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其の二 ケイフ
 なにもかもが真っ白く塗りつぶされた場所。
 なにもないところ。無の世界。
 つないだ手を引く。
 つながれた赤い紐をたどる。
 小径が閉じる前に。色をなくす前に。
 それは世界の出口。帰るところ。
 あるべきものはあるべきところへ……。
 そして紗由里は、典太と小枝の手によって、あの世から戻ってきたのだった。


***


 それから二年後。
「雨だな」
「雨ですねぇ」
 しとしとと振る雨を縁側で眺めながら、典太と小枝は涼を取っていた。
 チリン、と風鈴がかすかに鳴る。風はほとんどない。
 団扇をゆるく動かしながら、小枝は砂糖菓子をつまんでいる。
 庭の上に積もって行くような雨音以外、まったくの無音と言っていい静寂。
 屋敷の者は盆の休みで、みんな暇を取っている。
 小枝にとっても、久方の静かな時間だろう。典太はその横顔を見やる。
 二年で小枝はずいぶん変わった。
 髪を伸ばし、くちびるにはあわく紅を引いている。着ているものはおさえた色合いの友禅。うすい生地の浴衣だ。以前ならそれが元気な印象を与えただろうが、今は匂いたつような女の香りを引き立てている。
「蒸し暑いだろう」
 典太が見つめていることに気づいた小枝は、すっと身を寄せ、団扇の風を寄越してくる。
 典太はその柄を取り、自分の力で動かした。
「お館様に扇いでもらうなんて、恐れ多い」
「ふふ。遠慮するな」
 小枝が柄をにぎる典太の手に自分の手を重ねる。
 少しひやりとした、冷たい指先。
 吐息が首筋をくすぐる。
 そのまま小枝は、典太の胸元へ体を預けてくる。
「……小枝様、昼陽中ですよ」
「いい。だれもいないんだ」
 うすく笑って、小枝はすりつけるように身を寄せた。
 豊かさを増した乳房が、典太のわき腹でやわらかくつぶれる。
 典太はその髪をそっと撫でる。
 当主である小枝の父が死んで、もうすぐ一周忌。その座を継いだ小枝の苦労は、典太がよく知っている。
 あわよくば当主の座を奪おうともくろむ親戚や、小枝の力量を疑問視する土地の者をまとめあげたこの一年は、まさに血のにじむ日々だっただろう。
 しかし今では小枝の聡明さに意を唱える者は誰も居ない。
 特に長年くすぶっていた利水問題を短時間で解決してからは、名君と言う者も現れたほどだ。
 それは小枝の天性の力もあるだろうが、努力の賜物でもある。
 毎日遅くまで明かりの消えない小枝の部屋を、典太は私室からいつも見ている。
 だからこんな時こそゆっくり休めばいいのだ。
 支えることしか出来ない典太は、心からそう思う。
「なぁ、典太……」
 鼻にかかった甘い声で、小枝がつぶやく。
 爪で掻くように、典太の胸に指を滑らせる。
 典太は意を察すると、小枝の小さなあごをくっと持ち上げ、くちびるを重ねた。
「ん……」
 小枝の方から舌を絡めてくる。
 典太の首筋に手が回され、典太は小枝の腰を抱いた。
 けっきょくあれから、こういう関係がだらだら続いてしまった。
 けじめをつけねばならないと小枝も思っているはずだし、克己心が足りないと典太も思うのだが、小枝の体はあまりに魅力的だ。加えて淫の気の少し強いらしい小枝は、激務のはけ口を典太との交わりに求めている。それを跳ねのけるのも、酷な気がしていた。
「んん……は……」
 くちびるを離した小枝の瞳は、はやくもとろんと溶けていた。
 もう一度かすめるようにくちびるを合わせ、典太は小枝の耳から首筋へと口元を這わせていく。
 急所であるあごの付け根あたりは、特に念入りに舌で舐め上げる。そうするだけで小枝は息を荒げ、首筋に回された手には力がこもってくる。
 そこから舌先をつつつと下げ、くびれた鎖骨、そして胸元へ。
 そっと情事の期待に火照る体を畳へ寝かせる。
 黒髪がさざなみのように広がる。小枝はなすがままに力を抜き、頭の横で腕をだらりと開いている。
 浴衣の合わせ目はわざとはずさず、生地の上からふくらみの丘をたどり、その頂点を探る。肌の張りが急にやわくなったところが、果実の先端だ。典太がそれを舌先で転がすようにつつくと、すぐに固く浮き上がってきた。
 もう片方の胸に移り、同じようにささやかなしこりを発掘する。
 典太は顔を離し、ぷっくりと浴衣の生地を盛り上げているものを見つめる。
 唾液でしめったそれは、うす布の下の桜色を、はっきりとにじませていた。
「小枝様、やっぱりこの浴衣、生地がうす過ぎますよ」
「……うん? そうか? すずしくていいぞ」
「白地にあじさいの柄だけじゃ、透けそうになるんです」
「いいだろう。別にだれが見るわけでもあるまい」
 こういうところは昔のままだ。自分がどれだけ色気に溢れているか、ちっとも認識していない。庭掃きのおやじが小枝を今晩のおかずにしていないか考えるだけで、典太は冷や汗がでるのだ。
「お前はなんでも、まじめに考えすぎなんだよ」
 小枝が手を伸ばし、典太の顔を引き寄せた。
 そうかもしれないが……。お互い足して割ればちょうどよくなるだろう。
 小枝の上にのしかかり、くちびるとくちびるを触れ合わせながら、典太は片手で乳房をまさぐる。
 うすい生地は触れれば地肌のぬくもりを直接伝えてくるかのようだ。こりこりとした乳首の感触を、てのひらで楽しんでいるうちに、浴衣の合わせ目が乱れて白い果実が露出する。
「……脱がせてくれ」
 小枝の要求にしたがって、典太は浴衣の帯をほどく。
 しゅるりと帯をはずし、布を左右にかき開くだけで、小枝は生まれたままの無垢な姿になった。
 上半身を起こして腕から浴衣をはずしつつ、小枝は典太の着物も脱がせにかかる。
 お互い全裸になると、ふたたび畳の上へ沈み込んだ。
「昼間に自分の部屋でお前と体を重ねるなんて、普段じゃ想像できないな」
 くすくす小枝が笑う。典太がもう一度乳首に吸い付くと、笑い声にあられもないさえずりが混じった。
 声を押し殺さなくていいから、小枝も解放的になっている。
 典太の頭をかき抱き、はずかしげもなく腰へ足を絡めてくる。
 その中心の茂みは、もうすでに熱く濡れそぼっているようだった。典太はひざを当てて確かめる。
 ねっとりとしたそこは、いつもより多く蜜を滴らせていた。
「典太、はやくお前のをくれ」
 うるんだ瞳で小枝がそうねだる。がまんしきれないように秘所を典太のひざへこすりつけながら、隆起した一物を手で探った。
「そんなに焦らなくても」
「みなが戻るまでに一回でも多くお前としたい。今宵は寝かせないぞ」
 その台詞は男女の立場が逆な気もするが。
 典太は小枝の体を抱きしめ、腰の狙いを定めながらささやく。
「小枝様は淫乱ですね」
「そうだ、淫乱な女だ――あああっ!」
 熱い隆起がぬめりの奥を一気につらぬくと、小枝は派手なくらいのけ反った。典太は一番奥へこすりつけるように、ぐりぐりと腰を押し付ける。それからのがれようとするかのように、小枝は手でさかしまに畳をかきむしった。
「ああ! はあっ!」
 まだ動いてもいないのに、小枝は息も絶え絶えな表情だ。
「入れただけで、果てちゃいました?」
「うん――あたし、今日、変だ……感じすぎる……」
「もっとよくなりましょうか」
「あっ、あああっ!」
 いきなり典太は腰を大きく動かし始めた。
 小枝の肉ひだはきつく絡みつきながらも、高く上がる嬌声に応じてねっとりした蜜を吐き出し続ける。特に入り口のすぼまりは痛いくらいにぎゅうと典太を締め付けるが、溢れた甘い快楽の汁が、その締め付けを快いものにした。
 怒張の先端が小枝の最奥を小突くたび、あられもない声が上がった。小枝は身体の悦びを隠そうともせず、全身を使って典太の与える刺激を表現している。
「典太、はげしっ! い!」
「このほうが、いいでしょ?」
「でもまたくる、あたし、また! ああ!」
 るつぼのような熱さを持った茂みの奥が、何度も何度も叩きつけられた快感の塊に耐え切れず、ぎゅっと絞っていた締まりを開放した。
 膣奥が空洞のように広がる。絶頂の合図だ。典太はさらに勢いをつける。
「やああ! もう、だめ! ああぁん!」
 小枝の爪が畳のいぐさをちぎり取った。
 それと同時に、絶頂へ達した小枝は激しく体を震わせて、いくども痙攣した。
 広がっていた膣奥は、急激にすぼまって典太のものをのがすまいとするように、奥へ奥へと誘い込んでくる。
 強烈なその刺激を必死で耐えてかわしながら、典太は小枝の媚態を抱いた。
「あっ……はぁ……」
 ときおりぴくんと震えながら、小枝の呼吸が落ち着いていく。
 典太は汗で乱れたその髪を撫でつける。
 赤く上気した頬は、えもいわれぬ美しさだ。
 小枝は目を閉じて大きく息を吸い、吐き出してから言った。
「……もう。お前ばかりずるいぞ」
 目を開けて典太の下から這い出し、今度は逆にその上へ馬乗りになった。
 顔にかかる髪を跳ねのける。
 珠の汗が首筋を伝い、胸元に沿って下腹へ落ちた。
「今度はあたしの番だ」
「休まなくていいです?」
「無用だ。思い切り果てさせられた敵を取らないと」
 笑って言い、小枝は固さを増した怒張をつかむと、ずぶりと自らの中へ埋没させた。
「うっ……ふぅ」
 口に手を当てて喘ぎをおさえる。
 もう片手を典太の胸に置き、馬乗りの状態で小枝は腰を動かし始めた。
 ゆっくりと上へ。それから勢いよく下に。
 腰が持ち上がると、竿に滴り落ちた愛液が茂みのすきまからぬらぬらと光り、降りてくると広がった陰唇が太く血管の浮き出たものを、貪欲に食い尽くしていく。
 その様を見ているだけでひどく淫猥だ。
 この体勢だと小枝の一番弱い、子宮の入り口へ先端が当たらない。このまま動かれては、いずれ典太の敗北だろう。
 本当に敵を取ろうと言うのだろうか。ならば受けてたつしかない。
 しばらく小枝の動きたいように動かせていた典太は、突然その動きに合わせて腰を突き上げた。
「ひゃぁう!」
 悲鳴のような嬌声を小枝は上げる。
「ひ、ひきょうだぞ」
「なにがです?」
 もう一度突き動かす。小枝の奥にこつんと当たる感覚。
 典太の上で、びくっと体を跳ねさせた。
「あんっ! ――あたしが動くから、じっとしていろ」
「じゃあいっしょに動きましょう」
「ばか、それじゃあたしがだめになる」
「どうして?」
「いじわるだな、お前は。はずかしいから言わない」
「はずかしいことを言ってる小枝様、もっと見たいです」
「うっ、く。この、調子にのりおって」
「わっ」
 小枝がふたたび腰を上下させ始めた。
 今度は力を入れてきゅっと膣全体を締め付けながら、典太を刺激する。
 雁のぎりぎりまで持ち上がって、入り口のすぼまりが亀頭の下に絡みついてから、ずぶりと一気にまた飲み込まれる。
 肉の筒が中の複雑なひだを使って、一心に怒張を舐めまわしている様だ。
 先ほどとは比べ物にならない刺激に、典太は焦る。
「あ、あの、ごめんなさ――」
「あたしだって進歩しているんだぞ」
 同じように膣を締めながら、小枝は肌のぶつかりあう音がするほど勢いよく、何度も腰を振った。
「このっ! 出してしまえ!」
「わ、わ、いやほんとに、やばい――」
 急激に背筋を快感の鳥肌が駆け登ってくる。
 気をよくした小枝はそれこそ調子に乗って腰の動きを強くする。
 典太に逃げ場はなくなった。
「出るときは言えよ。中はまずい」
「いやもう、出るっ!」
「もうか? こらえ性のないやつ」
「だれだって無理ですよ! っていうか早くどいてください!」
 小枝が腰を抜いた瞬間、典太は射精していた。
 すばやく一物を小枝が握り、しごきたてる。
「うう! うっ!」
 この二年で小枝の技量も絶妙になった。
 細い指をうまくからませながら、なんとも言えぬ力加減で欲望を吐く怒張をしごいていく。
 最後まで絞りとられそうだ。典太の飛ばした精液が、腹や畳、小枝のひざにも散っていく。
 がまんしてしまったせいか、加減知らずに射精してしまった。
 絶頂感が去る頃には、典太の頭の奥は真っ白に焼け付いたようにしびれている。
「かわいいぞー。いい顔だ」
「よ、よしてください」
 くつくつ笑いながら体を寄せてきた小枝を抱く。
 けだるい脱力が全身を沈ませた。
 これはしばらく、動きたくもない――。
 このままひと眠りも悪くないな、と思った瞬間、
 ガラリ
 と襖が開いた。
 座敷の闇の向こうには、白い着物に身を包んだ姿。
 腰までながれる美しい髪の持ち主は、紗由里だった。
「わわわ! こ、これはですね」
 典太は弾かれたように体を起こすと、小枝から離れた。
 と、同時に思い出す。
「この状況でどう言い逃れするんだ」
 あきれたような小枝の声。
 その通りだ。本当だったらそうだろうが――。
言い逃れする必要はない。
紗由里の瞳は呆と前を向いたまま、全裸のふたりも、しぶき散る雨も、その向こうの山のどれも、その目に映しながら見てはいなかった。
白痴のごとき無表情。
意志のない足取りで部屋の中まで進んだ紗由里は、なにも言わずに座りこんだ。
典太はため息を吐く。奇遇にもそれは、小枝と重なった。
「お前もいい加減、受け入れろ」
 紗由里は帰ってきた。
 蝉の抜け殻のように、心をなくした身体だけが。
 二年前、屋敷の皆がどれほどのよろこびと絶望を味わったことか。
 目を覚ました紗由里が言葉を発することは一度もなく、ただ虚ろにして過ごすだけ。
 その状態が、変わることなく続いている。
「わかっては、いるんですけどね」
 手は尽くしている。
 屋敷に立ち寄った典太の父に事情を話し、旅先で知り合いの学者連中に同じ症例はないか訊ねてもらっているし、小枝も忙しい合間をぬってあらゆる伝手から医者を呼んだ。
 結果は同じ。
 小枝を診たどの医者も学者も、同じことを言う。この体には心が入っておりません、と。
 ケイフと言う妖物(あやかしもの)がいる。
 それ自体は紐状の矮小な存在だが、ひとたび人体に寄生すると体に融合し、気血の通路である経絡(けいらく)の流れを操って人間を自在に動かし始める。正確には気の縦の流れ、経だけしか操作できないことから、経腑と呼ばれる。
 と言っても知恵も思考もない妖物に出来ることは、日がな一日ふらふらと彷徨い、食物を摂るくらいだ。
 その症状が、いまのところの紗由里に酷似している。
 だが妖物としては異色の部類のケイフも、心までは喰わない。
 そこが紗由里の状態と、似て非なる最大の点だ。
 小枝が起き上がり、鏡台から櫛を持ってきて、紗由里の髪を梳かし始めた。
 いとおしげに髪を撫でつけながら、口を開く。
「なぁ典太。姉様はやはり、心を向こうに置いてきてしまったんじゃないだろうか」
「……僕も、その可能性を考えています」
「ときどき思うんだ。連れ戻して本当によかったのかどうか。姉様の姿を見るたびに、心が割れるように痛む。あのまま失われてしまったものと、記憶のものにしてしまえば、こんなこともないだろうに」
 雨が小枝を弱気にしているようだった。
 髪を梳る手を止め、紗由里の肩にしなだれかかる。
 裸の妹が、人形のような姉にもたれかかる姿は倒錯的で、ひたすらに美しかった。
「僕はあきらめません」
「……すまんな。そう言うつもりじゃなかったんだ。典太、聞いてくれるか。ひとつだけお前に言ってなかったことがある」
「なんです?」
 小枝は半分目を瞑ったような表情で、典太を見つめた。
「姉様の手を引いてあの世から戻った瞬間、姉様の全部があたしの中に流れ込んできたんだ。子供の頃の記憶、見上げた空、路傍の石ころ、どうでもいいことから、とても大事にしていることまで。あたしと姉様は、そのときつながったんだと思う」
「…………」
「だからわかるんだ。お前がどれだけ姉様に愛されていたのか。あたしでは及びもつかないくらいだ。お前も姉様を想う気持ちに嘘がないなら――姉様はこのままのほうがいいんじゃないか」
 小枝が言わんとすることはわかる。
 紗由里が正気を取り戻せば、いずれしがらみに乗っ取った相手と結婚させられるだろう。紗由里が人のものになることを典太が恐れている。小枝はそれをよく知っている。
「そうすればお前は姉様と添い遂げることが出来る。姉様もそう望むはずなんだ。きっと……」
 小枝の口調は弱い。
 本心ではないだろう。虚ろな紗由里の姿にもっとも心を痛めているひとりだ。
 小枝も板ばさみなのだ。自分の気持ちと、紗由里を想う気持ち、そして典太への愛情に折り合いをつけられずにいる。
「それでも、僕は紗由里様が元に戻ることを願っていますよ」
 典太に答えられる答えはひとつしかない。
 小枝は少々自虐的に、ふっと嘲った。
「そうだな。……このところ、不思議な感覚があるんだ。まるで姉様を腹の中に孕んでいるように、身近に感じることがある。姉様を包み込んでいるような、そんな感覚。あの世から連れ戻してずっと、そんな気持ちはあったのだが、最近特に強く思う。だからあたしは、さびしくないのかもしれないな」
「孕むって……あの、小枝様。月のものは?」
「顔が引きつってるぞ。心配するな、ちゃんと来てる。でも赤子をみごもるというのは、こう言う感覚かもしれないな」
「うーん……」
 典太は腕組みして考えた。
 紗由里の心が向こうに置き去りにされたとして、それはいったいどこにどのような状態で存在したのだろうか。
 典太たちは肉体を見つけることは出来た。でも見えない心は見つけられなかった。自分が紗由里の立場なら――その時点で心と体が分離していたとして、肉体のそばから離れてしまうだろうか? 体のそばに、心も居ないだろうか。
 ケイフと言うのは、もう一つ字がある。
 径不だ。
 小さき道、通り道と言う意味だと、本にはあった。
 一説に過ぎずその原義も未詳だが、古くから伝わっていることではあるらしい。中途で伝承が失われてしまった可能性もある。
 もう少しでなにか閃きそうだ。典太はうなる。
「通り道……」
「どうした?」
「いや、ケイフについてちょっと引っかかることが。もう一度調べてみようかな」
「じゃあその前に、姉様の体を拭いてやってくれ。あたしひとりでは世話しきれん。別に裸を知らない間じゃないだろ?」
「ま、まあ。そうですけど。じゃあ手ぬぐいと水を用意してきます」
 典太は立ち上がった。
 紗由里の世話は小枝や女中が行っているので、典太が体に触れることはない。
 ひさしぶりに紗由里の裸を見ると思うと、少しどきどきした。
 軽く着物を引っ掛け、裏手へ出た典太は、井戸から冷たい水を汲んでたらいに移し、手ぬぐいを浸す。
 少し雨も小降りになってきたようだ。
 それを持って戻っていると、小枝の部屋の方からばたばたと暴れるような音が響いてきた。
 部屋を覗くと、お互い全裸の小枝と紗由里が、畳の上でくんずほぐれつしている。
 組み伏せられた小枝が、典太の姿を発見してなさけない声を上げた。
「て、典太。急に姉様が」
「どうしたんです?」
 とりあえずたらいを置いて、そばに駆け寄る。紗由里の表情はあいかわらずだったが、意思があるかのように小枝の手を押さえ、股を割って自分の腰をもぐりこませていた。
「着物を脱がせたら覆いかぶさってきたのだ。それより姉様の股間を見てくれ!」
「股間……」
 目をやった典太はぎょっとする。
 紗由里のまたぐらからは、小ぶりながらも隆々とした、男の器官が反り返っていたからだ。
「な……な……」
 絶句して二の句が告げない。
 それはぴくぴくと震えながら、小枝の秘所の手前で、獲物を狙うように定まっている。
「なじゃない、助けてくれ。姉様に犯されてしまう」
「そ、そうですね」
 典太は紗由里の肩をつかんで引き剥がそうとするが、男の力でもびくともしない。
 紗由里は典太など気に止めず、小枝の胸にくちびるを這わせ、その先端を口に含んだ。
「あんっ!」
 甲高い声を小枝は上げた。典太はびっくりして目を向ける。
自分でもおどろいた表情で小枝は口走った。
「――嘘……なんだこれ、気持ちいい……。ああん! 姉様、やめてくれ」
 胸を舌が這うたびに、小枝は異常なほど感じている。
 典太は急に閃いた。
「ひょっとすると……」
 紗由里の体に手を伸ばし、その胸をつかむ。小枝よりもふた周り豊かな乳房の突起を、こりこりとつまんだ。
「小枝様、感じます?」
「え? いや、よくわからない……」
「もしかしたらこれこそ手がかりかもしれません。少しそのままで」
「わかった――あはっ、は、早くしてくれよ」
 典太はどこがいいだろうと少し悩んで、一番敏感なところへ手を伸ばした。
 半陰陽となった紗由里には女性器も口を開いている。
 そこへ指を当て、典太は少しほぐしてから、内部へ差し入れた。
「あうっ!」
 びくっと小枝の体が反応する。典太は指をぐるぐると動かした。
「へ、変だ。典太。あそこの中がかき回されてる。ああ!」
「やっぱりそうだ。紗由里様の感覚が、反射されてるんです!」
「ど、どういうことだ」
「紗由里様の体は、例えるならただの鏡なんですよ。その実体は、ようするに鏡に映っている本体は、小枝様の中にあるんです」
「い――意味がわからない」
「あの世から戻る時、紗由里様が流れ込んできたと言いましたよね。あれですよ。紗由里様の心は、そのとき小枝様の中に宿って、おそらく今も――」
 典太は小枝の下腹へ手を当てる。
「この中にいる。たぶん紗由里様と交われば、心が元に戻るはずです!」
「本当か!? しかしなぜ」
「ケイフですよ、これは」
 典太は興奮して、紗由里の一物をつかみあげる。
「肉体に融合したケイフが通り道としてこう言う風に変化したんです。紗由里様が、小枝様の子宮から心を吸いだすために」
「あ、あたしは姉様と交わらないといけないのか?」
「それしか方法はないかと……」
 小枝はしばらく考えて覚悟を決めた。
「よし、信じるぞ典太。さっさと済ませてくれ」
「じゃあ、行きますよ」
 典太は紗由里の一物を恥丘の割れ目の中へあてがう。典太との情事の余韻か、はたまた紗由里が与えた刺激のせいか、小枝の秘所は充分に湿っていた。
 手を離すと、紗由里は自分からずぶりと腰を沈めた。
 とたんに小枝が嬌声を張り上げる。
「っああああ! いい!」
 押さえられた腕を振って、のたうちまわらんばかりだ。典太はなんだか悔しくなって訊く。
「そんなにいいんですか?」
「お――お前のよりだいぶ小さいが――その、なんだこの感覚は。はあぁん!」
 ひょっとして紗由里の一物の感じるものが流れ込んでいるのだろうか。自分の膣から受ける刺激と、未知の快感が小枝に押し寄せている。
 紗由里がだんだんと腰の動きを規則的に速めてきた。
 まぎれもなく快楽の産物であろう愛液が、ふたりの間からぬちゅぬちゅといやらしい音を上げている。
「あんっ! あんっ! あんっ!」
 小枝ははやくも忘我の状態だ。典太に見られ、姉に犯されていると言うのに、はずかしげもなく甲高い喘ぎを放っている。
 典太はそこで、はっと気づいた。
 異物を生やした姉が妹を責め続けている。それだけでもかなりな倒錯なのに、両方とも神様すら愛でそうなほど美しい。
 紗由里の豊かな乳房が、動きに合わせて大きく揺れている。
 振り乱したふたりの髪は、畳の上で混じりあい、黒い川のように流れている――。
「う……」
 学術的にしか状況を見ていなかった典太は、少し冷静になって逆に興奮してしまった。衣を持ち上げ、みるみる怒張が固さを増していく。
「ああ! あたしもう、果ててしまうっ。い、いや! ぁあああ!」
 小枝が背を反らし、しぼり出すような声を上げた。
「ああっ――っあ!」
 宙に伸ばされた二本の細い足が、がくがくと痙攣した。
 紗由里の責めから逃れようと腰がうねる。それを押さえつける紗由里の体はびくともしない。
 絶頂を迎えながらも、小枝は何度となく紗由里につらぬかれ続けている。
「あっ! はっ!」
 喉から空気の塊を吐き出すように喘ぎをあげる。
 小枝の絶頂が過ぎても、まだ紗由里は動き続けていた。
 紗由里の方に感覚はないのかどうか、遠くを見るような無表情のままだ。
 典太は汗にまみれる小枝の額をぬぐう。
「どうですか?」
「あ……もう……ゆるしてくれ……」
「うーん、小枝様が達するだけじゃだめなんですね」
「あはっ、ああ、典太、交代だ。もうおかしくなる」
「僕じゃだめでしょ」
 典太は笑い、ふと思いついた。
「いや、そうか。僕も混ぜてもらったらいいんだ」
「え?」
「紗由里様も達することが出来るように、お手伝いします」
「そ――それって」
 典太は着物を脱ぎ捨てると、ぎんぎんに勃起した一物を紗由里の秘所へあてがった。そこは小枝のものと遜色ないくらい、どろどろに蜜をしたたらせている。感覚を共有しあっているから、感じていないわけではなかったらしい。
「行きますよ」
「待って、そんなことしたらあたし――はぁああ!」
 紗由里の中へ固い欲望を埋め込んでいく。小枝がまた、甲高い声とともに喉を反らした。
「はいってくる! はいってくるぅ!」
 泣きそうな声だ。それに混じって、静かな声が流れた。
「う……ふっ……」
 見ると、紗由里の表情が初めて歪んでいる。口元が荒くなった呼吸を吐き出した。
 紗由里の膣は典太のものをぎゅっと捕らえて、別の生き物が潜んでいるかのようにそのひだで誘い込んでくる。つながっただけで溢れた愛液が、典太のふとももにまで垂れ落ちていくのがわかった。
 腰を引き、また押し出すと、その勢いで紗由里の腰が押され、小枝につながった内部へ沈み込んで行く。
「あっ、ああっ……」
 ひかえめだが、なやましげに眉を寄せた紗由里が喘ぎを放ち始めた。
「やああ! あたしまた来る! 来てしまうっ」
 小枝の方は身も世もない声を上げている。
 まだほんの少ししか動いていないのに、小枝に流れ込む快感は相当なもののようだ。紗由里の膣と一物、それから自分のものと、単純に考えても三つ分の刺激だから、小枝がいまどんな快楽を味わっているのか、想像もつかない。
 典太は紗由里の尻をつかむと、大きく怒張を抜き差しし始めた。
 くねりきった複雑な内部のひだの動きは、蠕動をともなってその刺激を紗由里に伝え、それが小枝の中へ流れ込んで行く。
 小枝が紗由里に抱きついて、声を搾り上げた。
「いやっ! いやぁあああ!」
 その肩が激しく震える。
「――っ!」
 その快楽がまた紗由里にも跳ね返ったのか、紗由里も声なき声を吐息とともに漏らし、小枝を押さえていた手を離すと、お互いに抱き合った。
 典太のそばで、小枝の足が絶頂の痙攣を繰り返している。紗由里の体の下から、いまの際のようなくぐもった喘ぎが低く響き続ける。
 その間も典太は動きを止めない。
 紗由里の体はますます上気し、蜜の滴りはとめどない滝のようだ。
「もっ――やめ、て――典太、たすけて、はぁっ! ああああ! あっ!」
 達したばかりの小枝が、すぐにまた快楽の淵へ叩き落とされた。
 びくん、びくん、と壊れた滑車のように足を宙へ蹴り上げている。
 達しても達しても果てがない。
 絶頂がまた絶頂を呼んでいる。
「もう少しです、小枝様! 紗由里様も――。紗由里様の体を刺激してあげたら、早まるかもしれません」
「そんな余裕……んぅっ! こ、この!」
 小枝がやけくそに、紗由里の胸をつかんで、先端の突起を指でこすり上げた。
 ぴく、と紗由里の体が反応する。
「あうっ!?」
 それと同時に、感覚が跳ね返ってきた小枝が敏感に反応した。
 紗由里の肉ひだのすぼまりが、いよいよきつくなってきた。
 きゅっと締まった肉の動きに、典太も果てそうになる。
 それを無理やり押し殺して、腰の動きを強めた。
「あああああ――っ! あ、んっ――」
 がくり、と小枝から力が抜ける。
 気を失ってしまった。だらりと口を半開きにしたまま、紗由里と典太の動きに揺られて、頭を畳の上でふらつかせている。
「あはっ、ああああ!」
 突然紗由里の方が嬌声を上げた。
 限界まで絞られていたと思った膣のひだが、さらに痛いくらい締め付ける。
 小枝が気を失って、その感覚が一気に押し返されたのだ。
「紗由里様――紗由里様っ!」
 後ろ抱きに紗由里を抱え、典太は獣のように腰を振った。
 これだけ締められてはもうがまんできない。
 なら最後の瞬間にかけて、思いっきり突き上げるだけだ。
「あああん! はあうっ! う、ふっ――」
 紗由里がぐっと背を反らし、天井を見るように体を硬直させた。
 畳をつかみ、爪を立てる。
 体が細かく震え始めた。快楽の頂点へ登りつめたのだ。
 紗由里の一物がびくん、と脈打ち始めたのを典太は感じた。
「僕もっ、出ますっ!」
 典太も限界を迎え、思い切り放っていた。
 腰と体を密着させ、両手で紗由里の胸をつかむ。
 溶け合ったような一体感が、背筋から一物へ流れ、白濁した悦びの塊を紗由里の中へ解き放った。
 どくどくと脈打つそれを受け入れ、紗由里の膣は絞りたてるように収縮を繰り返す。
 子宮に送られる子種を、一滴も逃すまいとする本能の動き。
 その動きが典太の精液を最後まで放出させた。
「――っあ……」
 あまりの快感に眩暈がする。典太の腰も砕けそうだった。
 射精の余韻が終わり、体を離すと、紗由里も横倒しに小枝の隣へ倒れた。
 ふたりとも気を失っている。
 紗由里の秘所からはどろどろと愛液の混じり合ったものが尻を伝って畳を汚している。
 小枝の秘所は、洪水でもあったかのような様相で、いまも蜜の塊をぱくぱくと動く陰唇の中央から吐き出していた。
「あ……紗由里様の中に……」
 呆とした頭でそう思うが、もはやささいなことにしか思われない。
 ひたすらに気だるかった。
 このままふたりの横で眠りたい。
 それは山々だが、時刻を見ると、夜番の者がしばらくするとやってくる頃合いだった。
 大きく息を吐いて呼吸を整え、典太は立ち上がる。
 運んであったたらいを寄せ、手ぬぐいを絞った。
 とりあえずふたりの体をぬぐって、服を着せておかないと、ただの昼寝に見えない。
 冷たい布で、まずは紗由里の顔を拭いた。
「ん……」
 ちいさくうめいた紗由里が目を開ける。
 そのまぶたが数回瞬き、そして瞳が典太を向いた。
「……ありがとう、典太」
 しばらくなにが起こったのか理解できず、典太は呆然として首筋を拭く手を止めた。
「紗由里様……?」
「うん。もうだいじょうぶ。おかげで、もとに戻ることができた……」
「紗由里様!」
 微笑む口元。やわらかなまなざし。
 それは、昔見たままの紗由里の表情だった。
「紗由里様ぁっ!」
 思わず抱きつくと、典太は号泣した。
 よかった。
 ほんとうによかった。
 それだけが頭の中を覆い占める。紗由里の手がやさしく髪を撫でてくる。
「ん~……うるさいぞ、典太……」
 典太の大声に、小枝も目を覚ました。となりの状況に気づき、自分も大声を上げる。
「ね、姉様っ!?」
 うなずく紗由里。
 とたんに涙で目をうるませた小枝が、典太の隣に抱きつく。
「姉様ぁ!」
「あらあら」
 紗由里はふたりを両手で抱きしめ、それから縁側の外を眺めた。
 雨が上がり、雲間から青空が見えている。
「明日は晴れね」
「暢気なこと言ってる場合じゃないだろ! 姉様、これでみんな元通りなんだな」
「ええ」
 典太は鼻をすすりながら、体を起こす。
 これでようやく、いままでの過去を埋められる。
 これから先はまた、先の問題があるだろうが……。
 いまはただ、喜ぶべきを喜ぼう。
 典太は畳に横たわる美しい紗由里の裸身を眺め――。
 そして顔を引きつらせた。
「あの、紗由里様」
「ん?」
「股間のそれ……治らないんですか?」
「あ……」
 紗由里の体には、いまだに男性器がぶらさがっていた。
 元通り、には少し遠いようだ。
 典太はため息を吐いた。
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