2ntブログ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
その祈りには慈悲もなく 一章 第二節
「あ……」
 すい、と司祭の肥満体が離れる。でっぷりとした腹をさすって、彼は喜悦に満ちた笑みを浮かべた。
「答えろ、アンヘリカ」
「ああ……」
 回答など、ひとつしか用意されていない。女たちを目の前で蹂躙されることに耐えられるとは思えなかったし、なにより、保身ゆえに見殺しにしたとなれば、神子に合わせる顔がない。
「わかった……」
「なに? 聞こえんな」
「わかった、と言ったんだ。好きにしろ……」
「ふはっ」
 パン、と掌を打ち合わせて、ボドルザーはどすどすと歩み寄った。股間に垂れ下がったモノが、触れてもいないのに少しずつ大きくなりはじめる。
「どれ、奉仕しやすくしてやろう」
 ジャララ、と擦過音を立てて鎖が滑り降りる。胸の前まで手首が降りてくると、ボドルザーは剣を喉元につきつけた。
「ひざまずけ」
「剣を使わなくても、反抗などしない」
「そうかもしれんが、一応な」
 小さく舌を打って、アンヘリカは緩慢な動作で膝をついた。目の前にボトルザーの男性器が見えて、思わず目を逸らす。
「逸らすな。見ろ」
「く……」
 成人男性の男根を目にするのは、アンヘリカにとってはじめての経験だった。聖教は乱淫でない、清浄な男女の交わりは否定しない。だが、神の座にある神子とそれに侍る聖騎士は別だ。それでなくとも、彼女は同年代の少女が恋に胸を高めている時分、ひたすら剣を振っていたのだ。
 わずかに首をもたげて膨らんでいる男根は、弛んだ皮が先端付近までを包み、尿道口だけがわずかに見えていた。人の皮膚とは思えないほど黒ずんだ皮の内側には、得体の知れないカスのようなものがこびりついている。まだ誰も何もしてないというのに、尿道はわずかに湿っているように見えた。
 ……醜い、としか言いようがない。ほのかに立ち上る湯気も、気色悪さを水増ししているように思える。何か醜悪な悪魔が股間に張り付いているようですらあった。
 立ち上る匂いはボドルザーの体臭によく似ていて、それを何倍も濃くしたような悪臭だった。聖騎士は、胃の中身を全てぶちまけてしまいたい衝動に駆られた。そうして吐き出したモノですら、眼前のこれよりは遥かに清浄だと言い切れる。
「やり方は知っているか」
「知るものか」
「ふん? 聖騎士殿は男女の交わりも知らぬのか。ふほほっ、これは愉快よ」
「……」
「では、私が手ずから指南してやろう。ほれ、何か言うことがあるだろう?」
「なに?」
「教えてください、だ。言ってみろ」
 暗く重かった頭が、一瞬で激情に支配された。この男は、どこまで自分を貶めれば気が済むのか。
「ふざけるな!」
「そうか? 仕方ない、では女を呼ぼう」
「くっ……下種が!」
 吐き捨てるが、彼女に選択肢はない。下からギロリと司祭をにらみつけて、吸い込んだ悪臭を吐き出す気持ちで言い放った。
「要求どおり奉仕してやる。やり方を教えろ」
「……ふっ」
 一瞬、何を言われたのかわからないような顔をして、
「ふほほはははは!」
 司祭は腹を抱えて笑い出した。絶望的な状況にあってなお気丈に振舞う姿に、嗜虐心を刺激されたのだ。
「よかろう、よかろう! それ、まずはくわえろ」
「く……? くわえるのか、これを?」
「それをだ。早くせい。腹が冷えてしまうわ」
「……」
 躊躇するものの、拒否することは許されない。顔を寄せると、剥き出しの陰茎を誇示するように、ボドルザーが体をゆすった。ビクン、と跳ねる男根はそれ自体が別の生き物のようで、いやます嫌悪感に騎士は顔を背けずにはいられなかった。
「なんだ、いやなのか?」
「く……」
 ためらいがちに口を開き、そろそろと顔を近づける。口内から漏れた息が、湯気となって男根を包み込んだ。
「ふほっ」
「んぐ……」
 丸のみするようにくわえこむと、舌先に腐肉と尿を溶かして混ぜ合わせたような、およそ経験したことのない味覚が広がった。同時に、今まで最悪だと思っていた匂いが、数倍の濃度で鼻腔を直撃する。
「よし……舌先で舐めろ。歯は立てるなよ。噛み切ったりしてみろ、女たちを地獄よりも酷い目に遭わせてやる」
「……っ」
 舐めろと言われても、要領がまるでわからない。竿の部分を舌でチロチロとさすってみるが、ボドルザーはわずかに鼻を鳴らしただけで、何も言わない。
「んん、ん……」
 それでも、口内のモノは次第に形を変えていった。舌にあたる感触が硬くなり、口内を占める割合が大きくなる。わけもわからぬまま舌で弄り回していたアンヘリカは、そのおぞましさに眉をしかめた。
「んほぅ……やはり下手だな。まあ、初めてならば仕方ないか。よし、皮に舌をかけて剥いてみせろ。お上品な騎士殿には難しいかな?」
「ん……んく……」
 褒められても嬉しくないが、貶されても面白くない。反応しては負けだ。アンヘリカは黙ったまま、男根を包む皮に舌を這わせた。アンモニア臭が凝縮された尿道から、亀頭にそって皮の先端まで舌先を移動させる。ほんのわずかに司祭の腰が浮いたのは、快感を得たからだろうか。
 自分の舌がこの男の快楽に繋がっていると思うと、男根ごと舌を噛み切って死にたい気持ちになった。しかし、この男は自分が死ねば即座に言ったことを実行に移すだろう――そこに何の意味もなくとも、だ。
 舌に力を入れて皮をめくりあげる。巧くいかなかったが、亀頭をまさぐられる快感に陰茎が膨張し、半ば自動的に黒ずんだ皮が巻き上げられた。
「――!?」
 瞬間、カリの裏側をこすった舌を、苦味と酸味が猛烈な悪臭を伴って蹂躙した。耐え難い、と思っていた匂いが、一挙に数倍に膨れ上がって脳髄までを侵していく。舌先で踊るものが先に見たカスのようなものだと思いあたった途端、男臭が脳髄で弾けるように強くなる。
 舌で擦り取った恥垢が溶けているのだ。
大江戸玩具桃色屋 その弐の3
 ガラッと湯殿の戸が開いた。
「ふたりともまだ入ってたの?」
 戸口であきれたように林檎が言った。
 いまは片眼鏡もはずし、いつもくくり上げている髪もおろしている。
 隆起に富んだ風呂桶の中のふたりに比べると、林檎はずいぶん平坦な身体つきだ。研究に没頭しすぎて食事も摂り忘れることが多く、手首や足首はひねったら折れそうなほど細い。そのかわり腕も足もすらりと長く、小顔で、最近流行の男装歌劇団のような凛々しい美しさがあった。林檎はあまり外へ出ないから周囲の評価を蜜柑も知らないが、きっと寄り合いの小娘連中は目の色を変えるだろう。男っぽいわけではないが、一般の女らしさとはまた違った、不可思議な魅力があるのだ。
「大姉さんだけかと思ったじゃない」
「あたしがいちゃーだめ?」
 邪魔者のような言い方に蜜柑は口をとがらせる。林檎は表情の変化に乏しい顔つきのまま肩をすくめると、戸を閉めて中へ入ってきた。
「三人も無理だよ」
「蜜柑先に出て」
「えーっ」
「大姉さんに試作品の協力してもらうの」
「ちょ、ちょっとなにそれ」
 林檎が持って入った手桶に詰まれた物体を見て、蜜柑は目を剥いた。
 手桶にてんこもりにされたのは、張り型やら液体入りの瓶やら、すごい量だったからだ。蜜柑の言わんとすることを察した林檎が、くちびるの端を上げる。
「あなたと違って大姉さんなら、このくらい軽いのよ」
 いかにも自分の方が親密な口ぶりだ。
 変にプライドの高い林檎はなにも言わないが、蜜柑と同じように母性を杏子へ感じているのは間違いない。だからどっちが好かれているか妹ふたりでいつも競争みたいになっているのだった。おっとりとした杏子はそんなことに気づきもせず、わけへだてなく相手をしているからなおさらである。
「むむむ……」
「それにお子様のあなたには、ちょっと今回のはキツイの。それともやってみる?」
「や――やってやろうじゃない」
「そう? お尻用のなんだけど」
「…………」
 勢い込んで立ち上がった蜜柑は、再び風呂桶へ座った。
 林檎はふっと小ばかにして、
「大姉さん、上がって」
「はいはい」
 杏子が洗い場へ出る。湯量の減った風呂桶に鼻まで沈んで、蜜柑はブクブクと気泡を吐いた。
「どうしたらいいのかしら」
「四つん這いになってちょうだい。……そう。まずは綺麗になってるかたしかめてあげる」
 ひざと両手をついた姿勢で犬の姿勢を取った杏子の尻をつかみ、林檎は押し広げるようにしながら菊花へ伸ばした舌を当てた。
「あン」
 林檎の舌に菊のしわを舐められた瞬間、ピクリと杏子は反応した。
 たっぷり唾液を舌先へ絡め、林檎がそれをすぼめて菊花の中心へ差し入れていく。
 口を大きく広げて尻の谷間を食べるようにしながら、林檎は舌の付け根まで、できるだけ奥まで差し込んだ。
「はっ……はっ……」
 四つん這いのまま、杏子は甘い表情で息を火照らせ始める。長い髪が背中から首筋までを覆って、肌へ色っぽい縞模様を作っていた。
 くちゅくちゅくちゅ……
 林檎は真っ白な餅のような尻へ顔を押し付けて、菊花の内部を舌でまさぐっている。
 上下左右に円を描き、それから前後に出し入れする動きにつられて、杏子の口からは小さな喘ぎが漏れていた。
 充分な時間をかけて菊花を味わうと、林檎は顔を離して口元をぬぐった。
「ん、綺麗になってる」
 手桶の中から液体入りの瓶と張り型を取り出し、それを見せ付けるようにペロリと舐めてから、蜜柑へ不敵に笑いかけた。
「大姉さんはねえ、最近お尻の穴がとっても感じるのよ。知らなかったでしょう」
「…………」
「これはお尻専用の張り型。お尻でも気持ちよくなれるように、普通よりも細くて段をつけてあるの」
 丸い玉を連結させてあるような形の張り型だった。普通より細いと言っても、蜜柑の親指よりひとまわりは大きい。
 林檎は尻用張り型に瓶の液体をゆっくりと垂らし、塗りつけていく。それは通和散と呼ばれる潤滑剤で、濡れやすい蜜柑には用のないものだが、渇き気味の女子は使用することもある。陰間にとっても必需の品だそうで、本来愛液の沸くことのない尻での性交をするには、なくてはならないものと言えた。
 ぬらぬらと照り光り始めた張り型を菊花のつぼみへ当て、林檎はささやく。
「大姉さん、いい?」
「ええ。――ああン!」
 張り型のさきっぽが差し込まれるや、杏子はのどを反らして嬌声を上げた。
 蜜柑はびっくりして杏子の顔をのぞきこむ。
 ずぶずぶと張り型が菊の穴へ沈むたび、苦痛と快楽が入り混じったような悩ましい表情で杏子は喘ぐ。
 林檎が末端までを尻へ埋めきって、得意げに蜜柑を見やった。
「こんなよがりかたをする大姉さん、見たことないでしょう」
「う――うん」
「私も最初はおどろいたのよ。これをね、こうして、こうすると――」
 張り型を一気に引き抜き、抜けきるところで寸止めして、再び根元まで突き入れる。
「ひゃうっ!? あンン!」
「とっても気持ちいいんですって。見てて、蜜柑。すぐにイっちゃうから」
 林檎は張り型の出し入れを開始する。
 ちゅぶっ、じゅっ、じゅぷっ
 通和散のぬめりが菊花の摩擦で音を立てる。出たり入ったりする律動が何度目かの時点で杏子の腕から力が抜け、尻だけ高くかかげた格好で倒れ伏してしまった。その間も絶え間なく淫らな喘ぎ声が口元から流れている。
「すごい……」
 我知らず蜜柑は自分の胸を揉み、女陰へ手を当てていた。
 普通じゃない場所でこれだけ気持ちよさそうにしている倒錯感が、熱い昂奮を呼び起こしてくる。
シニガミは月をみて嗤う
#諸事情で一時UPしてますが、しばらくしたら消します。
#残しといてほしいって人がいれば残しますが…非エロです。

――ちょっと、オマエ、もう少し詰めれないのですか。
――そんなこといったって、無理だよう。ひとり用の転移繭なんだし……。
――まったく、それもこれもオマエが軟弱なのがいけないのです。この借りはかならず十倍で返してもらいます。
――ええっ。ボク、レンちゃんについてきて欲しいなんてひとことも……。
――おだまるのです! 軟弱モノをひとりで異世界に送り込んでは、わたくしの寝覚めが悪いのです。
――レンちゃん、不死者なんだから寝ないんじゃ……。
――む、そろそろみえてきたようなのです。
――ごまかさないでよ。
――フォル、オマエの初仕事、見事成功させてみせなさい。死神として軟弱でないところをわたくしにみせるのです。
――できるかなぁ……ボクに。はぁ……。

***

 その日、レイフォード国辺境アルザック砦は、珍妙なふたりの客を、上空から迎えることになる。
「なんだ……?」
 砦の総司令として赴任したばかりのランドは、たまたま砦の屋上でそれに出くわした。
 青空が突如気味悪く歪んだかと思うと、真っ黒い渦が渦巻いて、バリバリと小さな雷を降らしながら空中になにかを産みだしたのである。
 ランドは腰の剣に手を当てたものの、まだ抜きはしない。紺碧の瞳でそれがなんなのか、しっかり見極めようとしていた。
 渦から産み出された物体は蚕の繭に似ていた。大きさは大人ひとりを包み込めるくらい。ゆっくりと屋上へ羽のように降りてくる。
「うッ!」
 繭が屋上の床に触れたとたん、まばゆい光が輝いて、ランドは腕で目をかばった。
 同時に、ドサッ、と重いものが投げ出されるような音が響き、甲高い声が叫んだ。
「いたたた! もう、これだからいやだったのです。フォル、さっさとどきなさい」
「レンちゃんがボクの上に乗っかってるんだよう」
「――なんだ……お前ら?」
 光が収まって目を向けたランドは呆然と驚く。
 繭が落ちてきたところには、年端もいかない少年と少女が折り重なってもがいていたからだ。
 少女の方は少年よりすこし年上のように思えた。黒いドレスめいた服を着ているが、貴族の子女にもあのような服装をランドはみたことがない。すばらしく整った目鼻立ちをしているものの、異常に青白い肌と金色の瞳は、少女がまともな人間でないことを示していた。
 少年は黒いフード付ローブで全身をすっぽり覆っているようだ。顔はほとんどフードに隠れてしまってみえないが、ローブに飲み込まれてしまっているような体型と、舌足らずな声のおかげで、だいたいの年齢は想像できる。
「あっ。フォル、ほら、人間です!」
 少女がぱっと跳ね起きると、ランドを指差した。
「ひっ」
 少年はしりもちをついた姿勢のまま、固まっている。
 ランドは警戒を解かずに問いかける。
「名乗れ。ここがレイフォードの砦と知っての侵入か?」
「そんなことは知らないのです。知っているのはここでもうすぐ大量の死がばら撒かれるということだけです」
「なんだって?」
「名乗りましょう。わたくしは不死姫(ノーライフ・プリンセス)レニンヴァルド。そして――……ほら、フォル、立つのです」
「う、うう……。いき、生き物……生き物だ……」
 黒ローブの少年の方は、なにやらガタガタと震えている。少女は腰に手を当ててため息を吐いた。
「やっぱり。ダメダメではないですか。オマエはわたくしがいないとどうしようもないです。……――失礼したのです。この黒いのはフォーリング伯爵。これでも強大な力を持つ死神伯爵家の当主なのです」
「死神? お前ら、異界のもんか」
「そうです。わたくしたちは『霊界』より修行に来たのです。正確にはこのフォルの初めてになるお勤め――のはずなのですが」
 レンはちらっとフォルを見やる。もう一度ため息を吐き、
「このように軟弱モノのため、わたくしが転移場所に、死体がたくさんできそうな場所を選んだのです。死に掛けの人間であれば、軟弱でも魂を刈るくらいできるでしょう」
「そ、そうだったの? レンちゃん……」
「少々ズルですが、オマエがまともに人間を刈れるわけがありません。死神のくせに『生き物が怖い』だなんて、どうかしてます」
「だ、だって。生きて、動いてるんだよ? こわいよう」
 少年は縮こまっている。ランドはとりあえず剣の柄から手を離し、
「あー、それはおれたちが、幽霊を怖いっていうのと同じようなもんか?」
「……たぶん。霊界には生き物がいないのです。問題は――そちらの例えに乗るなら、幽霊狩りを生業とする者が幽霊を怖がっているところにあるのです」
「難儀してるのはわかった。だが、おれの砦から死者を出すわけにはいかん」
 いったんは離した柄を握り、あざやかに剣を抜き放つ。刀身が太陽を受け、まばゆく輝いた。
「おれはアイザック砦総司令、レイフォード第四王子ランドルース。お前たちが我々の厄になるというのなら、その芽を摘ませてもらう」
 切っ先を少年と少女に向ける。
 レンが形だけはきれいな瞳でランドを見つめる。
「オマエは勘違いしているのです。わたくしたちがここへ死をもたらすのでありません。もたらされた死のおこぼれを預かりにきたのです。ほら、もうすぐ――」
 次の瞬間、見張り塔の警鐘が激しいいきおいで打ち鳴らされた。
 カンカンカンカンカン
 それは敵襲警報だった。ランドは驚愕する。
「――馬鹿な! 隣国との長期休戦協定の解除まであと二百日もあるんだ」
 信じられぬように叫ぶその目前で、いずこからか飛来した真紅の光が、すさまじい力で見張り塔の中腹に突き刺さった。
 轟音を上げて塔は真っ二つに折れ、崩れていく。積み木のおもちゃを蹴っ飛ばしたかのようだった。
「むむ、これはすごい魔導なのです。こんな土くれの砦などひとたまりもなさそうです」
 感心したようなレンに、ランドは鬼の形相で詰め寄る。
「お前の仲間の仕業か!?」
「わからない人です。わたくしたちはふたりでここに着いたばかり。……そうです、この砦は死神に憑かれたとでも認識してくれればよいのです」
「サイテエじゃねぇか」
「そんなことは知らないのです。ほら、また来ますよ」
 青空の隙間からひねりだされたように、真っ赤な炎の塊がいくつも出現し、砦へと降り注いでくる。
 砦の敷地内の随所で火の手が上がり始めた。兵士たちは混乱し、どこへ向かうべきなのかもわからぬまま右往左往している様子が、屋上からはよく観察できた。
「レ、レンちゃん。あの……ちょっとおかしいんだ」
 うずくまっていたフォルがへっぴり腰で立ち上がり、レンの袖を引いた。
「なにがです? たくさん死んでよいことではないですか」
「ちがうんだ。どうも、その……魂が『霊界』には向かって来てないんだよ。どこか別のところへ吸い込まれてる」
「本当ですか? ……まさか、この魔導――はっ!?」
 そのとき、砦の直上に炎が出現する。まっすぐ屋上めがけて降り注いできた。
「いけません!」
「うおっ!?」
 ランドは顔をかばう。怯んだのではなく、空へと飛び上がるレンの巻き起こした衝撃波を防いだのだ。
 レンと炎が激突すると、雪の結晶のようなものが波状に巻き起こり、あれだけ巨大な炎の塊はまぼろしだったかのごとく消え去った。
 凍てつく水蒸気を撒き散らしたまま、レンは叫ぶ。
「まずいことになりました。わたくしとしたことが場所選びに失敗です。この炎、人間の作り出したものとは魔力が違うのです。敵は間違いなく、『魔界』の者!」
「あ、だから魂が『霊界』へ行かないのか。『魔界』に喰われちゃってるんだ」
 納得してポンと手を打つフォルに、ランドは問う。
「敵は隣国じゃないのか? なぜ魔界がこの砦を襲うんだ」
「――ひ、ひいっ!?」
「……おそれるな。おれはなにもしない。こわくない」
「う、う、うん。たぶんだけど、人間が魔族と契約して、召喚術を使ったんじゃないかな。休戦協定っていってたけど、その協定自体が召喚を準備する隠れ蓑だったかもしれないよ」
「……なるほど。穿った見方だが、そう考えれば協定の不自然な点も説明がつく。フォル、たったこれだけの情報でそこまで推察できるとは、頭がいいんだな」
「そそそ、そんなことないよ。魔族が人間によくやる入れ知恵なんだ。彼らは卑怯な手段が常道だから」
「魔界とは仲が悪いのか?」
「そうだね。魔族は魂を喰らう。魂を循環させて力の源にしている霊界とはライバルなんだ」
「おれも、魔界のことは嫌いになりそうだ」
 ギリッと奥歯を噛みしめて、ランドは砦内を見下ろす。総司令として取るべき指揮すら、どう振るってよいのかみえない状況だった。
「フォル、人間とお話できるようになったのですか?」
 上空から降りてきたレンが目を丸くしている。フォルはフードに覆われた顔をうつむけてしまったので、全身が黒い布の堆積になった。
「……この人、レンちゃん以外ではじめてボクのこと褒めてくれたよ」
「ふむ。オマエ、人間の割にわかっているようですね。こいつは軟弱ですが、やれば出来る子なのです」
「ああ、そうかもな」
「それではフォル、出来る子だということを証明しにいきますよ。弱った人間を刈って刈って刈りまくるのです!」
「待て待て、待ってくれ」
 慌ててランドは止めに入る。
 次の瞬間――。
 空が一変した。青空が突如、うす紫の夕闇へと一挙に沈んだのだ。
 同時にビリビリと空気が振動する。
「む。魔族のおでましなのです」
 ゴオォォォ、と猛獣の咆哮に似た轟音が響き渡る。
 崩れた見張り塔より大きな影が現われていた。
 人型の蜃気楼がゆらめきながら実体を伴っていく。それは禍々しい翼を備え、黒光りの肌をした異形の巨人だった。
『我が名はギギ・ルギル・ギラ。煮え滾(たぎ)る溶岩に浸かる者である。盟約に従いこの地を劫火へ沈めるものなり』
 あまりに圧倒的なその姿をみて、砦内の兵士たちは逃げる気力すら喪っていた。あまりに早い黄昏を迎えた空を、自失してみあげる姿が目立つ。
 ギラが両腕を振り上げると、その背後から無数の小悪魔たちが飛び立った。
 夕暮れのコウモリのように、砦の上空を旋回し、次々と獲物めがけて降下してくる。
 戦意を喪った兵士たちは、悲鳴を上げながら逃げ惑い、やがてするどい一撃を受けて倒れていくだけだった。
「くそっ、どうすれば……!」
 歯噛みをするランドの元へも、小悪魔たちは舞い降りてくる。傍目に小さかったその姿は、ギラの巨体と比較してしまったためで、実際は人間よりも大きな身体をしていた。
「キキィ!」
「ケケッ!」
 耳障りな声を上げて剣状の爪を振りかざし、殺到してくる。
「ちくしょう!」
 抜き身の剣でランドは応戦する。かなりの手だれなのか、太刀が数度閃くたびに、翼や腕を切られた小悪魔が絶叫をあげた。
「ほら、魔族どもに先を越される前に、さっさとお勤めするのです」
 かやの外で我関せずなレンが黒ローブをせっつく。しかしフォルはじっと考え込むようにして動かなかった。
「くっ!」
 油のような小悪魔の体液で足をとられたランドが、わずかに体勢を崩す。
 その首筋へ致命的な一撃を加えようと、背後から一匹が飛び掛った。
「――!!」
 思わずランドが覚悟を決めたとき――。
 バンッ!
 破裂するような音を立てて、小悪魔が文字通り塵となった。
 フォルがローブの隙間から手を出し、その方向を指差している。
 その手が移動して、小悪魔たちを指し示すたび、破裂音が連続して次々と塵芥(ちりあくた)の塊が出来上がっていく。
「フォル……」
「フォル、どうしたのです。魔族を相手にしてもしょうがないです」
「…………」
 眉をひそめるレンに、フォルは応えない。
 ランドは呆然とした。
「お前、強いじゃないか」
「当たり前です。生き物は怖くても、魔族の木っ端どもなぞひとひねりの力を持っているのです」
 なぜかレンが反駁(はんばく)する。
「そうか……」
 ランドはしばし宙をみて、思考した。
 その間も、宵闇を裂く不気味な声が兵士たちの恐怖を煽り立てていく。
『逃げ惑い、恐怖しろ! 我は汝らに死を与える者。百年のちも草木の生えぬよう、すべてを焼き尽くしてくれる。絶望に歪んだ魂を我に捧げるのだ』
 ギラの手が振るわれると、猛火を伴った風が砦の一角を火炎で埋めた。
 断末魔と呪いの声が壁を反響しながら駆け上がっていく。
 突如、決意したようにキッと視線を鋭くしたランドは、屋上の塀に手をかけるとその上によじ登った。
 そして叫ぶ。
「レイフォーンの兵士たちよ、聞け!」
 それはギラの声に負けないほどの大音声だった。
「総司令ランドルースだ! 卑劣極まりない奇襲の中、戦い続ける諸君ほど勇敢な者たちはいない。しかしいまは耐え、生き残り、期を待て! 無駄な戦いは避け、建物内に篭るのだ!」
 塀の上からの指示を聞き、兵士たちの士気はかろうじてのところで持ち直した。
 不利な路上から減っていく人影を確認し、ランドは屋上へ降りる。
 フォルへと歩み寄りながら、
「もしかしてだが、弱った人間よりも、元気で強い人間の方が、修行とかお勤めにはいいんじゃないか?」
「……そ、そうだよ」
「なら、例えばおれの魂の価値はどうだ? レン、お前から見てどう思う」
「たいへんによろしいです。ただでさえ王族の魂は稀少です。くれるのですか?」
「ああ、そのとおりだ。おれの魂をくれてやる。受け取れっ!」
「あっ!?」
 いうが早いか、ランドは自身の剣を逆手に振りかざし、胸板を貫いた。
 ドッと膝を折るランドへ、ローブをひるがえしたフォルが駆け寄る。冗談でそういったレンも驚いて口を開けていた。
「……先払いだ……。あの魔族を、倒してくれ……」
「ランド! ボク、ボクは――」
「……おれには、この方法しか……お前ならきっと願いを聞いてくれると……」
「ボク、ランドとはお友達になれるかもって、その――」
「……なに、お前にはレンがいる……きっといい死神になれるさ……フォル……」
 血反吐を吐いてランドは横倒しに倒れる。
 その身体から魂が抜け出し、フォルたちだけにみえる小さな光の塊として、黒いローブの胸元へ吸い寄せられていった。レンが感心したようにうなずいた。
「ふむ。魂を刈らずに、自分から差し出させるとは。フォルにしか出来ないお勤めです」
「ランド……!」
 フォルはその光を抱きしめるようにして、両手を合わせた。
「うわああああああああ!」
 絶叫してむんずとローブをつかみ、一気に脱ぎ捨てる。
 舞い上がったローブは上空で大きく広がり、広がりに広がって、うす紫の空を真っ黒に塗りこめていった。
『……んむ!?』
 異常に気づいたギラが唸る。
「おやおや。わたくしもひさしぶりにコレをみるのです。いけすかない魔族にはいいお仕置きです」
 屋上で、ひとりレンは愉しげだった。
 脱げたローブの中にいたはずのフォルは、忽然と消えうせていた。
 瞬時に黄昏から闇夜へ変化した空に、ぼんやりと陽炎のような明りが灯る。
 血のように赤い満月だった。
『これは、この闇はいったいなにごとだ! 我が魔力で解けない闇だと?』
 ギラですら、いまや完全に動揺していた。
――イヒ、イヒヒ
――イヒヒヒヒヒ
 どこからともなく、不気味な笑い声が聞こえてくる。
――イヒヒ、ヒヒヒヒヒ
 笑い声は地鳴りを伴ってきた。
 砦の東にある山の端から、ぬっと白く馬鹿でかい物体が姿を現した。
 それは骸骨だった。
 四つん這いになった骸骨が、哄笑を上げながら砦へ這い寄ってくる。
 その姿勢で高さは小山をも越え、立ち上がれば月へ届くのではないかというほどの巨躯だった。
『貴様、死神か!?』
 ギラが火炎を作り出し、骸骨へ浴びせかける。
 砦を火の海に変えたその炎も、骸骨にとってはそよ風程度のものだった。
――イヒヒヒヒヒヒ
――イーーーーーッ!!
 白骨の手が、避ける暇もなくギラをつかみ取った。
『おおおおお、ごおおおおお!』
 手の中でギラはぐずぐずに腐食し、崩れ去っていく。
 最後に残った骨も風に散って、あとには塵ひとつ残らなかった。
 骸骨は月へ咆哮する。
――ロォォォォォォォォン
 水底で撞(つ)いた鐘のような声だった。
「聞いた者に死をもたらす、『死の声』。砦の人間たちには聞かせないであげます。サービスなのです」
 レンは月夜の下で、満足気にしていた。

***

 ランドが目を覚ました時、ベッドの傍にはレンとフォルの姿があった。
「枕元に死神とは、最悪の目覚めだな」
 ぶつくさいいながら起き上がる。何度か手を握ったり開いたりしてから、
「……おれは死んだんだろ?」
 と黒ローブへ訊いた。
 しかしフォルは首を横に振る。レンが困ったように補足した。
「結局オマエの魂は肉体へ戻したのです。ちょっと刈り過ぎたのです」
「は?」
 呆気に取られたランドに、ぼつぼつとフォルが説明した。
いわく、本性を現したフォルのおかげで、砦の周囲にいた敵軍一万人が全滅。いくらなんでも殺しすぎであると、霊界側は戻せる魂は戻すことを決め、フォルが回収していたランドは蘇生された。しかしすでに霊界の輪廻へ入っていた敵軍の大半は戻すことが出来ず、責任を取る形でフォルは追放処分を受けた。
「とにかく行くところがないので、しばらくこの砦にいることにしたのです。なにがやってきてもわたくしとフォルが守るので、オマエは安心するといいのです」
「……そいつぁ、どうも」
 一気に脱力したランドは、再びベッドへ沈み込む。ふとレンへ向け、
「そういや、付き合いのお前まで追放になったのか?」
「まさかです。わたくしは砦の人間を守ったので、逆に褒められたくらいです。ここにいるのは、軟弱モノがひとりだとやっぱり寝覚めが悪いからです。この借りはかならず百倍で返してもらいます」
「えーっ!?」
 悲鳴を上げたフォルに、レンはにやりと微笑んでみせた。
 ランドも苦笑し、なにげなくつぶやく。
「死神に憑かれた砦……ね」
 後にその名が、レイフォードの象徴として人々の口に上るようになろうとは、そのときのランドには思いもかけないことであった。

                            おわり

copyright © 2003-2008 アスティア地球連邦軍高速駆逐艦タケミカヅチ all rights reserved.
Powered by FC2 blog. Template by F.Koshiba.