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-chapter4- 八十禍津日神
 母船の内部は、まるで昨日まで人が住んでいたかのような状態だった。
 完全に八十禍津日神に乗っ取られた時の母船は、それ全体が邪神と化したかのような、不気味な様相を呈していたが、今ここに広がる光景は、随所に非常等の薄明るい光が灯り、空気も存在する、ただの遭難船に近いものだった。
「……やめて、欲しいわね」
 神殿へと案内するクラの口調は、ともすれば震えるほど硬い。歩きながら、シトゥリは気になっていたことを訊いてみることにした。
「クラさんは教団へ長い間潜入してたんですよね。どう言う場所だったんですか?」
「あんたたちが想像してるような、邪教団ってわけじゃないわよ。教義は八十禍津日神に生贄を捧げたりしてご機嫌を取って、その災厄を起こさないでもらおうって言う形のものだから。古くから見られる信仰の1形態ね。だから、連邦政府も黙認状態にあったわけだけど――」
「お前が潜入しなければならないような事態が起きたわけか」
 先頭のディラックが、前を向いたまま言った。クラがうなずく。
「ええ。八十禍津日神が活性化し、教団だけでは抑え切れなくなっていた。当初連邦政府は教団の動きが巫女であるアシリア様に原因があると考えていたようなの。だから私を内偵に送り出し、探らせたんだけど、結局私は役目を果たさなかったわ。教団の内部資料が渡れば、連邦軍が母船に総攻撃をかけることは明白だったから。でも結局、こんなことになっちゃったけどね」
 飄々としているクラにも、相当の苦悩があったのだろう。感情を含まない声色は、逆に多くのことを伝えている。ディラックが独特の低い声で言った。
「しかし今、教団は新たな巫女の擁立もないまま、無茶な動きを見せている。理由はなんだ? 母船の本部と、地上の支部とは、そもそも考え方が違ったのか?」
「……あるいは、神の意思か――。私にはわからないわ」
 突然ディラックが足を止めた。
 同時に張り詰めた緊張の空気に、シトゥリも足を止め、周りを見渡した。前に見たことがある。ここは、神殿に近い禊の場所だった。
「何かいるぞ。神と言うほど強力じゃないが――いや、一体なんだ?」
「アシリア様!」
 突然クラが叫び、後ろを向いた。つられて振り向くと、廊下にぼんやりと立っているのは、見まごうことのないアシリアその人だった。金色の巻き毛が非常灯の明かりで散り散りの輝きを撒いている。
「ダメだ!」
 ディラックが叫んで手を伸ばしたが、その指が肩に触れるか触れないかのところで、クラは駆け出してアシリアのところへ向かっていった。
 その時ようやくシトゥリにも思い至った。本物のアシリアは地上の安全な場所で待機しているはずだ。今は教団を裏切り、連邦に味方しているのである。
「クラさん!」
「行くな! 幻にやられたんだ」
 ディラックの制止でシトゥリは踏みとどまった。クラがアシリアに近づいた瞬間、真っ暗な闇がその周辺を覆って、2人を飲み込んで消えた。
「あ……」
 シトゥリは呆然と一瞬の出来事を見つめるしかなかった。何か言う前に、ディラックが肩を叩いた。
「大丈夫だ。なぜおれがあいつをここに呼んだかわかるか。クラも、とある神の現人神なんだ。しかし早いところ救出しないとまずいぞ」
「ど、どこに行ったんでしょう」
 ディラックはにやりと笑った。不敵なその表情は、普段は人に威圧感を与えても、今は無限の頼もしさを誇っている。
「神殿だ。カンだがな」
 ゆらゆらとした光がシトゥリたちの周りへ現れ始めていた。それはすべて、金色の巻き毛を持っている。何人ものアシリアが、意思のない瞳でこちらを見つめていた。いつかシトゥリも同じ状況で襲われたことがあったが、その再現のようだった。
「ついて来い。神殺しの力を見せてやる!」
 ディラックが走り出した。その右手が青白く光り、巨大な白い炎の弓のようなものを握る。
 思わず目を剥くような光景だった。シトゥリはなんとかその後をついて走った。
「これが生弓(いくゆみ)、生矢(いくや)! 死人すら生き返る神の一撃を食らえ!」
 ディラックが走りながら、いい加減な動作で弓を引くモーションを取った。その手元から白い光が溢れ、輝きを散らし複数に拡散して、見える範囲に漂うアシリアをすべからく貫いていった。放たれた光はまるでレーザーのように一直線に目標を狙っていく。光にやられたアシリアは、緩慢な動きで空をつかみながら、闇へと沈んでいった。元が人形のようなアシリアなだけに、壊れたおもちゃのような非現実さがある。
「す、すごい」
 圧倒的な力だった。禍々しい気配を漂わせていた母船の室内すら、野原のようにすがすがしく浄化されているような気がする。
 走りながらディラックは次々と光の筋を放ち、現れたアシリアを消滅させていった。シトゥリは滑るように走っていくディラックを追いかけるので精一杯だった。
 ふと、昔の記憶が蘇った。
 シトゥリは必死で誰かを追いかけていた。
 それは追いかけても追いかけても届かず、そして――。
 後ろに気配を感じた。
 足を止めて振り向いたシトゥリは、そこに1人の少女を見つけた。
 すらりと長い若枝のような脚が、ミニスカートから伸びている。まだ薄い胸は成長途中のものだ。快活な茶色の瞳が、いつもと同じように笑った。
「ルーン……」
 嘘だ。
 ルーンは死んだ。邪神に食われたんだ。だから、連邦軍に入り、邪神を倒すためがんばってここまで――。
 呆然とシトゥリは見詰め合った。小首をかしげた少女は、手招きするでもなく立っているだけだが、その目がこっちへおいでと告げている。
 シトゥリは混乱した頭で必死に現実と非現実を戦わせた。
「正気に返れ」
 はっと目をしばたく。見つめていた先には何もなかった。ただ暗い闇が、深遠へと誘うようにたゆんでいるだけだ。急に心臓が早く打ち出して、シトゥリは慌てて深呼吸をした。
「幻だ。お前は耐えたな。何を見た?」
 ディラックが後ろから訊いた。シトゥリはまだ闇を見つめたまま、ゆっくりと答えた。
「死んだ人です。幼馴染で、姉のような人だった……」
「おれも見た」
 振り仰ぐと、ディラックもどこか疲れた表情をしていた。ルーンを見た、と言うのではなかったようだ。
「戦友や仲間だ。すべて2年前の事件で死んだ。おれはたった1人だけ守ることができた。だがそれは、本当に守ったと言えるのか、わからない」
「どういうことです?」
「あいつは1度死んだんだ。その瞬間が、おれの覚醒だった。神殺しの力はその強大さゆえ、すべてを破壊する力の反動でまた、人を死から蘇らせることすらできる。シリンは死んで生き返った、ただ1人の人間だ」
「シリンさんが!?」
 ディラックははっとした様子だった。シリンの名前をしゃべるつもりではなかったらしい。わずかに苦笑を唇へ乗せる。
「……そうだ。だが人が死から完全に蘇ることなどできはしない。黄泉の穢れをおれが祓ったに過ぎないんだ。おれにはわかる。鼓動は聞こえても、あいつの心臓は今も動いちゃいねえ」
「…………」
 あまりにも重い秘密だった。返す言葉どころか、相槌を打つことさえはばかられて、シトゥリは押し黙った。
 ディラックのポケットから通信音が響いた。端末を取り出して開くと、キリエの声が早口に言った。
『今すぐこっちへ戻ってきて!』
「どうした、何かあったか」
『今連邦本部から連絡があったわ。母船はただの囮だったのよ! 八十禍津日神はすでに、地球めがけて落下中よ!』
「裏をかかれたのか!?」
 ディラックが怒鳴った。端末を握りつぶしかねない。
『裏でも表でもいいから、急いで! 最速でも地上までは1日かかるのよ』
「ダメだ。クラが母船の囮に取り込まれた。救出してから戻る」
『クラが!? ど、どうしよう』
『救出を最優先でお願いします』
 通信がキリエからサクヤに切り替わった。サクヤの顔も、怖いくらいに強張っている。
「わかった。15分経っても戻らなかったら、先に行け。シトゥリは今から帰還させる」
「え!?」
 思いがけない言葉に、シトゥリは目を丸くした。ディラックは目も合わせずに言った。
「2度言わせるな。お前はここで戻れ。帰り道くらいは自分で切り開けるだろう」
「違う! クラはお前に任せてられないんだ」
 シトゥリは厳しい口調で叫んだ。
 驚いた表情で、ディラックがシトゥリに目を向けた。
シトゥリも驚いていた。思わず口走ったそのセリフが、とある人物に酷似していたからだ。
 呆然とディラックを見上げていると、眉に皺を寄せたディラックに胸倉をつかまれた。唸るような口調で訊かれる。
「……お前は一体、誰なんだ。そのセリフ、おれが奴に昔よく言われたものだった。トウキ・ラシャに! お前の中には何がいる。――サクヤ!」
『…………』
「お前は知っていたな。早くから気づいていた。シトゥリがトウキの行動を模倣することを! それを探ろうとして何度も抱かれたのか。それとも……」
『やめて、お願い……』
「シトゥリの気持ちを知りながら、トウキに抱かれたのか。罪悪感を感じるなら、なぜそれを質そうとしなかったんだ。――今はいい。後でしっかり聞かせてもらうからな。行くぞ、シトゥリ」
「え? 行っていいんですか?」
「気が変わった。自分の身は守れ。邪魔になるようなら、本当に見捨てるからな!」
 怒ったように言い放つと、ディラックが通信を切って身を翻した。
 シトゥリの頭はいまだ混乱していた。
 よくわからない。
 よくわからないまま、今まで生きてきたような気がした。


 2


「お前は、八十禍津日神の気配を感じたと言ったな。確かだと思うか?」
 黙々と歩くディラックが、やはり振り返らずに言った。シトゥリは多少気圧されながら答えた。
「え、はい。ただのカンって言うか、同じ気配のような気がしました」
「だがここに八十禍津日神は居なかった。お前の感覚が正しいとなると、どう言うことだろうな。巫女の姿を模しているあたり、やはり本体の1部がここへ残っているのかもしれん」
「そんなことって……あるんでしょうか」
「おれたちは神のことをまるで何も知らない。何があっても不思議じゃないさ」
 道案内は居なくなってしまったが、神殿まではほぼ一本道のようだった。もうそろそろ近いのだろう、廊下の壁にも紋様が彫られ、それらしい雰囲気を漂わせてきた。
「……あの、ディラックさん」
 しばらく黙って歩いていたシトゥリは、控えめな調子で訊いた。
「なんだ」
「トウキさんやクラさんと知り合いなんですよね。シリンさんとも……。よかったら、昔のことを教えてくれませんか?」
「なぜそれを聞きたい?」
「僕は何も知らないんです。死んだトウキさんのことはタブーみたいになってるし、シリンさんとディラックさんに繋がりがあったなんて、意外でした」
「他にも何か、クルーたちを繋ぐ線があるのかもしれない、と言うことか。いいだろう」
 ディラックは歩きながら、ひと呼吸入れた。
「おれとクラ、トウキは同い年だ。連邦短大の操舵学科に所属していたが、それは表向きに過ぎなかった。おれたちは、連邦諜報部の特殊組織『八咫(やた)』で訓練を受けていたんだ。ゆくゆくはエージェントとして世界の裏で暗躍する役目を担うはずだったが――結局クラは教団事件で諜報部を去り、おれもこの力に目覚めて以後、任を解かれた。最後まで残ったトウキもいない。八咫の三羽鴉とあだ名されるくらい、期待されてたのにな」
「そんな関係があったんですか……」
「1ついいことを教えてやろう。おれたちにさまざまな技術を教えた教官は、連邦政府の最高機関、最高会議室の室長の女だ。つまり、世界一権力を持っている人物と言うことだ。シトゥリ、お前をタケミカヅチへ乗せる決定をしたのも、その女だ。いずれ会うことになるだろう」
「……どうやって僕のことを知ったんでしょうね。そんなに目立つ人生じゃなかったのに」
「さあな。あの姐さんの決定だ。ご神託みたいなもんだな」
「あ、そろそろ着きます。見覚えがある」
 半年前、シトゥリは初めて母船に収容されたとき、この神殿で儀式の生贄にされかけたのだ。今となっては思い出したくない出来事だった。体中をからっぽにされて、アシリアに精を搾り取られた挙句、文字通り魂を抜かれたのだ。
「……クラ!」
 戸口から中をのぞいたディラックが、小さく叫んで飛び出した。シトゥリは慌ててその後について入り、思わず息を呑んだ。
「ああ……あああーっ!」
 嬌声をあげるクラの周りに、金色と肌色の塊が蠢いている。それらはすべてアシリアだった。小さな体をいっぱいに使って、クラの肌を舐めまわし、こすり、そして腰の位置で……。
「くそ、間に合わなかったか!」
 ディラックが焦燥の声を上げる。アシリアがいっせいにこちらを向いた。その股間からは、かわいらしい男根が生えている。それを使ってクラを犯していたのだ。
 突然その男根が触手のように伸びた。こちらを威嚇するように持ち上がったそれは、禍々しく膨れ上がって牙を生やした。シトゥリは顔を歪めた。
「グロテスクだよ……」
「呑気なことを言っている場合じゃねえ! 邪神に精を吸われた。いくら現人神でも危険だ」
「ふふふふ……」
 クラを犯していたアシリアが動きを止め、顔を上げた。低い笑いはその唇から漏れたものだ。シトゥリは身構えた。
「愛とは素晴らしいものですわ。愛欲にまみれた精は、まるで甘露のよう」
 中央のアシリアから触手状の男根が伸び、クラの秘部へ突き刺さった。びくっとクラが体を仰け反らせる。
「クラ!」
「動いてはなりません」
 飛び出そうとしたディラックを、中央のアシリアが澄んだ声で制した。歯を剥いてディラックは怒鳴る。
「てめえは一体何者だ! 巫女じゃあるまい」
「わたくしは八十禍津日神ですわ」
 その言葉に、シトゥリはあんぐりと口を開けた。ディラックも限界まで目を見開いている。
「ば……馬鹿な。邪神が人間の姿で話すなど、聞いたこともねえぞ」
「もっとも、ここへ残したのはわたくしのほんの一部ですけどね。わたくしがよく知る巫女の体と頭脳を真似て、あなたたちに話しかけているまでです」
「クラを離せ。邪神が人間の真似事をするんじゃねえ」
「ふふ。じゃあ神の真似事をしているあなたは、もっと滑稽ですね。現人神の男よ」
 アシリアの目はディラックを見つめている。ディラックは眉を寄せた。
「おれが……現人神だと?」
「そうですわ。あなたの力は神の力。荒ぶる建速(たけはや)のミコト――須佐之男(すさのお)の現人神なのですよ」
「須佐之男……!」
 それは天照(あまてらす)、月読(つくよみ)と同時に生まれ、そのあまりに強大な力と横暴な性格から、高天原を追放されたと言う神の名だった。須佐之男は天津(あまつ)神(かみ)でも、黄泉津神(よもつかみ)でもない。この世にもう1つ存在すると言われる場所、『根(ね)の国(くに)』と言う地下世界の王なのだ。
 だが根の国は存在すると伝承されつつも、その存在が確認されたことはない。黄泉から派生したただの伝説なのではないかと言う説すらある。
「でもずいぶんぼろぼろな体なのですね。過ぎた力は身を滅ぼすと言うことですか」
「うるせえ! てめえは消えろ!」
 突然激昂したディラックが、手に光の弓をにぎった。神殿の中が光り輝いていく。
 中央のアシリアは、軽く笑った。
「須佐之男も意地が悪い。もうこの男の命は限界ですわ」
 引き絞った光が放たれる瞬間、ディラックの動きが止まった。
 アシリアが片手をディラックに向けている。
 まばゆい輝きは急速にしぼみ、そしてがっくりと膝を折ったディラックが顔を押さえて震えていた。
何が起きたのだろうか。シトゥリは駆け寄ってその肩へ手を置いた。
「ディラックさん――」
「ぐああ、あああああーっ!」
 シトゥリの手を跳ね飛ばし、仰け反ったディラックが絶叫を放った。
 ただ事ではない。顔面を――正確には右目を押さえたまま、床をのた打ち回る。
 どうすることもできずに、シトゥリは息を呑んだまま、たたずんでいた。
「さあ、あなたもいらっしゃいな」
 はっと気づくと、複数のアシリアに体を押さえられていた。中央のアシリアが艶然と微笑んで言った。
「何を躊躇っているのですか。おいでなさい」
 逆らおうにも、いや、そもそも逆らう気が起きない。足は中央のアシリアへ自然と向き、その前で立ち止まった。足元に気を失ったクラが転がっている。
 中央のアシリアは両手でシトゥリの顔を挟み、うっとりと見上げた。
「綺麗なお方。建御雷神もいい現人神を得たものね」
 アシリアの唇が近づき、シトゥリのそれと重なった。
 そこから舌ではない何かが口の中から喉の奥へ侵入してきて、シトゥリは体を硬直させた。唇を合わせたまま、どうやってしゃべるのか、アシリアの声が言った。
「ゆっくりとお楽しみなさい。ご奉仕して差し上げますわ」
 その言葉と、ディラックの苦鳴を聞きながら、シトゥリは意識を失った。


 3


 体の中が燃えるように熱い。
 シトゥリは全身を這い回るやわらかい刺激に、意識を覚醒させた。
 目を開けると、人形のように無表情のアシリアが覗き込んでいた。胸や下腹部、腕から脚、そしてイチモツにも、それぞれ別のアシリアが取り付いて熱心に愛撫している。
「あ……」
 急激に色々な感覚が蘇って、シトゥリは思わず喘いだ。
 いつか再度の儀式の時に味わった光景だ。無数のアシリアが同時に行う愛撫は、快感を何倍にも増幅させて襲ってくる。
「あ、あっ!」
 わけが分からない奔流に押されて、シトゥリは喉を反らした。
 体の中の熱い塊が下半身へと流れ、射精感に身を震わせる。
 イチモツに取り付いたアシリアが、先端を口に含んでそれを飲み下していった。小さな唇の端から溢れた精液は、イチモツを伝って流れ、陰毛にたどり着く前に他のアシリアに舐め取られる。
 何も考えられない。
 ただ与えられる快感のまま、シトゥリは何度も射精した。そのたびに大量の精液がぶち撒かれ、やがて空っぽになったイチモツは、それでも隆々とそびえたったまま震えるだけになった。
 アシリアたちが身を引いていった。
「穢れた精液はなくなりましたね」
 神殿の台座の上で、薄い布だけをまとったアシリアが言った。
「さあ……わたくしを抱いてくださいませ。巫女に身をやつしている今なら、直接贄を摂ることが可能……。現人神の魂、さぞや旨い事でしょう」
 立ち上がる力すらなくなっていたはずのシトゥリは、ぼんやりと起き上がって台座を目指した。
 台座の上では四つん這いになったアシリアが、こちらを向いてシトゥリの到着を待っている。その前に立つと、勃起したままのイチモツの先端を、舌を伸ばしてちろりと舐めた。
「はぁ……」
 それだけで電流のような快感が背筋を駆け上がり、シトゥリはため息を漏らす。
 微笑んだアシリアは仰向けになると、布を払って股を開いた。豊かな胸を揉みながら、大胆に股を広げる。わずかな茂みの奥で、瑞々しい色合いの秘部が蝶を誘う花のように開いていた。
「わたくしの中へお入りなさい……」
 シトゥリは台座にのしかかる様にして、アシリアの体を抱き寄せた。ちょうど台座は腰の高さで、そのまま挿入するにはちょうどいい。
 体の中には熱い塊が煮えていて、それがひたすらに性欲をかき立てていた。
「ああっ!」
 シトゥリがイチモツを挿入すると、感に堪えない様子でアシリアが声を上げた。
 同様に、シトゥリも信じられないほどの快感がアシリアの膣の中から伝わってくるのを感じた。人間では到底不可能な性感をアシリアに身をやつした八十禍津日神が与えてくる。
 神。
 そう、神を抱いているのだ。
 シトゥリはその思いに一瞬理性を取り戻しそうになったが、続けざまにくる快楽の波に、すぐ思考を奪われた。
「すご、い……。わたくしを、こんなに、う、あっ!」
 夢中になって腰の律動を開始する。本当ならもうすでに射精してしまっているほどの刺激が与えられていたが、絶頂に達しても射精が行われることは無く、ただ快楽だけが増幅されて、それがさらに貪欲に腰を突き入れさせた。
「そんな、なんでっ!」
 軽くアシリアが痙攣した。早くも最初のアクメに達してしまったようだ。責めから逃れようと体をひねるが、シトゥリはその肩を逃さないように押さえつけた。
「やめ、やめて! どうしてこんなに、あなたは――」
 喘ぎの合間から、途切れ途切れにアシリアが言った。
「あなたは剣の神霊の現人神……! そうですわ、剣は男根の象徴。こ、このままでは」
 快楽だけが相乗的に高まっていく。
 もう何も考えられなかった。ただひたすらに腰を突き動かし、相手をむさぼることしか意識が働かない。
 太いイチモツをアシリアの股の間に出し入れするたびに、卑猥な水音が溢れて台座から床へと流れていった。
「おねがい、もう……! わたくしが達してしまうと、本体にまで影響が……。ああ!」
 アシリアの体から、その絶頂の気配が感じられてくる。無限にも思える快楽の輪に、終焉をもたらすことができそうだった。
 シトゥリはさらに激しく腰を動かし、その絶頂へ相手を導いていく。
「あなたは、神をも虜にする力の……! あ、もう、もう!」
 体を仰け反らせてアシリアが叫んだ。
 同時にシトゥリも、もう有り得ないはずの射精感が高まって、膣の奥深くに突き刺さったイチモツを振るわせた。
「ああーっ! あー!」
 イチモツからは精子でない何かが注ぎ込まれている。身を捩じらせてアシリアが暴れたが、シトゥリは体を抱きしめて離さなかった。
 やがて痙攣に全身を覆われたアシリアが、ぐったりと動かなくなった。
 シトゥリも体中の力が抜けて、その隣に崩れ落ちる。
「建御雷神……天津神の神精が、体の中に……」
 その言葉を最後に、台座の上のアシリアは、溶けるように蒸発していった。





 気がつくと、サクヤとディラックが覗き込んでいた。
「……よかった。大丈夫みたいね」
 焦燥した様子のサクヤが、大きく息をついて言った。ディラックはベッドサイドの椅子から立ち上がる。
「おれも今度ばかりはダメかと思ったが――結局、生きている。まだ生きろと言うことか……」
 後半は独白の調子だった。
 シトゥリはベッドに寝たまま、周りを見回した。どうやらタケミカヅチの中まで運ばれたようだ。
「ディラックさん、僕は……」
「お前は危うく八十禍津日神に食われるところだった。だがなぜか奴は消え、なぜか発作を起こしたおれも正気に返り――お前とクラをここまで運んで脱出してきたと言うわけだ。クラも無事だが、まだ目が覚めていない」
 顔の陰が濃いのは照明のせいだけではあるまい。ディラックは疲労している様子だった。それはそうだ。クラもシトゥリも体重が軽いとはいえ、人間2人をあの距離運んだのだ。
 シトゥリは丁重に礼を述べた。ディラックはそれに返事を返さず、少し休むと言って部屋を出て行った。
 冷たい印象を受けるディラックだが、シトゥリは信頼することにした。目つきや雰囲気や行動が冷酷なだけで、少なくとも背中を預けるに足る人物であるように思う。
 ディラックが出て行くと、部屋は急に暗く沈んだ。
「……ごめんなさい」
 しばらくして、ぽつりとサクヤが言った。シトゥリには何のことかわからなかった。
 サクヤは椅子に腰掛けたまま、うなだれている。表情をうかがうことは出来ない。
「私、あなたにひどいことをしちゃった……」
 母船の中で聞いた、自分が知らずやっていたと言う逢引のことか。それこそ、シトゥリには何の記憶もない。何の記憶も無いゆえか、意外なほど感慨はなかった。それは、トウキ自身がやったことのような、どこか他人めいた感覚があるからだった。
 サクヤは語り始めた。
「私、まだ固執しているの。過去に。……あなたがトウキの行動を模倣していると気づいたとき、本当はキリエに相談すればよかった。彼女なら、トウキのことは一番に知っている。でも」
 それは出来なかった、と言った。下唇を噛むのが、長く垂れ下がった髪の隙間から見えた。
「死んだ男に捕らわれているの。シトゥリくんの気持ちを知ってるのに、それを踏みにじってまで、過去に甘えたかった……」
 逢瀬が度重なるごとに、罪悪感は増していったらしい。シトゥリに告白するサクヤの口調は、昏いカーテンに彩られていた。
 シトゥリはベッドから体を起こした。
「サクヤさん。僕には何が起こったのかぜんぜんわからないし――もし、トウキさんが僕に乗り移って行動していたとするなら、やっぱりそれは、トウキさんに抱かれていたんじゃないかと思うんです。僕は……その、サクヤさんが好きですけど、トウキさんには到底勝てないと思っています。だから、悔しくないって言うとウソになりますけど、これ以上罪悪感は感じないで欲しいです」
「……ありがとう」
 サクヤは顔を上げた。シトゥリは首をゆるく横に振った。
「いいえ。僕も……悩んでるんです。半年前の事件以来」
「悩む?」
「僕のこの感情、僕は確かにサクヤさんが好きなんだけど、果たして本当にそうなのか。現人神として繋がった、トウキさんや、ジークって言う人の意志が流れ込んで、そう錯覚しているだけじゃないのか――。現に、トウキさんは、その」
「そう、だったのね。ジークの感情が流れて私を好きだと思っていた。だから、あの時銃口はキリエを向いた――」
「そうなのかもしれません。でも、そうじゃないかもしれません。僕には……わかりません」
「シトゥリくん」
 シトゥリはサクヤに目を向けた。サクヤは微かに微笑んでいた。
「成長したね。最初に会ったときは、正直子供だったんだけど。今じゃちゃんとした大人に見えるわよ」
「そ、それって――」
 トウキたちと同じ、大人として自分を見てくれると言うことだろうか。サクヤは笑みを深めると、椅子から立ち上がって戸口へ向かった。
「……あのね」
 扉の横にある、空気圧搾扉の鍵をかける。サクヤは扉と向かい合ったまま、静かな――甘い口調で続けた。
「私を抱いて欲しいの。シトゥリくん自身の意志で。お詫びでも、贖罪でもないんだけど……そうして欲しい。私自身の罪悪感を誤魔化したいだけなのかもね」
「え、えっと、でも、仕事が……」
 シトゥリは急に口の中がカラカラになって、慌てた。サクヤは振り返って微笑んだ。
「本当なら、シトゥリくんの力でサブエンジンを起動させる方がいいんだけど、無理はさせられないわ。クラもまだ寝てるし、ブリッジはキリエに任せてある。地球に着くまでオフと同じよ。ここは黄泉と違って、敵も居ないしね」
 そしてベッドサイドへ歩みよってくる。なおさらシトゥリは慌てた。
 狼狽を収めるように、サクヤがシトゥリの頬に手を当てた。あたたかい。
 その時初めて、シトゥリは全裸のままベッドに寝かされていたことに気づいた。
「ごめんね」
 そう言いながらサクヤは唇を寄せ、キスをした。軽く感触だけを残して離れた唇は、そこから下へ下がり、首筋へあてがわれる。シトゥリは緊張して石像のように凝固しているだけだった。しかしサクヤの甘い香りと感触に、下半身は正直に反応してしまう。
「あ、あの――」
 言葉を発しかけたシトゥリを押さえるように、サクヤは半ば勃ちあがったイチモツを、シーツの上から大胆につかんだ。思わず息を呑む。
「私ね」
 首筋から戻ったサクヤの声は、熱く濡れている。
「本当は淫乱な女なんだよ。――キリエほどじゃ、ないけど。あなたの誘いを断れなかったのも、半分は真相の解明とトウキへの愛情のため。でももう半分は……」
 そこでサクヤは、握り締めたイチモツをゆっくりと撫で擦った。
「欲しかったの。私だって――ずっとがまんしてたんだから。開けっぴろげなキリエがうらやましいときもあったわ。トウキとジーク、2人同時に相手をしたこともある。ディラックにも抱かれたわ」
「ディラックさんに?」
「……あなたとの密会をばらされたくなければ、ってね。レイプよ。でもいいの。彼のおかげであなたに真相を話す踏ん切りがついた。それに、――変態だと思ってくれていいわ。私はレイプされることに悦んだのよ。だから。だから、軽蔑して! お願い!」
 突然、サクヤの語調が乱れた。痛いくらいイチモツを握り締めながら、シトゥリの顔を覗き込んでいる。その目は、零れ落ちんばかりの涙を溜めていた。
 本当に落ち込んでいたのは、キリエではなかった。再びタケミカヅチが出撃してから、平静を装いつつ艦長を務めていたサクヤが、一番不安定な精神状態だったのだ。自分の罪を告白することで、かろうじて保たれていた均衡が崩れてしまった。シトゥリにはそう見えた。
「軽蔑なんて――出来ません」
「どうして! どうしてよ。私は、あなたが描いているような、理想的な艦長でも女でもない。そんなものは雑誌や軍が作り上げたプロパガンダよ。私は――弱くて、曖昧で、優柔不断な……一体、何のために船に乗っているのかもわからない、そんな人間よ……」
 一時の激昂に任せて言葉を吐いて行くうちに、それは普段隠していたアイデンティティまでも自ら傷つけてしまったようだ。サクヤの口ぶりからは急速に勢いが消え、そしてがっくりとうなだれた。頭をシトゥリの胸に押し付けたまま、力を失っている。
 ただ、肩だけが静かに震えていた。
「僕は……僕は理想的だから、サクヤさんを好きなんじゃない。トウキさんに言われるまで、これが恋だなんて思わなかったくらいです。初恋だから、わからなかったんです。だから、理想的とか、絵に描いたような、とか……そんな理由じゃありません。でもさっきも言ったように、僕も不安だったのは事実です」
 自然とサクヤの髪に手を当てていた。
「僕は運命と戦う。トウキさんが死んだとき、そう誓ったのに、現人神としての運命の流れや繋がりを否定することは――すなわち、サクヤさんへの恋心が、ただの幻と言うことになってしまう。矛盾ですよ」
 低く抑えた自分の声は、ひどく大人びている。場違いなことをシトゥリは思った。
「僕は、今、はっきりと。自分の意志で思います。――サクヤさんを愛している。嘘偽りも、幻も過去も運命もありません。あるのは……その事実、だけです」
 肩の震えが止まっていた。
 顔を上げたサクヤは、涙に濡れた目を呆然とシトゥリへ向けた。
 何度か空をつかむように唇を動かし、ようやくかすれた声で言った。
「ありがとう……」
 シトゥリはその震えの止まった肩を抱き、サクヤに顔を近づける。もう1度、囁いた。
「いいんですね」
 サクヤは子供のようにうなずいた。シトゥリはその唇を優しく塞ぐ。強張っていたサクヤの肩から力が抜けた。
 涙の跡にそっと下を這わせる。
 愛おしさがこみ上げた。
 もう迷わなくてもいいのかもしれない。過去の亡霊は消えたのだ。例えトウキの想いが自分を動かしていたとしても、この愛おしさは自分自身のものだ。
 それを確かめるようにサクヤを抱きしめた。制服ごしの柔らかさが肌に伝わってきた。
 鼓動が聞こえた。
「明かりを……」
 呟くようなサクヤの声に、シトゥリはベッドサイドの操作盤から照明を落とす。横へ手を伸ばした体勢の隙をついて、サクヤがのしかかって来た。シトゥリを下にして2人はベッドへ沈み込む。サクヤが首筋に唇を寄せた。
「なんだか……私、とってもドキドキしてる」
「僕も……」
「どうして?」
「どうしてって……それは、サクヤさんを好きだから」
 改めて問われると気恥ずかしいが、言い切った。首筋の唇から舌が伸びて、顎まで優しく舐めあげてきた。熱い吐息が耳元に吹きかかる。
「わたしも、そうなのかも」
「え?」
「――今だけは、恋人と思って。ごめんね、こんなことしか言えなくて」
「いいえ」
 苦笑する。それで充分だった。
 体の上で上半身を起こしたサクヤが、制服を脱ぎ捨てていった。ブラジャーをはずすころには目が暗闇に慣れてきていた。零れ落ちそうでいて、けっして丸みを失わない乳房が窮屈な場所から解放されたことを喜ぶように弾んだ。
 視線に気づいたサクヤが薄く笑いながら片手で乳房を覆い、もう片手でスカートのホックをはずす。その下の下着も器用に脱ぎ捨て、シトゥリの腰の上にまたがった。
 シトゥリのイチモツはとっくに最大限の力を漲らせている。サクヤの秘所が竿に吸い付いていた。乳房を隠していない手で、まるで自分の秘所から伸びているようなイチモツをさする。
「シトゥリくんのって、大きいんだね」
「え、ええ……」
「なんだか余裕たっぷりって感じ。もう16になったんだっけ? ちょっと慣れすぎてないかな」
「そんなこと――ないですよ」
「キリエに鍛えられたからかしら。どう?」
「それは……あるかも……」
「馬鹿。女心はやっぱり、まだよくわかってない」
「は、はあ」
 サクヤのむっとした表情に、シトゥリは困惑した。しかしすぐにサクヤはクスリと笑って、シトゥリの首の後ろへ手を回した。
「でも――それは私だって同じ。男の気持ちなんてわからないわ。だから、身体を繋げて、2つを1つにして、知ろうとするのかも」
 覆いかぶさったサクヤがきつく抱きしめてくる。
 豊かな胸がシトゥリの上でやわらかく潰れた。そこから溶け出すように、鼓動が伝わってくる。
 イチモツの上で濡れた腰が動いた。吸い付いてくる。
 裏筋の一番敏感な辺りをぬるぬると刺激され、頭がぼうっとした。息だけが自然と荒くなる。
「感じ――感じる?」
 訊いた本人も感じているらしい。ため息交じりの問いに、シトゥリはただ頭を動かして答えた。
 責め手のサクヤは艶っぽく笑って唇を舌でなぞった。濡れた唇でキスを求める。
 シトゥリは頭を抱かれ、激しく舌を入れられ、イチモツを秘所で愛撫されて、理性的な思考は霧の中へ埋没していった。サクヤも先ほどまでのいくぶん冷静な態度は消えうせて、夢中で腰を使っている。気持ちの切り替えとすぐ集中できるのが特技だと言っていたが、それはベッドでも発揮されるらしい。
 下半身をずらしたサクヤが、今度はイチモツを太ももで挟み込んできた。シトゥリは足を開いてサクヤの腰を抱きこむ形になる。
 濡れそぼった秘所ときつく締まってグラインドする太ももが、まるで本当に挿入しているかのような感覚を与えてくる。
 シトゥリはあまりの快感に酩酊した。
「あ……き、気持ちいい」
 うわごとを聞きつけたサクヤが耳元へ顔を寄せ、耳たぶを噛んだ。
「こう? これがいいの?」
「は――はい」
「ふふ。キリエがあなたにハマっちゃった理由、少しわかるかも」
「え?」
「だって、かわいいんだもの。それでいてここはすごいし」
 後ろ手に伸ばしたサクヤの手が、太ももに挟まれたイチモツを捕らえた。
 愛液でねとねとになった亀頭を秘所に押さえつけるように圧迫する。同時に裏筋も刺激され、シトゥリは首を逸らした。
「だ――あっ!」
「いいの? いいのね?」
 どこか加虐的な笑みを浮かべて、何度も同じ動作を繰り返す。シトゥリはただ射精感をこらえて首を振った。
 相当に興奮しているのか、秘所はしとどに蜜を溢れさせている。
 艦長としての凛とした表情は無くて、でもむしろその姿のほうが――サクヤらしい、と朦朧とシトゥリは思った。
 虚勢も無理も片意地も張ってない、素のサクヤが具間見える気がしたのだ。裏表が無いように見えて、ひょっとしたらサクヤの本音と建前は、常に遠いところに離れているのかもしれなかった。
 だから、素の気持ちがここにあるであろうことは――シトゥリにはうれしかった。
「も――がまん――」
 途中から目を閉じて、自分のもっとも感じるところにイチモツをこすり付けることに集中していたサクヤが、うわごとのように呟いてからわずかに体勢を変えた。
 とたんに、イチモツ全体がぬるりと暖かく包まれる。シトゥリは秘所に挿入されたことを悟って、敏感に反応した。
「ど――う? くっ!」
 余裕を持つつもりだったのだろうが、サクヤは言葉を途切れさせて苦しそうな呻きを漏らした。快感のあまりだろう。
 秘所の中は痙攣するように収縮した。先端が一番奥の壁に突き刺さるように当たっている。そこは複雑に蠢いて、大きく広がった。
「だ……だめ、イっちゃ……!」
 イチモツをこすり付けているだけで、サクヤは絶頂の手前だったのだ。シトゥリは一瞬締まりが弱くなった隙に、下から腰を突き上げた。
「あ――ああっ!」
 びくん、と派手に身体をそらして、サクヤはシトゥリの上で身を震わせた。とたんに秘所がきつく収縮する。シトゥリは眉をしかめて、なんとか複雑な蠕動の刺激に耐えた。
 しばらく喉を反らして痙攣していたサクヤが、ぐったりと倒れ掛かってくる。
 はあはあと熱い息が喉元にかかる。
 シトゥリは指を上げ、サクヤの口元から長い髪を払う。
「次は、僕の番ですよ、サクヤさん」
 わざと生意気なことを言ってみる。持つ自信はあまりなかった。返事もせずぐったりしているサクヤの身体を、結合部が外れないようによけて入れ替え、シトゥリはサクヤに正常位でのしかかった。
「あ――」
 押し付けられる刺激に、サクヤが微かに反応する。まるで少女のようだ。
「かわいい――です」
「――え?」
「いえ……」
 シトゥリは照れて、照れ隠しに腰を使った。
 ぐっと奥まで、根元までイチモツを差し込む。溢れかえった蜜が逃げ場を求めて、くちゅくちゅと鳴る。
「ま、待って。そんな、もう」
 慌てた様子でサクヤが手を振った。本当にかわいい。
「ダメですよ」
 意地悪く笑って、シトゥリは思い切り腰を振った。
 卑猥でいやらしい、濡れた音が響き渡る。
 サクヤははじかれたように身体を硬直させた。
「や――待ってったら! あ! ダメダメダメっ!」
 責めから逃れようと身をよじっても、シトゥリはしっかりと足腰を固定してしまっていて、身動きは取れない。
 感じすぎてうろたえている。
 つい先程イったばかりがから当然だろう。
 シトゥリは何か言おうと思ったが、何を言うのも照れくさい気がして、腰使いに集中した。この体勢なら思うとおりに出し入れが可能だ。
「うっ! うっ!」
 腰をグラインドさせるたびに、サクヤは口に手を当てて呻きを上げた。喘ぎ声を出すまいと必死にこらえている。
 信じられない。
 船に乗るまでは、ただ憧れの雲上人だった。それが、こうして身体を許してくれている。
 信じられないのは、ここ半年の出来事すべてに当てはまるだろうが――それでも。
 走馬灯のように過去がよぎった。
 たぶん、おそらく、今まで起きたどんな出来事よりもこの一瞬の時間が、もっとも満ち足りたものなのではないだろうか。
 はっきりと自覚するほど、シトゥリはそう思った。
 サクヤを快楽の泉へ何度も沈めながら、シトゥリも絶頂が近いのを知った。
 脳裏の走馬灯は、さらに駆け抜けていく。
 色んな光景が思い出された。
 忘れていたことも、そこにはあったように思う。
 それは、絶頂へと近づくにつれてさらに速度を増した。
 そして――。
 難解な数字。言霊式(プログラミング)。黒淵の眼鏡。建前の正義。
 道場。銀色の髪――キリエ。裏切り。背徳感。
 今――今。
「あ、ああ!」
 知っている。
 こうやって、幾度もサクヤを抱いた。
 それは、他人の体験であって、自分へと続く体験。
 経験の継続。
 死ねば失われる情報の共有。
「サクヤさん、イキますよっ」
「きて――きておねがいっ!」
 ものすごい光の本流が脳裏から溢れ、そして真っ白い世界の中で、シトゥリは果てた。
 同時に――悟ったのだった。


  5


 ぼうっとサクヤの寝顔を見ていると、寝ていたと思った当人が、ふぅと息を吐いて目を開けた。
「なんだか、信じられないけど、でも違和感がないのはなんでだろ」
 シトゥリくんが隣に寝てるなんて、と笑う。
 シトゥリは笑い返した。
「それはきっと……」
 言いよどむ。無邪気に訊き返される。
「ん?」
 話すか話すまいか悩んでいたことを、言葉にしようと努力する。
 うまくは――伝わらないだろう。
「現人神の、意味が」
「え?」
 悩んで言葉を選んだ挙句、口を吐いて出たのは意味不明の一言だった。
 一息入れて、言い直す。正確に伝える努力は、その時点で放棄した。
「今――わかったんです。わかったけど、うまく言えなくて」
「なに?」
「僕がトウキさんの行動を模倣していた訳。いいえ、僕はトウキさんだけじゃなくて、ジークさんの行動も、知らないうちに模倣していた。クラさんに訊けばわかると思います。イモータルの名でアングラサイトに書き込みを続けていたのは、僕なんです」
「…………」
「それこそが現人神の意味――だと思います。いや、そうでないと意味がない。同じ神の現人神が出会ったら、どちらかが死んでしまうなんて、意味がない」
 苦渋に満ちた声だったのだろう。サクヤが心配げにシトゥリの名を呼んだ。
「こういうとアレなんですけど、サクヤさんを抱いてようやく、僕は気づきました。今までも、何度も――サクヤさんを抱いたことがあるって」
「ええ……それは、私が」
「そうじゃなくて」
 サクヤが言おうとしたのは、トウキの行動を模倣したシトゥリのことだろう。シトゥリの言おうとしていることは、もっと古い。
「サクヤさんが初めてトウキさんに抱かれたときのことや、ジークさんに抱かれたときのこと。2人一緒に相手をした時のこと――僕が知るはずもないことを、僕は経験しているんです」
「どういう――」
 案の定、サクヤは眉をひそめた。シトゥリは口下手なのを恨めしく思いながら、結論に用意していた言葉を先に伝える。
「現人神の意味。それは、経験情報の共有、正確には一方が死んでもう一方にその記憶・経験・知識を伝達するシステム……なんだと思います」
 自分で言ってよくわからなかった。
 だが、聡明なサクヤはそれで察したらしい。ますます眉の皺が深くなっている。
「それって――それってつまり」
「はい。トウキさんもジークさんも、僕に経験情報を渡すために死んだ、と言う事なんです」
「あなたは……トウキであり、ジークである」
 うなずく。
「僕にはその情報が受け渡されていたけど、受け入れることができなくて、ああやって行動を模倣すると言う形で発露したんだと思います。2人に関わりの深いサクヤさんを抱いたことで、おそらく僕は受け入れることが出来た」
「まって――」
 ようやく、サクヤはシトゥリの言わんとすることの全貌が理解できたようだった。
「それじゃ、あなたがこの船に乗っていることも、過去に2人が船に乗ったことも」
「この事実を知る誰か何者かの仕業、と言うことですよ」
 放心したようにサクヤは天井を向いてしまった。
 ディラックの言葉を思い出す。
 連邦政府最高会議室、室長の女。
 世界一権力を持っている人物。
 シトゥリ、お前をタケミカヅチへ乗せる決定をしたのも――
「その女だ」
 呟きは暗闇の中へ溶けた。
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