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アスティア外伝 past3 アシリア
 闇の中へ閉じ込められてから、もうどれだけ経ったのか。腕は鎖のようなもので巻かれ、足は大きく開かれた状態で台座に固定されている。涙も枯れ果て、叫ぶ気力もとうに尽きた。ただ人形のような無表情で、アシリアはじっと闇を見据えていた。
『目合(まぐわ)いの儀式は終わった』
 どこかで、深い男の声が言った。アシリアはぴくりと反応すると、顔を上げた。
『死人との交合。これにて、巫女の資質が決定する。さあ、アシリアよ。八十禍津日神の御前で、お前の資質を見せるのだ』
 それだけ言うと、男の声と気配は引いていった。
 もうこれ以上、何をすると言うのだろう。全裸の体は、男たちの穢れた精液でべとべとに汚れていた。何度も何度も、入れ替わり立ち代り、大勢の男がアシリアの股間へそのイチモツを突き込み、そして精液を体や、顔や、口の中まで放っていった。それが目合いの儀式。いくらの男を受け入れられるかと言う、これから巫女となるものへ課された儀式だった。
 男たちの中には、アシリアが親しくしていた人物も居た。兄のように慕っていた者も居た。そう言う者たちに限ってこう言った。
「君を犯したいと思っていた」
「君を抱けるなんて夢みたいだ」
「許してくれ。でも仕方ないんだ」
 許すものか。男なんて、絶対に許さない。巫女が声を発することは出来なかった。喉の奥で噛み締めた言葉は、それそのものが凶器のようにアシリアの心の中へ沈んで行き、そしてそこを深く傷つけた。
 男の身体も、心も、大嫌い。涙を流しながら、アシリアは呪詛のようにそれを繰り返した。
『ぉぉぉぉぉ……』
 遠くで風が唸るような音が響き、アシリアは再び恐怖と緊張に身体を強張らせた。揺らめくような光が近づいてくる。それが足元までたどり着いたとき、アシリアは絶句して、息を呑んだ。もし声を出すことが出来たら、この後絶叫していたであろう。
 蝋燭の燭台を手に持った者を先頭に、ずらりと並んだ人影が、アシリアを固定した台座を取り囲んでいく。その姿は、あるものは青白く陰気なだけで、あるものは人と呼べるほどの形を保っておらず、またあるものはぐずぐずに腐った皮膚から、液体を垂れ流していた。
 死人。黄泉の国の住人。アシリアの限界まで見開かれた目は、その死人たちの下半身に向けられて、さらに恐怖の色を濃くした。男の機能を示すそれは、どの死人のものも己が欲望を示して、ぎらぎらと勃ちあがっていたからだ。
 合図があったのかどうかは分からない。死人たちはいっせいにアシリアへとなだれ込んだ。無駄と十二分にわかっていても、逃れようとせずにはいられない。その股間と口へ、固く猛った死人のイチモツが挿入された。あまりのおぞましさに気を失いそうになり、アシリアは枯れたと思った涙を流して耐えた。
 気を失えば、もう正気へ返ることは無い。狂気と混沌の渦は、もうすぐ真下まで来ていた。嘔吐感がこみ上げたが、断食と禊によって体内を清められていたアシリアは、胃液も出なかった。アシリアの頬を掴み、口の中へイチモツを出入りさせている死人の皮膚が、ずるりと剥けた。イチモツだけが若々しく張りを保っているのが、逆に不気味だった。
 やがて口の中のイチモツが痙攣して、死人は後ろざまに倒れた。絶頂を迎えたらしい。死人が正の証を射出することがなかったのが、ただひとつの救いだった。
 股間を犯していた死人も、細かく震えるとくず折れ、異物感しか与えなかったイチモツが抜けた。また次々と、今度は死人に犯されるのだろう。絶望と諦観が心の大半を占めている。アシリアは目を閉じた。こうすれば何も見ず、何も知らずに済むような気がした。
 だがその次はいつまで経ってもやってこなかった。目を開け、周りを見回すと、あれだけ居た死人たちの姿は、闇の中へ消えていた。地面に突き立てられた燭台の蝋燭だけが、空虚に辺りを照らしている。
 突如、その闇の中に、壁のようなものが現れた。それは複数の頭や腕や足が絡み合った、人肉の壁だった。死人たちが結合したのだ。一体何が起きるのか、呆然としたアシリアは、その肉壁が台座をぐるりと取り囲んだのを見て、おののいた。
 肉壁の一部が盛り上がり、やがてそれは男のイチモツを形どった。その1つを皮切りに、次々と壁からイチモツが生えてくる。潜在的な恐怖がアシリアの心を掻き回した。出ない声を引き絞るように、大きな口を開けたアシリアに、肉壁が、イチモツが倒れ掛かった。
 イチモツはアシリアの身体を貫いた。腕や、腹や、胸や、顔や、頭や、太腿や、ふくらはぎや、ありとあらゆるところにそれは埋没した。物理的ではなく、呪的なものであったのだろう、やがて交合の動きを示し、アシリアのそれぞれの部位で、上下に動き始める。その瞬間、儀式が始まって初めて感じる快感が、それも爆発的にアシリアを襲った。
 イチモツを突き入れられた部分が、全て膣のような性感帯となって、アシリアを狂わせた。全身が感じる。その感覚に、手足はおろか指先まで硬直して動かせなくなった。本来その役目を演じるはずの秘所は、何も入れられていないのに、滝のような蜜を流し始めた。
 狂う、と真剣にアシリアは思った。その脳天にもイチモツは突き入れられている。死人に犯されて、快感のあまり狂ってしまう。もうすぐそこまでその狂気は来ていた。白濁した脳の中、それに手を伸ばせばすぐに楽になることは分かっていた。だがアシリアは、それを否定した。生きる理由もなかったが、無茶苦茶にされて、壊されて死ぬのだけは嫌だった。
 だが、抑え切れない死の狂気は、抗いようもなくアシリアを襲おうとした。
 その瞬間、すべてを薙ぎ払うような声が、脳裏に響いた。
――あなにやし、えをとめを
アシリアは、白く塗りつぶされた空間に浮かんでいた。死人も、自分を縛り付けていた鎖も無い。その空間を、ただ浮かんで流れて、それだけなのに、今まで受けた穢れが全て洗い流されていくような気がした。
――いましのなはなんぞ
声が、再び言った。アシリアは答えた。
――アシリア、と申します。
――アシリア
――アシリア……
心の中に、何者かが降り立ったのが分かった。それは神、八十禍津日神だろうか。この瞬間よりアシリアは神に選ばれ、現人神として、巫女として生きることになったのだった。
目を開けると、神殿の天井が見えた。戒めは自然に解けていた。アシリアは立ち上がり、神殿に備え付けられた通信機に向かって言った。
「儀式は終わりました」
 冷たく深く、それは無機質な煌きを帯びて、通信機へ吸い込まれていった。
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