「ちょっと、おかあさん焦げてる!」
「きゃあー!」
悲鳴にドタバタと言う足音が付いて走る。
なにかにぶつかったのか、ガシャーンと派手な音が鳴って、その後怒声とも悲鳴ともつかぬサクヤの声が続いた。
シトゥリは隣のダイニングで椅子に座ったまま、音のするほうへ首を向けて、呆けたように口を開けていた。
ここは連邦本部に程近い住宅地にある、サクヤの実家。サクヤはここで母親と二人暮しである。
シトゥリは連邦の寮に住んでいるが、サクヤの家と程近いことがわかって、こうやって時々晩御飯をご馳走になるのだが――毎回、この調子なのだ。
母がドジなせいなんだとサクヤは言うが、おっとりしたところなどよく似ていると思う。
いや――よく似ているどころではない。
シトゥリは初めてサクヤの家に来たときのことを思い出す。
あれは八十禍津日神を撃破し、地上へ戻ってしばしの休息をとっていた頃のことだ。
ある晴れた午後、シトゥリはタケミカヅチに荷物の忘れ物が残っていたものを預かっているからと、サクヤに家までくるよう呼び出されていた。
若干緊張しつつも、わくわくしながらインターフォンを押したことを覚えている。
ドアが開いて顔を出したのは、サクヤ――によく似た、誰かだった。身長も顔つきも、それからTシャツを押し上げている豊かな胸も同じ。ただ、髪の毛にゆるくウェーブがかかっていることで違和感を感じたシトゥリは、別人であると気づいたようなものだ。
「えっと、お姉さん……ですか?」
家の中へ案内されて、シトゥリは恐る恐る訊いてみた。サクヤに姉が居ると言う話は聞いたことがない。
だが、女性はくすくす嬉しそうに笑うと、こう言った。
「そうです。サクヤの姉のユマリです」
「ちょっと!」
その時廊下の角から顔を出したのは、サクヤ本人である。
「また、人をだまして。おかあさんったら」
「お、おかあさん!?」
どかーん、ものすごい音がして、シトゥリは我に返った。キッチンから聞こえるサクヤの声は、完全に悲鳴だ。
シトゥリはふっと笑って呟く。
「詐欺だよね」
サクヤの母ユマリは、姉といっても通じるほど、歳を取っていない。十四歳で処女妊娠したと言ううそ臭い噂が本当だとしても、三十台半ばのはずである。頭の中身はもっと若い。
「シトゥリちゃん」
すごすごとキッチンからユマリが現れた。エプロンは無駄に汚れている。
「サクヤったらひどいのよ。私に料理させない気なの」
「人聞きの悪いこと言わないで! おかあさんが居ると出来る料理も出来なくなるの!」
キッチンからサクヤが叫び返してくる。
「フーンだ。シトゥリちゃんに遊んでもらうからいいもんねー」
エプロンをはずして後ろに回りこんだユマリが、手を回して抱きついてくる。胸が背中に当たって、シトゥリは焦った。
「ちょ、ちょっと」
「うふふー。私も男の子が欲しかったな。なにして遊ぼっか。大人の遊び?」
「わ、わあ」
前に回した手が、ズボンの方へ伸びてくるのを見て、シトゥリは悲鳴を上げた。
「お・か・あ・さ・ん」
目を三角にしたサクヤがおたまを振りかざしてキッチンから現れる。
「教育的指導!」
投げつけたおたまは、スコーンとユマリの額にぶつかって、シトゥリは危うく難を逃れた。大げさにのけぞったユマリは、大げさなしぐさで額を押さえる。
サクヤを指差して叫んだ。
「ドメスティック・なんとかよ!」
「……バイオレンス、でしょ。もう。お願いだから大人しくしてて」
「あ、おなべ吹いてるんじゃない?」
「え? あーっ!」
口元を押さえて大声を上げるサクヤ。シトゥリは天を仰ぐ。
でも楽しそうでいい。二人を見ていると、自然と口元が綻んでくる。
数年前に家族を失ったシトゥリは、団欒と言うものから縁遠くなってしまった。手料理をいただけると言うのもそうだが、シトゥリは団欒の温かさを感じるためにここへ来ているのだ。
阿鼻叫喚の末、なんとか晩御飯はサクヤの手によって完成したようだ。並べられた皿を見て、シトゥリはいまさらながら感心する。
「すごいですね、サクヤさん。職務だけでも忙しいのに、よく料理を覚える暇が」
「あー、それはね」
シトゥリの言葉をさえぎって、サクヤが言った。
「この人の料理があまりにあまりなものだったから、練習せざるを得なかったのよ。いい反面教師でしたしね」
ジロリと睨んだ先のユマリは、もう料理をパクついている。少しも話を聞いていない態度に、サクヤはため息をついて席に座った。シトゥリは軽く笑う。
親子と言うより、姉妹――それも姉はサクヤの方だ。
「あ、そうそう」
あらかた料理を平らげたころ、突然ユマリが立ち上がった。
「シトゥリちゃん、いいものあるから飲んでいって」
「なんですか?」
「自家製ジュースよ。おいしいんだから」
「料理は下手なのにお菓子とかジュースとか、そういうのばっかりは上手いの」
サクヤが補足する。余計なお世話、と舌を出してユマリはキッチンへ向かった。
あれー、どれだったかなーと言う声が聞こえるところをみると、相当の数があるらしい。ユマリは探すのに手間取っているようだ。
「……手伝ってきましょうか」
「いいのいいの。――それより、訊きたいことがあるんだけど」
サクヤが声を抑えて言った。表情に若干真剣なものが混じっている。
「はい」
「シトゥリくん、シリンちゃんと話したりする?」
「え――いや、そんなには」
「そう。歳が近いからと思ったんだけど、あの子ちょっと浮世離れしてるからね」
幾分サクヤは肩を落として、箸を止めた。シトゥリは怪訝に思って尋ねる。
「どうかしましたか?」
「うん……シリンちゃんの様子がおかしいのよ。どうやら、アシリアさんと会ってるみたいなの」
「アシリアさんと? クラさんじゃなくて?」
「そこがわかんないのよねー。当のクラはオフになると行方不明だし、アシリアさんも事が落ち着くまで身を隠しているはずなんだけど……」
「ディラックさんなら何か知って……あ!」
シトゥリは思いあたることがあることに気がついた。ディラックが語ったシリンの真実――生ける屍であること。
アシリアは神を裏切ったとは言え、巫女の力を失っていない。
その二つに関係があるかもしれないと気づいた瞬間、訳もなく血が引いていくのを感じた。
「どうしたの? ひょっとして何か知ってる?」
「いえ……でも、もしかしたら」
「準備できたよー。ぶどうジュース!」
キッチンから叫び声が聞こえた。グラス片手に現れたユマリを見て、サクヤが呆れる。
「戸棚のそんな奥にしまってるわけじゃないでしょ。なんでこんなに時間が」
「ふふ、それはなぜなら――私はふたをしてないビンを倒してしまったからなのです!」
頭痛を抑えるような感じで、サクヤは立ち上がった。キッチンへ向かうサクヤと入れ違いにユマリがグラスを持って入ってくる。
「さ、さ、ぐーっとやっちゃって。片付け手伝わないとサクヤに怒られる!」
「え、は、はい」
「さー一気、一気!」
味わうもなにもないな、と思いながら、シトゥリはグラスの中身を一気に飲み干した。まるで味がわからない――どころか、薬っぽい変な後味が残る。喉が熱い。まずい。
「どう?」
「……なんか、おかしな」
「ちょっとおかあさん、これシトゥリくんに飲ませ――ああ、それワインだって!」
「え、あれ、ほんとだ?」
呑気なユマリの声。
それを聞いた瞬間、ふつっと糸が切れるようにシトゥリの意識は途切れた。
2
う、うん……んぐ
シトゥリは自分のうめき声と、口から喉へかけての違和感で半ば意識を覚醒させた。
とりあえず口をふさがれて、何かを流し込まれている。首を振ってそれを振りほどくと、声が言った。
「もう、だめよ。ちゃんと飲まなきゃ」
「……え?」
薄く目を開けると、薄暗く落とした部屋の照明の中、サクヤが覗き込んでいた。どうやらベッドに寝かされているらしい。
「あ、あの」
状況がよくわからなくて、シトゥリはまごついた。察したサクヤが説明する。
「ワイン飲んで倒れちゃったの。夜も遅くなったし、今日は泊まっていって。ごめんなさいね」
「え、あ、はい……」
それでも状況が飲み込めないまま、シトゥリは生返事を返す。サクヤはベッドサイドに置いたコップを手に取った。
「はい、もう一度。酔い覚ましのお薬だからね」
そう言ってコップの中身を含み、身を寄せてきた。
シトゥリはサクヤから、口移しで薬を飲まされていたのだ。
どうしようか対応を考える暇もなく、シトゥリの唇は塞がれて、液体が流し込まれた。それを嚥下していると、舌が唇を割って侵入してくる。
「ん……」
まだアルコールが残っているのか、急に火照り始めた体が思考を奪っていく。シトゥリは舌を絡めとって、サクヤの体に手を伸ばした。
ふくよかな胸は薄い布一枚しか挟んでいなかった。さらさらとした手触りから、ネグリジェのような夜着を着ているのだと知れる。
やたらと体が熱い。
自分の思考と、体の動きが噛み合わない。
考える前に欲望のまま手が動いて、シトゥリはベッドの上にサクヤを引き寄せていた。サクヤは抵抗せず、むしろ体を寄せてくる。
「はぁ……。ごめんね。お詫びに、好きにしていいよ」
唇を離したサクヤも息を熱くさせている。シトゥリの上にのしかかる体制から、ころりと横に転がった。シトゥリはその体へ覆いかぶさる。
抱きしめると、小柄なシトゥリよりももっと小柄であることがわかる。火照ったシトゥリの熱が移ったかのように、だんだんとサクヤの体温も熱を帯びてきた。
それでようやく、自分が全裸であることに気づく。寝ている間に脱がされたのだろうか。
顔を下にずらして、夜着の上から唇で胸をまさぐる。むずがるような声をあげて、サクヤがシトゥリの頭を抱いた。
乳首を探し当てると、それを舌でころころと転がす。すぐに乳首は硬く立ち上がって、唾液を吸った布地が張り詰めた。薄布一つ隔てているのが、逆に興奮を覚え、シトゥリは熱心に両方の乳首を舐めて啜った。
「……や……ぁあ……んん……」
最初は息を荒げているだけだったサクヤも、徐々に喉の奥から喘ぎを漏らし始めた。円を描くように押さえた頭を撫で回す。
「う、うまい……よ。どうして? そんなに……」
どうして? サクヤとはベッドを共にしたことがあるし、そのとき言ったはずだ。自分はトウキとジークの経験を知っていると。
「ここが弱いのも、知ってるんですよ」
シトゥリは夜着のすそをまくりあげ、すばやく下着の中へ手を滑り込ませた。慌てて股を閉じようとする前に、手首までを股間に潜り込ませる。
すでにそこはねっとりと濡れていた。襞と襞の間に、糸を引きそうなほどの愛液が滴っている。
その愛液を軽く中指で掬い取り、股間の中央――ではなく、もっと億へ指を滑らせる。
目的の場所へ触れた瞬間、びくっとサクヤが体を硬直させた。
「そ、そこは――」
ほぐすように何度も指で入り口をこね回す。
「そこ、おしりの穴――あ……でも、なんか……変……」
確かに変だ。まるで初めて触れられるような――。
「ここが好きなんでしょ」
わざと意地悪く言いながら、ずぶりと指を埋没させる。サクヤは体を硬くさせた。
「や、だめ!」
「でも、好きにしていいって、さっき」
「言ったけど、でも……あんっ……なんで、そこ……」
語尾は弱くなって、消えるように途切れ、軽く喘ぐ息遣いが取って代わる。
「気持ちいいでしょ?」
「う、うん……あ、あそこに入れられてるような……ああ……いい、かも」
「だってサクヤさん、おしりが大好きなんですから」
「え? サクヤ?」
きょとんと問い返された。
その瞬間、シトゥリはとんでもない勘違いをしていたことに気づいた。
腕の下の顔をよく見る――ゆるくウェーブした髪。
「ままま、まさかユマリさんっ!?」
「うん」
「うんじゃなくてその!」
「あ、シトゥリくん声がしたけど、起きたの――」
今度こそ紛れもないサクヤの声が廊下からして、扉を開いた瞬間――戸口を振り向いたサクヤと目が合って、シトゥリはもう一度気絶しようかと思った。
しばらく時間が止まった後、
「な……な……」
とかすれた声でサクヤが呟く。
間違えたと言うのもなんだかおかしいと思って、なんと言おうかもごもごしていると、ユマリが代わりに説明した。
「シトゥリちゃん、サクヤと間違えたんだって。それよりこっち来なさい」
「ま、まちがえ?」
どうやらサクヤの思考回路は停止状態にあるようだ。明らかにわかっていない返事をすると、言われたとおりフラフラとベッドサイドに歩み寄ってきた。
ユマリはシトゥリの下から抜け出すと、ベッドの上に座ってえらそうに言った。
「そんなことより、あなたたちいつのまにそんな仲になってたのかしら」
「――は」
吐息ともなんともつかない声を上げて、サクヤは薄暗い照明でもわかるほど赤くなった。
「あ、あれはその――いい仲なんてもんじゃなくてね」
「ふーん。シトゥリちゃんあなたの弱点までちゃーんと知ってましたけどね~」
「……み、水ちょうだい、とにかく」
「そこ」
喉を詰まらせたようなサクヤに、ユマリはベッドサイドのコップを示した。それは酔い覚ましの薬なんじゃないだろうか、と思ったが、指摘する間もなくサクヤは手にとって飲み干していた。
「うえ、なにこれ」
飲み終わってからおかしいことに気づく。誰かと同じパターンだ。コップの横に置かれた薬袋を手に取る。
「おかあさんこれ、通販で買った怪しげな精力剤じゃない!」
「うん。元気になるかなーと思ってシトゥリちゃんに飲ませてあげたの」
「だってこれ、アルコールと一緒に摂取すると、び、び、媚薬の効果が……あっ!」
媚薬?
「そうだっけ? あ、一緒にビンの残りのワイン、乾杯しちゃったね」
「しちゃったねじゃなくて、その……なんだか、私……」
どうりで勃ちっぱなしなわけだ。シトゥリはイチモツに手をやった。体が火照っているのは、アルコールのせいじゃなかったらしい。
「うふふ。ねーサクヤ、いっしょにエッチしよ」
「きゃっ!?」
ユマリがサクヤをベッドに引きずり込む。もがくサクヤに、ユマリはシーツを被せて動きを封じた。
「ちょっと! おかあさんは飲んでないんでしょ!」
「えー、だって、口移しであげようとしたら、シトゥリちゃんうまく飲んでくれなかったから、私もいっぱい飲んじゃった」
「さ、三人ともなの……」
シーツから顔を出したサクヤが、情けない声で言う。明らかに顔は上気し始めている。
「サクヤさん……」
シーツの横から潜り込んで、サクヤの体を抱きしめる。抵抗するような素振りをみせたものの、振りだけで力はこもっていない。
サクヤもユマリと同じような、薄い夜着を着用しているようだった。素肌のぬくもりがほぼ直に感じられる。
「だ、だめよ。おかあさんが……」
「私もシトゥリちゃんにお詫びしなきゃいけないの」
「お詫びって――あ、んっ!」
シトゥリは乳首に夜着の上から吸い付いた。
不意打ちで性感帯を攻められ、サクヤは大きな声で喘いだ。慌てて口を押さえても遅い。ユマリがその顔をのぞきこんだ。
「おっぱい気持ちいいの?」
「……だ、だって今、すごく敏感に……なってて……う、ふぅん……」
「とっても色っぽいわぁ。私もしてあげる」
ユマリもサクヤの胸に顔をうずめた。シトゥリが舌で弄んでいる反対側の乳首へ唇を寄せる。
「や、やだ――ああんっ! あっ! だめ、声が――ぁ!」
二人に乳首を吸われて、相当敏感になっているらしいサクヤは声を抑えられずにあられもない喘ぎを漏らした。
「もっと気持ちよくしてあげますよ」
ユマリにしたのと同じように、下着の中へ手を差し入れる。秘所へ少し指が触れただけで、サクヤは刺激に体を震わせた。下着の横から、ユマリも手を差し入れてくる。
「あらあら、こんなに濡らしてるなんて……エッチな子に育ったのね」
「だって、だって」
「シトゥリちゃん、お仕置きよ」
シトゥリは膣の中へ指を差し入れ、ユマリはその上のクリトリスを撫で擦る。秘所の中は焼けるように熱くて、ねっとりとした濃い愛液で溢れ返っていた。
「ああー! やあっ! ……も、ダメぇ……!」
指一本入れただけなのに、ぎゅっと膣道が締めつけて、もっと刺激を欲しがっているように思える。シトゥリはかき回すように細かく指を震わせながら、指のピストン運動を繰り返した。
ユマリは溢れ出た愛液をたっぷりと塗りつけて、クリトリスへ指の腹をこすりつける。
「あっ! あんっ! あっ! ……ああっ!」
サクヤはもう喘ぎを隠そうともせず、派手に声を上げている。自然と腰もうねるように動き始めていた。
「――なか、奥の方が広がってきましたよ。イきそうなんですか?」
「や、やだやだっ! お願いイかせないで、おかあさん! 私!」
「なぁに? おかあさんに愛撫されてイっちゃうのが嫌なの? フーン」
ユマリが急に指の動きを止めてしまう。考えを察したシトゥリも、秘所から指を抜いた。
「あ……」
快楽の刺激が突然なくなって、サクヤが驚いたような声を吐く。
ユマリはサクヤを覆っていたシーツを取っ払ってしまった。
だらしなく開いた股の間では、濡れるだけ濡れた下着が染みを広げていた。
「あ……やだ……」
むずむずと腰を動かし、サクヤは自分から下着の中へ手を差し入れると、指を割れ目に沿って上下させ始めた。
もう片方の手は胸を揉みながら、若干しかめ気味の眉でシトゥリを見つめてくる。こんなサクヤはもちろん見たことがない。
「サクヤさん……やっぱり、がまんできないんでしょ?」
「うん……」
「じゃ、着てるもの全部脱いで」
素直にサクヤは着用しているもの――と言っても、ネグリジェと下着の二つを脱ぎ捨てた。その間も指は股間から離れない。
「大きく股を開いて」
「は、はずかしい……」
言いながらも、言葉に従って大きくM字に開脚する。指はくちゅくちゅと湿った音を上げて滴る液を弾いていた。
そのまま、熱心に自分を慰め始める。指の動きで形を変える襞は、別の生き物のようにパクパクと蠢いて、そのたびに中心から白くとろっとした液体を吐き出した。
サクヤは見てと言わんばかりに人差し指と薬指で大陰唇を広げ、中指で膣口からクリトリスまでを、ねっとりと執拗に愛撫しつづける。
ユマリがそれをのぞきこんだ。ユマリもいつのまにか裸になっている。
「ね、シトゥリちゃん。私たちこんなところまでそっくりよ」
サクヤの上に馬乗りになって、ユマリは自分の股間を指で広げた。暗くてあまりわからないが、似ていると言えば似ているのだろう。
そもそも、外見がこれだけそっくりだから、驚くことではない。
「おかあさんのも……」
「あン」
サクヤがもう片方の手で、ユマリの股間を触り始めた。
「もしかして、ここ感じる? ここも?」
「……うん……いい……感じる。あっ、そこ!」
シトゥリはまだ残っているサクヤの愛液を指に絡めたまま、ユマリのアナルへ手を当てた。下のサクヤが艶っぽく笑う。
「おかあさんも、おしり気持ちいいんだ。いっしょだね」
「も、もう! どこでそんなこと覚えてきたの……ああ、や! 入って――!」
指を入れると、ユマリは身悶えた。秘所からは噴き出すような勢いで愛液が分泌される。その中へサクヤが指を差し込んだ。
「後ろの穴と前の穴って、すぐ近くなんだよ。――ねぇシトゥリくん、私にも……」
サクヤが息を弾ませながらアナルへ指をねだった。
「サクヤさんには、こっち」
イチモツを握り、狙いを定める。切っ先が触れると、あぁ、とサクヤはため息を漏らした。
滴り落ちた愛液のぬめりだけで、サクヤのアナルは十分に準備ができている。アナルの入り口を亀頭でこじ開けるように開く。
自身の分泌した液体で禁断の門はゆっくりと開いていった。シトゥリは太い楔を、ずぶずぶと打ち込んでいく。
「あ、あ、あ、あ、……っ!」
サクヤは体内にぬるぬると進んでいく感覚に、詰まるような声を上げた。
半ばほど差し込んだところで、ぎゅっと締め付けられた。あまりのきつさにシトゥリは顔をしかめる。
「……おしり、いいの? 鳥肌たっちゃってる」
ユマリがサクヤの首筋を撫でながら言う。サクヤは頷こうとするが、シトゥリが奥まで貫いたため、声をあげずに体を反らした。
「――っ! 太い……っ。太いよぉ」
「大丈夫ですか?」
「うん……いい……あっ」
前後運動を開始する。滴り落ちた愛液がさらなるぬめりを与えて、潤滑もいい具合だった。広がりきった襞がこすれる、くちゃくちゃと言う音がとてもいやらしい。
「ああン……私にも」
ユマリが体を反転させる。自分の秘所をサクヤの顔に押し付けた。
「おかあさんの舐めて。ね? 私は……」
そう言って、犯されるアナルの上の花弁へ顔を寄せた。
「ああ――あっ……んんん」
ぴちゃぴちゃと花芯を舐められたサクヤは、押し付けられたユマリの秘所を夢中で舐め始める。
双子のような二人が69の体勢を取っているのは、どこか倒錯的な映像だ。シトゥリは興奮を覚えて、射精感が高まるのを感じた。
腰の動きを早めながら言う。
「サクヤさん――中に、いいですか!」
「いいよ――中。なかっ! ああっ!」
ユマリが突っ込んでかき回す指の動きが、薄皮一枚向こうで感じられる。それに亀頭を刺激されて、シトゥリは絶頂に達した。
「イきますよ! イクっ! うっ!」
思うさまアナルの中へ腰を突きいれ、射精する。直腸の中へ、白濁した欲望が思いきりぶちまけられた。
「ああーっ! 熱、い……! でてる……」
サクヤも普段から想像できないようなあられもない声をあげて、ベッドの上で悶えた。
シトゥリはその腰をつかんで、何度も何度も腰をぶつけながら、最後の一滴まで搾り出した。
頭の中が白くなるほどの快感。
出し終わってイチモツを引き抜くと、とろとろと白く泡立ったものがアナルから溢れてくる。ユマリが花弁から指を抜いて、ねとねとに濡れた指先をちろりと舐めた。扇情的な光景だ。
薬の影響のせいで、出し終わったと言うのにイチモツは全然収まらない。まだ足りないのだ。ユマリが顔を出して、勃起したままのイチモツの先を口に含んだ。
「んぐ……んっ……次、私の番だからね……」
「いっぱいしてあげます」
「うふ、うれしい」
「おかあさんにも仕返ししなきゃ……」
ユマリの体をよけて、気だるげな動作でサクヤが身を起こした。
ベッドサイドの戸棚を開け、そこから何か取り出す。イチモツから口を離し、ユマリが目を丸くした。
「あーっ。なんてもの持ってるのよ」
「だって。私だって寂しかったんだもん」
サクヤが取り出したのは、バイブ――それもアナル用の細いタイプだ。ユマリにはそこまでわからなかったらしい。サクヤはそれを口に含み、舐めながら言った。
「これでおかあさんも気持ちよくしてあげる。ほら、シトゥリくん」
シトゥリはうながされるままユマリの体を押し倒し、仰向けに寝転がさせる。両足を開いて腕の間に組み入れ、股間を丸出しにすると、そこへサクヤが手を伸ばした。
「いきなり、シトゥリくんのみたいに太いのは無理だから――これで」
「え? や! ああっ!?」
びく、とユマリは体を硬直させた。サクヤによってアナルへバイブが挿入されていく。
「やだちょっと、あ……あン……へ、変な感じ……」
「変な感じする? でもすぐ慣れて、気持ちよくなるのよ」
「そんな……」
「僕も入れますよ」
シトゥリは返事を待たずに、濡れている秘所へイチモツの先を向ける。敏感な場所へ亀頭が触れると、ユキが身悶えた。
「ふ、二つ? 両方なんて――」
言葉尻を待たず、シトゥリは大陰唇の襞と襞をかき分け、蜜の溢れる花の中へ分け入った。
くちゅ、と音を立てて、花弁は亀頭を飲み込んでしまう。ユマリの中は燃えるように熱い。
「……ユマリさんっ」
シトゥリはユマリの体を抱きしめながら、徐々にイチモツを埋没させていった。腰のわずかな動きにも反応して、その体は細かく震えている。
「すごっ……すごい……!」
シトゥリのモノの大きさに、ユマリはカクカクと肩を揺らして反応した。サクヤが二つの腰の後ろで言う。
「スイッチ、入れるね」
「――え? きゃあっ! あああっ……! ああン」
バイブが細かく振動し始めて、驚いたユマリは悲鳴を上げたが、その声はすぐに甘く熱いものに取って代わる。
「ぼ、僕も――いいです、中が震えて――」
「やだっ、やあ――変な、変なの」
「シトゥリくんにもしてあげる」
サクヤの唇が、シトゥリにアナルに吸い付いた。予想外の感覚に、シトゥリは焦る。
「え、さ、サクヤさ――」
ぬるっと舌がアナルの中へ入り込んできた。
なにかやわらかいナメクジのようなものに犯されているような気がして、シトゥリは背筋に快感の電撃が走る。
「うっ、うう……」
思わず腰が動いて、それがユマリの膣を締め付けさせ、さらに強い快感がイチモツからもたらされる。
「あああ、あ」
「あふ、うう……そんな、はげし、うふ、んんんっ!」
もう夢中になってシトゥリは腰を使い始めた。
ぱんぱん、と響く腰使いの音の下で、ユマリの喘ぎがベッドから床へと流れ落ちる。
激しい腰の動きにもサクヤの顔は離れず、ぴったりとアナルへ吸い付いて、シトゥリの菊門の中を舐め回していた。
アナルの中のから伝わるバイブの振動が、裏筋の敏感な性感帯を刺激して、濡れて複雑さを増した膣の蠕動が快感を加速する。
「も、だめ、ですっ」
「私もっ! おしりと前が、気持ちいいっ! すごいよっ!」
「い――イク! 出る!」
シトゥリは最後の理性でユマリの膣からイチモツを引き抜き、射精した。
アナルから顔を離したサクヤが、すばやく前へ手を回して、射精に震えるイチモツをつかんでしごき始める。
「ああ――あ、あ、ン」
白い液体が体中に飛び散り、それを絶頂の無意識の中、ユマリは手でなすりこんでいく。
二度目とは思えない濃いものが、サクヤの手を借りて搾り出されていった。
ユマリがどろどろになるくらい発射して――ようやくシトゥリは力尽きた。
さすがに全部絞りきったのか、元気だったイチモツもようやく収まる。
脱力と気だるさを同時に感じて、シトゥリは崩れ落ちるようにベッドへ転がった。
「はぁ……はぁ……」
ユマリのアナルにはまだバイブが突き刺さっている。
それを取り出す気力もない様子で、ユマリは天井をむいたまま喘いでいる。
「おつかれさま」
サクヤが言って抱きついてきた。
白くやわらかい胸に抱かれながら、シトゥリの意識はすぐ眠りに入っていった。
3
起きたら朝だった。
同じ部屋のソファで半裸のユマリがぐうぐう寝ていたのにはびっくりしたが、頭痛がひどくて昨夜の記憶が無い。サクヤに聞くと、ワインを飲まされて倒れたらしい。サクヤもその後悪酔いしたらしくて、記憶がないそうだ。
なんとなく居心地が悪くて、シトゥリはそそくさとサクヤの家を辞退した。
住宅地の路地を首をひねりながら歩いていると、黒塗りの高級車が目の前を横切っていった。スモークガラス越しに、金髪のショートカットがかいま見えた。
「シリンさん……?」
車はそのまま路地をゆっくり進んでいく。昨日、サクヤが言っていたことが、突如思い出された。シトゥリは反射的に車を追って走り出していた。
幸い、目的地は近くだったようだ。
連邦本部の裏にある山への入り口で、車は止まっていた。ドアが開いてシリンが姿を現す。そのまま、山へ続く階段を登り始めた。
(こんなところに何の用が――)
行動が不審であることは確かだ。シトゥリは十分距離をとって追跡を続ける。
山は一つの神社になっていて、入り口には鳥居が立っている。階段がそこから頂上まで続いているのだ。
山といってもなだらかな丘陵で、高さもそれほどないから女性の足でも苦ではないだろう。さっさと歩を進めるシリンを見失わないように、シトゥリは急いだ。
不思議なほどの静けさが山全体を包んでいる。
来たことはなかったが、都市の中心に位置する山だ。朝でも散歩の人影くらいありそうなものだが、人っ子一人居ないのはどこか違和感がある。おまけに、鳥の鳴き声や木々のざわめきまで、なにも無い。
シリンの後姿を眺めているうちに、シトゥリは不安になってきた。
やがて頂上にたどり着き、そこに建つ神社の境内へ足を踏み入れていく。
シトゥリは狛犬の影に身を潜めた。
シリンは神社の正面に立った。その前の扉が開く。
「今日は早いのですね」
シトゥリは息を呑んだ。
そこから現れたのは、金髪で童顔の美しい巫女――アシリアだ。真紅の和服が周囲の風景から切り取られたような違和感を持っている。
やはり、二人が会っているのは本当だった。
もう少し近づけそうだ。
シトゥリの中の、トウキが囁く。全身の気配を消し、足音から衣擦れのかすかな音まで完全に絶って、影から影へと身を移す。
「アシリアさん、私はあとどれくらい……」
「ご心配なさらず。大願を果たすまでわたくしがあなたをつなぎとめて差し上げます。さあ、こちらへ……」
アシリアが神社の中を指し示す。靴を脱いだシリンが、社の小さな床へ上がり込んだ。
突然、アシリアが着ているもの――前をあわせただけの簡単な和装――をはだけた。体とは不釣合いな巨乳が、朝日からできる陰の中、白く艶かしく零れ落ちる。
アシリアがクラからシリンに乗り換えた、と言うわけではなさそうだ。ただの情事なら覗き見するべきではないだろうが――アシリアの表情は妖しく、シリンの表情は硬い。もう少し見る必要がありそうだった。
小柄と言うよりは低身長と言った方がいいアシリアの前に、シリンは跪いた。和服の帯をしゅるしゅると解き、着物の合わせ目を完全に解ききる。
アシリアは着物の下に何も身に着けていないようだった。シリンがその股間に手を入れる。つかみ出したものを見てシトゥリは再び息を呑んだ。
(げっ……!)
アシリアの股間からは、隆々としたイチモツが生えていたのだ。
一度、まじないでシリンの股間にもイチモツを付けたことがあるくらいだから、自分にだって可能なんだろうが――それでも異様な光景だ。
シリンはそれを両手で包み込むようにして撫でながら、勃ちあがってきたモノを口に含む。
シリンの口には大きすぎるようで、うまく口の端を閉じることが出来ずに、じゅるじゅると音を立てて唾液が零れ落ちる。アシリアがシリンの髪をつかんで、ぐっと口の中へ差し入れた。うめき声を上げて、シリンは苦しそうに顔を歪める。
「さあもっと……奉仕なさい。あなたの魂を肉体へつなぐために」
(やはり……)
シトゥリの嫌な予感は当たったことになる。
ディラックによってシリンは死の淵から蘇った。シリンは生ける死者であるらしい。アシリアと会っているのはそれに関係があるのだ。
しかし――。
「んぐ、んんん……っ。ぷぁっ、はぁ……」
窒息しかけたシリンが、イチモツから口を離した。アシリアはそれを嗜虐的な目で見下ろす。
「まだまだ刺激が足りませんわ。たくさん射精してもらいたいでしょう?」
「は、はい……」
シリンはアシリアの尻に手を回して、さらにイチモツを飲み込もうと努力する。
今のアシリアはシトゥリの知るものと違っていた。これまでやさしげに笑っているところしか見たことがなかったのだ。サディスティックにシリンを見つめる眼差しは冷たい威厳に満ちている。
(そもそもなぜここにアシリアさんがいるんだ?)
八十禍津日神の巫女たるアシリアは、厳重な監視と保護の元、居場所はシトゥリたちにも知らされずどこかへ隔離されているはずだ。
「ああ――出しますよ。喉の奥まで飲み込みなさい!」
「んっ!? うぐぐぅ!」
アシリアがシリンの顔をつかんで、イチモツを奥へ入れたまま固定した。その体がビクビクと軽く震える。シリンの喉へ射精している。
シリンはアシリアの着物をつかんで苦しそうにもがいているが、出るのはうめき声だけだ。溢れた精液が唇の隙間から流れ落ち、顎を伝ってブラウスを汚した。
「げほっ! げほっ、う、ぐ……ごほっ」
イチモツが引き抜かれると、シリンは床へはいつくばって咳き込んだ。相当苦しかったのか、嘔吐しかけている。口元を押さえて息を荒げるシリンの髪を、アシリアはつかんで引き起こす。
「だめですわ……いっぱいこぼしてしまって。ちゃんと全部飲まないといけませんよ」
「――は――はい」
息も絶え絶えなまま、シリンは再び床へ顔を向け、飛び散った精液を舐め取り始める。
シトゥリは顔をしかめた。
(やりすぎだろ……アシリアさん)
なぜシリンはアシリアの仕打ちにしたがっているのだろうか。その答えは赤い衣装をはだけたアシリアが独白した。
「あなたは邪神によって殺され、スサノオによって蘇った。しかし魂は霊振(たまふ)りで戻せても、肉体はそういかない……。あなたの魂は肉体の死を感じ取り始めている。このままでは近いうちに」
「わ、わかっています。私は――2年前に死んでいた」
「でもあなたはまだ黄泉へ落ちるわけにはいかないのでしょう。ディラックの命が尽きるまでは」
「私はどうしても、あの人の戦いを見届けたい。そのために、お願いです」
「いいでしょう。わたくしの力を、生命の元である精液を通じて、あなたの中へ――」
アシリアが艶然と笑った。
その瞬間、はだけた着物の間から、無数の肌色の――男根が先端についた触手が伸びた。
(な――これは、まさか)
あやうく叫ぶところだった。いくらなんでもおかしい。
「味わってお飲みなさい……」
アシリアは触手の一つを手に取ると、びくびくと震えて先走りの汁を迸らせるそれを、床で見上げるシリンへ差し出した。
シリンは触手へ顔を近づけると、滴る汁を舌先で掬い取り、亀頭の割れ目にすぼめた唇を当てる。唇を割って舌が亀頭を舐め回している。
「ああ……そう、そう。わたくしも――」
触手が着物の裾を広げ、アシリアの秘所へ先端をこすり付ける。イチモツの生えた奥の花弁はすでに濡れていて、くちゅくちゅと淫靡な響きを広げた。
「――アシリアさん、もう……」
シリンが濡れた目でアシリアを見つめた。頬は異常に上気している。アシリアはいとおしげにその頬を撫でた。
「ふふ、そうですね」
触手がシリンに巻きついていく。
あるものはブラウスの隙間から潜り込み、あるものはチェックのスカートの中へ入り込む。手首や太ももに巻きついて、自由を奪っていく。
(う……)
そんなつもりはなかったが、シトゥリはその光景に興奮を覚えた。
黒いストッキングは破られ、そこから侵入した触手がストッキングと肌との間、薄皮一枚の下を這うようにして犯している。ブラウスの襟から飛び出した触手が、シリンの口へ突き込まれた。足を思い切り広げられて、大きく持ち上げられる。剥ぎ取られた下着が触手の中間で揺れていた。
「それでは、参りますわ」
アシリアは自らのイチモツをしごきながら、シリンの腰へ身体を密着させる。
ぐっと腰を進めると、シリンは空中で身体を仰け反らせた。
「んんんん!」
「狭くて――なんてきつい……ああっ!」
シリンの口の触手が絶頂に達し、びゅくびゅくと精液を発射し始めた。アシリアは目を閉じ、快楽に溺れた表情で腰を振り始める。
「ああっ、ああっ、ああん、ああ!」
腰を動かすたび、アシリアの口から喘ぎが漏れた。
自らの欲望を満足させるためだけの、動物的な腰遣い。
シリンの股間はあの巨大なものを飲み込んで、受け入れているのだろうか。
口に触手を突きこまれたままシリンは、唇からどろどろと精液を垂れ流しながら、喉を反らせてその攻めを受けている。
「んぐ、う、ふっ! ああああ! はあぁ、あ、イクっ!」
シリンはずいぶんな仕打ちを受けて苦痛を感じているのかと思えば、なおも射精する触手を自由になる片手で引き抜いて、そう叫んだ。
ガクガクと派手に体が痙攣する。握り締めた触手から迸る白濁したものが、顔やブラウスを汚している。
「そ、そんなにきつく締めたら――わ、わたくしもっ!」
アシリアも釣られて絶頂に達した。
触手に支えられたシリンを抱きしめ、何度も大きく腰を打ち付ける。
赤い着物がひらひらと舞った。
ずり落ちた肩口から、触手の生え際がのぞく――触手はアシリアの背中から生えているのだ。
何度も何度も、執拗なくらい腰を振って、アシリアの絶頂は終わった。
「――はあ、ああ……」
アシリアは満足そうなため息を吐くと、腰から砕けるように床へ座り込み、ようやくシリンの体を開放した。触手は潮が引くように着物の中へ吸い込まれていく。
シリンは気を失ったのか、ぐったりと動かない。しまりなく広がった股間がシトゥリの方を向いていて、スカートの間から白濁した液体がどんどん零れ落ちてくるのが見て取れる。
ぺたりと床に座ったまま、アシリアが呟いた。
「ふふ……馬鹿な子。わたくしが、わたくしであるかどうかも見抜けないようでは、現人神失格ですわ」
突如、シトゥリはそのセリフが自分に向けられたものであることを悟った。
振り向いたアシリアと目が合う。真っ赤に燃える血走った目。
「ア――アシリア、さんじゃ……ない!?」
逃げようと腰を浮かせたまま、シトゥリは硬直した。目の威力でか、焼きついたように体が動かない。
「そう……タケミカヅチの現人神よ。あなたとは合間見えたことがあるはず――宇宙(そら)で」
「あなたは……八十禍津日神――!」
本体は成層圏で、謎の分解をしたはずだ。中つ国(地上)へ渡る力が残されていなかったのではなかったのか……!
「それはあなたとの交合に失敗し、それが本体の大気圏突入と重なってしまったためにおきた不運」
アシリアの姿を模した神は、シトゥリの頭の中を読んでいる。
「禍(わざわい)転じて福となす――ですか。人はいい言葉をお持ちになっていますね。こうして潜伏し、力を吸い取って――わたくしは再び禍(まが)を起こす」
「まさか、シリンさんの……!」
「スサノオの与えた偉大なる生命の力。それはわたくしにも力を与えてくれる」
シリンは力を分け与えてもらうつもりで、実は吸い取られていたのだ。シトゥリは美しい顔を睨み返し、立ち上がった。
「僕が――あなたを止めてみせる」
禍(まが)――災禍(さいか)。
5年前の記憶が鮮やかに蘇る。
家族も親しい人も、姉のようなあの人も――奪われた出来事。
すらりと伸びた手足が、シトゥリの前から駆け去っていく。
現実のアシリアは、聖女の笑みで微笑んだ。
「あなたの憎しみは、とても美しいのですね」
「ふざ――けるなっ!」
怒りが金縛りを跳ね除けた。シトゥリは戸口から中へと走りこむ。
アシリアの体から無数の触手が伸びてきた。
走りながらそれを一寸で見切り、かわしていく。
体術はトウキの得意とする分野だ。
その知識と経験が、シトゥリに受け継がれている。
「うおおおおおおおお!」
接近して触手を片手で払い、右の拳をアシリアの腹へ、容赦なく打ち込む。
ずぶりと沈み込む、異様な感覚が右手に走った。
一瞬で全身に鳥肌が広がる。シトゥリは反射的に手を引き抜き、後ろへ飛び退っていた。
「ふふふ……ふふ……」
アシリアの腹には大穴が開いている。振り乱した髪が、顔の上半分を覆って表情が見えない。
ただ、口元は三日月の笑みを刻んで、不気味に揺れていた。
突然その体は輝きを放ち、目を覆ったシトゥリがひるんでいる間に、アシリアの姿は消えていた。
声だけが後に残った。
『もう遅いのです。禍が、災禍が始まる――!』
シトゥリは拳を握り締めたまま、後に残った赤い着物をにらみつけていた。
「きゃあー!」
悲鳴にドタバタと言う足音が付いて走る。
なにかにぶつかったのか、ガシャーンと派手な音が鳴って、その後怒声とも悲鳴ともつかぬサクヤの声が続いた。
シトゥリは隣のダイニングで椅子に座ったまま、音のするほうへ首を向けて、呆けたように口を開けていた。
ここは連邦本部に程近い住宅地にある、サクヤの実家。サクヤはここで母親と二人暮しである。
シトゥリは連邦の寮に住んでいるが、サクヤの家と程近いことがわかって、こうやって時々晩御飯をご馳走になるのだが――毎回、この調子なのだ。
母がドジなせいなんだとサクヤは言うが、おっとりしたところなどよく似ていると思う。
いや――よく似ているどころではない。
シトゥリは初めてサクヤの家に来たときのことを思い出す。
あれは八十禍津日神を撃破し、地上へ戻ってしばしの休息をとっていた頃のことだ。
ある晴れた午後、シトゥリはタケミカヅチに荷物の忘れ物が残っていたものを預かっているからと、サクヤに家までくるよう呼び出されていた。
若干緊張しつつも、わくわくしながらインターフォンを押したことを覚えている。
ドアが開いて顔を出したのは、サクヤ――によく似た、誰かだった。身長も顔つきも、それからTシャツを押し上げている豊かな胸も同じ。ただ、髪の毛にゆるくウェーブがかかっていることで違和感を感じたシトゥリは、別人であると気づいたようなものだ。
「えっと、お姉さん……ですか?」
家の中へ案内されて、シトゥリは恐る恐る訊いてみた。サクヤに姉が居ると言う話は聞いたことがない。
だが、女性はくすくす嬉しそうに笑うと、こう言った。
「そうです。サクヤの姉のユマリです」
「ちょっと!」
その時廊下の角から顔を出したのは、サクヤ本人である。
「また、人をだまして。おかあさんったら」
「お、おかあさん!?」
どかーん、ものすごい音がして、シトゥリは我に返った。キッチンから聞こえるサクヤの声は、完全に悲鳴だ。
シトゥリはふっと笑って呟く。
「詐欺だよね」
サクヤの母ユマリは、姉といっても通じるほど、歳を取っていない。十四歳で処女妊娠したと言ううそ臭い噂が本当だとしても、三十台半ばのはずである。頭の中身はもっと若い。
「シトゥリちゃん」
すごすごとキッチンからユマリが現れた。エプロンは無駄に汚れている。
「サクヤったらひどいのよ。私に料理させない気なの」
「人聞きの悪いこと言わないで! おかあさんが居ると出来る料理も出来なくなるの!」
キッチンからサクヤが叫び返してくる。
「フーンだ。シトゥリちゃんに遊んでもらうからいいもんねー」
エプロンをはずして後ろに回りこんだユマリが、手を回して抱きついてくる。胸が背中に当たって、シトゥリは焦った。
「ちょ、ちょっと」
「うふふー。私も男の子が欲しかったな。なにして遊ぼっか。大人の遊び?」
「わ、わあ」
前に回した手が、ズボンの方へ伸びてくるのを見て、シトゥリは悲鳴を上げた。
「お・か・あ・さ・ん」
目を三角にしたサクヤがおたまを振りかざしてキッチンから現れる。
「教育的指導!」
投げつけたおたまは、スコーンとユマリの額にぶつかって、シトゥリは危うく難を逃れた。大げさにのけぞったユマリは、大げさなしぐさで額を押さえる。
サクヤを指差して叫んだ。
「ドメスティック・なんとかよ!」
「……バイオレンス、でしょ。もう。お願いだから大人しくしてて」
「あ、おなべ吹いてるんじゃない?」
「え? あーっ!」
口元を押さえて大声を上げるサクヤ。シトゥリは天を仰ぐ。
でも楽しそうでいい。二人を見ていると、自然と口元が綻んでくる。
数年前に家族を失ったシトゥリは、団欒と言うものから縁遠くなってしまった。手料理をいただけると言うのもそうだが、シトゥリは団欒の温かさを感じるためにここへ来ているのだ。
阿鼻叫喚の末、なんとか晩御飯はサクヤの手によって完成したようだ。並べられた皿を見て、シトゥリはいまさらながら感心する。
「すごいですね、サクヤさん。職務だけでも忙しいのに、よく料理を覚える暇が」
「あー、それはね」
シトゥリの言葉をさえぎって、サクヤが言った。
「この人の料理があまりにあまりなものだったから、練習せざるを得なかったのよ。いい反面教師でしたしね」
ジロリと睨んだ先のユマリは、もう料理をパクついている。少しも話を聞いていない態度に、サクヤはため息をついて席に座った。シトゥリは軽く笑う。
親子と言うより、姉妹――それも姉はサクヤの方だ。
「あ、そうそう」
あらかた料理を平らげたころ、突然ユマリが立ち上がった。
「シトゥリちゃん、いいものあるから飲んでいって」
「なんですか?」
「自家製ジュースよ。おいしいんだから」
「料理は下手なのにお菓子とかジュースとか、そういうのばっかりは上手いの」
サクヤが補足する。余計なお世話、と舌を出してユマリはキッチンへ向かった。
あれー、どれだったかなーと言う声が聞こえるところをみると、相当の数があるらしい。ユマリは探すのに手間取っているようだ。
「……手伝ってきましょうか」
「いいのいいの。――それより、訊きたいことがあるんだけど」
サクヤが声を抑えて言った。表情に若干真剣なものが混じっている。
「はい」
「シトゥリくん、シリンちゃんと話したりする?」
「え――いや、そんなには」
「そう。歳が近いからと思ったんだけど、あの子ちょっと浮世離れしてるからね」
幾分サクヤは肩を落として、箸を止めた。シトゥリは怪訝に思って尋ねる。
「どうかしましたか?」
「うん……シリンちゃんの様子がおかしいのよ。どうやら、アシリアさんと会ってるみたいなの」
「アシリアさんと? クラさんじゃなくて?」
「そこがわかんないのよねー。当のクラはオフになると行方不明だし、アシリアさんも事が落ち着くまで身を隠しているはずなんだけど……」
「ディラックさんなら何か知って……あ!」
シトゥリは思いあたることがあることに気がついた。ディラックが語ったシリンの真実――生ける屍であること。
アシリアは神を裏切ったとは言え、巫女の力を失っていない。
その二つに関係があるかもしれないと気づいた瞬間、訳もなく血が引いていくのを感じた。
「どうしたの? ひょっとして何か知ってる?」
「いえ……でも、もしかしたら」
「準備できたよー。ぶどうジュース!」
キッチンから叫び声が聞こえた。グラス片手に現れたユマリを見て、サクヤが呆れる。
「戸棚のそんな奥にしまってるわけじゃないでしょ。なんでこんなに時間が」
「ふふ、それはなぜなら――私はふたをしてないビンを倒してしまったからなのです!」
頭痛を抑えるような感じで、サクヤは立ち上がった。キッチンへ向かうサクヤと入れ違いにユマリがグラスを持って入ってくる。
「さ、さ、ぐーっとやっちゃって。片付け手伝わないとサクヤに怒られる!」
「え、は、はい」
「さー一気、一気!」
味わうもなにもないな、と思いながら、シトゥリはグラスの中身を一気に飲み干した。まるで味がわからない――どころか、薬っぽい変な後味が残る。喉が熱い。まずい。
「どう?」
「……なんか、おかしな」
「ちょっとおかあさん、これシトゥリくんに飲ませ――ああ、それワインだって!」
「え、あれ、ほんとだ?」
呑気なユマリの声。
それを聞いた瞬間、ふつっと糸が切れるようにシトゥリの意識は途切れた。
2
う、うん……んぐ
シトゥリは自分のうめき声と、口から喉へかけての違和感で半ば意識を覚醒させた。
とりあえず口をふさがれて、何かを流し込まれている。首を振ってそれを振りほどくと、声が言った。
「もう、だめよ。ちゃんと飲まなきゃ」
「……え?」
薄く目を開けると、薄暗く落とした部屋の照明の中、サクヤが覗き込んでいた。どうやらベッドに寝かされているらしい。
「あ、あの」
状況がよくわからなくて、シトゥリはまごついた。察したサクヤが説明する。
「ワイン飲んで倒れちゃったの。夜も遅くなったし、今日は泊まっていって。ごめんなさいね」
「え、あ、はい……」
それでも状況が飲み込めないまま、シトゥリは生返事を返す。サクヤはベッドサイドに置いたコップを手に取った。
「はい、もう一度。酔い覚ましのお薬だからね」
そう言ってコップの中身を含み、身を寄せてきた。
シトゥリはサクヤから、口移しで薬を飲まされていたのだ。
どうしようか対応を考える暇もなく、シトゥリの唇は塞がれて、液体が流し込まれた。それを嚥下していると、舌が唇を割って侵入してくる。
「ん……」
まだアルコールが残っているのか、急に火照り始めた体が思考を奪っていく。シトゥリは舌を絡めとって、サクヤの体に手を伸ばした。
ふくよかな胸は薄い布一枚しか挟んでいなかった。さらさらとした手触りから、ネグリジェのような夜着を着ているのだと知れる。
やたらと体が熱い。
自分の思考と、体の動きが噛み合わない。
考える前に欲望のまま手が動いて、シトゥリはベッドの上にサクヤを引き寄せていた。サクヤは抵抗せず、むしろ体を寄せてくる。
「はぁ……。ごめんね。お詫びに、好きにしていいよ」
唇を離したサクヤも息を熱くさせている。シトゥリの上にのしかかる体制から、ころりと横に転がった。シトゥリはその体へ覆いかぶさる。
抱きしめると、小柄なシトゥリよりももっと小柄であることがわかる。火照ったシトゥリの熱が移ったかのように、だんだんとサクヤの体温も熱を帯びてきた。
それでようやく、自分が全裸であることに気づく。寝ている間に脱がされたのだろうか。
顔を下にずらして、夜着の上から唇で胸をまさぐる。むずがるような声をあげて、サクヤがシトゥリの頭を抱いた。
乳首を探し当てると、それを舌でころころと転がす。すぐに乳首は硬く立ち上がって、唾液を吸った布地が張り詰めた。薄布一つ隔てているのが、逆に興奮を覚え、シトゥリは熱心に両方の乳首を舐めて啜った。
「……や……ぁあ……んん……」
最初は息を荒げているだけだったサクヤも、徐々に喉の奥から喘ぎを漏らし始めた。円を描くように押さえた頭を撫で回す。
「う、うまい……よ。どうして? そんなに……」
どうして? サクヤとはベッドを共にしたことがあるし、そのとき言ったはずだ。自分はトウキとジークの経験を知っていると。
「ここが弱いのも、知ってるんですよ」
シトゥリは夜着のすそをまくりあげ、すばやく下着の中へ手を滑り込ませた。慌てて股を閉じようとする前に、手首までを股間に潜り込ませる。
すでにそこはねっとりと濡れていた。襞と襞の間に、糸を引きそうなほどの愛液が滴っている。
その愛液を軽く中指で掬い取り、股間の中央――ではなく、もっと億へ指を滑らせる。
目的の場所へ触れた瞬間、びくっとサクヤが体を硬直させた。
「そ、そこは――」
ほぐすように何度も指で入り口をこね回す。
「そこ、おしりの穴――あ……でも、なんか……変……」
確かに変だ。まるで初めて触れられるような――。
「ここが好きなんでしょ」
わざと意地悪く言いながら、ずぶりと指を埋没させる。サクヤは体を硬くさせた。
「や、だめ!」
「でも、好きにしていいって、さっき」
「言ったけど、でも……あんっ……なんで、そこ……」
語尾は弱くなって、消えるように途切れ、軽く喘ぐ息遣いが取って代わる。
「気持ちいいでしょ?」
「う、うん……あ、あそこに入れられてるような……ああ……いい、かも」
「だってサクヤさん、おしりが大好きなんですから」
「え? サクヤ?」
きょとんと問い返された。
その瞬間、シトゥリはとんでもない勘違いをしていたことに気づいた。
腕の下の顔をよく見る――ゆるくウェーブした髪。
「ままま、まさかユマリさんっ!?」
「うん」
「うんじゃなくてその!」
「あ、シトゥリくん声がしたけど、起きたの――」
今度こそ紛れもないサクヤの声が廊下からして、扉を開いた瞬間――戸口を振り向いたサクヤと目が合って、シトゥリはもう一度気絶しようかと思った。
しばらく時間が止まった後、
「な……な……」
とかすれた声でサクヤが呟く。
間違えたと言うのもなんだかおかしいと思って、なんと言おうかもごもごしていると、ユマリが代わりに説明した。
「シトゥリちゃん、サクヤと間違えたんだって。それよりこっち来なさい」
「ま、まちがえ?」
どうやらサクヤの思考回路は停止状態にあるようだ。明らかにわかっていない返事をすると、言われたとおりフラフラとベッドサイドに歩み寄ってきた。
ユマリはシトゥリの下から抜け出すと、ベッドの上に座ってえらそうに言った。
「そんなことより、あなたたちいつのまにそんな仲になってたのかしら」
「――は」
吐息ともなんともつかない声を上げて、サクヤは薄暗い照明でもわかるほど赤くなった。
「あ、あれはその――いい仲なんてもんじゃなくてね」
「ふーん。シトゥリちゃんあなたの弱点までちゃーんと知ってましたけどね~」
「……み、水ちょうだい、とにかく」
「そこ」
喉を詰まらせたようなサクヤに、ユマリはベッドサイドのコップを示した。それは酔い覚ましの薬なんじゃないだろうか、と思ったが、指摘する間もなくサクヤは手にとって飲み干していた。
「うえ、なにこれ」
飲み終わってからおかしいことに気づく。誰かと同じパターンだ。コップの横に置かれた薬袋を手に取る。
「おかあさんこれ、通販で買った怪しげな精力剤じゃない!」
「うん。元気になるかなーと思ってシトゥリちゃんに飲ませてあげたの」
「だってこれ、アルコールと一緒に摂取すると、び、び、媚薬の効果が……あっ!」
媚薬?
「そうだっけ? あ、一緒にビンの残りのワイン、乾杯しちゃったね」
「しちゃったねじゃなくて、その……なんだか、私……」
どうりで勃ちっぱなしなわけだ。シトゥリはイチモツに手をやった。体が火照っているのは、アルコールのせいじゃなかったらしい。
「うふふ。ねーサクヤ、いっしょにエッチしよ」
「きゃっ!?」
ユマリがサクヤをベッドに引きずり込む。もがくサクヤに、ユマリはシーツを被せて動きを封じた。
「ちょっと! おかあさんは飲んでないんでしょ!」
「えー、だって、口移しであげようとしたら、シトゥリちゃんうまく飲んでくれなかったから、私もいっぱい飲んじゃった」
「さ、三人ともなの……」
シーツから顔を出したサクヤが、情けない声で言う。明らかに顔は上気し始めている。
「サクヤさん……」
シーツの横から潜り込んで、サクヤの体を抱きしめる。抵抗するような素振りをみせたものの、振りだけで力はこもっていない。
サクヤもユマリと同じような、薄い夜着を着用しているようだった。素肌のぬくもりがほぼ直に感じられる。
「だ、だめよ。おかあさんが……」
「私もシトゥリちゃんにお詫びしなきゃいけないの」
「お詫びって――あ、んっ!」
シトゥリは乳首に夜着の上から吸い付いた。
不意打ちで性感帯を攻められ、サクヤは大きな声で喘いだ。慌てて口を押さえても遅い。ユマリがその顔をのぞきこんだ。
「おっぱい気持ちいいの?」
「……だ、だって今、すごく敏感に……なってて……う、ふぅん……」
「とっても色っぽいわぁ。私もしてあげる」
ユマリもサクヤの胸に顔をうずめた。シトゥリが舌で弄んでいる反対側の乳首へ唇を寄せる。
「や、やだ――ああんっ! あっ! だめ、声が――ぁ!」
二人に乳首を吸われて、相当敏感になっているらしいサクヤは声を抑えられずにあられもない喘ぎを漏らした。
「もっと気持ちよくしてあげますよ」
ユマリにしたのと同じように、下着の中へ手を差し入れる。秘所へ少し指が触れただけで、サクヤは刺激に体を震わせた。下着の横から、ユマリも手を差し入れてくる。
「あらあら、こんなに濡らしてるなんて……エッチな子に育ったのね」
「だって、だって」
「シトゥリちゃん、お仕置きよ」
シトゥリは膣の中へ指を差し入れ、ユマリはその上のクリトリスを撫で擦る。秘所の中は焼けるように熱くて、ねっとりとした濃い愛液で溢れ返っていた。
「ああー! やあっ! ……も、ダメぇ……!」
指一本入れただけなのに、ぎゅっと膣道が締めつけて、もっと刺激を欲しがっているように思える。シトゥリはかき回すように細かく指を震わせながら、指のピストン運動を繰り返した。
ユマリは溢れ出た愛液をたっぷりと塗りつけて、クリトリスへ指の腹をこすりつける。
「あっ! あんっ! あっ! ……ああっ!」
サクヤはもう喘ぎを隠そうともせず、派手に声を上げている。自然と腰もうねるように動き始めていた。
「――なか、奥の方が広がってきましたよ。イきそうなんですか?」
「や、やだやだっ! お願いイかせないで、おかあさん! 私!」
「なぁに? おかあさんに愛撫されてイっちゃうのが嫌なの? フーン」
ユマリが急に指の動きを止めてしまう。考えを察したシトゥリも、秘所から指を抜いた。
「あ……」
快楽の刺激が突然なくなって、サクヤが驚いたような声を吐く。
ユマリはサクヤを覆っていたシーツを取っ払ってしまった。
だらしなく開いた股の間では、濡れるだけ濡れた下着が染みを広げていた。
「あ……やだ……」
むずむずと腰を動かし、サクヤは自分から下着の中へ手を差し入れると、指を割れ目に沿って上下させ始めた。
もう片方の手は胸を揉みながら、若干しかめ気味の眉でシトゥリを見つめてくる。こんなサクヤはもちろん見たことがない。
「サクヤさん……やっぱり、がまんできないんでしょ?」
「うん……」
「じゃ、着てるもの全部脱いで」
素直にサクヤは着用しているもの――と言っても、ネグリジェと下着の二つを脱ぎ捨てた。その間も指は股間から離れない。
「大きく股を開いて」
「は、はずかしい……」
言いながらも、言葉に従って大きくM字に開脚する。指はくちゅくちゅと湿った音を上げて滴る液を弾いていた。
そのまま、熱心に自分を慰め始める。指の動きで形を変える襞は、別の生き物のようにパクパクと蠢いて、そのたびに中心から白くとろっとした液体を吐き出した。
サクヤは見てと言わんばかりに人差し指と薬指で大陰唇を広げ、中指で膣口からクリトリスまでを、ねっとりと執拗に愛撫しつづける。
ユマリがそれをのぞきこんだ。ユマリもいつのまにか裸になっている。
「ね、シトゥリちゃん。私たちこんなところまでそっくりよ」
サクヤの上に馬乗りになって、ユマリは自分の股間を指で広げた。暗くてあまりわからないが、似ていると言えば似ているのだろう。
そもそも、外見がこれだけそっくりだから、驚くことではない。
「おかあさんのも……」
「あン」
サクヤがもう片方の手で、ユマリの股間を触り始めた。
「もしかして、ここ感じる? ここも?」
「……うん……いい……感じる。あっ、そこ!」
シトゥリはまだ残っているサクヤの愛液を指に絡めたまま、ユマリのアナルへ手を当てた。下のサクヤが艶っぽく笑う。
「おかあさんも、おしり気持ちいいんだ。いっしょだね」
「も、もう! どこでそんなこと覚えてきたの……ああ、や! 入って――!」
指を入れると、ユマリは身悶えた。秘所からは噴き出すような勢いで愛液が分泌される。その中へサクヤが指を差し込んだ。
「後ろの穴と前の穴って、すぐ近くなんだよ。――ねぇシトゥリくん、私にも……」
サクヤが息を弾ませながらアナルへ指をねだった。
「サクヤさんには、こっち」
イチモツを握り、狙いを定める。切っ先が触れると、あぁ、とサクヤはため息を漏らした。
滴り落ちた愛液のぬめりだけで、サクヤのアナルは十分に準備ができている。アナルの入り口を亀頭でこじ開けるように開く。
自身の分泌した液体で禁断の門はゆっくりと開いていった。シトゥリは太い楔を、ずぶずぶと打ち込んでいく。
「あ、あ、あ、あ、……っ!」
サクヤは体内にぬるぬると進んでいく感覚に、詰まるような声を上げた。
半ばほど差し込んだところで、ぎゅっと締め付けられた。あまりのきつさにシトゥリは顔をしかめる。
「……おしり、いいの? 鳥肌たっちゃってる」
ユマリがサクヤの首筋を撫でながら言う。サクヤは頷こうとするが、シトゥリが奥まで貫いたため、声をあげずに体を反らした。
「――っ! 太い……っ。太いよぉ」
「大丈夫ですか?」
「うん……いい……あっ」
前後運動を開始する。滴り落ちた愛液がさらなるぬめりを与えて、潤滑もいい具合だった。広がりきった襞がこすれる、くちゃくちゃと言う音がとてもいやらしい。
「ああン……私にも」
ユマリが体を反転させる。自分の秘所をサクヤの顔に押し付けた。
「おかあさんの舐めて。ね? 私は……」
そう言って、犯されるアナルの上の花弁へ顔を寄せた。
「ああ――あっ……んんん」
ぴちゃぴちゃと花芯を舐められたサクヤは、押し付けられたユマリの秘所を夢中で舐め始める。
双子のような二人が69の体勢を取っているのは、どこか倒錯的な映像だ。シトゥリは興奮を覚えて、射精感が高まるのを感じた。
腰の動きを早めながら言う。
「サクヤさん――中に、いいですか!」
「いいよ――中。なかっ! ああっ!」
ユマリが突っ込んでかき回す指の動きが、薄皮一枚向こうで感じられる。それに亀頭を刺激されて、シトゥリは絶頂に達した。
「イきますよ! イクっ! うっ!」
思うさまアナルの中へ腰を突きいれ、射精する。直腸の中へ、白濁した欲望が思いきりぶちまけられた。
「ああーっ! 熱、い……! でてる……」
サクヤも普段から想像できないようなあられもない声をあげて、ベッドの上で悶えた。
シトゥリはその腰をつかんで、何度も何度も腰をぶつけながら、最後の一滴まで搾り出した。
頭の中が白くなるほどの快感。
出し終わってイチモツを引き抜くと、とろとろと白く泡立ったものがアナルから溢れてくる。ユマリが花弁から指を抜いて、ねとねとに濡れた指先をちろりと舐めた。扇情的な光景だ。
薬の影響のせいで、出し終わったと言うのにイチモツは全然収まらない。まだ足りないのだ。ユマリが顔を出して、勃起したままのイチモツの先を口に含んだ。
「んぐ……んっ……次、私の番だからね……」
「いっぱいしてあげます」
「うふ、うれしい」
「おかあさんにも仕返ししなきゃ……」
ユマリの体をよけて、気だるげな動作でサクヤが身を起こした。
ベッドサイドの戸棚を開け、そこから何か取り出す。イチモツから口を離し、ユマリが目を丸くした。
「あーっ。なんてもの持ってるのよ」
「だって。私だって寂しかったんだもん」
サクヤが取り出したのは、バイブ――それもアナル用の細いタイプだ。ユマリにはそこまでわからなかったらしい。サクヤはそれを口に含み、舐めながら言った。
「これでおかあさんも気持ちよくしてあげる。ほら、シトゥリくん」
シトゥリはうながされるままユマリの体を押し倒し、仰向けに寝転がさせる。両足を開いて腕の間に組み入れ、股間を丸出しにすると、そこへサクヤが手を伸ばした。
「いきなり、シトゥリくんのみたいに太いのは無理だから――これで」
「え? や! ああっ!?」
びく、とユマリは体を硬直させた。サクヤによってアナルへバイブが挿入されていく。
「やだちょっと、あ……あン……へ、変な感じ……」
「変な感じする? でもすぐ慣れて、気持ちよくなるのよ」
「そんな……」
「僕も入れますよ」
シトゥリは返事を待たずに、濡れている秘所へイチモツの先を向ける。敏感な場所へ亀頭が触れると、ユキが身悶えた。
「ふ、二つ? 両方なんて――」
言葉尻を待たず、シトゥリは大陰唇の襞と襞をかき分け、蜜の溢れる花の中へ分け入った。
くちゅ、と音を立てて、花弁は亀頭を飲み込んでしまう。ユマリの中は燃えるように熱い。
「……ユマリさんっ」
シトゥリはユマリの体を抱きしめながら、徐々にイチモツを埋没させていった。腰のわずかな動きにも反応して、その体は細かく震えている。
「すごっ……すごい……!」
シトゥリのモノの大きさに、ユマリはカクカクと肩を揺らして反応した。サクヤが二つの腰の後ろで言う。
「スイッチ、入れるね」
「――え? きゃあっ! あああっ……! ああン」
バイブが細かく振動し始めて、驚いたユマリは悲鳴を上げたが、その声はすぐに甘く熱いものに取って代わる。
「ぼ、僕も――いいです、中が震えて――」
「やだっ、やあ――変な、変なの」
「シトゥリくんにもしてあげる」
サクヤの唇が、シトゥリにアナルに吸い付いた。予想外の感覚に、シトゥリは焦る。
「え、さ、サクヤさ――」
ぬるっと舌がアナルの中へ入り込んできた。
なにかやわらかいナメクジのようなものに犯されているような気がして、シトゥリは背筋に快感の電撃が走る。
「うっ、うう……」
思わず腰が動いて、それがユマリの膣を締め付けさせ、さらに強い快感がイチモツからもたらされる。
「あああ、あ」
「あふ、うう……そんな、はげし、うふ、んんんっ!」
もう夢中になってシトゥリは腰を使い始めた。
ぱんぱん、と響く腰使いの音の下で、ユマリの喘ぎがベッドから床へと流れ落ちる。
激しい腰の動きにもサクヤの顔は離れず、ぴったりとアナルへ吸い付いて、シトゥリの菊門の中を舐め回していた。
アナルの中のから伝わるバイブの振動が、裏筋の敏感な性感帯を刺激して、濡れて複雑さを増した膣の蠕動が快感を加速する。
「も、だめ、ですっ」
「私もっ! おしりと前が、気持ちいいっ! すごいよっ!」
「い――イク! 出る!」
シトゥリは最後の理性でユマリの膣からイチモツを引き抜き、射精した。
アナルから顔を離したサクヤが、すばやく前へ手を回して、射精に震えるイチモツをつかんでしごき始める。
「ああ――あ、あ、ン」
白い液体が体中に飛び散り、それを絶頂の無意識の中、ユマリは手でなすりこんでいく。
二度目とは思えない濃いものが、サクヤの手を借りて搾り出されていった。
ユマリがどろどろになるくらい発射して――ようやくシトゥリは力尽きた。
さすがに全部絞りきったのか、元気だったイチモツもようやく収まる。
脱力と気だるさを同時に感じて、シトゥリは崩れ落ちるようにベッドへ転がった。
「はぁ……はぁ……」
ユマリのアナルにはまだバイブが突き刺さっている。
それを取り出す気力もない様子で、ユマリは天井をむいたまま喘いでいる。
「おつかれさま」
サクヤが言って抱きついてきた。
白くやわらかい胸に抱かれながら、シトゥリの意識はすぐ眠りに入っていった。
3
起きたら朝だった。
同じ部屋のソファで半裸のユマリがぐうぐう寝ていたのにはびっくりしたが、頭痛がひどくて昨夜の記憶が無い。サクヤに聞くと、ワインを飲まされて倒れたらしい。サクヤもその後悪酔いしたらしくて、記憶がないそうだ。
なんとなく居心地が悪くて、シトゥリはそそくさとサクヤの家を辞退した。
住宅地の路地を首をひねりながら歩いていると、黒塗りの高級車が目の前を横切っていった。スモークガラス越しに、金髪のショートカットがかいま見えた。
「シリンさん……?」
車はそのまま路地をゆっくり進んでいく。昨日、サクヤが言っていたことが、突如思い出された。シトゥリは反射的に車を追って走り出していた。
幸い、目的地は近くだったようだ。
連邦本部の裏にある山への入り口で、車は止まっていた。ドアが開いてシリンが姿を現す。そのまま、山へ続く階段を登り始めた。
(こんなところに何の用が――)
行動が不審であることは確かだ。シトゥリは十分距離をとって追跡を続ける。
山は一つの神社になっていて、入り口には鳥居が立っている。階段がそこから頂上まで続いているのだ。
山といってもなだらかな丘陵で、高さもそれほどないから女性の足でも苦ではないだろう。さっさと歩を進めるシリンを見失わないように、シトゥリは急いだ。
不思議なほどの静けさが山全体を包んでいる。
来たことはなかったが、都市の中心に位置する山だ。朝でも散歩の人影くらいありそうなものだが、人っ子一人居ないのはどこか違和感がある。おまけに、鳥の鳴き声や木々のざわめきまで、なにも無い。
シリンの後姿を眺めているうちに、シトゥリは不安になってきた。
やがて頂上にたどり着き、そこに建つ神社の境内へ足を踏み入れていく。
シトゥリは狛犬の影に身を潜めた。
シリンは神社の正面に立った。その前の扉が開く。
「今日は早いのですね」
シトゥリは息を呑んだ。
そこから現れたのは、金髪で童顔の美しい巫女――アシリアだ。真紅の和服が周囲の風景から切り取られたような違和感を持っている。
やはり、二人が会っているのは本当だった。
もう少し近づけそうだ。
シトゥリの中の、トウキが囁く。全身の気配を消し、足音から衣擦れのかすかな音まで完全に絶って、影から影へと身を移す。
「アシリアさん、私はあとどれくらい……」
「ご心配なさらず。大願を果たすまでわたくしがあなたをつなぎとめて差し上げます。さあ、こちらへ……」
アシリアが神社の中を指し示す。靴を脱いだシリンが、社の小さな床へ上がり込んだ。
突然、アシリアが着ているもの――前をあわせただけの簡単な和装――をはだけた。体とは不釣合いな巨乳が、朝日からできる陰の中、白く艶かしく零れ落ちる。
アシリアがクラからシリンに乗り換えた、と言うわけではなさそうだ。ただの情事なら覗き見するべきではないだろうが――アシリアの表情は妖しく、シリンの表情は硬い。もう少し見る必要がありそうだった。
小柄と言うよりは低身長と言った方がいいアシリアの前に、シリンは跪いた。和服の帯をしゅるしゅると解き、着物の合わせ目を完全に解ききる。
アシリアは着物の下に何も身に着けていないようだった。シリンがその股間に手を入れる。つかみ出したものを見てシトゥリは再び息を呑んだ。
(げっ……!)
アシリアの股間からは、隆々としたイチモツが生えていたのだ。
一度、まじないでシリンの股間にもイチモツを付けたことがあるくらいだから、自分にだって可能なんだろうが――それでも異様な光景だ。
シリンはそれを両手で包み込むようにして撫でながら、勃ちあがってきたモノを口に含む。
シリンの口には大きすぎるようで、うまく口の端を閉じることが出来ずに、じゅるじゅると音を立てて唾液が零れ落ちる。アシリアがシリンの髪をつかんで、ぐっと口の中へ差し入れた。うめき声を上げて、シリンは苦しそうに顔を歪める。
「さあもっと……奉仕なさい。あなたの魂を肉体へつなぐために」
(やはり……)
シトゥリの嫌な予感は当たったことになる。
ディラックによってシリンは死の淵から蘇った。シリンは生ける死者であるらしい。アシリアと会っているのはそれに関係があるのだ。
しかし――。
「んぐ、んんん……っ。ぷぁっ、はぁ……」
窒息しかけたシリンが、イチモツから口を離した。アシリアはそれを嗜虐的な目で見下ろす。
「まだまだ刺激が足りませんわ。たくさん射精してもらいたいでしょう?」
「は、はい……」
シリンはアシリアの尻に手を回して、さらにイチモツを飲み込もうと努力する。
今のアシリアはシトゥリの知るものと違っていた。これまでやさしげに笑っているところしか見たことがなかったのだ。サディスティックにシリンを見つめる眼差しは冷たい威厳に満ちている。
(そもそもなぜここにアシリアさんがいるんだ?)
八十禍津日神の巫女たるアシリアは、厳重な監視と保護の元、居場所はシトゥリたちにも知らされずどこかへ隔離されているはずだ。
「ああ――出しますよ。喉の奥まで飲み込みなさい!」
「んっ!? うぐぐぅ!」
アシリアがシリンの顔をつかんで、イチモツを奥へ入れたまま固定した。その体がビクビクと軽く震える。シリンの喉へ射精している。
シリンはアシリアの着物をつかんで苦しそうにもがいているが、出るのはうめき声だけだ。溢れた精液が唇の隙間から流れ落ち、顎を伝ってブラウスを汚した。
「げほっ! げほっ、う、ぐ……ごほっ」
イチモツが引き抜かれると、シリンは床へはいつくばって咳き込んだ。相当苦しかったのか、嘔吐しかけている。口元を押さえて息を荒げるシリンの髪を、アシリアはつかんで引き起こす。
「だめですわ……いっぱいこぼしてしまって。ちゃんと全部飲まないといけませんよ」
「――は――はい」
息も絶え絶えなまま、シリンは再び床へ顔を向け、飛び散った精液を舐め取り始める。
シトゥリは顔をしかめた。
(やりすぎだろ……アシリアさん)
なぜシリンはアシリアの仕打ちにしたがっているのだろうか。その答えは赤い衣装をはだけたアシリアが独白した。
「あなたは邪神によって殺され、スサノオによって蘇った。しかし魂は霊振(たまふ)りで戻せても、肉体はそういかない……。あなたの魂は肉体の死を感じ取り始めている。このままでは近いうちに」
「わ、わかっています。私は――2年前に死んでいた」
「でもあなたはまだ黄泉へ落ちるわけにはいかないのでしょう。ディラックの命が尽きるまでは」
「私はどうしても、あの人の戦いを見届けたい。そのために、お願いです」
「いいでしょう。わたくしの力を、生命の元である精液を通じて、あなたの中へ――」
アシリアが艶然と笑った。
その瞬間、はだけた着物の間から、無数の肌色の――男根が先端についた触手が伸びた。
(な――これは、まさか)
あやうく叫ぶところだった。いくらなんでもおかしい。
「味わってお飲みなさい……」
アシリアは触手の一つを手に取ると、びくびくと震えて先走りの汁を迸らせるそれを、床で見上げるシリンへ差し出した。
シリンは触手へ顔を近づけると、滴る汁を舌先で掬い取り、亀頭の割れ目にすぼめた唇を当てる。唇を割って舌が亀頭を舐め回している。
「ああ……そう、そう。わたくしも――」
触手が着物の裾を広げ、アシリアの秘所へ先端をこすり付ける。イチモツの生えた奥の花弁はすでに濡れていて、くちゅくちゅと淫靡な響きを広げた。
「――アシリアさん、もう……」
シリンが濡れた目でアシリアを見つめた。頬は異常に上気している。アシリアはいとおしげにその頬を撫でた。
「ふふ、そうですね」
触手がシリンに巻きついていく。
あるものはブラウスの隙間から潜り込み、あるものはチェックのスカートの中へ入り込む。手首や太ももに巻きついて、自由を奪っていく。
(う……)
そんなつもりはなかったが、シトゥリはその光景に興奮を覚えた。
黒いストッキングは破られ、そこから侵入した触手がストッキングと肌との間、薄皮一枚の下を這うようにして犯している。ブラウスの襟から飛び出した触手が、シリンの口へ突き込まれた。足を思い切り広げられて、大きく持ち上げられる。剥ぎ取られた下着が触手の中間で揺れていた。
「それでは、参りますわ」
アシリアは自らのイチモツをしごきながら、シリンの腰へ身体を密着させる。
ぐっと腰を進めると、シリンは空中で身体を仰け反らせた。
「んんんん!」
「狭くて――なんてきつい……ああっ!」
シリンの口の触手が絶頂に達し、びゅくびゅくと精液を発射し始めた。アシリアは目を閉じ、快楽に溺れた表情で腰を振り始める。
「ああっ、ああっ、ああん、ああ!」
腰を動かすたび、アシリアの口から喘ぎが漏れた。
自らの欲望を満足させるためだけの、動物的な腰遣い。
シリンの股間はあの巨大なものを飲み込んで、受け入れているのだろうか。
口に触手を突きこまれたままシリンは、唇からどろどろと精液を垂れ流しながら、喉を反らせてその攻めを受けている。
「んぐ、う、ふっ! ああああ! はあぁ、あ、イクっ!」
シリンはずいぶんな仕打ちを受けて苦痛を感じているのかと思えば、なおも射精する触手を自由になる片手で引き抜いて、そう叫んだ。
ガクガクと派手に体が痙攣する。握り締めた触手から迸る白濁したものが、顔やブラウスを汚している。
「そ、そんなにきつく締めたら――わ、わたくしもっ!」
アシリアも釣られて絶頂に達した。
触手に支えられたシリンを抱きしめ、何度も大きく腰を打ち付ける。
赤い着物がひらひらと舞った。
ずり落ちた肩口から、触手の生え際がのぞく――触手はアシリアの背中から生えているのだ。
何度も何度も、執拗なくらい腰を振って、アシリアの絶頂は終わった。
「――はあ、ああ……」
アシリアは満足そうなため息を吐くと、腰から砕けるように床へ座り込み、ようやくシリンの体を開放した。触手は潮が引くように着物の中へ吸い込まれていく。
シリンは気を失ったのか、ぐったりと動かない。しまりなく広がった股間がシトゥリの方を向いていて、スカートの間から白濁した液体がどんどん零れ落ちてくるのが見て取れる。
ぺたりと床に座ったまま、アシリアが呟いた。
「ふふ……馬鹿な子。わたくしが、わたくしであるかどうかも見抜けないようでは、現人神失格ですわ」
突如、シトゥリはそのセリフが自分に向けられたものであることを悟った。
振り向いたアシリアと目が合う。真っ赤に燃える血走った目。
「ア――アシリア、さんじゃ……ない!?」
逃げようと腰を浮かせたまま、シトゥリは硬直した。目の威力でか、焼きついたように体が動かない。
「そう……タケミカヅチの現人神よ。あなたとは合間見えたことがあるはず――宇宙(そら)で」
「あなたは……八十禍津日神――!」
本体は成層圏で、謎の分解をしたはずだ。中つ国(地上)へ渡る力が残されていなかったのではなかったのか……!
「それはあなたとの交合に失敗し、それが本体の大気圏突入と重なってしまったためにおきた不運」
アシリアの姿を模した神は、シトゥリの頭の中を読んでいる。
「禍(わざわい)転じて福となす――ですか。人はいい言葉をお持ちになっていますね。こうして潜伏し、力を吸い取って――わたくしは再び禍(まが)を起こす」
「まさか、シリンさんの……!」
「スサノオの与えた偉大なる生命の力。それはわたくしにも力を与えてくれる」
シリンは力を分け与えてもらうつもりで、実は吸い取られていたのだ。シトゥリは美しい顔を睨み返し、立ち上がった。
「僕が――あなたを止めてみせる」
禍(まが)――災禍(さいか)。
5年前の記憶が鮮やかに蘇る。
家族も親しい人も、姉のようなあの人も――奪われた出来事。
すらりと伸びた手足が、シトゥリの前から駆け去っていく。
現実のアシリアは、聖女の笑みで微笑んだ。
「あなたの憎しみは、とても美しいのですね」
「ふざ――けるなっ!」
怒りが金縛りを跳ね除けた。シトゥリは戸口から中へと走りこむ。
アシリアの体から無数の触手が伸びてきた。
走りながらそれを一寸で見切り、かわしていく。
体術はトウキの得意とする分野だ。
その知識と経験が、シトゥリに受け継がれている。
「うおおおおおおおお!」
接近して触手を片手で払い、右の拳をアシリアの腹へ、容赦なく打ち込む。
ずぶりと沈み込む、異様な感覚が右手に走った。
一瞬で全身に鳥肌が広がる。シトゥリは反射的に手を引き抜き、後ろへ飛び退っていた。
「ふふふ……ふふ……」
アシリアの腹には大穴が開いている。振り乱した髪が、顔の上半分を覆って表情が見えない。
ただ、口元は三日月の笑みを刻んで、不気味に揺れていた。
突然その体は輝きを放ち、目を覆ったシトゥリがひるんでいる間に、アシリアの姿は消えていた。
声だけが後に残った。
『もう遅いのです。禍が、災禍が始まる――!』
シトゥリは拳を握り締めたまま、後に残った赤い着物をにらみつけていた。
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