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アスティア外伝 side1 シトゥリのその後
 ここだ。ここに間違いない。
 シトゥリは左手に持った地図を再度確認し、そしてそれをぐしゃっと握りつぶした。同時に右手でサングラスをはずし、目の前の戸口をにらみつける。
 緑深く空気爽やかな軽井沢の別荘地。その一角。
 この場所を探し当てるのに、どれだけ苦労したことか……。だが、その苦労もこれで終わる。しかも幸いなことに、今ここにいるのは彼女1人のようだ。
 シトゥリはもう一度決意を込めて深呼吸し、そして鼻をつまんで、ある人物の声色を真似、ドアを叩いた。
「アシリア様」
 中からは少年の声で返事があった。
「クラティナですか?開いておりますよ」
 なんだ。ならばさっさと押し入ればよかった。シトゥリはガチャリとドアを開け、それを後ろ手に閉めて鍵を掛けた。
「お買い物ご苦労でしたね――」
 とベッドに寝転がったまま振り返った少年が、目を丸くした。わずかに震える指先でこちらを指し示し、言う。
「ああ、あ、あなたは――」
 シトゥリは、恨み骨髄いる表情で、うっふっふ、と笑った。パラリと落ちた金髪が、頬を流れて口元に入る。
 そう、体が入れ替わったまま逃げられたシトゥリは、自分の肉体を取り戻すべく、ようやくアシリアを探し当てたのだった。
 アシリアが引きつった表情で逃げようとするのを、ベッドに飛び乗って素早く押さえつける。女の体にもずいぶん慣れてきたころだが、もう真っ平だった。シトゥリは言った。
「さあアシリアさん!観念して僕を元に戻してください!」
「い、いやですわ。わたくし、このままクラティナと結婚す――」
「却下です!!」
 想像していたことを想像していたように言われて、思わずシトゥリは怒鳴っていた。第一、休眠中のタケミカヅチが復帰するまで、シトゥリは高校へ戻らなくてはならないのだ。年齢不詳の金髪美女姿で登校し、事情を説明しようとしたが、今にもレイプされそうなギラギラした男子の視線と、お人形を見つけたようなキラキラした女子の視線に怯え、以来戻っていない。このままでは日常生活に重大な支障をきたすのだ。
「さあ、早く!」
「やです、や!」
 子供のように暴れるアシリアと揉み合っているうちに、絡み合った2人は再びベッドへ倒れこんだ。シトゥリが着ていたワンピースのフロントボタンがはずれ、白く大きな胸が露出している。上にのしかかっているアシリアが、それを見て言った。
「……ブラジャーはお付けにならないのですか?」
「つ、付け方わかりませんし、第一窮屈で――」
「この服は?」
「キリエさんとサクヤさんのお下がりを……。僕の持ってる服じゃ、サイズが全然だし」
 見ると、アシリアの顔は紅く上気していた。そもそも自分の顔なのだから、こういう表情をしているのを見るのは痒くなるような恥ずかしさがある。
「綺麗……」
 ぽやっとした表情で呟き、アシリアが片手でシトゥリの胸を揉んだ。
「ちょ、ちょっと!?」
 シトゥリは慌てて抵抗しようとするが、両手とも手首を握られて、頭の上で押さえつけられた。相手は片手一本なのに、想像以上の力強さだ。もともとシトゥリは力に自信がなかったから、そう大して抵抗は出来ないだろうと思っていたのだが、アシリアの肉体の吹けば折れるような細さのことを失念していたらしい。
「わたくしの体って……こんなに綺麗だったんですね……」
 熱心に胸を揉まれているうちに、シトゥリはそれが違和感から別の感覚へなっていくのを感じて、焦った。やめてください、と言おうとした口が、突如アシリアの唇に塞がれる。
「んん、んー」
「おとなしくなすって。わたくし、わたくし、もう……」
 唇を離し、熱い吐息とともに言ったアシリアが、シトゥリの手を握って自分の股間に当てた。それはつい最近まで自分自身の持ち物だったシトゥリがぎょっとするほど大きく、熱かった。
 びっくりしているうちに、アシリアがシトゥリのワンピースのボタンをすべてはずした。フロントのボタンをはずせば、その下は下着が小さく下半身を覆っているだけだ。ここ最近で乙女の感覚になれていたシトゥリは、恥ずかしさで思わず紅くなり、抵抗を忘れた。
「わたくしね、自分の感じるところは全部知ってるんですよ」
 のしかかってきたアシリアが、片方の乳首を吸い、もう片方を摘んで転がしながら、下着の上から股間をなぞるように撫でてくる。その絶妙な舌の使い方と指先の動きに、シトゥリの脳の中はもやがかかったようになって、体の自由が利かなくなった。いつのまにか呼吸が喘ぎに近いものになっている。
「ほら……もうこんなに濡れてきました。シトゥリさん、あなた、わたくしの体で他の方とセックスしましたか?」
 シトゥリはぶんぶんと首を横に振った。男に抱かれるなど真っ平だ。あのキリエも、女になったシトゥリをお人形扱いするだけで、前のように夜な夜な襲い掛かってくるということも無い。それはトウキのことがあったからかもしれないが――。
「じゃあ、わたくしの体に興味はありませんでしたか?触ってみたり、自慰したり」
 確かに、自慰はしたことがあった。いや、毎晩のようにしていた。シトゥリは紅くなっって黙り込んだ。男のように生理的な欲求からくるものは少なかったが、興味本位でいじっているうちに興奮し、最後までと言うのがパターンだった。それが癖になりつつある。
「……あらあら、いけない人ですね」
 アシリアがシトゥリの表情を見て、微笑んだ。
「ダメですよ、他人の体でそんなことをしては。今からわたくしの言いなりになったら、赦して差し上げますわ」
「……言いなり?」
「さあ、服を脱いで」
 あまり回らなくなった思考で、シトゥリは言われるままワンピースの袖をはずし、下着を脱いだ。アシリアも手早く全裸になっている。股間のイチモツは、不気味なほど大きく見えた。体に対して不均衡だとは思っていたが、やっぱり不釣合いなほどの容量を持っている。
「脚をお開きになって。わたくしの感じるところ、全部攻めてあげます」
 そろそろと脚を開くと、その中にアシリアが顔を埋めた。股間を舐め上げられるくすぐったいような違和感に、思わず声が出る。
「ひゃっ」
 それでも舐められ続けているうちに、だんだん顔が上気してきて、息が荒くなってくるのが分かった。もっとして欲しい、それしか考えられなくなる。知らぬ間に小さく喘ぎ声を漏らしているのに気付き、これが女の子の感覚なのか、とシトゥリは新しい発見をした気になった。
 アシリアは舌でクリトリスをゆっくり舐めながら、左手の親指を膣に挿入してきた。右手は上半身に伸ばされ、シトゥリの胸を揉んでいる。
「はぁ……あ……あぁ」
 もう甘い吐息を漏らすしかないシトゥリに、アシリアはいたずらっぽく言った。
「わたくし、こうするのが感じるんですよ」
 言い終わるや、左手の人差し指を中指を束ねて、アナルへと突き入れた。シトゥリはその感覚にびくっと背を伸ばした。男だった時分クラにやられたときには、熱いような異物感しか感じなかったアナルは、内臓を抉るような快感をシトゥリに与えていた。
「クラティナに開発されてしまって。……ほら、こういう風に中ですりあわされると、もう」
 膣の中の親指と、アナルの2本の指で、膣と腸の間の壁をぐりぐりとすり合わせる。まるで何かの生物がそのなかで蠢いている感覚に、シトゥリは大きく喘いだ。その瞬間、アシリアにクリトリスを音を立てて吸われ、シトゥリは反射的に体を硬直させてのたうった。
「――っあ!ああっ!!」
 のたうつシトゥリの体を腰の部分だけぐっと押さえつけ、アシリアはなおも熱心にクリトリスを吸い、膣とアナルを掻き回した。そのたびにシトゥリは声にならない叫びを上げ、ブリッジのように背をそらせた。
「ああ……あ!――んっ!!」
 最後の波が来た。それに打ち流されるようにシトゥリの体は震え、そしてぐったりと力を失った。
余韻に体を任せ、ただ荒い息のままに胸を上下させることしか出来ない。薄目を開けて見ると、顔を股間から離したアシリアは、ぼーっとした目でシトゥリを見つめていた。
「……可愛い……」
「――え?」
「可愛いっ、可愛い!」
 アシリアが抱きついてきて、シトゥリは目を白黒させた。なんとか離そうともがいても、それはまったく無駄な努力だった。呼びかけても、可愛い、しか返事が返ってこない。突然、股間の中に何かが侵入してきて、シトゥリは混乱してさらに強くアシリアの体を押し離そうとしたが、力いっぱい抱きすくめられていてそれも叶わなかった。レイプされる女性の気持ちはこんなものなのか、とシトゥリはまた新たな発見をしつつ、泣きそうになった。
 股間の中の異物はどうやらアシリアの、元シトゥリの男根であるらしい。まさか自分自身のモノに犯されるとは思わなかった。始めは大根かバットを突っ込まれたような異物感しか無かったが、それが動き始めるとすぐに、アシリアの肉体が覚えていた快感がシトゥリの中へ突き上げてきた。
「ああっ、はっ、ああっ!」
 なんとかこらえようとするのだが、かわいらしい喘ぎ声が口から漏れてしまう。そのことに照れて、シトゥリは真っ赤になった。中身は男でも、体が言うことを聞いてくれないのだから仕方が無い。
「気持ちいいですかっ!ねえっ」
 シトゥリの上でアシリアが前後に動きながら、訊いてきた。目が遠くを見ていて我を忘れている。おそらく頭の中には、あまり味わったことの無い男の欲望が制御不能に渦巻いて、理性を無くしているのだろう。シトゥリは首を横に振ったが、口から突いて出た言葉は逆だった。
「気持ちいい、です!うっ、ああっ」
「――ああ、感じてる、わたくしが感じてる」
 うわ言のように言いながら、アシリアが腰を進めた。
「大嫌いな男性のモノに犯されて、わたくしが感じてますわ。ああっ、もっとお仕置きしないと」
 アシリアがシトゥリの脚を抱え上げ、ぐっと奥まで挿入できる姿勢を取った。そして入ってきたモノの奥深さに、シトゥリは目を見開いて絶叫した。
「あああああああっ!あーーーーーっ!!」
 それは脳天まで快楽の杭に下から打ち抜かれたような衝撃だった。女の快感に慣れていなかったシトゥリは、それだけでもうすべてを忘れた。
「ああやあぁっ!はぁあああっーーーあぁっ!」
 意味の分からない、泣き叫ぶような嬌声をあげて、ベッドの上でもんどりうつ。それを逃げられないように肩から押さえつけて、アシリアが激しく腰を打ちつけた。
「見せて、もっと見せて!乱れて狂うわたくしを見せてっ!」
「――っ、――っ!――!!」
 途中で一時的に喉が潰れたか、シトゥリは声が出なくなった。今にも泡を吹きそうな表情で、アシリアに組み敷かれたまま、腰の動きにあわせてガクガクと痙攣のような震えを繰り返すしか出来ない。
「ああ、イきそう、ですっ!出る!」
 アシリアが唸るように叫び、シトゥリの中へどくどくと精を放った。その奔流を感じながら、シトゥリは快楽の暗闇へ意識を沈めていった。



 気付くと、時計の針が30分ほど進んでいた。気を失っていたらしい。まだ体がだるいような気がするが、起きなければという意識が先にたった。シトゥリは体を起こすと、隣に眠るアシリアの体を見て、何か違和感を覚えた。
「金髪の……女の人……」
 そこではっと自分の体に目をやる。
「も、戻ってる!」
 シーツをまくって下半身を確認する。
「ちゃんと生えてる!やったぁ!」
 その声に目を覚ましたか、アシリアが目をこすりながら寝返りをうった。
「う~ん、何時ですか?クラティナ……」
 子供のようなその仕草と、腕の下で揺れる大きな胸のギャップが、突然シトゥリの下半身に火をつけた。目を覚ます前に腕を押さえ、体の下に組み敷く。
「えっ!あ、シトゥリさん!?」
 うっふっふ、とシトゥリは笑った。焦って逃げようとするアシリアは、今度こそ逃げられない。
「よくも、わたくしをレイプしてくれましたね」
 アシリアの口調を真似て言ってみる。額に汗を浮かべたアシリアが、おろおろと言った。
「そんな、通常のセックスでは入れ替わることなんてないのに」
「知りません。とりあえず僕の男性復帰記念第一号はアシリアさんと言うことにします。この熱く火照ったモノをなんとかしてください!」
「ええっ、いやぁ~~~~~~~~~~っ!!」



「何やってんの、あの二人」
 窓から室内を覗き、買い物袋を提げたクラは呆れたように言った。中では、いやいや言っていたアシリアが、うんあんもっと、と言う風に変化している。苦笑すると、クラは背をログハウスの壁に預けた。
「アシリア様、よく笑うようになったわ。これもみんな、あの子のおかげね」
 そしてアシリアを寝取った罰に、今夜はシトゥリをいじめ抜こうと決意するのだった。
アスティア外伝 past3 アシリア
 闇の中へ閉じ込められてから、もうどれだけ経ったのか。腕は鎖のようなもので巻かれ、足は大きく開かれた状態で台座に固定されている。涙も枯れ果て、叫ぶ気力もとうに尽きた。ただ人形のような無表情で、アシリアはじっと闇を見据えていた。
『目合(まぐわ)いの儀式は終わった』
 どこかで、深い男の声が言った。アシリアはぴくりと反応すると、顔を上げた。
『死人との交合。これにて、巫女の資質が決定する。さあ、アシリアよ。八十禍津日神の御前で、お前の資質を見せるのだ』
 それだけ言うと、男の声と気配は引いていった。
 もうこれ以上、何をすると言うのだろう。全裸の体は、男たちの穢れた精液でべとべとに汚れていた。何度も何度も、入れ替わり立ち代り、大勢の男がアシリアの股間へそのイチモツを突き込み、そして精液を体や、顔や、口の中まで放っていった。それが目合いの儀式。いくらの男を受け入れられるかと言う、これから巫女となるものへ課された儀式だった。
 男たちの中には、アシリアが親しくしていた人物も居た。兄のように慕っていた者も居た。そう言う者たちに限ってこう言った。
「君を犯したいと思っていた」
「君を抱けるなんて夢みたいだ」
「許してくれ。でも仕方ないんだ」
 許すものか。男なんて、絶対に許さない。巫女が声を発することは出来なかった。喉の奥で噛み締めた言葉は、それそのものが凶器のようにアシリアの心の中へ沈んで行き、そしてそこを深く傷つけた。
 男の身体も、心も、大嫌い。涙を流しながら、アシリアは呪詛のようにそれを繰り返した。
『ぉぉぉぉぉ……』
 遠くで風が唸るような音が響き、アシリアは再び恐怖と緊張に身体を強張らせた。揺らめくような光が近づいてくる。それが足元までたどり着いたとき、アシリアは絶句して、息を呑んだ。もし声を出すことが出来たら、この後絶叫していたであろう。
 蝋燭の燭台を手に持った者を先頭に、ずらりと並んだ人影が、アシリアを固定した台座を取り囲んでいく。その姿は、あるものは青白く陰気なだけで、あるものは人と呼べるほどの形を保っておらず、またあるものはぐずぐずに腐った皮膚から、液体を垂れ流していた。
 死人。黄泉の国の住人。アシリアの限界まで見開かれた目は、その死人たちの下半身に向けられて、さらに恐怖の色を濃くした。男の機能を示すそれは、どの死人のものも己が欲望を示して、ぎらぎらと勃ちあがっていたからだ。
 合図があったのかどうかは分からない。死人たちはいっせいにアシリアへとなだれ込んだ。無駄と十二分にわかっていても、逃れようとせずにはいられない。その股間と口へ、固く猛った死人のイチモツが挿入された。あまりのおぞましさに気を失いそうになり、アシリアは枯れたと思った涙を流して耐えた。
 気を失えば、もう正気へ返ることは無い。狂気と混沌の渦は、もうすぐ真下まで来ていた。嘔吐感がこみ上げたが、断食と禊によって体内を清められていたアシリアは、胃液も出なかった。アシリアの頬を掴み、口の中へイチモツを出入りさせている死人の皮膚が、ずるりと剥けた。イチモツだけが若々しく張りを保っているのが、逆に不気味だった。
 やがて口の中のイチモツが痙攣して、死人は後ろざまに倒れた。絶頂を迎えたらしい。死人が正の証を射出することがなかったのが、ただひとつの救いだった。
 股間を犯していた死人も、細かく震えるとくず折れ、異物感しか与えなかったイチモツが抜けた。また次々と、今度は死人に犯されるのだろう。絶望と諦観が心の大半を占めている。アシリアは目を閉じた。こうすれば何も見ず、何も知らずに済むような気がした。
 だがその次はいつまで経ってもやってこなかった。目を開け、周りを見回すと、あれだけ居た死人たちの姿は、闇の中へ消えていた。地面に突き立てられた燭台の蝋燭だけが、空虚に辺りを照らしている。
 突如、その闇の中に、壁のようなものが現れた。それは複数の頭や腕や足が絡み合った、人肉の壁だった。死人たちが結合したのだ。一体何が起きるのか、呆然としたアシリアは、その肉壁が台座をぐるりと取り囲んだのを見て、おののいた。
 肉壁の一部が盛り上がり、やがてそれは男のイチモツを形どった。その1つを皮切りに、次々と壁からイチモツが生えてくる。潜在的な恐怖がアシリアの心を掻き回した。出ない声を引き絞るように、大きな口を開けたアシリアに、肉壁が、イチモツが倒れ掛かった。
 イチモツはアシリアの身体を貫いた。腕や、腹や、胸や、顔や、頭や、太腿や、ふくらはぎや、ありとあらゆるところにそれは埋没した。物理的ではなく、呪的なものであったのだろう、やがて交合の動きを示し、アシリアのそれぞれの部位で、上下に動き始める。その瞬間、儀式が始まって初めて感じる快感が、それも爆発的にアシリアを襲った。
 イチモツを突き入れられた部分が、全て膣のような性感帯となって、アシリアを狂わせた。全身が感じる。その感覚に、手足はおろか指先まで硬直して動かせなくなった。本来その役目を演じるはずの秘所は、何も入れられていないのに、滝のような蜜を流し始めた。
 狂う、と真剣にアシリアは思った。その脳天にもイチモツは突き入れられている。死人に犯されて、快感のあまり狂ってしまう。もうすぐそこまでその狂気は来ていた。白濁した脳の中、それに手を伸ばせばすぐに楽になることは分かっていた。だがアシリアは、それを否定した。生きる理由もなかったが、無茶苦茶にされて、壊されて死ぬのだけは嫌だった。
 だが、抑え切れない死の狂気は、抗いようもなくアシリアを襲おうとした。
 その瞬間、すべてを薙ぎ払うような声が、脳裏に響いた。
――あなにやし、えをとめを
アシリアは、白く塗りつぶされた空間に浮かんでいた。死人も、自分を縛り付けていた鎖も無い。その空間を、ただ浮かんで流れて、それだけなのに、今まで受けた穢れが全て洗い流されていくような気がした。
――いましのなはなんぞ
声が、再び言った。アシリアは答えた。
――アシリア、と申します。
――アシリア
――アシリア……
心の中に、何者かが降り立ったのが分かった。それは神、八十禍津日神だろうか。この瞬間よりアシリアは神に選ばれ、現人神として、巫女として生きることになったのだった。
目を開けると、神殿の天井が見えた。戒めは自然に解けていた。アシリアは立ち上がり、神殿に備え付けられた通信機に向かって言った。
「儀式は終わりました」
 冷たく深く、それは無機質な煌きを帯びて、通信機へ吸い込まれていった。
アスティア外伝 past2 トウキ=ラシャ
 ぼんやりと揺れる天井のライトを見上げ、トウキはそのライトのようにぼんやりと考えていた。
 今年で18歳。来年は19歳。育ての親であり、武術の師匠である男の好意で通わせてもらっている高校も、今年で卒業だ。今後の身の振りは自分で考えろと言われていた。と言っても考えられる道は二つ、連邦の暗殺部隊の訓練に入るか、合格した連邦短大へ進むか。
「……お兄ちゃん、また悩んでるんでしょ」
 ベッドに寝転がったまま部屋の戸口を見ると、バスタオルを体に巻いたキリエが、こちらを見ていた。トウキは言った。
「お兄ちゃんってゆーな」
「いいじゃない。似たようなもんなんだから」
 くすくす笑いながら部屋に入ってきたキリエが、ベッドの片隅へ上ってくる。キリエも今年で15歳。その割には発育の良すぎる体が、艶かしく揺れた。血の繋がりはいとこの関係でも、孤児院で居たころからキリエはトウキのことをお兄ちゃんと呼んでいたし、トウキも妹と思っていた。
 それが、こんな関係になったのは、いつからだろう。
「ねぇ……」
 トウキの横に寝転がったキリエが、甘えるような鼻にかかった声を出して、首筋に顔を押し付けた。トウキは体をそちらへ向けると、その唇にキスをする。嬉しそうな、くすぐったそうな表情をして、キリエが身をすくませた。こういう顔を見ていると、もう自分を悩ませている雑多なことなど、どうでもよく思えてくる。これがたぶん、自分の限界なんだろうと、トウキはトウキなりに思っていた。
「愛しているよ、キリエ」
 それが問題だった。正直、短大へ行くか、暗殺部隊へ入るかは、この問題の二の次だった。暗殺部隊へ行けばこのままここへ残り、キリエとの関係もずっとこのままだろう。短大へ行けば寮に入ることになる。おそらく卒業してすぐ戦闘配備につくから、キリエと会うこともほぼなくなる。
「あたしもよ、トウキ」
 それは本当なのだろうか。ただ、お互いの欠けたところを補い合う行為を、愛と勘違いしているだけではないのだろうか。キリエがバスタオルを払いのけ、全裸の足を絡ませてきた。爽やかな石鹸の香りと、甘いキリエ自身の体臭が、トウキの脳を使い物にならなくしていく。
 愛している。少なくとも、この瞬間だけは。この気持ちは本物だ。
 そう信じ込ませ、トウキはキリエを抱きしめると、もう一度キスをした。ついこの前まで少女の固さを残していた身体は、もう十分に大人のラインと柔らかさを身に着けていた。乳房をこね回すように揉むと、キリエは重ねられた唇の下から、熱い吐息を漏らした。トウキは身体を起こすと、言った。
「……まったく、師匠にばれたらどうするんだ」
「だってぇ……」
 すでにキリエの目はうっとりと半開きになっている。少しキリエには多淫症の気があるんじゃないかと、トウキは最近考えていた。3日と空けずにやってきては、こういう風にトウキを求めてくる。その理由はがまんできないかららしいが、正直ちょっと将来を危ぶまずにはいられない。
「ね、トウキのもちょうだい」
 キリエは言うと、身体を反転させてトウキの股間に顔を当てた。寝巻きのジャージをずらし、猛っているモノを愛しそうに撫で回す。トウキは股間から熱いものがこみ上げて、大きく息をつくと身体をベッドに預けた。
キリエもトウキも、お互いがお互いの急所を知り尽くしていた。キリエがイチモツを口に含み、吸い上げながら大きくグラインドさせる。相手に快楽を与えるためだけの動き。トウキは欲望を抑えきれず、目の前に開かれたキリエの股の間に顔を埋め、その花弁を舐め上げた。
クリトリスに少し歯を当てるようにしながら転がしていくと、堪らなくなったキリエがトウキのモノに奉仕することも忘れて、口に含んだまま息を荒げる。思い出したようにまた吸い上げるが、トウキが蜜壺に指を入れると、その動きは止まってしまった。
「あ、やぁ、ダメ……」
 やがて急に背を反らしたキリエが、大きく呼吸しながら短く言った。絶頂が近いようだ。トウキは指と舌の動きを早め、それから逃げるように動く腰をしっかりと抱きすくめた。キリエの動きが痙攣に近いものになってくる。
「ああ、あ!ぐっ、う、うう……!」
 声を出さないようにシーツを噛み締めたキリエが、絶頂の衝撃に身体を震わせた。どろっと濃い蜜が掻き回された蜜壺の中から溢れ、滴っていく。トウキは身体を起こすと、すぐにキリエに覆いかぶさった。勘で腰の位置を定め、キリエの中へ挿入していく。
「え、あ、やぁ……」
 絶頂を迎えた直後だと言うのに挿入され、キリエの身体がびくっと跳ねた。やめて、と言いたげに手でトウキの身体を押し戻そうとするが、その力は拒否には程遠く弱い。腰を突き入れると、キリエは大声を上げそうになって、慌ててシーツを口元へ当てた。
「声、出さないようにな」
「あ」
 思い出したようにキリエがシーツを口元からどけた。動きを止めたトウキに、にっこり笑う。
「忘れてた。今日師匠、出張で帰ってこないんだって」
「……本当に?」
「うん。だから2人っきりだよ」
 いたずらっぽく笑う瞳に、トウキは苦笑を向けた。
「じゃあ思いっきり声だしちゃうか」
 言うと、トウキは奥まで届くようにイチモツを叩きつけた。キリエがその感覚に耐えかね、トウキに抱きつく。
「あはっ、あっ、嬉しい……!」
 足を上げさせ、それをトウキは肩に乗せた。こうすると腰を動かすたびに一番奥まで届く上、キリエの弱い膣上部のGスポットにも刺激を与えることが出来る。案の定、すぐキリエは甘い嬌声を上げ、再度の絶頂を迎えた。
「ああ、ああ、イク、イ……っ!!」
 ぎゅっと膣が絞られ、思わず達しそうになったトウキは動きを止め、それが落ち着くのを待った。そのせいで、キリエは十分に絶頂の感覚を味わうことができなかったらしい。ひくひくと膣が痙攣しているのが分かる。もどかしそうにトウキを見上げ、言った。
「もっとぉ……お兄ちゃん……」
「だから、お兄ちゃんってゆーなと」
 トウキは再び苦笑した。キリエが靄のかかった表情のまま、笑った。
「いいじゃない。2人っきりの時はそう呼ばせてよ……」
 お兄ちゃん。何故かトウキには、その言葉に潜在的な拒否感があった。それは最近――キリエと身体を重ねるようになってから感じ始めたこと。特にこういう時に呼ばれるのは、ふと冷静な自分に返ってしまうような、どこか仄かな悲しみと違和感があった。
 背徳感からそう感じるのかと思ったが、トウキにそんな思いは無い。キリエにも無いだろう。むしろキリエは、積極的にトウキを兄と呼ぶことで、なんらかの満足を得ているようだった。ふと気になり、トウキは訊いた。
「なあ、なんでお前はおれのことを、お兄ちゃんって呼ぶんだ?」
「え?昔っから呼んでるじゃない」
「そうじゃなくて……いや、いい」
 何を訊きたいか、訊いてどうするのか分からなくなって、トウキは首を振った。キリエは何気ない調子で答えた。
「トウキにはお兄ちゃんになってもらいたいの。家族も誰も居なくって、肉親なんてトウキだけなんだから。だってそうでしょ?」
 そうか。トウキは愕然として考え込んだ。どうしてこれに気付かなかったんだ。自分も、キリエも同じだった。ただ、捕らえ方が違っただけだ。キリエは肉親としてのトウキを求め、トウキは女性としてのキリエを求めていた。2人とも、己に足りない家族と言う概念を補うために、快楽を貪っていたのではないか。
 トウキはキリエの目を見つめた。急に真剣になったトウキの表情に、少し驚いているようだった。何か気に障ることでも言ったのかと思っているに違いない。
「……どうしたの?」
 トウキは首を振った。
「なんでもない。それより、続き続き」
「あン」
 これで、最後だ。トウキはその決心を胸に、きつくキリエを抱きしめた。連邦短大へ行こう。もうキリエを使って、自分の傷を埋めるのは終わりだ。だから、最後の一夜は、存分に、心行くまで――。
 キリエの嬌声は、部屋から溢れて廊下まで聞こえ、それは深夜になっても続いていた。



「トウキ=ラシャ君」
 短大への入学願書を提出したトウキに、何者かが声をかけた。どこか通常人とは違うその雰囲気に、トウキは身体に力を送りつつ、振り返った。
「君に少し話がある。私はこういうものだ。警戒しないでくれたまえ」
 振り返った先に居た黒服に黒帽子をかぶったあからさまに怪しい人物は、そう言って胸ポケットから名刺を取り出した。受け取り、それに目を走らせて、トウキは驚いた。
「連邦……評議会?そのエージェントが、おれに何の用ですか」
「来てくれるかね?」
 どことなく、予感のようなものがあった。トウキは話だけなら、とうなずいた。男もうなずき返し、近くに止まった黒いリムジンを指し示した。
「正確には、連邦評議会最高会議室からの勅命だ。……と言っても、一般の人間には最高会議室の存在も知らんがね。さあ、乗りたまえ」
「……気が変わりました。おれに何の用か、はっきり教えてください」
 立ち止まったトウキに、男が顔を近付けた。ぎらりと光る深い瞳は、やり手エージェントのものだ。男は聞こえるか聞こえないかの声でささやいた。
「タケミカヅチ・プロジェクトに君の力が必要なのだ。君は、君の中には――」
「――なんです、か」
「続きを聞きたければ、さあ、乗るがいい」
 男はにやりと笑うと、開けられたドアを示した。トウキはしばしの逡巡ののち、足を向けた。悲しみのぜんまいは、この瞬間から巻かれ始めた。
アスティア外伝 past1 キリエ=ラシャ
「ふっ!」
 短く息を吐いて、キリエの体が反転した。相手の死角から十分に意表をついたはずの後ろ回し蹴りは、しかし軽々と男の腕にブロックされてしまう。男には、さらにアドバイスを飛ばす余裕すらあった。
「迷いが見えるぞ、キリエ!殺すつもりで来い!」
 殺すつもりで来い、それは男の口癖だった。稽古でも手を抜くことは、絶対に許されなかった。もし少しでも力を抜けば、鋭くそれを見抜いた男に、冗談抜きで半殺しの目に合わされてしまう。キリエはさらなる気合の声を上げて、拳を打ち出した。
 男は、キリエの師匠であり、親代わりであり、そして何より恩人だった。孤児だったキリエを引き取って惜しみない教育を与え、ここまで育てたのはこの男だった。男は道を強制しなかったが、キリエは望んで男の所属する連邦暗殺部隊へ進んだ。
そして昨日、地獄のように厳しいその訓練を全て終了し、明日付けで部隊へと配属される手はずになっていた。今日は、キリエが男と師弟として、親子として過ごす最後の日だった。
「どうした、まだ弱いぞ。部隊への配属を取り消されたいか!」
 迷いの理由は分かっていた。男の深い色の瞳は、キリエの全てを見透かすのではないかと思った。それは恐怖だった。
 男の体がふっと沈み、あっと思ったときには世界が反転して、キリエは背中から道場の畳にたたきつけられていた。衝撃でまとめていた髪がほどけ、水が撒き散らされるように銀色の輝きを広げた。
「……稽古は、終わりだ。出直して来い、今日のお前はふがいがない」
 吐き捨てるように男が言い、キリエの隣に立って、見下ろした。もう髪に白いものが混じり始める年齢だと言うのに、キリエはおろか、門下生一同1度として男に土をつけたことはない。
「ありがとう、ございました」
 荒い息の中、倒されたままの姿でキリエは言った。道着がはだけ、胸元が大きく曝け出されていた。Tシャツを身に着けてはいたが、その下には何もつけていない。流れ落ちた汗が布地を湿らせ、キリエの豊かな乳房の形から、乳輪のきわどいラインまでを露にしていた。
「服を直せ、キリエ。お前は儂のもっとも優秀な生徒の1人だが、色気が有りすぎるのが珠に瑕だ」
 複雑な表情で、男が言った。キリエはそれをじっと見つめ、静かに言った。
「……あたしを抱いてくれませんか、師匠」
 男の動きが止まった。まじまじとキリエを見つめ、言い返す。
「何を言っているんだ。儂はお前の親代わりだぞ。そんな――」
「知ってるんです、師匠。普段、あたしのことをどんな目で見ていて、何を考えているのか。だったら――いいえ、お願いです。抱いてください……」
 見詰め合ったまま、お互い身じろぎ1つしない時間が永遠に続くように思われた。その均衡を崩すと、男がキリエの傍に片膝をついた。
「……儂の方はいいとして、キリエ、お前はそれでいいのか?」
 キリエはうなずいた。
「あたし、明日から部隊勤務です。これは――決別です」
 男がうなずくと、キリエに覆いかぶさってきた。唇が重なり、キリエは自ら男の背へ手を回した。広くて、固くて、無骨な背だ。男は背中で語ると言うが、ずっと見つめてきたこの背中は、男の人生を何より雄弁に語っているように思えた。キリエと男は、徐々に激しく舌を絡めあい、邪魔な衣服を脱ぎ捨てていった。
「お前とこうしたいと、ずっと思っていたよ」
 我ながら恥ずかしい劣情だ、と男は呟き、キリエの胸に唇を這わせた。桜色の突起が吸われ、舐めまわされると、キリエは熱い息を吐いて男の頭を掻き抱いた。その右手には、きらりと光るものが握られていた。
 昨日、訓練の修了証書と共に、一枚の指令書が渡された。暗殺部隊幹部の人間が、最初の任務だ、と言った。
 師匠であり、親代わりである男の暗殺。
 キリエを育てた男は、表向きは――と言っても、裏組織なのだが――連邦の暗殺部隊の教官を務めていながら、その実は連邦を転覆させようと企むテロリストグループのボスでもあったのだ。
 キリエの右手は、毒針を握ったまま、男の首筋の上で震えていた。これを少し差し込み、針の中身を注入するだけで、任務を達成できる。幹部はキリエに、鬼になれと言った。でなければ暗殺部隊など、続けられるわけがない。秘密裏にあの男を消せるのは、お前だけなのだ。
 男がキリエの足を広げ、腰を抱きかかえるようにして挿入してきた。熱く固く、脈打ったそれの感覚に、キリエは歯を食いしばって喘ぎが漏れるのを堪えた。男のモノは歳の衰えも見せず、キリエの中を掻き回してその蜜を溢れ出させた。
 ダメだ。自分には、ダメだ。
 男がキリエの足を肩に乗せ、腰を浮かせる体勢を取り、キリエは腕を男の後ろに回すことが出来なくなった。針を手首のリストバンドに隠し、キリエは結合部が見えそうなほど体を曲げた。男のモノが、その体勢から、膣の上部をえぐるようにして動き始め、ついにキリエは耐え切れず、あられもない声を上げた。



 服を着替え、キリエは道場を通り、反対側にある玄関に向かった。道場の中では、まだ男が瞑想するように壁に向かって正座していた。何も言わず、その後ろを通りすぎようとしたとき、男が口を開いた。
「キリエ。昨日、訓練の終了式の時、渡されたものはないかね?」
 一瞬心臓が止まりそうなほど驚き、キリエは足を止めた。動揺の沈黙を、男は思考の時間と取ったようだった。
「例えば、バッヂや、肩章や、身に付けるものの類だ。お前が身に付けろと言われたものはないか?」
「それなら――」
 動揺を極力隠し、キリエはバッグの中から、肩章を取り出した。華美な装飾が施され、ずっしりと重い。訓練の終了式で、成績がもっとも良かったキリエに送られたものだった。常に身に付けておけと言われたが、趣味が悪いのでバッグの中に入れっぱなしだったのだ。
 男はそれを手に取り、じっと鋭い目を這わせたあと、言った。
「記念にこれは、儂がもらってもよいかな?お前がここを出る証に」
「はい、かまいません」
 違和感を覚えながら、キリエはうなずいた。記念などと言う言葉を、軽々と使用する男ではなかったからだ。玄関に向かい、靴を履いていると、再び道場の中から、男の声が響いた。
「な、なあ――キリエ」
 歯切れの悪い口調に、キリエは中を見ると、男は立ち上がってこちらを伺っていた。
「どうしました?」
「その、なんだ。最後に――その……父と呼んではくれまいか」
 驚いてキリエは目を見開き、そしてゆっくりと微笑すると、言った。
「さよなら、お父さん」
 初めての言葉だった。
「……ありがとう。これでもう、思い残すことはないよ」
 男も、優しい笑みで笑った。

 道場が爆発音と共に燃え上がったのは、キリエがそこを離れてすぐだった。原因は、キリエの渡した肩章だった。男は全て分かっていて、キリエの身代わりになったのだった。
アスティア 外伝・ゲームブック他


*ここはもくじページです。

Past Story(第一部以前のお話)
■ Past1. キリエ=ラシャ
■ Past2. トウキ=ラシャ
■ Past3. アシリア

Side Story(第一部終了後~第二部のお話)
■ Side1. シトゥリのその後

WEBゲームブック(第一部終了後~第二部のお話)
■アシリア・ドール
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