して、身体中からオーラが滲み出る。ライアは感情の読みにくい、鋭い眼でそれを見下ろしている。
「……少しだけ語ろう。スサノオの現人神」
「知っているのか」
「ああ。お前よりももう少し深く。現人神の話をしようか、ディラック」
「そんなことは今どうだっていい」
「まあ、そうだ。お前がユキを信じている限り、意味はないだろう。ユキをな」
「それしか頼るものは、ない」
「そうだ。だが、それが仕組まれたものだとしたらどうする? ユキにでもあの少女は救えないとしたら?」
「…………」
「シトゥリと言ったか。あの少年が受け継いだもの――そのためにお前の友が犠牲になったはずだ。トウキを、シトゥリを出会わせたのは誰だ」
「…………」
「現人神同士は本来出会わない。因果律を無理矢理に捻じ曲げない限りは。経験の伝承などと言う不自然な現象が、自然に起こるはずはない」
「何が言いたい」
「欺瞞なのだ。天照による因果律の操作なのだよ。アスティアはユキによってコントロールされている。天照の意志を汲むユキに。おれはそれが間違っているのだと確信している」
「……おれにそんな話をしてどうする」
「おれたちは不確定なのだ。天照にとって。もちろん邪神ども黄泉津神もそうだが……天津神でも国津神でも、黄泉津神でもないスサノオは、もっとも強い不確定の要素足りえる」
「クーデターでも起こそうってのか。馬鹿げてる」
「おれは本気だよ、ディラック――」
 ライアの眼がすっと細まった。
 形容しがたい空気が、二人の間で張り詰めた。
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