おかしい。
典太はそのおかしいところを整理しようと、さっきから四苦八苦していた。
まずはこの屋敷、深い山中にあるのに新築の建物のように何もかもが真新しい。ここまで獣道が続いていたのだ。これだけの調度、材木、彫刻の類をどこから調達したのか。
屋敷の人間もそうだ。愛宕しか居ないのである。先ほど出された夕餉の膳運びからなにから、全部ひとりで行っており、他に人の気配はない。
夕餉と言えば、出された料理もそうだった。この山の中で海の幸が出たのである。あちこち旅した典太は、それが鮮度の高いうちでないと食べられない品であるとか、そう言うことも知っている。変とかそう言う次元ではなく、純粋にこの山中ではありえないことだ。
「狐狸の類に化かされているのか……」
結果、たどり着いた結論はそれだった。馬鹿らしいが、そうでも結論付けないといつまでも堂々巡りしてしまう。
「お待たせしました」
障子が開き、ひざをついた愛宕が丁寧きわまる物腰で部屋へ入ってくる。
先ほどまでのきっちりした和装から着替え、涼しげな浴衣姿だ。
まとめ髪も結びなおしたのか、若干髪型が違っている。ぱらぱらと散らした後れ毛がうなじにからみあい、そこに漂う色気を存分に引き出していた。
行灯ひとつがふたりを照らしている。ここは寝室に当てられた部屋で、すでに布団がひいてあった。なんだか初夜を迎える新婚みたいな様相だ。
すっと身を寄せた愛宕が、典太の体にくっついてくる。浴衣に焚き染めた香の香りがかぐわしい。
やっぱりそうきたか。ようやく予想が当たって、典太に少し余裕が生まれた。
「愛宕さん?」
「……夜伽(よとぎ)のお相手をいたします。このような年増ですが、お好きになさってくださいませ」
年増だろうが年若だろうが、こんな美女を抱けるなら死んでもいい男はごまんといるだろう。
「あのー、申し訳ないですけど、僕には婚約者がですね」
「存じております。その方を救いたくてここを訪れたのでしょう?」
「……どうして、知ってるんです?」
もう典太はむやみに驚かない。うつむいた愛宕は、しおらしく言った。
「お話しいたします。……始まりはあの方が偶然ここに辿りついたことからでした。わたくしはそのとき、すべての子供を世に送り出して、ひとりさびしくここへおりました」
子持ちだったのか。しかも全員成人している?
典太はまじまじと愛宕を見る。うつむいていてよく顔が見えないが、とてもそんな年には思えない。化粧で年を誤魔化すにしても風呂場でそれは無理だし、なによりあの肌の張りは本物だ。
愛宕は続けた。
「普段ならそんなことはいたしませんが、なにぶんさびしくしておりました。肌のぬくもりが恋しく、わたくしはお泊めしたあの方のもとへ忍んでいったのです。――それはそれはすばらしい夜でした。生涯わすれることはかなわぬ、そんな風に愛し合いました」
「は、はあ」
「わたくしはあの方が望むまま、昼は妖物(あやかしもの)について知ることを教え、夜はその力強い腕に抱かれ、めくるめくような楽しい日々を過ごしました。しかしあるとき、急にいとしい人は姿を消したのです。理由も告げずに」
「ひどい人ですね」
「その通り。ひどい方です。あなたのお父様のことですよ」
「なっ――!?」
絶句する。
あの親父……こんなところで美人を手篭めにしていたのか!?
驚きで典太はあんぐりと口を開けて、非難めいたまなざしを向ける愛宕を見つめ返していた。
たしかに時期的にも、典太の知る父の性格的にも、愛宕の言うことは当てはまっている。なにより、典太がここにいるのは父が詳しい場所まで教えたからなのだ。
その際、どういう訳か色々と嘘も教えたようだった。里だの、民謡など、全部嘘っぱちだ。まさか親父も、典太が実際訪れるとまでは思わなかったようである。
「あなたにはあの方の血が半分流れている。わたくしは半分だけでも、あの方を感じたい……。そこで、卑怯と思われるかもしれませんが、交換条件をつけさせていただきます」
「条件……?」
「婚約者を蝕むのはケイフの対となる、シフです。捨て置けば途方もない災厄となってしまうでしょう。わたくしにはそれを止め、救うことの出来る品があります。それを提供する条件として――あなたには、あの方と同じようにわたくしを愛してもらいたい。あの熱い夜とまでは言いません。あの方を想い起こさせるようにわたくしを抱いて欲しいのです」
「……わ、わかりました……」
ようするに親父の代わりを務めろと言うことなのだ。
胸中は複雑だったが、紗由里のためである。そう、もちろん愛宕を抱くのは紗由里のためであって、なにも誘惑されたからとかではないのだ。
自分の心理をそう言う風に納得させて、典太は咳払いする。こちらもたしかめなくてはならない。
「妖物にお詳しいようですが、学者をされていたんですか?」
「学者ではありませんが、そのようなものを。そのためにわたくしはこの世に居るようなものなのです。あなたの力になら、必ず」
「信じます。……それじゃ、目を閉じて」
典太の肩にしなだれかかった体を抱き、あごを持ち上げてくちびるを合わせる。
なんとも甘い味がした。気のせいだろうが、まるで糖蜜のような味のするくちびるだ。
「んふ……」
その甘さをもっと味わおうと、典太は舌を差し入れる。その感触に愛宕は軽く喘いだ。
すぐに体を熱く火照らせはじめた愛宕は、典太の首筋に腕を巻いて、情熱的なくちづけを繰り返す。興奮が高まるにつれ、逆に典太の口の中へ舌を入れ始めた。
愛宕の舌は人のよりもずいぶん長いようだった。典太の舌に巻き付くように動き回り、歯の裏や舌の裏、普通は届かないのどの方まで別の生き物のような動きで舐めまわす。
さすがに年の功か、巧みだった。
典太はその動きを受け入れるので精一杯で、翻弄され続ける。
しばらくお互いの口内を愉しんだ後、ふたりは顔を離す。
ずるっと典太の口から愛宕の舌が引き抜かれる。
そのままだらりと、あごまで届きそうな舌を垂らしたまま、愛宕は艶やかに微笑んでいた。
信じられないくらい色っぽい姿だ。
先程までの清楚な和装の美女は去り、男の精を吸い尽くす悪女がそこには居た。
「……素敵。でも、まだまだですよ」
「ふ、っ……」
背に手が回され、首筋から胸元へと舌が這っていく。
乳首を吸われ、典太は喘いだ。
一物はもう、爆発しそうなくらい反り上がって着物のすそをもちあげている。
典太の乳首を舌先で転がしつつ、愛宕がそそり立った一物を着衣の上からさすった。
それだけでびくびくと痙攣し、先走りの汁が注ぎ出るのがわかる。
愛宕は胸へ吸い付いた顔はそのままに、器用に典太の下帯をはずし、着物の帯を解いた。
「……袖を」
言われて典太は着物を脱ぎ捨て、全裸になる。愛宕が下半身へ顔を移動させた。
なまめかしいうなじが欲望の象徴の上で立ち止まる。
はぁっと吹きかけられた息に反応し、また典太の一物はびくりと反応した。
じっと見ている様子に、典太は訊ねる。
「どうですか……?」
「たくましゅうございます。……お父様よりも」
ちらりとこちらを見て、微笑んだ。典太はなんだかこそばゆい気持ちになる。
「それではご奉仕させていただきましょう」
愛宕が耳の上の後れ毛をかき上げた。
くっとその口が一物を飲み込んでいく。
あたかかくやわらかく、そしてどこまでも心地よい口だった。
典太は後ろに手をつき、美女が股間の上で奉仕する様を、じっくりと観察する。
くちびるをいっぱいに開きながらもすぼめ、多少苦しげではあるものの一生懸命に一物を飲み込み、首を前後させる。後れ毛がまた顔にかかり、片手でそれを押さえつけた姿もひどく扇情的だ。
年上の女に淫らな奉仕をさせている。そう言う興奮も覚える。
「いいです……気持ちいい――あっ」
うっとりと言った典太は、突然加わった舌の動きに思わず喘いだ。
愛宕の長い舌がねっとりとからみついて、まるで何重にもぐるぐる巻かれているような錯覚を覚える。活きのいい魚のように怒張の周りでその舌は踊り跳ね、ぐるりと巻きついては離れる。
これが人間の舌だろうか。
波打つように裏筋を何度も行き来したかと思えば、円を描くように怒張をもてあそんで、竿の部分に舌の根が当たっているはずなのに、雁首の裏の敏感ところをすぼめた舌先がくすぐっている。
妙技は言うに及ばず、絶技とでも言うべき舌技だ。
「あっぐ!」
竿の根元から先までを一気に舐められ、その瞬間に射精しそうになった典太は、とっさに愛宕の髪をつかんで動きを止めた。
ゆっくりとくちびるを離した愛宕は、唾液の垂れる口元をぬぐいもせず、淫らな目を向ける。
「もう降参ですの?」
「は――はい」
「これは全部お父様が仕込んだこと。父には及ばずと言う事になりますよ」
「う……助平親父め……」
「うふふ。では一度搾って差し上げましょう。わたくし、こんなことも仕込まれましたのよ」
艶然と言った愛宕が一物を口に含み、そのままぐーっと喉の奥まで飲み込んでいく。
喉ぼとけに先端が当たり、それでもさらに奥の奥まで怒張を侵入させる。
「うわわわ」
亀頭は食道に入り込み、ついに愛宕は立派な一物の根元までを口に収めてしまった。
敏感な部分全体を呑まれる、いままで味わったことのない感触に典太は背筋を震わせる。
ずるるるっと一物を引き抜いて口を離し、唾液にまみれたそれを愛しげにしごきながら、愛宕が感想を求めてくる。
「いかがです?」
「あわ、わかんなくらい、いいです……」
「ふふ。それでは、わたくしの喉の奥へ、注ぎ込んでくださいませ」
「ああ――や、やめて。ほんとに出ちゃいますって」
また飲み込まれていく感触に、典太は情けない声をあげて天を仰いだ。
まとめ髪の美女が、太くて長いものをありえない位置まで侵入させている。そんな倒錯的な感覚が欲望の源泉を刺激する。
深く飲み込んでは引き抜き、口と喉の境目の締め付けで典太の一物は愛撫され、倒錯感がそれに加わって、射精を促していく。
頭の中がきーんと鳴っているような快楽が、思考を奪い脳髄を沸騰させた。
「あ、で、出るっ!」
射精感が限界まで達し、典太はのけ反った。
ぐっと根元までを飲み込んだ愛宕の喉へ、脈打つ怒張が欲望の体液を流し入れる。
どくどくと、それは奔流となって愛宕の体内を汚していく。
「ああ、あああ」
信じられない。
苦しかろうと思って典太は身を引こうとするのだが、尻に手を回しぴったりと顔と腰をくっつけた愛宕は、射精に暴れる怒張を根元まで含んだまま離そうとしない。
いまこの瞬間、喉の奥では思うさま精液を飛ばし、怒張が荒れ狂っているのだ。
美しい横顔をわずかにしかめただけで愛宕はそれを受け止め、体の中へ直接白濁したものを受け入れていく。
それは目の前が明滅するような快楽を典太にもたらした。
「あう……あ」
射精が終わるころには腰に力が抜け、典太はそのまま仰向けにぐったりと倒れる。
途方もない快感だった。
これを仕込んだと言うなら、親父の勝ちだ。
ぼんやりした頭でそう思う。
一物を喉から抜いた愛宕が、ちゅるっと音を立てて尿道に残った精液を吸い取った。
魂を抜かれた蛇のように、ぱたりと暴れ馬は倒れ伏す。
「降参しますか? わたくし、まだ満足しておりませんのよ。これでは婚約者を救う品を与えるなど……」
「う……っく。とりあえず、僕の一敗は認めます……」
いつの間にか勝負になっているらしい。
浴衣の帯をはずし、徐々に裸体をさらしていく愛宕が、わざとらしく股の中心を開き気味にして座る。豊満な胸をこするようにして合わせ目を開き、その摩擦で揺れる乳房が行燈の光で障子に陰影を震わせた。
今日は二回出したと言うのに、典太ははやくも立ち直ってく感覚があった。
あんまり長い間溜め込んでいたせいだろうか。それよりは、愛宕の体をもっと味わいたいと言う率直な欲望が大きい。
全裸になった愛宕は、力を取り戻しつつある一物をつっと指でなぞる。
「もうひと勝負、なさいますか?」
「是が非でも……」
典太は体を起こす。
「うふ。楽しみ」
そのあごに片手をかけ、愛宕は後ろざまに布団へ倒れこんだ。典太も手に引かれるようにその上へ折り重なる。
また熱くくちびるを合わせているうちに、すっかり一物は固さを取り戻した。まだこの調子なら、二、三回できそうな勢いだ。
負けられないぞ、と妙な敵愾心が沸く。
「じゃあ、いきますよ」
典太は固さを戻したものの根元に手を添え、濡れて開く花弁へ先端を乗せた。
熱い泉へ浸したかのようだ。愛宕の秘所はとめどなく溢れる蜜で潤みきっていた。
まさに突き入れようとした瞬間、すっと横から手が伸びて、それを止められる。
「そちらもよろしいのですが……」
一物をつかんだ手は、花弁からつつつと下へ先端を持っていく。
そこには垂れた愛液で濡れる菊が咲いていた。
「こちらへくださいませ。これも、お父様に教えられた場所ですの」
「こ――こっちで?」
はやくも典太は機先を制されている。
にっこりうなずいた愛宕は、自らの秘所から蜜をすくい取り、水でもやるように一物へ振りかけ、ぬめりをよくしていく。
典太は唾を飲み込んだ。
さすがに尻の穴はやったことがない。しかしそこがどんな場所か興味がないわけではなかった。
愛宕の指に導かれるまま、菊の門をとんとんと叩いてこじ開け、その中へ入り込んでいく。
「――あぁ……」
亀頭を侵入させると、愛宕は熱い吐息を吐いて目を閉じた。
尻で感じているのだ。
ぞくぞくとしたものが典太の背から頭頂まで駆け上がる。
ずぶ、と竿の半ばまで差し込み、愛宕の反応がさらに強まったのを確認すると、一気に突き入れた。
「ああっ!」
まぎれもない快楽の喘ぎがあがる。
腰を引き、突き動かすたびにそれは何度も繰り返された。
尻で行為をしているのだ。
こんなところ、本当は交合のための場所じゃないのに。
愛宕はそんなところで感じている。
興奮が高まって押さえきれない。尻を犯すたびにあがる嬌声が典太の脳を熱く焼いていく。
「こ――こんなところで、するの、変ですか?」
喘ぎの合間に、愛宕が訊いてくる。
典太は少し考え、わざと冷たく答えた。愛宕はなぶられるのを期待している。そう直感したのだ。
「変ですよ」
「あっう、――さ、蔑まないでくださいませ」
「いやです。だって、尻の穴ですよ」
「あああ……いやぁ……」
「尻の穴に太いのを入れられて、どうしてそんなによさそうにしてるんですか」
「あふ、よ、よくなんて……ああっ」
「嘘をついて」
「あうっ」
「いいんでしょう」
「……は、はい」
「愛宕さんは変態ですね」
「いやっ。違います」
「尻でよがるなんて、変態だ」
ぎゅっと赤い筋がつくほど、乳房をわしづかみにする。
びくっと反応した愛宕の尻がすぼまり、一物をきゅっと締め付けた。
乳首をつねるようにひねりまわすと、やはりそのたび締め付けが強くなる。
ようやく典太は弱点を見つけた。
愛宕は被虐心の塊なのだ。すぐ泣いてしまう紗由里とは違う、責められれば責められるほど悦ぶ部類の人間なのだ。
「へ、変態なんかじゃありません――あはぁ!」
「へえ。じゃあなんですか、こっちの濡れ具合は?」
乱暴に花弁を掻き分け、泉の中へ指を差し込む。愛宕の体はその刺激で軽く跳ねた。
「ち、違います。違うんです」
「じゃあどうしてなんです」
「――それは……」
「白状するまで、指で前も犯してあげましょう」
「ふっうううっ」
差し込んだ指の薄皮一枚向こうに、尻に入れた一物が蠢いている。
女性のふたつの穴がこんなに間近であることははじめて知った。がんばれば、膣の中からつかめそうな気さえする。
「あああ、ごめんなさい、ゆるして! わたくし、わたくし」
「じゃあ言ってごらんなさい。自分がどこで感じるか」
「尻です! 尻の穴で感じます!」
「変態ですね!」
典太は腰の動きをさらに激しくする。ぱんぱんと肌がぶつかり合った。
膣に突っ込んだ指を抜き、それで乳房をつかんで、乱暴にもみしだく。
「い、痛いっ」
「痛いのがいいんでしょ?」
「い――いいです、ああ、もっとぉ!」
「肌の音が鳴るほど尻を犯されて、感じるんですか」
「ああああ! 感じます、いいの、果てる!」
「果てちゃうんですか? 果てていいんですか? 僕、尻で果てるところ、じっくり見ちゃいますよ」
「いやあ! 見ないで、お尻で果てるところ見ないでぇっ! あああ―っ!」
がくがくと足を痙攣させ、派手に愛宕は体をひねった。
逃れようとするかの動きを典太は押さえつけ、とどめの一撃を突き入れる。
「はあぁ、あああ!」
なりふり構わない喘ぎ声を放って、愛宕は絶頂へ達した。
ぎゅうっと痛いくらい尻が締まり、痙攣を始める。
同時に前の花弁から、ぷしゃっと勢いよく愛液が噴出した。
それは痙攣して震える菊門の動きに合わせて、ぴゅっぴゅっと射精するように典太の腹へ吹き上がった。
「ああ……あ……出、出てしまい……ました……」
呆然と天井を見つめながら、愛宕がつぶやく。
快楽に思考が流された表情で、ときおり体全体をびくびくと振るわせている。
典太はその体を抱きしめ、耳元でささやいた。
「今度は僕の勝ちです?」
「は……ふ……。ええ、もちろんです……」
「連戦といきましょう。僕、まだ果ててないんですから」
「あ――抜かずにもう一回なんて……。そんなにしたらわたくしは」
「もっとよがってください。こんなに綺麗でおしとやかな人が、尻に入れられて感じているなんて、ぞくぞくします」
「あ……」
その言葉に、きゅっと敏感な締め付けがあった。
典太はまだ相手が呼吸を整え終わる前に、律動を開始する。
「今度は僕が気持ちいいように、動きますから!」
「あ、は、ああ! 待って、わたくし、まだ」
「勝手に果ててしまうのが、いけないんです」
「そんな……はぁっ!」
膣とは違った濃厚な締め付けをしてくる尻の中で、典太は一物を思う様動かし始める。
包容力のある膣のひだに比べ、こちらは狭くてきつく、まさに犯している感じを味合わせてくれる。
「あああ、そんな、そんな」
片手を額に当てた愛宕が、我を忘れて叫ぶ。
「もっと、欲しいんでしょう」
「欲し――欲しいですけど、ああ、このままじゃ――」
「感じて、ください!」
しとどに濡れた秘所が、腰のぶつかるたびに蜜を溢れさせ、それが潤滑剤となって尻の中をより心地よい場所に変えていく。
典太は愛宕の首筋に顔を伏せ、夢中で腰を振った。
愛宕の手が頭を抱き、ぐっと力を込めてくる。
「ああ――また、また来てしまう! もう、だめ!」
嬌声が高く上がった。
その瞬間、手指の圧力が変化する。
ぎりっと鋭い物が典太の頭を押さえつけ、やわらかな肌の首筋は、急激にざわざわと蠢いた。
「な――」
思わず動きを止め、顔を離す。愛宕の手が目を覆った。
「み――見ないでください!」
その手は人の形から離れていた。爪は猛禽のように伸びて、手のひらにはうろこのようなざらつきが這っている。
こんな状態で見るなといわれても無理だ。典太は手首をつかんで目隠しをはずすと、息を呑んだ。
愛宕の顔はこめかみからあごにかけて、うろこで覆われていた。それだけではない。首から肩口、胸の脇など、随所が深緑に光っている。
耳の後ろからはにょっきりと角が二本生えていた。髪は黒から鱗と同じ深緑に染まり、まとまりがほどけて布団の上へばらりと散っている。
反らした目は金色に薄く光って、猫のような縦の筋を刻んでいた。
「愛宕さん……」
「う……」
金色の目からは涙がこぼれる。典太は呆然としたまま、無意識に手を伸ばしてそれを指ですくった。
「わたくしは人ではないのです。ご覧のように歪で不気味な姿。まだこれも本性ではございません」
ぽろぽろと涙をこぼし、告白する。
ならば何者なのか、と訊こうとして、典太は野暮だと思った。
狐狸に化かされていると言うのは、半分くらい正解だったのだ。
涙の流れた髪を、やさしく撫で付ける。
「どんな姿でも、愛宕さんは変わりませんよ。そんな姿でも変わらず美しいです」
はっと息を呑む気配。
恐る恐る、確かめるように言う。
「……本当ですか?」
「ええ。僕の婚約者の、次くらいに綺麗です」
「ふふ、ふっ」
軽く笑ったそのまなじりを、また涙の塊がころげていく。
微笑む典太の顔を鉤爪のついた両手ではさみ、
「やはり親子ですのね。お父様と同じことをおっしゃいます」
「……親父も?」
「はい。こんな姿のわたくしを綺麗だと。その言葉がどれほどうれしかったか。わたくしは人と交わらねば子を産めません。いままで幾人もの男がわたくしを抱き、そしてこの姿に恐怖して去りました。そのたびに深く深く、傷ついてきたのです」
そしてふっと遠くを見つめた。
「あの方はそんなわたくしを受け入れてくれた。こっちの方が燃えるとまで言ってくださった。人ではないわたくしをそう言って抱いてくれた――」
それは親父の趣味が常軌を逸しているだけの可能性があるが。
しかし爪を生やそうが鱗を生やそうが、愛宕の人間の部分は間違いなく美しい。それは確かだ。
親父も自分も、妖物と言うこの世ならぬものを扱ってきたおかげで、愛宕の変化にも驚きが少ないのかもしれない。典太は鱗の生えた額に口付けて言った。
「僕も今の愛宕さんを抱きたいな」
「……うれしいです。それでは、わたくしのこの体を使って存分に奉仕させていただきましょう」
体の下から身を起こし、逆に典太を布団へ寝かせた愛宕は、その脇へ座ってつっと爪を胸板へ這わせた。
その典太の下半身へしゅるりと何かが巻きついた。
それは愛宕の腰から生えた蜥蜴のような長い尻尾だった。
「わ!」
尻尾の先が器用に一物を巻き込んでいく。そこには鱗が生えておらず、ひやりとした肌の吸いつきが勃起を促した。まるで手のようにぎゅっと変幻自在な締め付けをしながら、竿を上下にこすり始める。
まさか自分の男根が尻尾でしごかれるなんて、想像したこともなかった。
典太は喘ぐ。
「す、すご……い」
「お気に召されました?」
尻尾の先へ唾液を垂らし、潤滑を与えながら愛宕は微笑む。また、目は欲情に熱く蕩け始めていた。
「わたくしの尻尾、気持ちいいですか?」
「いいです、すごい、た、たまりません……」
「ああ……もっと褒めてくださいませ。わたくしの歪な部分、嫌われつづけたところを……」
「あ――愛宕さんの、体に、歪なところなんか……あうっ」
「……そこまでおっしゃってくださるなんて」
てろっと愛宕は舌を吐く。
舌先がふたつに割れたその舌は、長く長く伸びて、上空から典太の亀頭をちろちろ舐めた。
「ふぎは、ほのようにひたします」
舌を出してしゃべれない愛宕はもごもごと言い、尻尾を解放して、代わりにその長い舌を巻きつけ始めた。
「うわわっ」
驚きの連続だ。
屹立した一物の根元から先までを蔦のように巻いて覆い尽くし、舌はきゅっと締まる。
割れた舌先が溝の辺りを刺激しながら、今度は舌で上下に竿がこすられた。
じゅるっと熱い舌が唾液を滴らせつつ、血管の浮き出たたくましいものを淫靡な拘束具のように締め付ける。
「あ、もう、なにがなんだか」
包み込まれているのは一物だけなのに、体中を舌が這っているような錯覚を覚える。背筋なんか鳥肌が立ちっぱなしだった。射精感がどんどん高まっていく。
「んふ。ひもちいいれふ?」
「気持ち、いい……! ああ、で、出そう」
「らひて」
愛宕はなおさら熱心に舌の愛撫を繰り返す。
巻き込んだ舌をぐっと上に引き寄せると、典太の一物の周りをぐるぐると回転しながら舌が登り、また根元まで上から巻きついていく。その動きのたびに典太は後頭部を布団に押し付け、強烈な快感に喘いだ。
「くうっ、出る!」
びくびくと怒張が射精の合図を始めると、愛宕は舌ごと一物を飲み込んだ。
その口の中で全体を愛撫されつつ、典太は射精する。
閃光がまたたいたように目の前がはじけ、あとはただ快楽の流れるままに任せ、愛宕の口へと放った。
びゅるびゅるとそれは続き、流し込まれたものを愛宕は残さず飲み干していく。
熱い奔流がひと段落し、一物が痙攣しながら精液の残滓を吐き出すようになると、今度は亀頭をちゅうと吸って最後の一滴まで搾り取り始めた。
その刺激に背を反らし、典太は全部を出し尽くす。
「はぁ……あ……」
もうだめだ。
脳髄がじんじんとして、思考もうまくまわらない。快楽と言う快楽を全部放ちきってしまった。
典太が放心していると、その胸の上を跨いだ愛宕が、自らの手で陰唇をくぱっと開いた。
とろりと透明な液を溢れさせるそこを呆然と見ていると、その花弁が口元へぐっと押し付けられる。
「んぐ……」
「お舐めくださいませ。わたくしの蜜には精力の源が含まれております」
典太は舌をその中へ差し込み、えぐるようにすくって蜜を口へ運んだ。
甘い。
人間のものとは成分が違うのだろう。
味わえば味わうほど、頭の奥がどんどんしびれてくる感覚がある。
夢中になって舐め取っていると、鱗の生えた太ももがぎゅっと典太の顔をはさんだ。
「そ、そんなにすると感じてしまいます……」
「んん……もっと」
「ああ……しようのないお方」
股を開き気味にし、奥まで舐められるように体勢を変える。
尻尾はまた典太の下半身へ伸び、立ち上がりつつある一物をこすり始めた。
不思議なくらいまた欲望が沸き起こってくる。
まるで今日初めて一物を触られたかのように、先程果てたはずのものは元気よく屹立していった。すぐにぴんっとそそりあがったものは、三度もその中身を吐き出したとは思えぬ固さだ。
それを尻尾でしごきつつ、愛宕はあでやかに目を細くする。
「どうです? こうやって一晩、二晩続けて交わることも出来るんですよ。体力も精力も、蜜を舐めれば無尽蔵に沸いてきます」
「う……それは魅惑的な……」
「うふふ。お望みになるなら――わたくし、夜明けまであなたの上で腰を振ってもよろしいのですよ? 何度も、何度もわたくしの中で果てながら、どこまでも続く快楽を……」
それはまさしく至上の悦楽だろう。
沸きあがる欲望のまま、いくらでも絶世の美女の中へ放ち続けられるのだ。
ぼんやりした頭でその悦びを想像し、それから典太は一生懸命打ち消した。
自分には帰るところがある。
なにをしにきたのか、見失ってはいけない。
わずかに理性が勝った。
「ぼ、僕は……」
すっと典太の上から股を離し、愛宕は爪の先でくちびるを押さえた。
金色の猫目が笑っている。
「言わないで。今夜はわたくしの恋人です。……では一度だけ、心を込めて……」
尻尾で一物の位置を調整しながら、愛宕はその上に股を下ろしていく。
典太に舐め尽くされた蜜は早くも泉を潤し、その中へ浸しこまれていく一物は、熱泉に差し込まれたかのように熱く蕩かされる。
「うっ……う……は」
小さく声をあげて、愛宕は根元までを受け入れた。
腰を上げ、また下ろす。自分自身の動きで愛宕は感じ、喘ぎ声を深くしていく。
腰が上下するたびに、ばたんばたんと尻尾が布団を叩いた。
典太は手元に転がってきた尻尾の先をつかむ。
「あっ」
びくっと体を反応させ、愛宕は動きを止めた。
尻尾をつかんだ瞬間に膣の中がきゅっと締まったのだ。典太はしばし考え、その先端をしごいてみる。
「あう……あ、あ」
吐息の熱さが増した。
明らかにここで感じている。
典太はしごく動作を続けながら言った。
「尻尾が感じるんですね」
「は……はい。とても敏感な場所です……」
「体のほかの部分で言うと、どこくらい?」
「尻尾の先の方は……ち、乳房の先と同じくらいに……」
「じゃあこれは、乳首なんですね」
緑色の先端を口元へ持っていき、そのまま口へ含む。
ちゅうちゅうと吸うと、愛宕は背を反らして喘いだ。
「ああ! そ、そんな……」
「親父はこんなことしました?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「そこが弱いことも、お気づきになられませんでした……」
「じゃあここを開発するのは、僕の役目ですね」
典太はまた先端を口に入れ、舐めまわす。尻尾の先はかなり細くなっていて人差し指くらいの太さ。くねくねとよく動き、たまに典太の舌とからみあった。
「あうう……」
愛宕が快楽を深めるたび、その体はざわざわと蠢いて、けものの度合いを深めていくようだった。
このまま完全なけものと交わることになっても構いはしない。典太は責めの手を緩めず、やわらかな胸をつかんだ。
「腰の動きがお留守ですよ」
「も、申し訳ありません……」
「ね、愛宕さん」
そのとき思いついて、典太はささやいた。
「僕の口よりいい場所があるでしょ」
尻尾の先をその付け根付近へ持っていく。
典太との結合部、その上の場所。
ひっそりと息づく愛宕の菊門へ、緑の先端を当てる。
びくりとその体が震えた。
「あ……いや……」
「どうして? 大好きなお尻の穴ですよ」
「は……でも、わたくし、自分でもそんなこと……」
「親父には色々開発されたのに、僕のはいやなんですか?」
「そ、そんなことございません」
「じゃあ入れて。愛宕さんのもっと淫らなところを見たいんです」
「わかり……ました……」
愛宕は自分で尻尾を動かし、そのよく締まった筋肉質な先端で菊門をこねるようにほじって、内部へ侵入させていく。
とたんに上半身は過激に反応して、どさりと典太の上へ倒れてきた。
「もっと。もっと奥まで」
尻尾を押して、さらに中へ入れさせる。
びくびくと震えながら、典太に抱きついた愛宕はその指示に従った。夢中で立てた爪が肩に筋を付ける。
鱗の並びだす手前、典太の一物と同じくらいの深さまで尻尾は挿入された。
典太は押し付けられた頭を撫でる。
「どうです?」
「こんな……こんなっ」
「いいんでしょ」
「はいっ……自分の体に、こんな愛し方があると……は、初めて知りました」
「僕もすごくいいんですよ。膣の中の男根が、薄皮一枚向こうで尻尾に押さえつけられてる……」
「ああ……わ、わたくし」
「僕が動きますから、そのままで。尻尾で自分を慰めてなさい」
「はい……ああ!」
下から腰を突き上げる。がばっと顔を上げ、愛宕は快楽によって流れた汗を飛ばした。
膣のひだはその向こうの圧迫でいよいよきつい。
愛宕も尻尾を尻の穴へ出し入れしているようだった。すぐ向こう側をずるずると這っているものが感じられる。
典太は鱗だらけの肩を下から抱きしめ、勢いよく腰を振り上げた。
ぱんぱんと肉のぶつかり合う音が響く。
障子に映ったふたりの影は、淫らに溶け合っていた。
「あああ、あああああ」
声帯が変化し始めているのか、くぐもった声で愛宕は喘ぐ。
耳の後ろの角は長く伸びて、まるで鹿の角のようだった。
足と手はもう全体が鱗に覆われて、典太の肌にざらざらと当たり、痛いくらいだ。
そんな異形を抱いているのに、典太に恐怖心は沸かなかった。
むしろどんどん本性をさらしていく愛宕が愛しく感じる。
典太は責めの調子を上げていく。
「もっと、見せて、ください! 愛宕さんの姿」
「だめ、だめですっ! ああー! こんなの、だめ」
「お尻に突っ込んだ尻尾で、僕を、感じますか!」
「はい、太くたくましいものが、わたくしの、中をつらぬいていく様子が、ああん! ああ!」
愛宕は忘我に達しつつある。
典太ももう少しで絶頂を迎えそうな気配を感じていた。
肩から背中へ手を回し、豊かな乳房を胸板でつぶすように抱きしめる。
背筋に沿ってひれのような三角の突起が並んでいるのがわかった。
愛宕は一体何者なのか。
ふとそんな想いが沸くが、すぐに快楽の奔流が瑣末な思考を押し流していく。
いつの間にか愛宕も自分から腰を動かしていた。
典太が突き上げる瞬間に合わせ、腰を下げる。そうすることでより深くに典太を感じようとしている。
溢れた蜜ははずかしげもなくあたりへ撒き散らされ、お互いの陰毛をしとどに濡らすどころか布団までも染め上げていた。
「はあっ! ああっ! はうん! ううあああ!」
一段と叫び声が高くなって、典太は愛宕の絶頂が間際であることを悟った。
自分も腰の動きを速め、快楽を加速させる。
「出しますよ、このまま!」
「こ――子の宮に、くださいませ! はああああっ!」
典太に抱きしめられたまま、愛宕の体が反り返る。
膣圧が痛いくらいに高まり、一物の根元からしごきたてるように蠕動する。
それに導かれるように典太は放った。
愛宕の膣は食物を嚥下するように、放たれた精液を子宮へと運んでいく。
同時に尻尾が菊門から飛び出すように引き抜かれ、それは大きく布団を叩いた。
典太の体を抱こうとした愛宕は、最後の理性を振り絞ったか肌に爪を立てることは避け、布団をつかむ。鉤爪は生地を引き裂き、中の綿を散らせる。
「あああああ!」
なにもかも忘れたかのような絶叫を上げ、愛宕は背を反らしたまま何度も痙攣した。
その痙攣に合わせて、典太も快楽の塊を放ちきる。
子種がたっぷりと子宮へ与えられたことを感じ、愛宕はひくひくと最後に体を震わせると、がっくりと倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、典太はのしかかってきた愛宕の体から這い出す。
背中や肩がひりひりと痛んだ。無我夢中で引っかかれた場所が血をにじませている。愛宕と交わるのも命がけだと、ひとり苦笑する。
布団に座って呼吸を整えながら、気を失ったように伸びている体を観察した。
頭には立派な角。髪は小麦色に変化し、背から見ると緑一色の体に散っている。
背筋には三角の突起が並び、それはずっと尻尾まで続いていた。
尻はもう尻尾とほぼ融合し、境目がよくわからない。
てのひらや足の裏も大きさを変え、しかも間接の位置が変化しているようだった。鳥のように親指が手首の位置にある。爪先立ちで歩くけものの特徴だ。
そんな姿を眺めていて、想い起こすのはひとつしかなかった。
「竜か……」
そんな話を聞いたこともある気がする。
竜母神は人と交わり子を成すと。
「あ……」
思い切り、典太は中に注ぎ込んでしまっていた。
だいじょうぶだろうか。
しかし妊娠してもまあ、責任を取れとは言うまい。
なんだかひどく眠い。
すべてが気だるくなって、典太は愛宕のとなりへ横になった。
典太はそのおかしいところを整理しようと、さっきから四苦八苦していた。
まずはこの屋敷、深い山中にあるのに新築の建物のように何もかもが真新しい。ここまで獣道が続いていたのだ。これだけの調度、材木、彫刻の類をどこから調達したのか。
屋敷の人間もそうだ。愛宕しか居ないのである。先ほど出された夕餉の膳運びからなにから、全部ひとりで行っており、他に人の気配はない。
夕餉と言えば、出された料理もそうだった。この山の中で海の幸が出たのである。あちこち旅した典太は、それが鮮度の高いうちでないと食べられない品であるとか、そう言うことも知っている。変とかそう言う次元ではなく、純粋にこの山中ではありえないことだ。
「狐狸の類に化かされているのか……」
結果、たどり着いた結論はそれだった。馬鹿らしいが、そうでも結論付けないといつまでも堂々巡りしてしまう。
「お待たせしました」
障子が開き、ひざをついた愛宕が丁寧きわまる物腰で部屋へ入ってくる。
先ほどまでのきっちりした和装から着替え、涼しげな浴衣姿だ。
まとめ髪も結びなおしたのか、若干髪型が違っている。ぱらぱらと散らした後れ毛がうなじにからみあい、そこに漂う色気を存分に引き出していた。
行灯ひとつがふたりを照らしている。ここは寝室に当てられた部屋で、すでに布団がひいてあった。なんだか初夜を迎える新婚みたいな様相だ。
すっと身を寄せた愛宕が、典太の体にくっついてくる。浴衣に焚き染めた香の香りがかぐわしい。
やっぱりそうきたか。ようやく予想が当たって、典太に少し余裕が生まれた。
「愛宕さん?」
「……夜伽(よとぎ)のお相手をいたします。このような年増ですが、お好きになさってくださいませ」
年増だろうが年若だろうが、こんな美女を抱けるなら死んでもいい男はごまんといるだろう。
「あのー、申し訳ないですけど、僕には婚約者がですね」
「存じております。その方を救いたくてここを訪れたのでしょう?」
「……どうして、知ってるんです?」
もう典太はむやみに驚かない。うつむいた愛宕は、しおらしく言った。
「お話しいたします。……始まりはあの方が偶然ここに辿りついたことからでした。わたくしはそのとき、すべての子供を世に送り出して、ひとりさびしくここへおりました」
子持ちだったのか。しかも全員成人している?
典太はまじまじと愛宕を見る。うつむいていてよく顔が見えないが、とてもそんな年には思えない。化粧で年を誤魔化すにしても風呂場でそれは無理だし、なによりあの肌の張りは本物だ。
愛宕は続けた。
「普段ならそんなことはいたしませんが、なにぶんさびしくしておりました。肌のぬくもりが恋しく、わたくしはお泊めしたあの方のもとへ忍んでいったのです。――それはそれはすばらしい夜でした。生涯わすれることはかなわぬ、そんな風に愛し合いました」
「は、はあ」
「わたくしはあの方が望むまま、昼は妖物(あやかしもの)について知ることを教え、夜はその力強い腕に抱かれ、めくるめくような楽しい日々を過ごしました。しかしあるとき、急にいとしい人は姿を消したのです。理由も告げずに」
「ひどい人ですね」
「その通り。ひどい方です。あなたのお父様のことですよ」
「なっ――!?」
絶句する。
あの親父……こんなところで美人を手篭めにしていたのか!?
驚きで典太はあんぐりと口を開けて、非難めいたまなざしを向ける愛宕を見つめ返していた。
たしかに時期的にも、典太の知る父の性格的にも、愛宕の言うことは当てはまっている。なにより、典太がここにいるのは父が詳しい場所まで教えたからなのだ。
その際、どういう訳か色々と嘘も教えたようだった。里だの、民謡など、全部嘘っぱちだ。まさか親父も、典太が実際訪れるとまでは思わなかったようである。
「あなたにはあの方の血が半分流れている。わたくしは半分だけでも、あの方を感じたい……。そこで、卑怯と思われるかもしれませんが、交換条件をつけさせていただきます」
「条件……?」
「婚約者を蝕むのはケイフの対となる、シフです。捨て置けば途方もない災厄となってしまうでしょう。わたくしにはそれを止め、救うことの出来る品があります。それを提供する条件として――あなたには、あの方と同じようにわたくしを愛してもらいたい。あの熱い夜とまでは言いません。あの方を想い起こさせるようにわたくしを抱いて欲しいのです」
「……わ、わかりました……」
ようするに親父の代わりを務めろと言うことなのだ。
胸中は複雑だったが、紗由里のためである。そう、もちろん愛宕を抱くのは紗由里のためであって、なにも誘惑されたからとかではないのだ。
自分の心理をそう言う風に納得させて、典太は咳払いする。こちらもたしかめなくてはならない。
「妖物にお詳しいようですが、学者をされていたんですか?」
「学者ではありませんが、そのようなものを。そのためにわたくしはこの世に居るようなものなのです。あなたの力になら、必ず」
「信じます。……それじゃ、目を閉じて」
典太の肩にしなだれかかった体を抱き、あごを持ち上げてくちびるを合わせる。
なんとも甘い味がした。気のせいだろうが、まるで糖蜜のような味のするくちびるだ。
「んふ……」
その甘さをもっと味わおうと、典太は舌を差し入れる。その感触に愛宕は軽く喘いだ。
すぐに体を熱く火照らせはじめた愛宕は、典太の首筋に腕を巻いて、情熱的なくちづけを繰り返す。興奮が高まるにつれ、逆に典太の口の中へ舌を入れ始めた。
愛宕の舌は人のよりもずいぶん長いようだった。典太の舌に巻き付くように動き回り、歯の裏や舌の裏、普通は届かないのどの方まで別の生き物のような動きで舐めまわす。
さすがに年の功か、巧みだった。
典太はその動きを受け入れるので精一杯で、翻弄され続ける。
しばらくお互いの口内を愉しんだ後、ふたりは顔を離す。
ずるっと典太の口から愛宕の舌が引き抜かれる。
そのままだらりと、あごまで届きそうな舌を垂らしたまま、愛宕は艶やかに微笑んでいた。
信じられないくらい色っぽい姿だ。
先程までの清楚な和装の美女は去り、男の精を吸い尽くす悪女がそこには居た。
「……素敵。でも、まだまだですよ」
「ふ、っ……」
背に手が回され、首筋から胸元へと舌が這っていく。
乳首を吸われ、典太は喘いだ。
一物はもう、爆発しそうなくらい反り上がって着物のすそをもちあげている。
典太の乳首を舌先で転がしつつ、愛宕がそそり立った一物を着衣の上からさすった。
それだけでびくびくと痙攣し、先走りの汁が注ぎ出るのがわかる。
愛宕は胸へ吸い付いた顔はそのままに、器用に典太の下帯をはずし、着物の帯を解いた。
「……袖を」
言われて典太は着物を脱ぎ捨て、全裸になる。愛宕が下半身へ顔を移動させた。
なまめかしいうなじが欲望の象徴の上で立ち止まる。
はぁっと吹きかけられた息に反応し、また典太の一物はびくりと反応した。
じっと見ている様子に、典太は訊ねる。
「どうですか……?」
「たくましゅうございます。……お父様よりも」
ちらりとこちらを見て、微笑んだ。典太はなんだかこそばゆい気持ちになる。
「それではご奉仕させていただきましょう」
愛宕が耳の上の後れ毛をかき上げた。
くっとその口が一物を飲み込んでいく。
あたかかくやわらかく、そしてどこまでも心地よい口だった。
典太は後ろに手をつき、美女が股間の上で奉仕する様を、じっくりと観察する。
くちびるをいっぱいに開きながらもすぼめ、多少苦しげではあるものの一生懸命に一物を飲み込み、首を前後させる。後れ毛がまた顔にかかり、片手でそれを押さえつけた姿もひどく扇情的だ。
年上の女に淫らな奉仕をさせている。そう言う興奮も覚える。
「いいです……気持ちいい――あっ」
うっとりと言った典太は、突然加わった舌の動きに思わず喘いだ。
愛宕の長い舌がねっとりとからみついて、まるで何重にもぐるぐる巻かれているような錯覚を覚える。活きのいい魚のように怒張の周りでその舌は踊り跳ね、ぐるりと巻きついては離れる。
これが人間の舌だろうか。
波打つように裏筋を何度も行き来したかと思えば、円を描くように怒張をもてあそんで、竿の部分に舌の根が当たっているはずなのに、雁首の裏の敏感ところをすぼめた舌先がくすぐっている。
妙技は言うに及ばず、絶技とでも言うべき舌技だ。
「あっぐ!」
竿の根元から先までを一気に舐められ、その瞬間に射精しそうになった典太は、とっさに愛宕の髪をつかんで動きを止めた。
ゆっくりとくちびるを離した愛宕は、唾液の垂れる口元をぬぐいもせず、淫らな目を向ける。
「もう降参ですの?」
「は――はい」
「これは全部お父様が仕込んだこと。父には及ばずと言う事になりますよ」
「う……助平親父め……」
「うふふ。では一度搾って差し上げましょう。わたくし、こんなことも仕込まれましたのよ」
艶然と言った愛宕が一物を口に含み、そのままぐーっと喉の奥まで飲み込んでいく。
喉ぼとけに先端が当たり、それでもさらに奥の奥まで怒張を侵入させる。
「うわわわ」
亀頭は食道に入り込み、ついに愛宕は立派な一物の根元までを口に収めてしまった。
敏感な部分全体を呑まれる、いままで味わったことのない感触に典太は背筋を震わせる。
ずるるるっと一物を引き抜いて口を離し、唾液にまみれたそれを愛しげにしごきながら、愛宕が感想を求めてくる。
「いかがです?」
「あわ、わかんなくらい、いいです……」
「ふふ。それでは、わたくしの喉の奥へ、注ぎ込んでくださいませ」
「ああ――や、やめて。ほんとに出ちゃいますって」
また飲み込まれていく感触に、典太は情けない声をあげて天を仰いだ。
まとめ髪の美女が、太くて長いものをありえない位置まで侵入させている。そんな倒錯的な感覚が欲望の源泉を刺激する。
深く飲み込んでは引き抜き、口と喉の境目の締め付けで典太の一物は愛撫され、倒錯感がそれに加わって、射精を促していく。
頭の中がきーんと鳴っているような快楽が、思考を奪い脳髄を沸騰させた。
「あ、で、出るっ!」
射精感が限界まで達し、典太はのけ反った。
ぐっと根元までを飲み込んだ愛宕の喉へ、脈打つ怒張が欲望の体液を流し入れる。
どくどくと、それは奔流となって愛宕の体内を汚していく。
「ああ、あああ」
信じられない。
苦しかろうと思って典太は身を引こうとするのだが、尻に手を回しぴったりと顔と腰をくっつけた愛宕は、射精に暴れる怒張を根元まで含んだまま離そうとしない。
いまこの瞬間、喉の奥では思うさま精液を飛ばし、怒張が荒れ狂っているのだ。
美しい横顔をわずかにしかめただけで愛宕はそれを受け止め、体の中へ直接白濁したものを受け入れていく。
それは目の前が明滅するような快楽を典太にもたらした。
「あう……あ」
射精が終わるころには腰に力が抜け、典太はそのまま仰向けにぐったりと倒れる。
途方もない快感だった。
これを仕込んだと言うなら、親父の勝ちだ。
ぼんやりした頭でそう思う。
一物を喉から抜いた愛宕が、ちゅるっと音を立てて尿道に残った精液を吸い取った。
魂を抜かれた蛇のように、ぱたりと暴れ馬は倒れ伏す。
「降参しますか? わたくし、まだ満足しておりませんのよ。これでは婚約者を救う品を与えるなど……」
「う……っく。とりあえず、僕の一敗は認めます……」
いつの間にか勝負になっているらしい。
浴衣の帯をはずし、徐々に裸体をさらしていく愛宕が、わざとらしく股の中心を開き気味にして座る。豊満な胸をこするようにして合わせ目を開き、その摩擦で揺れる乳房が行燈の光で障子に陰影を震わせた。
今日は二回出したと言うのに、典太ははやくも立ち直ってく感覚があった。
あんまり長い間溜め込んでいたせいだろうか。それよりは、愛宕の体をもっと味わいたいと言う率直な欲望が大きい。
全裸になった愛宕は、力を取り戻しつつある一物をつっと指でなぞる。
「もうひと勝負、なさいますか?」
「是が非でも……」
典太は体を起こす。
「うふ。楽しみ」
そのあごに片手をかけ、愛宕は後ろざまに布団へ倒れこんだ。典太も手に引かれるようにその上へ折り重なる。
また熱くくちびるを合わせているうちに、すっかり一物は固さを取り戻した。まだこの調子なら、二、三回できそうな勢いだ。
負けられないぞ、と妙な敵愾心が沸く。
「じゃあ、いきますよ」
典太は固さを戻したものの根元に手を添え、濡れて開く花弁へ先端を乗せた。
熱い泉へ浸したかのようだ。愛宕の秘所はとめどなく溢れる蜜で潤みきっていた。
まさに突き入れようとした瞬間、すっと横から手が伸びて、それを止められる。
「そちらもよろしいのですが……」
一物をつかんだ手は、花弁からつつつと下へ先端を持っていく。
そこには垂れた愛液で濡れる菊が咲いていた。
「こちらへくださいませ。これも、お父様に教えられた場所ですの」
「こ――こっちで?」
はやくも典太は機先を制されている。
にっこりうなずいた愛宕は、自らの秘所から蜜をすくい取り、水でもやるように一物へ振りかけ、ぬめりをよくしていく。
典太は唾を飲み込んだ。
さすがに尻の穴はやったことがない。しかしそこがどんな場所か興味がないわけではなかった。
愛宕の指に導かれるまま、菊の門をとんとんと叩いてこじ開け、その中へ入り込んでいく。
「――あぁ……」
亀頭を侵入させると、愛宕は熱い吐息を吐いて目を閉じた。
尻で感じているのだ。
ぞくぞくとしたものが典太の背から頭頂まで駆け上がる。
ずぶ、と竿の半ばまで差し込み、愛宕の反応がさらに強まったのを確認すると、一気に突き入れた。
「ああっ!」
まぎれもない快楽の喘ぎがあがる。
腰を引き、突き動かすたびにそれは何度も繰り返された。
尻で行為をしているのだ。
こんなところ、本当は交合のための場所じゃないのに。
愛宕はそんなところで感じている。
興奮が高まって押さえきれない。尻を犯すたびにあがる嬌声が典太の脳を熱く焼いていく。
「こ――こんなところで、するの、変ですか?」
喘ぎの合間に、愛宕が訊いてくる。
典太は少し考え、わざと冷たく答えた。愛宕はなぶられるのを期待している。そう直感したのだ。
「変ですよ」
「あっう、――さ、蔑まないでくださいませ」
「いやです。だって、尻の穴ですよ」
「あああ……いやぁ……」
「尻の穴に太いのを入れられて、どうしてそんなによさそうにしてるんですか」
「あふ、よ、よくなんて……ああっ」
「嘘をついて」
「あうっ」
「いいんでしょう」
「……は、はい」
「愛宕さんは変態ですね」
「いやっ。違います」
「尻でよがるなんて、変態だ」
ぎゅっと赤い筋がつくほど、乳房をわしづかみにする。
びくっと反応した愛宕の尻がすぼまり、一物をきゅっと締め付けた。
乳首をつねるようにひねりまわすと、やはりそのたび締め付けが強くなる。
ようやく典太は弱点を見つけた。
愛宕は被虐心の塊なのだ。すぐ泣いてしまう紗由里とは違う、責められれば責められるほど悦ぶ部類の人間なのだ。
「へ、変態なんかじゃありません――あはぁ!」
「へえ。じゃあなんですか、こっちの濡れ具合は?」
乱暴に花弁を掻き分け、泉の中へ指を差し込む。愛宕の体はその刺激で軽く跳ねた。
「ち、違います。違うんです」
「じゃあどうしてなんです」
「――それは……」
「白状するまで、指で前も犯してあげましょう」
「ふっうううっ」
差し込んだ指の薄皮一枚向こうに、尻に入れた一物が蠢いている。
女性のふたつの穴がこんなに間近であることははじめて知った。がんばれば、膣の中からつかめそうな気さえする。
「あああ、ごめんなさい、ゆるして! わたくし、わたくし」
「じゃあ言ってごらんなさい。自分がどこで感じるか」
「尻です! 尻の穴で感じます!」
「変態ですね!」
典太は腰の動きをさらに激しくする。ぱんぱんと肌がぶつかり合った。
膣に突っ込んだ指を抜き、それで乳房をつかんで、乱暴にもみしだく。
「い、痛いっ」
「痛いのがいいんでしょ?」
「い――いいです、ああ、もっとぉ!」
「肌の音が鳴るほど尻を犯されて、感じるんですか」
「ああああ! 感じます、いいの、果てる!」
「果てちゃうんですか? 果てていいんですか? 僕、尻で果てるところ、じっくり見ちゃいますよ」
「いやあ! 見ないで、お尻で果てるところ見ないでぇっ! あああ―っ!」
がくがくと足を痙攣させ、派手に愛宕は体をひねった。
逃れようとするかの動きを典太は押さえつけ、とどめの一撃を突き入れる。
「はあぁ、あああ!」
なりふり構わない喘ぎ声を放って、愛宕は絶頂へ達した。
ぎゅうっと痛いくらい尻が締まり、痙攣を始める。
同時に前の花弁から、ぷしゃっと勢いよく愛液が噴出した。
それは痙攣して震える菊門の動きに合わせて、ぴゅっぴゅっと射精するように典太の腹へ吹き上がった。
「ああ……あ……出、出てしまい……ました……」
呆然と天井を見つめながら、愛宕がつぶやく。
快楽に思考が流された表情で、ときおり体全体をびくびくと振るわせている。
典太はその体を抱きしめ、耳元でささやいた。
「今度は僕の勝ちです?」
「は……ふ……。ええ、もちろんです……」
「連戦といきましょう。僕、まだ果ててないんですから」
「あ――抜かずにもう一回なんて……。そんなにしたらわたくしは」
「もっとよがってください。こんなに綺麗でおしとやかな人が、尻に入れられて感じているなんて、ぞくぞくします」
「あ……」
その言葉に、きゅっと敏感な締め付けがあった。
典太はまだ相手が呼吸を整え終わる前に、律動を開始する。
「今度は僕が気持ちいいように、動きますから!」
「あ、は、ああ! 待って、わたくし、まだ」
「勝手に果ててしまうのが、いけないんです」
「そんな……はぁっ!」
膣とは違った濃厚な締め付けをしてくる尻の中で、典太は一物を思う様動かし始める。
包容力のある膣のひだに比べ、こちらは狭くてきつく、まさに犯している感じを味合わせてくれる。
「あああ、そんな、そんな」
片手を額に当てた愛宕が、我を忘れて叫ぶ。
「もっと、欲しいんでしょう」
「欲し――欲しいですけど、ああ、このままじゃ――」
「感じて、ください!」
しとどに濡れた秘所が、腰のぶつかるたびに蜜を溢れさせ、それが潤滑剤となって尻の中をより心地よい場所に変えていく。
典太は愛宕の首筋に顔を伏せ、夢中で腰を振った。
愛宕の手が頭を抱き、ぐっと力を込めてくる。
「ああ――また、また来てしまう! もう、だめ!」
嬌声が高く上がった。
その瞬間、手指の圧力が変化する。
ぎりっと鋭い物が典太の頭を押さえつけ、やわらかな肌の首筋は、急激にざわざわと蠢いた。
「な――」
思わず動きを止め、顔を離す。愛宕の手が目を覆った。
「み――見ないでください!」
その手は人の形から離れていた。爪は猛禽のように伸びて、手のひらにはうろこのようなざらつきが這っている。
こんな状態で見るなといわれても無理だ。典太は手首をつかんで目隠しをはずすと、息を呑んだ。
愛宕の顔はこめかみからあごにかけて、うろこで覆われていた。それだけではない。首から肩口、胸の脇など、随所が深緑に光っている。
耳の後ろからはにょっきりと角が二本生えていた。髪は黒から鱗と同じ深緑に染まり、まとまりがほどけて布団の上へばらりと散っている。
反らした目は金色に薄く光って、猫のような縦の筋を刻んでいた。
「愛宕さん……」
「う……」
金色の目からは涙がこぼれる。典太は呆然としたまま、無意識に手を伸ばしてそれを指ですくった。
「わたくしは人ではないのです。ご覧のように歪で不気味な姿。まだこれも本性ではございません」
ぽろぽろと涙をこぼし、告白する。
ならば何者なのか、と訊こうとして、典太は野暮だと思った。
狐狸に化かされていると言うのは、半分くらい正解だったのだ。
涙の流れた髪を、やさしく撫で付ける。
「どんな姿でも、愛宕さんは変わりませんよ。そんな姿でも変わらず美しいです」
はっと息を呑む気配。
恐る恐る、確かめるように言う。
「……本当ですか?」
「ええ。僕の婚約者の、次くらいに綺麗です」
「ふふ、ふっ」
軽く笑ったそのまなじりを、また涙の塊がころげていく。
微笑む典太の顔を鉤爪のついた両手ではさみ、
「やはり親子ですのね。お父様と同じことをおっしゃいます」
「……親父も?」
「はい。こんな姿のわたくしを綺麗だと。その言葉がどれほどうれしかったか。わたくしは人と交わらねば子を産めません。いままで幾人もの男がわたくしを抱き、そしてこの姿に恐怖して去りました。そのたびに深く深く、傷ついてきたのです」
そしてふっと遠くを見つめた。
「あの方はそんなわたくしを受け入れてくれた。こっちの方が燃えるとまで言ってくださった。人ではないわたくしをそう言って抱いてくれた――」
それは親父の趣味が常軌を逸しているだけの可能性があるが。
しかし爪を生やそうが鱗を生やそうが、愛宕の人間の部分は間違いなく美しい。それは確かだ。
親父も自分も、妖物と言うこの世ならぬものを扱ってきたおかげで、愛宕の変化にも驚きが少ないのかもしれない。典太は鱗の生えた額に口付けて言った。
「僕も今の愛宕さんを抱きたいな」
「……うれしいです。それでは、わたくしのこの体を使って存分に奉仕させていただきましょう」
体の下から身を起こし、逆に典太を布団へ寝かせた愛宕は、その脇へ座ってつっと爪を胸板へ這わせた。
その典太の下半身へしゅるりと何かが巻きついた。
それは愛宕の腰から生えた蜥蜴のような長い尻尾だった。
「わ!」
尻尾の先が器用に一物を巻き込んでいく。そこには鱗が生えておらず、ひやりとした肌の吸いつきが勃起を促した。まるで手のようにぎゅっと変幻自在な締め付けをしながら、竿を上下にこすり始める。
まさか自分の男根が尻尾でしごかれるなんて、想像したこともなかった。
典太は喘ぐ。
「す、すご……い」
「お気に召されました?」
尻尾の先へ唾液を垂らし、潤滑を与えながら愛宕は微笑む。また、目は欲情に熱く蕩け始めていた。
「わたくしの尻尾、気持ちいいですか?」
「いいです、すごい、た、たまりません……」
「ああ……もっと褒めてくださいませ。わたくしの歪な部分、嫌われつづけたところを……」
「あ――愛宕さんの、体に、歪なところなんか……あうっ」
「……そこまでおっしゃってくださるなんて」
てろっと愛宕は舌を吐く。
舌先がふたつに割れたその舌は、長く長く伸びて、上空から典太の亀頭をちろちろ舐めた。
「ふぎは、ほのようにひたします」
舌を出してしゃべれない愛宕はもごもごと言い、尻尾を解放して、代わりにその長い舌を巻きつけ始めた。
「うわわっ」
驚きの連続だ。
屹立した一物の根元から先までを蔦のように巻いて覆い尽くし、舌はきゅっと締まる。
割れた舌先が溝の辺りを刺激しながら、今度は舌で上下に竿がこすられた。
じゅるっと熱い舌が唾液を滴らせつつ、血管の浮き出たたくましいものを淫靡な拘束具のように締め付ける。
「あ、もう、なにがなんだか」
包み込まれているのは一物だけなのに、体中を舌が這っているような錯覚を覚える。背筋なんか鳥肌が立ちっぱなしだった。射精感がどんどん高まっていく。
「んふ。ひもちいいれふ?」
「気持ち、いい……! ああ、で、出そう」
「らひて」
愛宕はなおさら熱心に舌の愛撫を繰り返す。
巻き込んだ舌をぐっと上に引き寄せると、典太の一物の周りをぐるぐると回転しながら舌が登り、また根元まで上から巻きついていく。その動きのたびに典太は後頭部を布団に押し付け、強烈な快感に喘いだ。
「くうっ、出る!」
びくびくと怒張が射精の合図を始めると、愛宕は舌ごと一物を飲み込んだ。
その口の中で全体を愛撫されつつ、典太は射精する。
閃光がまたたいたように目の前がはじけ、あとはただ快楽の流れるままに任せ、愛宕の口へと放った。
びゅるびゅるとそれは続き、流し込まれたものを愛宕は残さず飲み干していく。
熱い奔流がひと段落し、一物が痙攣しながら精液の残滓を吐き出すようになると、今度は亀頭をちゅうと吸って最後の一滴まで搾り取り始めた。
その刺激に背を反らし、典太は全部を出し尽くす。
「はぁ……あ……」
もうだめだ。
脳髄がじんじんとして、思考もうまくまわらない。快楽と言う快楽を全部放ちきってしまった。
典太が放心していると、その胸の上を跨いだ愛宕が、自らの手で陰唇をくぱっと開いた。
とろりと透明な液を溢れさせるそこを呆然と見ていると、その花弁が口元へぐっと押し付けられる。
「んぐ……」
「お舐めくださいませ。わたくしの蜜には精力の源が含まれております」
典太は舌をその中へ差し込み、えぐるようにすくって蜜を口へ運んだ。
甘い。
人間のものとは成分が違うのだろう。
味わえば味わうほど、頭の奥がどんどんしびれてくる感覚がある。
夢中になって舐め取っていると、鱗の生えた太ももがぎゅっと典太の顔をはさんだ。
「そ、そんなにすると感じてしまいます……」
「んん……もっと」
「ああ……しようのないお方」
股を開き気味にし、奥まで舐められるように体勢を変える。
尻尾はまた典太の下半身へ伸び、立ち上がりつつある一物をこすり始めた。
不思議なくらいまた欲望が沸き起こってくる。
まるで今日初めて一物を触られたかのように、先程果てたはずのものは元気よく屹立していった。すぐにぴんっとそそりあがったものは、三度もその中身を吐き出したとは思えぬ固さだ。
それを尻尾でしごきつつ、愛宕はあでやかに目を細くする。
「どうです? こうやって一晩、二晩続けて交わることも出来るんですよ。体力も精力も、蜜を舐めれば無尽蔵に沸いてきます」
「う……それは魅惑的な……」
「うふふ。お望みになるなら――わたくし、夜明けまであなたの上で腰を振ってもよろしいのですよ? 何度も、何度もわたくしの中で果てながら、どこまでも続く快楽を……」
それはまさしく至上の悦楽だろう。
沸きあがる欲望のまま、いくらでも絶世の美女の中へ放ち続けられるのだ。
ぼんやりした頭でその悦びを想像し、それから典太は一生懸命打ち消した。
自分には帰るところがある。
なにをしにきたのか、見失ってはいけない。
わずかに理性が勝った。
「ぼ、僕は……」
すっと典太の上から股を離し、愛宕は爪の先でくちびるを押さえた。
金色の猫目が笑っている。
「言わないで。今夜はわたくしの恋人です。……では一度だけ、心を込めて……」
尻尾で一物の位置を調整しながら、愛宕はその上に股を下ろしていく。
典太に舐め尽くされた蜜は早くも泉を潤し、その中へ浸しこまれていく一物は、熱泉に差し込まれたかのように熱く蕩かされる。
「うっ……う……は」
小さく声をあげて、愛宕は根元までを受け入れた。
腰を上げ、また下ろす。自分自身の動きで愛宕は感じ、喘ぎ声を深くしていく。
腰が上下するたびに、ばたんばたんと尻尾が布団を叩いた。
典太は手元に転がってきた尻尾の先をつかむ。
「あっ」
びくっと体を反応させ、愛宕は動きを止めた。
尻尾をつかんだ瞬間に膣の中がきゅっと締まったのだ。典太はしばし考え、その先端をしごいてみる。
「あう……あ、あ」
吐息の熱さが増した。
明らかにここで感じている。
典太はしごく動作を続けながら言った。
「尻尾が感じるんですね」
「は……はい。とても敏感な場所です……」
「体のほかの部分で言うと、どこくらい?」
「尻尾の先の方は……ち、乳房の先と同じくらいに……」
「じゃあこれは、乳首なんですね」
緑色の先端を口元へ持っていき、そのまま口へ含む。
ちゅうちゅうと吸うと、愛宕は背を反らして喘いだ。
「ああ! そ、そんな……」
「親父はこんなことしました?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「そこが弱いことも、お気づきになられませんでした……」
「じゃあここを開発するのは、僕の役目ですね」
典太はまた先端を口に入れ、舐めまわす。尻尾の先はかなり細くなっていて人差し指くらいの太さ。くねくねとよく動き、たまに典太の舌とからみあった。
「あうう……」
愛宕が快楽を深めるたび、その体はざわざわと蠢いて、けものの度合いを深めていくようだった。
このまま完全なけものと交わることになっても構いはしない。典太は責めの手を緩めず、やわらかな胸をつかんだ。
「腰の動きがお留守ですよ」
「も、申し訳ありません……」
「ね、愛宕さん」
そのとき思いついて、典太はささやいた。
「僕の口よりいい場所があるでしょ」
尻尾の先をその付け根付近へ持っていく。
典太との結合部、その上の場所。
ひっそりと息づく愛宕の菊門へ、緑の先端を当てる。
びくりとその体が震えた。
「あ……いや……」
「どうして? 大好きなお尻の穴ですよ」
「は……でも、わたくし、自分でもそんなこと……」
「親父には色々開発されたのに、僕のはいやなんですか?」
「そ、そんなことございません」
「じゃあ入れて。愛宕さんのもっと淫らなところを見たいんです」
「わかり……ました……」
愛宕は自分で尻尾を動かし、そのよく締まった筋肉質な先端で菊門をこねるようにほじって、内部へ侵入させていく。
とたんに上半身は過激に反応して、どさりと典太の上へ倒れてきた。
「もっと。もっと奥まで」
尻尾を押して、さらに中へ入れさせる。
びくびくと震えながら、典太に抱きついた愛宕はその指示に従った。夢中で立てた爪が肩に筋を付ける。
鱗の並びだす手前、典太の一物と同じくらいの深さまで尻尾は挿入された。
典太は押し付けられた頭を撫でる。
「どうです?」
「こんな……こんなっ」
「いいんでしょ」
「はいっ……自分の体に、こんな愛し方があると……は、初めて知りました」
「僕もすごくいいんですよ。膣の中の男根が、薄皮一枚向こうで尻尾に押さえつけられてる……」
「ああ……わ、わたくし」
「僕が動きますから、そのままで。尻尾で自分を慰めてなさい」
「はい……ああ!」
下から腰を突き上げる。がばっと顔を上げ、愛宕は快楽によって流れた汗を飛ばした。
膣のひだはその向こうの圧迫でいよいよきつい。
愛宕も尻尾を尻の穴へ出し入れしているようだった。すぐ向こう側をずるずると這っているものが感じられる。
典太は鱗だらけの肩を下から抱きしめ、勢いよく腰を振り上げた。
ぱんぱんと肉のぶつかり合う音が響く。
障子に映ったふたりの影は、淫らに溶け合っていた。
「あああ、あああああ」
声帯が変化し始めているのか、くぐもった声で愛宕は喘ぐ。
耳の後ろの角は長く伸びて、まるで鹿の角のようだった。
足と手はもう全体が鱗に覆われて、典太の肌にざらざらと当たり、痛いくらいだ。
そんな異形を抱いているのに、典太に恐怖心は沸かなかった。
むしろどんどん本性をさらしていく愛宕が愛しく感じる。
典太は責めの調子を上げていく。
「もっと、見せて、ください! 愛宕さんの姿」
「だめ、だめですっ! ああー! こんなの、だめ」
「お尻に突っ込んだ尻尾で、僕を、感じますか!」
「はい、太くたくましいものが、わたくしの、中をつらぬいていく様子が、ああん! ああ!」
愛宕は忘我に達しつつある。
典太ももう少しで絶頂を迎えそうな気配を感じていた。
肩から背中へ手を回し、豊かな乳房を胸板でつぶすように抱きしめる。
背筋に沿ってひれのような三角の突起が並んでいるのがわかった。
愛宕は一体何者なのか。
ふとそんな想いが沸くが、すぐに快楽の奔流が瑣末な思考を押し流していく。
いつの間にか愛宕も自分から腰を動かしていた。
典太が突き上げる瞬間に合わせ、腰を下げる。そうすることでより深くに典太を感じようとしている。
溢れた蜜ははずかしげもなくあたりへ撒き散らされ、お互いの陰毛をしとどに濡らすどころか布団までも染め上げていた。
「はあっ! ああっ! はうん! ううあああ!」
一段と叫び声が高くなって、典太は愛宕の絶頂が間際であることを悟った。
自分も腰の動きを速め、快楽を加速させる。
「出しますよ、このまま!」
「こ――子の宮に、くださいませ! はああああっ!」
典太に抱きしめられたまま、愛宕の体が反り返る。
膣圧が痛いくらいに高まり、一物の根元からしごきたてるように蠕動する。
それに導かれるように典太は放った。
愛宕の膣は食物を嚥下するように、放たれた精液を子宮へと運んでいく。
同時に尻尾が菊門から飛び出すように引き抜かれ、それは大きく布団を叩いた。
典太の体を抱こうとした愛宕は、最後の理性を振り絞ったか肌に爪を立てることは避け、布団をつかむ。鉤爪は生地を引き裂き、中の綿を散らせる。
「あああああ!」
なにもかも忘れたかのような絶叫を上げ、愛宕は背を反らしたまま何度も痙攣した。
その痙攣に合わせて、典太も快楽の塊を放ちきる。
子種がたっぷりと子宮へ与えられたことを感じ、愛宕はひくひくと最後に体を震わせると、がっくりと倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、典太はのしかかってきた愛宕の体から這い出す。
背中や肩がひりひりと痛んだ。無我夢中で引っかかれた場所が血をにじませている。愛宕と交わるのも命がけだと、ひとり苦笑する。
布団に座って呼吸を整えながら、気を失ったように伸びている体を観察した。
頭には立派な角。髪は小麦色に変化し、背から見ると緑一色の体に散っている。
背筋には三角の突起が並び、それはずっと尻尾まで続いていた。
尻はもう尻尾とほぼ融合し、境目がよくわからない。
てのひらや足の裏も大きさを変え、しかも間接の位置が変化しているようだった。鳥のように親指が手首の位置にある。爪先立ちで歩くけものの特徴だ。
そんな姿を眺めていて、想い起こすのはひとつしかなかった。
「竜か……」
そんな話を聞いたこともある気がする。
竜母神は人と交わり子を成すと。
「あ……」
思い切り、典太は中に注ぎ込んでしまっていた。
だいじょうぶだろうか。
しかし妊娠してもまあ、責任を取れとは言うまい。
なんだかひどく眠い。
すべてが気だるくなって、典太は愛宕のとなりへ横になった。
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