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アスティア外伝 past1 キリエ=ラシャ
「ふっ!」
 短く息を吐いて、キリエの体が反転した。相手の死角から十分に意表をついたはずの後ろ回し蹴りは、しかし軽々と男の腕にブロックされてしまう。男には、さらにアドバイスを飛ばす余裕すらあった。
「迷いが見えるぞ、キリエ!殺すつもりで来い!」
 殺すつもりで来い、それは男の口癖だった。稽古でも手を抜くことは、絶対に許されなかった。もし少しでも力を抜けば、鋭くそれを見抜いた男に、冗談抜きで半殺しの目に合わされてしまう。キリエはさらなる気合の声を上げて、拳を打ち出した。
 男は、キリエの師匠であり、親代わりであり、そして何より恩人だった。孤児だったキリエを引き取って惜しみない教育を与え、ここまで育てたのはこの男だった。男は道を強制しなかったが、キリエは望んで男の所属する連邦暗殺部隊へ進んだ。
そして昨日、地獄のように厳しいその訓練を全て終了し、明日付けで部隊へと配属される手はずになっていた。今日は、キリエが男と師弟として、親子として過ごす最後の日だった。
「どうした、まだ弱いぞ。部隊への配属を取り消されたいか!」
 迷いの理由は分かっていた。男の深い色の瞳は、キリエの全てを見透かすのではないかと思った。それは恐怖だった。
 男の体がふっと沈み、あっと思ったときには世界が反転して、キリエは背中から道場の畳にたたきつけられていた。衝撃でまとめていた髪がほどけ、水が撒き散らされるように銀色の輝きを広げた。
「……稽古は、終わりだ。出直して来い、今日のお前はふがいがない」
 吐き捨てるように男が言い、キリエの隣に立って、見下ろした。もう髪に白いものが混じり始める年齢だと言うのに、キリエはおろか、門下生一同1度として男に土をつけたことはない。
「ありがとう、ございました」
 荒い息の中、倒されたままの姿でキリエは言った。道着がはだけ、胸元が大きく曝け出されていた。Tシャツを身に着けてはいたが、その下には何もつけていない。流れ落ちた汗が布地を湿らせ、キリエの豊かな乳房の形から、乳輪のきわどいラインまでを露にしていた。
「服を直せ、キリエ。お前は儂のもっとも優秀な生徒の1人だが、色気が有りすぎるのが珠に瑕だ」
 複雑な表情で、男が言った。キリエはそれをじっと見つめ、静かに言った。
「……あたしを抱いてくれませんか、師匠」
 男の動きが止まった。まじまじとキリエを見つめ、言い返す。
「何を言っているんだ。儂はお前の親代わりだぞ。そんな――」
「知ってるんです、師匠。普段、あたしのことをどんな目で見ていて、何を考えているのか。だったら――いいえ、お願いです。抱いてください……」
 見詰め合ったまま、お互い身じろぎ1つしない時間が永遠に続くように思われた。その均衡を崩すと、男がキリエの傍に片膝をついた。
「……儂の方はいいとして、キリエ、お前はそれでいいのか?」
 キリエはうなずいた。
「あたし、明日から部隊勤務です。これは――決別です」
 男がうなずくと、キリエに覆いかぶさってきた。唇が重なり、キリエは自ら男の背へ手を回した。広くて、固くて、無骨な背だ。男は背中で語ると言うが、ずっと見つめてきたこの背中は、男の人生を何より雄弁に語っているように思えた。キリエと男は、徐々に激しく舌を絡めあい、邪魔な衣服を脱ぎ捨てていった。
「お前とこうしたいと、ずっと思っていたよ」
 我ながら恥ずかしい劣情だ、と男は呟き、キリエの胸に唇を這わせた。桜色の突起が吸われ、舐めまわされると、キリエは熱い息を吐いて男の頭を掻き抱いた。その右手には、きらりと光るものが握られていた。
 昨日、訓練の修了証書と共に、一枚の指令書が渡された。暗殺部隊幹部の人間が、最初の任務だ、と言った。
 師匠であり、親代わりである男の暗殺。
 キリエを育てた男は、表向きは――と言っても、裏組織なのだが――連邦の暗殺部隊の教官を務めていながら、その実は連邦を転覆させようと企むテロリストグループのボスでもあったのだ。
 キリエの右手は、毒針を握ったまま、男の首筋の上で震えていた。これを少し差し込み、針の中身を注入するだけで、任務を達成できる。幹部はキリエに、鬼になれと言った。でなければ暗殺部隊など、続けられるわけがない。秘密裏にあの男を消せるのは、お前だけなのだ。
 男がキリエの足を広げ、腰を抱きかかえるようにして挿入してきた。熱く固く、脈打ったそれの感覚に、キリエは歯を食いしばって喘ぎが漏れるのを堪えた。男のモノは歳の衰えも見せず、キリエの中を掻き回してその蜜を溢れ出させた。
 ダメだ。自分には、ダメだ。
 男がキリエの足を肩に乗せ、腰を浮かせる体勢を取り、キリエは腕を男の後ろに回すことが出来なくなった。針を手首のリストバンドに隠し、キリエは結合部が見えそうなほど体を曲げた。男のモノが、その体勢から、膣の上部をえぐるようにして動き始め、ついにキリエは耐え切れず、あられもない声を上げた。



 服を着替え、キリエは道場を通り、反対側にある玄関に向かった。道場の中では、まだ男が瞑想するように壁に向かって正座していた。何も言わず、その後ろを通りすぎようとしたとき、男が口を開いた。
「キリエ。昨日、訓練の終了式の時、渡されたものはないかね?」
 一瞬心臓が止まりそうなほど驚き、キリエは足を止めた。動揺の沈黙を、男は思考の時間と取ったようだった。
「例えば、バッヂや、肩章や、身に付けるものの類だ。お前が身に付けろと言われたものはないか?」
「それなら――」
 動揺を極力隠し、キリエはバッグの中から、肩章を取り出した。華美な装飾が施され、ずっしりと重い。訓練の終了式で、成績がもっとも良かったキリエに送られたものだった。常に身に付けておけと言われたが、趣味が悪いのでバッグの中に入れっぱなしだったのだ。
 男はそれを手に取り、じっと鋭い目を這わせたあと、言った。
「記念にこれは、儂がもらってもよいかな?お前がここを出る証に」
「はい、かまいません」
 違和感を覚えながら、キリエはうなずいた。記念などと言う言葉を、軽々と使用する男ではなかったからだ。玄関に向かい、靴を履いていると、再び道場の中から、男の声が響いた。
「な、なあ――キリエ」
 歯切れの悪い口調に、キリエは中を見ると、男は立ち上がってこちらを伺っていた。
「どうしました?」
「その、なんだ。最後に――その……父と呼んではくれまいか」
 驚いてキリエは目を見開き、そしてゆっくりと微笑すると、言った。
「さよなら、お父さん」
 初めての言葉だった。
「……ありがとう。これでもう、思い残すことはないよ」
 男も、優しい笑みで笑った。

 道場が爆発音と共に燃え上がったのは、キリエがそこを離れてすぐだった。原因は、キリエの渡した肩章だった。男は全て分かっていて、キリエの身代わりになったのだった。
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