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-chapter1- 神殺しの男
 暗い闇が無限を湛えて静かに広がっている。だがここは、死人や邪神の徘徊する黄泉宇宙ではない。天津神(あまつかみ)が存在するとされる、空の上の宇宙。高天原(たかまがはら)だ。
 半年前、八十禍津日神(やそまがつひのかみ)を倒した駆逐艦タケミカヅチ。まさか、自分がその搭乗員になるとは夢にも思わなかった。
「ディラック・ルーデンス少佐」
 呼ばれて、ディラックは視線を目の前の女性へ戻した。
いつの間にか、窓の外に見える風景に気をとられていたらしい。薄い笑みを浮かべ、女性の目を見つめる。
「ディラックで結構ですよ、艦長」
「私も、サクヤでいいです。ついでに敬語もなしでね」
 サクヤは落ち着かない様子だった。皆がそうだ。ディラックの前に出て、何の動揺も示さずまっすぐ瞳を見つめ返してきた人間などそうは居ない。
 特別体格がいいわけでも、目つきが悪いわけでもなかった。おそらくは雰囲気だ。お前が笑うと酷薄に見える、とは誰に言われたセリフだったか。
 この女ならば、と思ったのだが、やはり反応は同じだ。期待していた分失望もある。ディラックは笑みを崩さず腕を組んだ。
「同じ職場で働けて光栄だよ。これからよろしく頼むぜ、サクヤ」
「こちらこそ光栄よ。神殺しのディラック、噂だけの人物かと思っていたわ」
 ディラックは笑みを苦笑気味に深める。あの事件より2年。想像以上に自分は伝説の人物へと祭り上げられているようだ。悪い気はしないが、噂だけが先走りするのはよい傾向ではない。
「それで、今回の任務だがな」
 背もたれに腰を預ける。普段使用していないというだけあって、艦長室のソファは人に慣れていなかった。
「半年前、あんたらが倒した八十禍津日神を地上に召喚しようって連中がいる。調べでは、黄泉より高天原へタケミカヅチの力によって送還されたのは間違いないらしい。それを隕石のように地上へ落とそうって言うふざけた計画さ」
「でも、笑い事では済まないわけね」
「そうだ。あれほど強力な邪神になると、殺そうにも殺せない。そんなものが地上に降ってきた日には、どれほどの災厄が起こるか知れたものじゃねぇからな。高天原に漂う八十禍津日神の様子を偵察し、場合によっては前回と同じように止める――それがおれたちの任務だ」
「勝手なものね」
 サクヤが嘆息した。呆れではなく、怒りを紛らわそうとしての行為のようだ。
「半年前、私たちがどれほどの危険を冒して、どれだけの犠牲を払ったのか。その傷も癒えていないというのに……」
「甘えるんじゃねぇよ」
 ディラックは笑ったまま言った。
「奴を止められるもっとも高い可能性を持ったのは、このタケミカヅチとその乗務員(クルー)たちだ。1の犠牲で100が助かるのなら、よろこんで死ぬことだな」
「あなたは、命を駒と思ってるの?」
「そういうわけじゃないさ」
「どういうわけなのか、教えて」
 ディラックはサクヤの目を見つめた。静かにこちらを見つめている。ディラックは笑みを消した。
「……おれが、どれほどの地獄を見たのか教えてやろうか。友を助けるために仲間を見捨て、自分を助けるために友を見捨てた。そうするしかなかったからだ。その嘆きと悲しみの末におれは神殺しの力に目覚めた。おれがその力を納得するためには、死んだ100人の仲間はこの1つの力のために犠牲になったのだと理解するしかなかった」
「…………」
「――ま、詳しくは今度2人っきりのときにでも話してやるよ」
 ディラックは肩をすくめた。サクヤは目を伏せた。
「ごめんなさい。なんのために戦っているのか、わからないのよ。任務に納得できないのはそのせいね」
「艦長がそれじゃ、下が困るぜ?」
 ディラックは立ち上がった。
「おれには戦う理由がある。おれは黄泉の腐れ神どもを絶対に許さない。おれの命が、力が尽きるまで1匹でも多く屠ってやる。あんたも早く、戦う理由を見つけることだ。あんたには、力があるんだからな」
「そうね。でもあなたみたいな納得の仕方はできない」
「それもいいさ」
 ディラックは任務の内容が入ったディスクを机の上に置き、戸口へと向かった。サクヤは下を向いたままだった。


  2


「ディラックさん」
 居住区へ向かう途中、ディラックは少年に呼び止められた。小柄で大人しそうな印象を受ける。どちらかと言えば戦闘艦の中には不似合いな、線の細い美少年だ。ディラックはその名を思い出した。
「ああ、確か――」
「シトゥリ・レイヤーです。タケミカヅチの特殊装備を担当しています」
「聞いているよ。建御雷神(たけみかづち)の現人神」
 シトゥリが驚いた顔で目をしばたいた。話していないのに、と言うことだろう。ディラックは言った。
「おれも『知っているべき』人間だからさ。よろしくな」
「はい、こちらこそ」
 ディラックはシトゥリの目を覗き込んだ。黒い眼は見つめるものをそのまま跳ね返すように澄んでいる。何より恐れがない。サクヤですら目を合わせられなかったのだ。意外な発見にディラックは驚いていた。
「どうしました?」
「いい目をしている」
「は?」
 理解不能の顔つきに、苦笑を送る。
「お前は、本物なのかもしれないな」
 片手を挙げてディラックはその場を後にした。ガラスに映ったシトゥリの顔が、変なやつだという風にこちらを見つめていた。慣れている。この少年とはうまくやっていけそうな気がした。
 シトゥリが見えなくなったのを確認して、ディラックは足を止めた。
 今度はガラスに映る自分の顔をじっと眺める。前髪はわざと長く伸ばして右目を隠していた。2年前の事件で傷を負ったからだ。細い顎と鼻筋が、酷薄そうに見える原因であるらしいが、自分としては気に入っている。髪は黒く染めていた。もとは薄い茶色だったのだが、瞳の色に合わせたのだ。生え際に手を当てると、その下が少し伸びていた。また染め時が来たようだ。
 ぱらぱらとまばらに散る白髪。神を殺すほどの力は、自分自身も殺している。命が削れていく様子が、手に取るようにわかるのだ。ディラックは右手を伸ばし、握った。
 まだだ。まだ足りない。まだ、殺し足りない。拳が白くなるほど握り締める。
「ディラック……」
 今日はよく名前を呼ばれる日だ。ディラックは苦笑して振り向いた。声から誰なのかは検討がついていた。
「久しぶりだな」
 金髪をショートカットにした少女が廊下の片隅でこちらを伺っている。上目遣いの癖はまだ治っていないようだ。苦笑をそのままに握り締めた拳を下ろす。
「会いたかったです……ディラック」
「おれもさ……なんて言ったら、怒られそうだな。あの事件以来か、シリン」
 シリンは目を閉じてうなずいた。ディラックはその傍らに歩み寄る。記憶にある以上にシリンの体は小さく、細かった。その手を引いて、あの事件を、あの場所を逃げ惑ったのだ。
「でも、しばらくはいっしょですね。また同じところで働くことになるとは思いませんでしたけど」
「お前はもう、軍に奉公するのはやめたのかと思ったよ。なぜ経歴を隠してまで戦う? あの地獄を見たなら、誰もお前を攻めやしないさ」
「私には戦う理由があるんです。あなたの復讐を手助けすることが私の戦う意味です」
「例えその身を滅ぼしても、か。止めはしねぇよ」
 ディラックはシリンの肩を抱いた。俯いたシリンの肩は細かく震えている。
「ごめんなさい。ここに来てから、笑って過ごすように心がけてたんですけど。あなたの顔を見たら――」
「いいさ。それより、時間はあるか?」
 シリンは顔を上げて、うなずいた。少し笑って歩き出す。ディラックはその後をついて歩いた。
 あの事件の生存者はディラック1人と公式にはされている。だが、本当はもう1人――今はタケミカヅチのオペレーターを務めるシリンも生存者なのだ。研修で事件の起きた宇宙ステーションに長期滞在していたシリンと、そこに勤めていたディラックは、当時恋人同士だった。それほど本気でもない、退屈な宇宙の生活を紛らわせるくらいの付き合いだった。そこにあの事件が起きた。不思議なもので、地獄のような状況の中、ディラックはなんとしてもシリンを守り抜くと誓ったのだ。
 シリンは居住区の部屋の前で立ち止まると、振り返ってうなずいた。ディラックは空気圧搾扉を開け、部屋の中へ入る。シリンが続いた。
 部屋に入ると自動的に明かりが点く。それをシリンが落とした。ディラックは振り向くとシリンを強く抱きしめ、唇を合わせた。
 激しく、むさぼるように舌を絡ませる。シリンが呻いて背中を叩いた。うまく息が出来ないらしい。唇を離すと、シリンは息をついて恨めしげにこちらを見上げた。
「……もう。相変わらず、激しいんですから」
「太く短くが信条だからな」
 ディラックは笑って言うと、シリンをベッドに押し倒した。Tシャツを脱ぎ捨て、覆いかぶさって首筋に舌を這わせる。先ほどとは違う呻き声をあげて、シリンがディラックに抱きついた。2人はお互いの服を剥ぎ取るようにして脱がしながら、キスを繰り返す。
 ディラックの体の下で、全裸のシリンが横たわっていた。今年で18だというのに、まだ発育途上のような体の青い硬さが残っている。小ぶりな乳房とあばらの浮き出たわき腹が、少女の部分を色濃く残していた。ディラックはその臍から徐々に上へ舌を這わせていく。
 乳房の下から上へ何度も舌を往復させ、乳輪の周りをなぞり、やさしく乳首を舌先で転がす。シリンが耐え切れない声を漏らして、シーツを握った。乳首を吸うと、シーツを握る力が強まった。硬く勃起した乳首から口を離し、それを指でつまんで、もう片方へ舌を移動させる。短い息とともに、シリンが薄目を向けて言った。
「ディラック……もう私」
「まあ、待てよ」
「あっ」
 ディラックがシリンの股間へ手を当てると、それだけでシリンは反応して目を閉じた。すでに蜜つぼは濃い愛液を滴らせている。ディラックは意地悪く言った。
「お前、こんなに濡れやすかったか?」
「だって……私、欲しくて……」
「おれの知らない間に、ずいぶんインランな女になったんだな」
「あはっ、あっ!」
 指を突き入れて動かすと、シリンは身を捩じらせて喘いだ。指先を柔肉が咥えこみ、ねぶるようにひくついている。ディラックは片手を膣の中へ、もう片手をクリトリスに当て、自分の足でシリンの足を固定した。
「だいぶ指がお気に入りのようだな。たっぷり満足させてやるよ」
「そ、そんな……っは! やっ!」
 膣の上部をえぐるように掻き回し、クリトリスを転がす。シリンが仰け反って大きく口を開き、ぱくぱくと動かした。激しい快感からのたうつ腰は、ディラックの足に固定されて逃れられない。シリンは上半身をよじりながら叫んだ。
「ああーっ! あっ! いやっ!」
「うそつけ。だいぶ、良さそうだぞ」
「だって、でもっ! うっうっ……あああーっ!」
 ディラックは指を2本に増やし、さらに激しく動かした。すでに愛液はドロドロとしたものに変わって溢れかえり、水音を部屋に響かせている。膣が引き絞られるように締まってきた。同時にシリンが甲高い声を上げた。
「だめっ、イク! 出るぅっ!」
 シリンの体が痙攣し、腰をそらせて硬直した。クリトリスをいじる手に、噴出した愛液が跳ね返る。
「は……あ……」
 末期の息のような吐息をつくと、シリンはぐったりと枕に頭を沈めた。
ディラックはひくひくと動く膣から指を抜く。どろっとした液体が糸を引かんばかりに溢れて、シーツへ滴った。ディラックは苦笑した。
「こりゃ、シーツを洗わないといけねぇな」
 シリンの反応はない。目をやると、安らかな寝息を立てて横たわっていた。
「おいおい、そりゃないだろ」
 苦笑を深めて、自分の反り返らんばかりに育ったイチモツに手を当てる。いったん寝始めたらシリンはなかなか起きない事をディラックは熟知していた。ため息をついたところへ、ドアの開く音とともに声が言った。
「搭乗早々お盛んなこと」
 ディラックは鼻で笑って振り向く。暗い部屋の中でも、赤いとわかる髪を高く結った女性が、戸口から歩いてくるところだった。
「うるせえ」
「あーら、久しぶりなのに冷たい奴。廊下にまで声が聞こえてたって、注意しに来てやったのに」
「そいつはシリンに言ってやってくれよな、クラ」
 クラは軽く笑うと、ディラックの傍で身をかがめて、頬にキスした。股間に目をやって、わざとらしく言う。
「途中だったのね。哀れなこと」
「そうだ。責任とってもらおうか」
「なんで私が――きゃ」
 シリンの隣へ押し倒されて、クラが小さく声を上げた。
「そのつもりで来たんだろうが」
 ディラックはイチモツを見せ付けるようにしながら、にやりと笑った。クラも笑い返し、自ら足を開いた。
「そうよ。あんたに抱かれに来たの」
「もう飽きただろ、訓練を入れて何回セックスした?」
「相性いいのよ、あんたとは」
 クラが髪を束ねているゴムを解いた。バサ、と音を立てて、長い髪がシーツに広がる。
 ディラックはクラの肩を押さえつけるようにして体の上にのしかかった。シリンも細いが、クラは病気ではないかと思うほど痩せている。のしかかっただけで体が折れてしまいそうだった。シリンより上背がある分、それが顕著に感じられた。
「んじゃ、遠慮なく行き場を失った性欲のはけ口にさせてもらおう」
「はけ口ってあんた……あっ!?」
 スカートの裾から手を居れ、下着を剥ぎ取る。独特の花のような体臭が香った。ディラックはスカートの中へ顔をうずめ、股間にかぶりつく。クラが足を閉じ、腿でディラックの顔を挟み込んだ。
 鼻の頭でクリトリスを刺激しながら、舌を花弁の中へ挿入する。すぐにその奥からは熱い蜜が滴り落ちてきた。クラがスカートの上から、挟み込んだディラックの頭に手を当て、もっと奥を望むように押さえ込んだ。
 膣の内側の柔肉から花弁にいたるまで舐め尽くし、啜り上げ、ディラックは唇を少し上へ移動させた。
 クリトリスのある位置に口をつけると、クラは敏感に体を震わせた。ディラックはわざと乱暴に舐め上げ、歯を立てた。クラが身をよじってディラックの頭を突き放そうとする。それを腰ごと抑え込み、ディラックはさらにその敏感な部分を吸い上げた。
「や……。もぉ、私そこ……!」
 クラが非難がましい声を上げるが、その声は途中で切れ切れになる。ディラックは秘唇が充分湿ってきたことを確認して、スカートの中から頭を上げた。
「激しいほうがイイんだよな?」
「あんたはやさしさが足りないの!」
「うるせ。こっちは喜んでたぞ……っと」
 たくし上げたスカートの奥へ、ディラックは腰を入れてイチモツの先端を当てた。ぬるぬると動かすと、クラは非難の眼差しを緩め、頭を横たえた。その頭の隣にシリンが満足そうに眠っている。
「シリンちゃん起きないわね」
「いつものことだろ」
「隣でセックスしてても目が覚めないなんて」
 クラが可笑しそうに言い、スカートのホックをはずした。
「脱がせて。汚れちゃうわ」
 ディラックはスカートを脱がせ、ついでに抱き上げるようにしてクラを立たせた。
「何?」
「どうせなら、見せ付けてやろうぜ」
 勝手に眠ったシリンへの仕返しのつもりだ。ディラックは目でシリンの上にまたがるように、クラを促した。クラは変なことを、という顔でそれに従った。ちょうどシリンの顔の上に股間が来る位置で、クラが四つん這いになる。ディラックは枕をずらして、その後ろに膝をついた。クラが苦笑気味に言った。
「ちょっとこれ、興奮するかも」
「なんだ。変態の気が沸いてきたのか?」
「馬鹿。シリンちゃんはね、こんなことしても起きないのよ」
 クラがベッドの脇に手を伸ばし、引き出しから何かを取り出した。バイブ、それも両方に男根がかたどってある、双頭のものだ。ディラックは呆れて言った。
「なんでそんなもんが常備してある」
「ふふ、あんたが居ない間、シリンちゃんは私のおもちゃなの」
 クラがその双頭バイブをゆっくりとシリンの股間へと埋めていく。先ほどの余韻が乾ききっていないおかげで、それはスムーズに中へ沈んでいった。シリンの寝息が細切れにゆがむ。
 ディラックは何か理不尽なものを感じて、クラの腰をつかんだ。
「いくぞ」
 ぶっきらぼうに言って腰を突き入れる。クラが再び身をよじった。
「あぁっ! 待ってよ、いきなり!」
「やだね。しかし、相変わらずきついな」
 クラの膣は普通のサイズより小さく、先端を入れただけでぎゅうぎゅうに締め付けてくる。愛液のおかげで潤滑は十分だが、無理にすれば裂けてしまいそうだ。ディラックはゆっくりと中へ、蠕動する膣の動きに合わせるようにして挿入していく。
「そう、そう。ゆっくりと……。いつも入るんだから。あ、きた、奥まで!」
 クラが感に堪えないように頭をベッドへ押し付けた。その動きに合わせて膣が引き絞られる。ディラックは食いちぎれそうな痛みに眉をしかめた。肉茎はまだ根元近くまでしか埋まっていない。軽く腰をゆすると、確かに先端が最奥の壁に当たっているのがわかる。
「おい、少し力を抜いてくれないと動けねぇぜ」
「え? あ、わかった」
 どうやらクラは力を抜いたようだが、膣圧はあまり変わらなかった。ディラックは諦めて腰を前後させ始めた。クラのシャツの下から手を入れて、胸をまさぐる。ブラジャーはつけていなかった。薄い胸板に、さくらんぼのような乳首がコリコリと生っている。それを摘まんで、意地悪く言った。
「ほう、何年たっても無いもんは無いな」
「くっ、気にしてるの知ってるくせに。仕返しするわよ」
 ぎゅっと膣が締まって、ディラックは顔を歪めた。クラが髪をかきあげ、こちらを振り向いて笑った。ディラックは唇の片端を吊り上げる。
「こん畜生。もう知らねえ」
 クラの細い腰をつかみ上げ、ディラックは強く腰を打ちつけた。イチモツの先端が弾力のある感触を跳ね返してくる。クラが悲鳴を上げた。
「やぁっ! ごめん、ごめんなさいっ」
 ディラックは聞く耳持たず、そのまま腰を動かし続ける。きついだけだった膣が、だんだんとこなれて、襞の柔らかさや絡みつく粘液の感触を伝えてきた。愛液はすでに滴り落ちて、ぽたぽたとシリンの顔へかかっている。
「あっ、ああ……」
 シリンが甘い声を上げた。クラが夢中で双頭バイブを出し入れしている。無意識の動きでか、シリンは自分の胸を撫で回していた。
「奥までっ! ああ! 貫かれ……るっ! あっ! もう、だめ、壊れるぅっ」
「激しいのがいいんだろ?」
 ディラックは髪を振り乱してもだえるクラの頭を片手で上から押さえ、もう1度言った。クラは押さえつけられたまま何度もうなずいた。
「いい、いいの! あんたの激しいところが、好きっ!」
「おれもお前のいい感じになったココは好きさ」
 先端が抜けそうな位置まで腰を引いて、そこから一気に奥までイチモツを突き入れる。クラが上半身を仰け反らせて反応した。ゆっくりと引いて、一気に入れる。繰り返すその度に、クラが踊るように跳ね回った。
「お願い、もう、イキそ……!」
 腰を止めたディラックに、クラが言った。シリンの腿にしゃぶりついて、自ら腰を動かしている。
「よーし、膣(なか)にいくぞ」
 ディラックは再び腰を律動させた。クラがベッドに伏して喘ぐ。シリンの中へ繋がったバイブを、無茶苦茶に動かした。
「あぁーっ! あー! だめイクぅっ!」
「あっ、あっ、ああーっ!」
 クラの声とシリンの声が被った。ディラックは絶頂の気配を迎えた膣の中に、同時に放った。
「ああ! 出てる、たくさん……っ」
 クラが細かく震える声で言った。
 ディラックは出し尽くすと、腰を抜いた。クラの秘所から、2人の精液が交じり合った液体が、喘ぐシリンの口の中へ滴っていく。
 ディラックは体をシリンの隣に横たえた。クラはまだシリンの上に覆いかぶさって、荒い息を繰り返している。
 急激な疲れが湧き上がってきた。今日は夜まで予定は無かったはずだ。ディラックは言った。
「少し寝る」
 クラが何か言った気がしたが、ディラックはすでに睡眠の闇の中に頭を入れていた。


  3


「脱出、脱出だーっ!」
 もう聞き飽きたそのセリフを、各隊の隊長が繰り返し叫んでいる。
 宇宙ステーションα2。黄泉宇宙における最前線基地としての役割も担った実験的宇宙ステーションは、今崩壊の危機にあった。
 通常黄泉への進撃は地上より黄泉比良坂(ワーム・ホール)を通って行われる。だがそのためには特異点(ブラック・ホール)と言う穴を抜ける必要があり、時間的なロスは避けられない状態だった。より効率的に補給を行うためには、黄泉の中に独立したステーション型施設を設ける必要があった。
 比較的安全な地域へ建設されたはずのα2。しかし、今黄泉の邪神たちの攻撃を受け、すでに交戦能力を失っている。
「ディラック、よかった。戦闘には出ていなかったんですね」
 人ごみを掻き分けて、シリンがディラックの傍へ駆け寄った。ディラックはその体を軽く抱きしめる。
「ああ。お前も無事でよかった。急ごう、脱出艇の1便がもうすぐ出る。お前はそれに乗るんだ」
「でも――あなたは」
「おれは戦闘員だ。避難誘導が終わってから後に続くさ」
 すでにその時、半ば死を覚悟していた。同時に楽観してもいた。シリンくらいは、どうにか脱出させられるだろうと。
「内部に敵が侵入したぞー!」
 すでに敵のハッキングによりステーションの機能は麻痺していた。情報の伝達は口伝いで行われ、結果として敵侵入の警告は遅すぎた。
 その声が終わるや否や、どこかで破壊音が鳴って悲鳴が上がった。
 次の瞬間――
 破壊音の方向を向いていた人間たちは、一様に凄まじい表情を浮かべた。正常という範囲では決して有り得ない、恐怖とも苦痛ともおぞましさとも取れない表情。その目は、何かを目撃したことを示して、一点に引き絞られていた。
「何?」
 振り向こうとしたシリンを、ディラックは強引に引き寄せ、目を覆った。
「見るな!」
 ディラックの声が終わらないうちに、人々はいっせいに鳥のような奇声を上げてばたばたと倒れた。死の硬直をしていない人間は、このホールの中で半分を切っていた。ディラックは叫んだ。
「黄泉津醜女(よもつしこめ)だ! 見ると魂を抜かれるぞ!」
 あまりの醜さに、一目見ただけで人間は魂を壊されると言う。低級な邪神の1種とは言え、この状況下では脅威以外の何ものでもない。
 ディラックはシリンの目を覆ったまま、邪神と反対側の戸口へ走った。ホールでは、まだ生き残っている隊長クラスの人間が、必死の誘導を行っている。今の攻撃で、かろうじて維持されていた指揮系統も破壊されたのは間違いなかった。邪神のあげる気色の悪い雄叫びが、逃げる背中に当たる。ディラックは、自分の見込みが甘かったことを痛感した。
 戸口を抜け、シリンの手を引いて走りながら、ディラックは誓った。どうあってもここを脱出する。自分は無理でも、せめて、シリンだけは――。



「うなされてたわよ」
 目を開けると、ベッドの端に腰掛けたクラが、こちらを覗き込んでいた。シリンは相変わらず寝息を立てている。まだ体がだるい。10分ほどしか眠っていなかったようだ。ディラックは返事を返さず、体を起こした。クラが視線を床に向け、言った。
「トウキが死んだわ」
「……ああ」
「三羽烏も、一羽欠けちゃったわね」
「おれももう、長くはない」
 ごく自然に、ディラックは打ち明けていた。古い友人と呼べる者も、今やクラしかいない。だからだろうか。
クラが驚きを込めた眼差しを向ける。
「あの力がおれの命を削っていく。おそらく――八十禍津日神と交戦すれば、そこで限界を迎えるだろう」
「ディラック……」
「お前は生きろ」
 ディラックはクラに目を合わせた。クラは答えず、目を閉じた。返事の変わりに、涙の筋がまなじりを伝って流れ落ちた。
 ディラックは腕を伸ばし、その頭を抱いた。


  4


 変な人だった。シトゥリはブリッジへ戻りながら、ディラックの顔を思い返していた。正確には、変なと言うより、今まで見たことのないタイプの人間だと言った方がいいだろうか。飄々としているところは亡きトウキと似ていなくもない。それとは違った、妙な印象をシトゥリは覚えていた。
 ブリッジには銀色の髪の女性がコンソールに腰掛け、パネルを叩いていた。シトゥリはその背に声をかけた。
「キリエさん、今日は非番じゃなかったですか?」
「ん~、そうよ」
 キリエが背もたれにもたれかかって振り向いた。連邦の制服ではなく、普段着のジーンズ姿だ。仕事でも残っていたのだろうか。シトゥリは自分のコンソールへと腰を下ろし、持ってきたディスクをドライブへ差し込んだ。
「……ねぇ、シトゥリくん」
「はい?」
 少し真剣な声に、シトゥリは始めようとした作業を中断して、キリエの方を向いた。キリエの薄い色の瞳が、ディスプレイの光を映している。綺麗な人だな、と今更ながらシトゥリはぼんやり思った。これで並みの格闘家でも歯が立たない武術の使い手とはとても思えない。
「ジークが再び現れたの」
「は? ジークって、前にタケミカヅチのオペレーターだった人ですか」
「そう。これを見て」
 シトゥリは席を立ち、キリエの隣に移動した。
 ディスプレイには難解な数列と言霊式(プログラム)が並んでいる。見たところ、アンダーグラウンドのハッカー情報交換所のようだ。キリエが一際長い書き込みの投稿者名を、爪でこつこつと叩いた。
「イモータル……?」
「ジークが使っていたハンドルネームよ。ここ最近で十数件以上、イモータルの名で書き込みがあったらしいわ。この手のサイトじゃ話題になってるって、クラが言ってたから見てみたんだけど」
「誰かが騙っているだけじゃないですか? ジークさんが死んだのって、2年以上前ですよ」
 キリエはその言葉に、自分を納得させるように何度もうなずいた。
「そうね……。でも、技術は真似できない。あたしはよくわからないけど、ジークの組む言霊式は非常にユニークなんだって。発想が根底から違うというか……。それにこれ」
 キリエがポインタを動かして、書き込みの1つを示した。
「これは連邦中央コンピューターへのアクセス鍵の暗号の一部の解読よ。この暗号を読める技術があったのは、ジーク1人と言われてるの」
「不死身……ですか」
「そ。だからネット上ではこのゴシップを注目してる連中が多いわけ。実際は誰か他の人間の仕業でしかありえないんだけど、もしかしたら……って」
「キリエさんはどう思ってます?」
「あたし?」
 訊かれるとは思っていなかったらしい。キリエは少し考え込んだ。
「あたしは……やっぱり違う人間の仕業だと思うわ。でも……」
「でも?」
「……トウキが死んで、あたしたちは過去をようやく振り捨ててきたけど――果たしてそれは、本当にそうなのかな。そういう気がするの……」
 キリエはそう言うと、黙り込んだ。また思い出し始めているらしい。
トウキが死んでから半年になるとはいえ、その喪失はキリエに深い傷を与えていた。いったん沈み込むと1日2日は暗い表情が続くのはわかっていた。あわててシトゥリは話題を変えた。
「キリエさん、ディラックさんには会いました?」
「あの、新しい操舵手の男ね。なんか不気味というか、嫌な感じがするわ」
「やっぱり、そうですか」
 客観的に見て、ディラックはそういう男だった。シトゥリも第一印象でキリエと同じものを、本当なら感じていたはずだ。そういう確信がある。だが――
「それがどうかした?」
「いえ、なんて言うか――僕もそう感じたはずなのに、そうじゃないというか」
「要領を得ないわよ」
「なんだか、昔から知っているみたいな感じがするんですよね。懐かしいというか。有り得ないんですけど……」
「よくわかんない」
 キリエが肩をすくめた。シトゥリもこれ以上説明する自信がなかったので、口をつぐんだ。自分の中でもうまくまとまっていないのだが、誰かにこの感じを理解して欲しい気がしたのだ。
 ブリッジの入り口から足音がして、振り向くとサクヤが入ってくるところだった。挨拶してもどことなく虚ろな返事だ。シトゥリはキリエと顔を見合わせて、訊いた。
「……何かあったんですか? 確かディラックさんと打ち合わせに行ってたはずじゃ」
「なんでもないわ」
「うそおっしゃいよ。そんな悩みきった顔をしておいて」
 キリエが言った。
 サクヤが艦長席に座り、大きなため息をついた。
「私、やっぱり連邦軍をやめるべきだったわね」
「何よ、いきなり」
「戦う理由もないのに、また宇宙へ戻ってる。また、誰かを失うんじゃないかって……」
「理由……ねえ」
 キリエが腕を組んだ。サクヤには最年少の女艦長としての期待と、八十禍津日神を撃退したという実績があった。それらのしがらみがやめるにやめられなくしているのだろう。
 少なくともシトゥリには船に乗る理由があった。ここならばサクヤの傍に居ることができる。ともに戦い、運命を共有できる。
「不純な動機でも、いいんじゃないですか?」
 言ったシトゥリに、サクヤとキリエが目を向けた。睨まれた気がしてシトゥリはあわてた。
「あ、ごめんなさい」
「なんで謝るのよ。でも1番的を得てるかもね」
 キリエが笑った。
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