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其の五 愛宕の竜 一
 山と山が折り重なるその中にぽつりと拓けた場所があった。
「ここか……?」
 旅衣装の典太は、山道の先に現われたその場所を前に、少々不信感を募らせていた。
 父が訪れたと言う場所はまさしくここであるはずだ。山中を切り取ったような里があって、そこは外界とほぼ接触を持たず、ひっそりと暮らす人々がいると。
 そう言う環境だからこそ、混じり気のない伝承が色濃く残っていた。そう言う話を聞いた。
 しかし……。
「家は一軒しか見当たらないな」
 庄屋のような立派な建物がそびえる以外は、ちらほら耕された畑と野原である。とても多くの人が住んでいる、もしくは住んでいた痕跡もない。
「間違えてはないし……」
 そう言う確信はあるのだが、どうも不安になる。とにかく典太はその大きな屋敷を訪ねることにした。
 門を押し、よく手入れされた庭園を抜け、屋敷の玄関へ立つ。
 立派な引き戸の扉だ。目隠しの格子には立派な竜の彫刻が施され、威圧感すら覚えた。
 典太は若干緊張しつつ、戸を叩いた。
「ごめんください」
「はい。開いております」
 待ち構えていたように返事があった。女性の声だ。
 引き戸を開けると、広い三和土(たたき)の向こうで、まとめ髪の女性が丁寧に三つ指をついて頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました」
 まるで由緒ある旅籠の出迎えのようだった。玄関の内部も信じがたいくらい荘厳で、床も光るほど磨き抜かれている。
 小枝の屋敷もあれはあれで立派だが、建てられてから歳月が経っているのと、大勢の人間が生活しているためなにかと気ぜわしい。
 ここにはそう言うものが欠如していた。言うなれば、人を迎えるための家。そんな印象だ。
 まったく予想しない展開に、典太はしどろもどろになって応じた。
「え、あ、これはご、ご丁寧に」
「わたくし、ここの主であります、愛宕(あたご)と申します」
 顔を上げた女性がにっこりと微笑む。
 目元のほくろが印象的な、三十路ほどのすばらしい美人だった。物腰、表情、言葉遣いなどすべてが洗練されている。まとめ髪のうなじがやたらと色気をかもし出していた。
 いくぶん呆然とする典太へやさしい視線を当て、手で奥を指し示す。
「遠いところお疲れでしょう。どうぞお上がりくださいませ。湯浴みの用意も整ってございます」
 本当に旅籠と間違えてないだろうか。
 本来の目的も忘れて、典太はそのことが気がかりになった。


***


「見て小枝。全部食べた」
 縁側で紗由里が無邪気に笑っている。手には空になった手桶。さきほどまでそこには、小魚が満載されていたのだ。
 小枝は首を伸ばして、縁側の向こうの池を見やる。
 池の端で、ぱんぱんに腹を膨らませた蜥蜴のような魚が、満足気に見つめ返してきた。
「暢気なことだ」
 その様子に思わず口元が緩む。
 伝助と名づけられたこの妙な魚が紗由里に飼われ始めていくぶんか経つ。
 鎧のようなうろこ、鋭い牙を持つ口、そして足のような形をしたひれ――奇魚とでも言うべきその姿に、不吉なものと屋敷の者ははじめだれひとりとして池に近づこうとしなかった。
 しかし紗由里があまりにもかわいがっているので、餌の魚をやる手伝いに、池の掃除の手伝いに――と徐々に人は集まり、伝助のよく見れば愛嬌のあるまんまるの瞳、のったりとした間抜けな仕草に毒気を抜かれて、今ではそう怖がる者もいなくなった。
 伝助と言う名前もよかったようだ。最初は小枝も呆れたが、今思うにこの魚をよく表現している。
「……別段不吉なことも起こらないし、このまま飼ってもいいかもな」
「そうでしょ。みんな心配しすぎなのよね。――ふぅ」
 一息ついた紗由里が縁側から部屋に上がりこんできた。
 あのころはなにせ、椿事が続いたのだ。不安になる気持ちもわかる。
 小枝は風通しのよいところでぱたぱたと顔を仰いでいる姉を見上げる。
 腰まで流れる黒髪。長いまつ毛の添えられた涼しげな眼、名工が研ぎ上げたような鼻筋とあご。これを美しいと言わずしてなにを言うだろう。
 帰ってきてくれてよかった。本当にそう思う。
 だがその体は未だに完全ではない――。
「疲れちゃった」
 呟くと、小枝の背にもたれかかるようにして座り込んだ。あご先で切りそろえた小枝の髪を、その吐息が軽く揺らす。
 ふっとため息を吐いて、紗由里は肩にあごを乗せてきた。
「……典太、おそいね」
 典太がひとりで屋敷を出てしばらく経つ。そう遠くに用があるわけではないから、もう戻ってもおかしくない頃だ。
 小枝は乗せられた頭を撫でる。
「あいつは旅慣れてる。心配ないさ」
「うん……」
 紗由里はさびしいのだ。
 それは小枝も同じだった。
「……いい匂い」
 髪に鼻先をうずめた紗由里がつぶやく。体をさらに寄せ、首筋をくちびるが這った。
 ぞくっと小枝の背筋を駆け上がるものがある。そのあたりが性感帯なのだ。
 はっと短く息を吐いたのを見逃さず、紗由里は舌を出してちろちろとくすぐった。
「う……姉様……」
「ここ弱いのね」
「そうだけど、どうしたんだ。ちょっと変だぞ」
「変じゃないよ」
「あっ」
 ちゅう、と吸われて、小枝は思わず小さく声を上げてしまう。
 紗由里の手が着物の上から胸をつかみ、もう片方がすそを割ってふとももを撫でた。
 そのたびにぞくぞくとしたものが体中を走る。
 紗由里の方から手を出してくるなんて、今までなかったことだ。どんどん濡れてくる股の付け根を感じながら、小枝は小声で拒否する。
「姉様、昼間だぞ。人に見られる」
「……そうだね……うん……」
 残念そうに紗由里は体を離した。
 しかし昂ぶってしまった小枝の体は、離れていく紗由里の手を欲しがっていた。火照りがますます高まる感覚に、小枝は頬を上気させて紗由里と見つめ合った。
 典太が居なくなったちょっとの間しか肉欲を絶っていないのに、この体はどうしたことだろう。いますぐにでも秘所に指をいれてかきまわしたい気分だ。
 それとも――この感覚は、紗由里のものなんだろうか。
 いまだにふたりは心のどこかで繋がっている。
 紗由里が興奮すれば、それは小枝のものにもなるのだ。
「ね、ねえ。小枝。……あの」
 もじもじと正座の太ももを押さえ、紗由里は上目遣いで言う。
 小枝はその姿に折れた。
立ち上がって縁側の戸を閉める。
「口でだけだぞ」
 それなら着崩れもするまい。身をかがめ、艶っぽい目の輝きで見上げる紗由里とくちびるを合わせてから、小枝はそのまま顔を下げていく。
 小用を足す時のように着物をまくり上げさせると、待ちかねたように男根が飛び出してきた。溝の先からすでに透明な汁が流れ、てらてらと濡れ輝いている。
「あ……小枝、ごめんね……」
「んっ」
 さっさと済まさないと本当に人が来れば洒落にならない。
 小枝は期待に震える歪なものに舌をからめつつ、ぐっと喉の奥まで飲み込んだ。
 いつもより熱くたぎっている。口に含んだだけでびくびくと激しく震え、今にも射精しそうだ。
「う……くうう……」
 喘ぎ声を必死にこらえた紗由里が、口元に両手を当てて必死に耐えている。
 小枝はくちびるをすぼめ、裏筋を舐め回しながらゆっくりと引き抜いていく。そして何度か素早く口の中に出し入れし、次はくちびるを離して雁首の付け根を吸いながらねぶり回す。
 これが典太なら、この動きを一生懸命繰り返しているうちに達してしまうはずだ。紗由里の男根を意識して奉仕したことはないが、似たようなものだろう。
 それよりも、紗由里の快感が小枝の体に流れ込んできて、自分にあるはずのない異質な器官の刺激が股の蜜園をしとどに濡らしていく。紗由里が満足すればするほど、小枝に返ってくるのだ。自分自身に口淫しているようなものだった。
「さ、小枝。手も使って。私の女もいっしょにいじって……」
 普段は物静かな紗由里も、こうなると貪欲だ。小枝は望みどおりに片手をすその奥へ突っ込み、蜜でむせ返るようなその闇の帷の中心を探った。
「あぐっ!」
 粘液を吐く二枚貝の割れ目へ、いきなり指を重ねて突き入れる。
 紗由里はうめくと、喉をそらし、小枝の頭をつかんだ。
 指をひねり動かすたびに、そこからはくちゅっと肉と蜜とが交じり合う音が響く。二本束ねた指を男根側にくっと曲げ、膣の前側の少し柔らかいところを押さえるようにかき回す。
「んんんう」
 紗由里は声が抑えきれないようだ。小枝は手探りで、書机の脇にかけていた手ぬぐいを取り、その口元へ持っていく。与えられた手ぬぐいをかみ締め、紗由里は体の火照りを熱くしていく。
 もう少しだ。
 ともすれば自分が声をだしてしまいそうになりながら、小枝は男根に奉仕し続ける。ひざまずいたその太ももをつーっと秘所から流れた蜜の筋がいくつも這っていく感覚がある。着物についたら汚れてしまうが仕方ない。
 小枝はもう片方の手を男根に添え、にぎりしめてしごいた。同時に膣の中の指も動きを激しくする。
「んふっ、んん! でる、でひゃう!」
 手ぬぐいを噛んだままくぐもった声を上げる紗由里。亀頭を強く吸って、射精を促す。
 やがて焼けるような怒張は、急激に膨らむと脈打ち始めた。
「んぐうーっ!」
 どくん、どくん、とひとつの動きが大げさなくらい激しい。精道を通って欲望の塊が駆け上る。それは天頂の切っ先から小枝の口内へ、痛いほどの勢いで飛び出した。
「ふ、うんっ」
 小枝の頭も、紗由里の快楽で真っ白になりそうだった。夢中で気持ちのいい方へいい方へと、手をしごき指を動かす。典太のものとは違う味の精液を必死に飲んでいくが、嚥下する速度よりも注がれる勢いのほうが早い。飲みきれずに口を離そうとしても、恍惚とした紗由里に後頭部を抑えられて、それも出来なかった。
「んっんっ!」
 結果、だらだらと口の端から精液を垂れ流し、小枝は飲むも吐くも出来ずに硬直した。
 もう少しでむせかえってしまう、その間際にようやく射精は勢いを止める。
「はあ……ぁ」
 満足した紗由里が手を離し、小枝を解放する。小枝はその間に一生懸命口の中のものを飲み干そうとしたが、濃くてどろりとしたそれはのどへからみついてなかなか飲みきれず、飲むのに失敗した一部は小枝のあごを伝ってのどまでを白く汚した。
 なんとか処理し、ぐったりと体の力を抜いて紗由里のふとももへ顔を乗せ、体を弛緩させる。
 そのときだった。
「小枝様、居ないんですか――あっ!」
 突然屋敷側の襖が開いて、小間使いの少年が顔を出した。
「紗由里様……す、すいませ」
「しっ。静かに。お昼寝中よ」
 紗由里はひざに置かれた頭をそっと撫で、なにごともなかったようにささやく。
「そ――そうでしたか。縁側が閉まっていたので居ないもんかと……あの、起きたら言付けされてることがあるんで、お願いします」
「はいはい。じゃあね」
 あくまで襖に背を向けたまま、紗由里はおだやかに言い――襖が閉まった瞬間、はぁっと息を吐いた。
「……危なかった」
「危なかったじゃないだろ、姉様。怪しまれなかったかな」
「私のふとももは見られちゃったかも……」
 紗由里の着物のすそはきわどいところまでまくられたままだ。まあこれも、暑いからだと小間使いは納得するだろう。
 小枝はけだるさで重い体を持ち上げ、畳へ落ちた手ぬぐいを取る。着物へもわずかに精液が流れていた。はやいうちに洗わないといけない。
 手ぬぐいで喉元をぬぐっていると、紗由里がまた、甘えたような声で言った。
「ねえ……小枝。今夜、いいかな」
「ん?」
「離れにきてほしいな……って」
「…………」
「さびしいの。ひとりで寝ないといけないし。……だめ?」
 訴えるような上目遣いは、小枝に対しても効果抜群だ。
 困りながらも小枝は、了解の返事をしていた。
 外ではつくつくぼうしが夏の終わりを告げていた。


***


 なんだろう。このもてなしようは。
 典太は湯につかりながら、ぼんやりと考えていた。
 この豪華な屋敷の主であると言う愛宕は、しかし自分が女中で主が典太であるような扱いで、丁寧に部屋へ案内し、すぐ風呂を用意した。
 ひのきの風呂は独特の香りが心地よく、旅の疲れが一気に抜けていくのがわかる。典太の考えなどしょうもないしがらみのような気さえしてきた。
 書院造と言うのだろうか、建物に典太はあまり詳しくないが、華美を押さえながらも計算され、造り込まれた各部屋の作りは、美とか麗とか、そんな陳腐な言葉では表現しきれない。
 それに加えて、あの愛宕の美しさ。静かな屋敷の廊下にひっそりと立つ、そんな情景があれほど似合う女性は他に見たことがない。
 穏やかな紗由里、活発な小枝の美しさとは別の、静止の美とも言うべき姿だった。
「失礼いたします」
 突然風呂場の戸が開いて、その愛宕の落ち着いたよく通る声が言った。
 慌てて手ぬぐいで前を隠した典太が入り口を見ると、湯浴みのときに着る薄い湯文字ひとつの姿の愛宕が、手桶とぬか袋を持ってひざをついていた。
「あ……あの?」
 手に持っているのが体を洗う道具だと言うことはわかっていても、典太にはその意図がわからない。あんぐり口をあけていると、微笑みながら戸を閉めた愛宕は、湯船の近くまで進み出た。歩くたびに豊満な乳房が大きく揺れている。
「お体をお流しします」
「け、け、けっこうです」
「そうおっしゃらず。さ、こちらへ」
 愛宕の湯文字は蒸気で早くも透け、大きく盛り上がった隆起の丘でふたつの桜色をはっきりとにじませていた。旅の間女色を絶って長い典太は、それを見ただけで股間が反応してしまう。
 しかしあまりに自然な愛宕のいざないは、どこか抗いがたいものがあった。抵抗すればこっちが不自然な気がする。
 思い切り前を押さえた典太は、しぶしぶ湯を上がって指し示された木の椅子に腰掛けた。
「それでは……」
 後ろではなぜか、衣擦れの音。確認するのが怖くて、典太は前を向いたまま硬直していた。
 すっと手が胸元へ回されたと思いきや、いきなり背中へやわらかい塊が押し付けられる。裸体の感触に、正直な一物は急激に勃起した。
 さすがにこの展開は読めず、典太は焦る。
「あ、愛宕さん、ぬか袋は?」
「見れば日に焼けて肌を傷めているご様子。荒い布でこすってはなおさら傷めてしまいます。わたくしの体を濡らし汚れを落として差し上げましょう」
「あ、はぁ。お気遣い、どうも……」
 誘っているのかいないのか。いや、やっている行為は誘惑そのものなのだが、口調も態度もどちらかと言えば慇懃で、とても淫らな行いに及んでいるとは感じられない。
 どう対応していいのかまるでわからず、典太はなすがままになっている。
 信じられないくらいやわらかいふたつの塊が背中でつぶれながら上下した。腰の上から背筋を沿って、肩甲骨のあたりまで。たまに失敗して上に行き過ぎ、ふるんっと飛び出すように典太の肩の上へ乳房が乗る。
 背中を充分にこすると、愛宕は典太の腕を取って横に伸ばさせた。その上に足を通してまたぎ、陰唇ではさみこむように股を閉じる。
 そしてそのまま腕を行き来し、股の付け根でこすりたて始めた。
 震えそうになるほど気持ちいい。典太は愛宕の表情を見る。愛宕は潤んだ瞳でこちらを見つめ返し、微笑んだ。
「いかがですか?」
「と、とても心地いいです……」
「お喜びいただけて幸いです。それでは指を曲げてくださいませ」
 言われたとおりにすると、手のひらの上で股を開いて立った愛宕が、指の一本一本を手に取り、膣へ差し込んでいく。
 きゅっとしまったそのひだで、指先まで洗われる。まるで典太の指で慰めているように、何度も出し入れした。
「はぁ……」
 指の動きに合わせ、愛宕は熱いため息を吐く。ぬめったものが指へからみついていく。
その行為を小指までしっかりと繰り返すと、今度は腕を離して反対側へ移った。
 もう片方の腕も同じように股へ挟まれる。愛宕の秘所からは隠しようもない蜜が滴り始めていた。腕にそれをこすりつけるたびに、ぬるぬるとしたものが広がっていく。それがなおさらに気持ちいい。
 腕が終わると今度は足だった。
 横に寝かせられた典太は、片足を持ち上げられて、今度は愛宕の全身を使って愛撫される。胸の谷間ではさみ、陰唇をこすりつけ、いくつものやわらかいものが足全体を溶かしていくようだった。
 足の指先はねっとりと舌で舐められ、指股までねぶられて、ついに典太は小さく快楽の喘ぎを放った。
「うあっ」
「……いかがなさいました?」
「いや――あ、気持ちよくって、つい……」
「ふふ。殿方も洗って欲しくて苦しそうですね」
「うっ!」
 つい、と愛宕の指と指で亀頭を挟まれる。それだけで典太は腰を跳ねるように動かした。
「もう片足残っておりますが――仕上げとまいりましょう」
 股の間に正座した愛宕が、ぐいっと典太の腰を引っ張り上げてふとももの上に乗せる。
 自然と固く立ち上がった男の矛は、その豊かと言うにはあまりにも雄大な乳房の前へさらされることになる。
「それでは失礼いたします。楽になさってくださいませ」
「わ、わ、わ」
 白い隆起の山に一物ははさみこまれた。痙攣するように跳ねるその暴れ馬を、ぎゅっと両手を使って締め付けた乳房で押さえ込み、愛宕は胸を上下にこすって揺らし始めた。
「うわ! すご……い!」
 思わず正直な感想が口をついて出る。
 膣の中とは違った、ひたすらにやわらかい感触が一物全体を包み込み、飲み込んでいる。
 愛宕の肌はとても三十路ほどとは思えぬきめの細かさで、触れれば吸い付いて離れないかのようだ。それが典太の一物へぴったりと一部の隙間もなくからみついてくる。
 胸が動かされるたび、途方もない快楽が腰へと奔流のようにたぎり落ちた。
 てろっと舌を出した愛宕が、唾液を垂らしながら出ては引っ込む亀頭の先を舌先でつつくように舐めた。
 なにより、そう言う視覚的な刺激がたまらない。
 会話もほとんどかわさぬまま、色目ひとつで国を落とせそうな美女に淫らな奉仕をされているのだ。
 意味が分からない。
 ただもう、ひたすらに気持ちよくて意味なんかどうでもよかった。
「あ、はあっ、ああ!」
 忘我のうめきが自然と喉を突いて出る。
 愛宕の胸は両手が上下するたびに、典太の腰とぶつかってぱんぱんと濡れた音を上げた。
 唾液と先走りの汁が胸の潤滑を助け、いよいよ典太は快感を強めていく。
「好きなときに溜まった汚れをお出しになってくださいね」
 頬を上気させた愛宕が艶然と微笑む。
 はさまれた胸と胸との圧力が典太の限界を速めていった。まるで膣の中へ突っ込まれて、それをどこまでもやわらかいものでしごきつけられているようだった。
 もう限界だった。
「で、出ます!」
 一言宣言すると、典太は腰を反らして射精した。
 搾り取るようにぎゅっと胸で挟み込まれ、どくどくと流れる熱い精液が胸の谷間を汚して、そして動かされた胸によって亀頭が外に出ると、あごめがけて勢いよくそれが飛んでいく。
「はあっ、熱い……」
 初めて愛宕は慇懃な口調を崩し、情欲の滲んだ言葉を吐いた。
 細かく何度も胸の肉をゆすって、出すものを全部出させようとするように一物が刺激される。溜め込んだ何日もの欲望が一気に解き放たれていく。
 自分でも驚くほどの濃い精液だった。
 くずした杏仁豆腐のような塊が、愛宕の胸の頂やあご、鼻先にまで飛び散り、ふるふると揺れている。
 頭の奥がまたたくような射精の快楽が収まっていき、典太は全身の力が一気に抜けて洗い場へ大の字になった。
 頭の血が全部股間へ集まって、それが流れていってしまったようだった。目を開けてもうす暗くてよく周りが見えない状態が、少しの間続いた。
 半分人事不詳になっているうちに、愛宕によって湯がかけられ、体に散った精液などが流されたようだ。
 ようやく復活して半身を起こしたころには、湯煙の美女は湯文字を身につけたところだった。
「それでは、ごゆっくりなさってくださいね」
 にこやかに笑い、立ち上がる。典太はその背に声をかけた。
「愛宕さんは入っていかないんですか?」
「わたくしは料理の用意を。それから――色々訊ねたいこともあるでしょう。それは、夕餉のあとに時間をお取りします」
「はあ」
 やはり、愛宕はわかってやっているのだ。
 なにを意図してかはもちろん典太にはわからない。その疑問も夕餉が済むまでのことだ。
 色っぽい後姿が風呂場を出て行く。
 典太は湯船に移ると、再び浴槽へ肩まで体を沈めた。


***


「うんっ、あっ……姉様、激しい……」
 夜になって離れを訪れた小枝は、たどり着くなり布団の上に押し倒されて、体をむさぼられていた。
 着ていた浴衣はたちまち剥ぎ取られ、美しいお椀型の乳房へ紗由里の顔がうずめられる。
 ここまで紗由里が欲していたとは思わなかった。
 まるで飢えたけものにがっつかれているようで、それはそれで小枝を燃えさせる。さして拒否もせずに紗由里を受け入れ、逆に淫らに足をその腰へからめた。
「小枝……もう私、欲しくて欲しくて……」
 半ば焦点の合わない目で、紗由里が見つめる。片手は自らの男根をしゅっしゅとこすり、小枝の広げた足の付け根の上で物欲しそうにしている。
「そんなにか?」
「だって……この子、いさめてもいさめても収まらなくて」
「姉様の男の部分?」
「うん……一日に五回も、六回も抜かないとだめなの。知らないでしょ? 私が厠や、裏の物陰や、この離れで、毎日慰めてること。でもこの数日は何度抜いても固いままで……気が変になりそうだった」
 それは知らなかった。紗由里の言うことが本当なら、その性欲は異常過ぎるだろう。典太が居ればなんと言うか知らないが、日常生活に支障をきたしはじめているのだ。やはり紗由里の体はもとに戻さないといけないらしい。
 しかし小枝は紗由里の欲求が心を伝わって感じられると言うことはなかった。ふたりの共有感は純粋に距離に比例するらしいことは最近気づいてきたが、それでも射精すれば屋敷のどこにいても、小枝の腰が砕けそうになるほどの快楽を伝えてくるはずだ。
 まったく感覚の共有がなくなったのかと言えばそうでもなく、昼間は紗由里の射精に合わせて、何も触れてない小枝まで同時に絶頂感を味わっている。ふたりがむつみあうほど接近しなければ、感じられなくなっているのかもしれなかった。
「いいよ、姉様。今日はあたしの中で抜いたらいい」
「うっうっ、小枝、ありがとう……」
「――あぁ!」
 半泣きで紗由里は感謝しながら、容赦なく一物を突き入れてきた。いきなり奥までつらぬかれ、小枝はあられもない声を上げる。
 ぐっと腰を押されるたびに、前までは届かなかった膣の奥まで、こつこつと届いていた。小枝はそこが一番感じてしまう。ただでさえ、紗由里の男根の快楽を共有してしまうのだ。
 小枝は少し焦って体を離そうとする。
「姉様、ちょっと成長したんじゃないか」
「え? わかんない」
「あんっ、そ、その奥まで、やめて……あたしそこが――あっ!」
「うふ、小枝の奥まで入れたら、とっても気持ちいいの……ねえもう、最初の一回出してもいい?」
「い、いいけど、奥に当てるのはやめて――ああん! やだ!」
 小枝の言うことなど聞かず、紗由里は執拗に腰を限界まで打ちつけ、奥の奥へ当たるよう振り続ける。
「ああ――気持ちい――いいよぉ」
 表情は快楽におぼれて、むしろ浅ましいと言ってもいい。しかしその可憐な容姿が、天女が行為に耽っているような、一種の妖しい倒錯までも醸し出している。
「ね……さまっ、ああ! っあ!」
「はやいけど出すね。受け取って。はあっ!」
 腰と腰を密着させて、小枝の太ももを脇に抱え、紗由里が背を反らした。びくびくとその背が震え、脈動が伝わった一物が精液をほとばしらせ始める。
 ぐっと子宮の入り口へこすり付けられた亀頭から、その中へ直接射精されているかのような感覚が小枝をのた打ち回らせた。奥の一番弱いところへ熱いしぶきが感じられるのだ。紗由里の絶頂感とともに、脳みそを焼き尽くしそうな快楽だった。
「ああ――果てる、あたしも……っ」
 その焼け付くような感覚に飲まれて、小枝も達していた。
 膣の中では、まだどくどくと紗由里が精液を吐き続けている。その淫らな一物が脈打つたびに小枝のひだはぎゅっと悦びを示し、精液を逃すまいと本能の引き締めをみせて、奥へといざなうように膣全体を収縮させている。
「あ――うう、ねえさ……まっ」
「小枝、小枝、止まんない、ああ! 出るの止まんないよ。そんなに締めたら――ぁあ」
 いやいやと頭を振り、紗由里はそれでも快楽を味わいきろうと一物を小枝の奥深くへ埋め込んだまま、膣のきつく甘い収縮を愉しんでいる。
 数回腰を痙攣させるように動かして、紗由里は糸が切れたように小枝の上へ倒れた。
 まだその背は細かく震え、膣の中の男根は精液の余韻を思い出したように搾り出している。
 先に絶頂の忘我から我に返った小枝は、その黒髪をやさしく抱きしめた。
「姉様、どうだ? 少しは楽になったか」
「あふ……うん。でも、もっと……」
「典太が戻るまで毎晩相手してやるから。今日はこれくらいにしてくれ。な?」
「うう……あと一回だけ。……お願い」
 このところ、このお願い攻撃にやられっぱなしだ。
 小枝はため息まじりに応じる。
「じゃあちょっと、休憩してから……」
「やった。好きよ、小枝」
 子猫のような仕草で紗由里が頬に口づける。
 これで強烈な一物がこちらの秘部へ突き刺さったままでなければ、なおかわいらしいのだが。
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