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其の五 愛宕の竜 四
 気がつくと小枝は、真っ白い空間に浮かんでいた。
 全裸で体を大の字に伸ばし、なんの支えもなく宙を漂っている。
 引き裂かれんばかりに犯された体も、狂いそうな媚液の影響も、いまはもうない。
 しかし全身が弛緩して力が入らず、意識もぼんやりと薄霧がかかったままだ。
 動く気力も無く、小枝は真っ白の世界で流されるままだった。
「うふ。小枝、おはよ」
 いつの間にか隣に紗由里が立っていた。
 なまめかしく微笑むその顔へ、小枝は力の無い視線を向ける。
「姉様……」
「おはよう、小枝」
 反対側から、また紗由里の声がした。
 小枝が首を向けると、そこにも紗由里がたたずんでいる。
 もう一度首を元に向け、微笑む紗由里の姿を確認してから、小枝は混乱した声をあげた。
「……え?」
 左にひとり、右にもひとり。つまり紗由里がふたりいる。
 どちらとも同じような笑みで、小枝を見下ろしている。
「おはよう」
「おはよ」
 次々と、どこからともなく紗由里が現れはじめた。
 何人も何人も。
 異常な光景にようやく小枝は意識がはっきりしてきた。
 相変わらず体に力が入らない。
 あっと言う間に小枝は紗由里たちに囲まれてしまう。
「な……なに?」
 なにをどう言っていいかわからず、小枝は意味のない疑問符をつけるので精一杯だった。
 最初の紗由里が、小枝の体に指を滑らせながら言った。
「小枝、私たちがひとつになれば、通路が完成するの」
「……通路?」
「この世とあの世、無と有の幽冥境がつながるのよ。有るも無いも意味が消えて、溶け合っていくの。素敵でしょう?」
「す……素敵なもんか。お前、もう姉様じゃないな」
「どうしてそんなひどいこというの? 私も――」
「私も……」
「私も」
「私も」
「私も」
「みんな紗由里。あなたの姉様よ」
 口々に言われて、小枝は眩暈がした。一瞬気を失いそうになる。
 置かれている状況について考えると頭が変になりそうだった。
 どうせなす術はない。
 現実をどうしのいでいくかの方がはるかに重要だ。
「だからみんな、あなたとひとつになりたいの。いいでしょう?」
「小枝の中に入れさせて。この張り詰めた肉の塊を」
 紗由里が自らの男根を撫でさする。
 ようやく気づいたが、すべての紗由里が腹につかんばかりに怒張をたぎらせ、欲望に潤んだ瞳で小枝を見つめていた。
 男根の大きさも普通の男のものの三倍はありそうだった。軽く一尺を越えている。
「いや……いや」
 首を振って拒否する。
 さっきまで巨大な触手を受け入れていたことを忘れ、小枝は恐怖した。そんなものを突っ込まれては股が裂けてしまう。
 安心させるように、やさしく髪が撫でられた。
 ひとりが耳元でさとすようにささやく。
「だいじょうぶ。これはひとつになるための儀式。痛くなんかないのよ。それどころか……ふふ。あとはお楽しみ」
「だって、全身が性器になるんですもの」
「私が男根でつらぬいたその場所が交合するための場所になるのよ……」
「い、意味がわからない」
 かろうじて虚勢をはり、小枝は反駁する。
 ふたりの紗由里が、目配せしあって小枝の足元へ立った。
 足首をつかみ、足の裏を男根へこすりつける。
「実際やってみればすぐにわかるから」
「ほら、こう言うことなの……」
 ふたりは股間のものをさすりながら、足の裏へ切っ先を添える。
 それがぐっと押し当てられ――そしてずぶりと足の裏へ埋没した。
「っ!?」
 同時に小枝は動かない体をわずかに反らせて反応した。
 まるで膣の中へ男根を入れられたかのような快感が、そこからほとばしったのだ。
 足の裏に男根が刺さる。それだけでも異常なのに、そこが強烈な快感をもたらしてくる。
 小枝は理解できないまま大きく口を開けて喘いだ。
「あ……あ……あ……」
「気持ちよさそうね」
「よかった」
 それぞれ足を股間にあてがい、ふたりの紗由里は潤んだ瞳で見つめ合う。
 そしてふたりとも、膣の中へ突き入れるのと同じ動きで腰を振り始めた。
 足の裏に裂け目も穴も生じていない。
 男根は肌へ溶け合うように突き刺さり、ずるっと抜き出されて、また突き入れられた。
 ぱんっぱんっとはしたなく股間に足裏を打ち付けはじめる。
 訳が分からずただ喘いでいた小枝は、やがてその快楽の大きさに翻弄され始める。
 足の裏が秘所の代わりをしているのだ。それも、両方が。
 本物の秘所からはなにも入れられていないにも関わらず、だらだらと悦びの涙が垂れ始めた。
「見て……小枝。あなたはあんなところで交わってるのよ」
 後ろに回った紗由里が、小枝の上半身を支えてよく見えるように起こす。
 細い足首を両手でつかんだ紗由里たちは、その欲望のおもむくままに巨大な男根を根元まで差し込んでは抜いていた。
「ああああ」
 なにをされているのかはっきりと認識して、小枝はおののく。
 こんなの悪夢だ。
 自分の体まであらぬものに作り変えられた気がして、心の底から恐怖が沸きあがる。
 しかしそれは、すぐに熱い快楽の昂ぶりに押し流されてしまった。
 のどからは我知らず、さえずるような甘い嬌声が漏れている。
 足の裏を犯され、しかも感じてしまうなんて。
 そう言う被虐的な思いも小枝の体を昂ぶらせる。
「ああっ、もう果てそう」
「私も……。先に、いい?」
「ええ、はやくしてね」
 ひとりが体を離し、びくびくと跳ねる肉の棒をさすりながら、小枝の下腹をまたいだ。
 お腹の上に射精しようと言うのか。
 屈辱感をこらえ、小枝はくちびるを噛む。
 巨大な男根はしかし、予想に反してその上空に留まらず、ずぶりと肌へと埋め込まれた。
 下腹へ太くて熱い物が差し込まれている。
 痛くもないし血も出ていないが、その様子は恐怖をあおるのに充分だった。
「だいじょうぶよ……だいじょうぶ」
 歪なものを突っ込んだ紗由里は、やさしくなぐさめながらも自らの欲望をしごく手を止めない。やがてびくっとその体が震えた。
「うっ……し、子宮の中に直接出してあげるね」
 男根の先端は、下腹から子宮へ差し込まれていたのだ。
 小枝は反射的に拒否する。
「いやっ! やめて、出さないで」
「もうだめ。もうおそいの。はぐっ!」
 うめいた紗由里の腰が揺れ、男根が大きく脈打った。
 血管が不気味なくらい浮き出て、それはどくどくと跳ねるような脈動を繰り返す。
 熱い物が腹へと落ち込んでいくのが感じられた。
 小枝は震えながら下腹に刺さった男根が射精する様を見つめる。
「あああ……いやぁ……」
「あはっ、いい。小枝の子宮に出してるの、出してる……」
 男根をしごいて射精を続けながら、恍惚と紗由里は言った。
 永遠かと思うほど長い時間が過ぎて、ようやく射精は止まる。
 下腹から抜き取られた瞬間、その結合部は水面のように揺らいだ。
 いったいそこはどんな理屈で男根を受け入れるのだろう。
 呆然とした頭がそんなどうでもいいことを考える。
 どろどろと、子宮から逆流した精液が、膣を通って陰唇の割れ目から零れ落ちていた。
「つぎ、私の番なんだからっ」
 その間も足の裏を犯していたもうひとりが、離れたひとりと入れ違いに小枝の上にまたがる。
「もうやめてえ……」
 泣き声の懇願は欲情に蕩けた耳には届かない。
 長く歪な肉棒をしごきながら、その紗由里は小枝の体に視線を這わせる。
「どこに出そうかな……どこに……」
 やがて恐怖にひくつくのどにそれは向けられる。
「うん。ここがいい」
「あ……」
 胸の下をまたいで、鎖骨の中心あたりから、斜めに紗由里は男根を差し込んでいった。
 それは小枝に快楽をもたらしながらずぶずぶと沈み、そして急激な違和感をのどの奥へ与える。
「あごっ!?」
 男根が食道に差し込まれたのだ。
 胸元から舌の付け根あたりまで、いっぱいに紗由里が詰まっている。
 息が出来ない。
 窒息する恐怖に小枝はあばれる。
「だから、だいじょうぶよ。ここじゃ呼吸なんていらないもの。あるのはただ快楽だけよ」
 耳元でささやく声。
 たしかに呼吸をしなくても苦しくない。
 安堵で全身が弛緩する。
 紗由里は食道を膣のように使いながら、腰を振った。
 喉ぼとけの下から上あごまでを、思う様に亀頭が行き来している。小枝が嚥下しようとすると、それが締め付けとなって心地いいのか、びくんと熱く震えた。
 奥の方から口へと男根が持ち上がってくるたびに、押し出された空気がのどを震わせて、くぱっくぱっと奇妙な声を小枝に吐かせた。
 なんだか間抜けな声だ。
 小枝は笑いそうになる。
 その瞬間、のどの奥の異物が熱い塊を吐き出した。
 普通口からのどへと入っていくものが、逆にのどから口へとほとばしった。
 ふるふるとした塊のような精液が、奥から奥から口の中へ溢れてくる。
 飲み込むことは出来ないから、出された精液は溜まりきらなくなると、だらしなく口の端から垂れ始めた。
 まだ子宮に出された精液もその中に納まりきっておらず、秘所から垂れ流しの状態だ。
 上の口からも下の口からも精液を吐きながら、小枝はなすがままに犯された。
 たっぷりと出したいだけ出すと、紗由里は食道から男根を引き抜いて離れる。
「……は……」
 ようやく開放された。
小さく喘いで小枝は周りを見回した。
 周りを取り囲んだ紗由里は、みな一様にてらてらと男根を先走りで光らせ、情欲のまなざしを小枝に向けている。
 その全員と小枝は眼があった。
 いまからまだ、これだけの人数に犯され続けるのだ。
 あの数の男根を相手に、体中を性器代わりにされて。
 むちゃくちゃにもてあそばれるのだ。
「あふっ……ふふふ……」
 小枝は笑った。
 張り詰めていた脳裏の糸が切れてしまった。
 精神の崩壊を免れるため、理性を脱ぎ捨てて小枝は状況を取り込んだ。
 あきらめたら何も怖くない。
 いっしょに愉しんでしまえば苦しいこともない。
 ここにいるのは、みんな姉様なのだ。
「あはっ……ちょうだい、もっと……」
 手近な男根をつかんで、口元へ運ぶ。亀頭をちゅぱちゅぱと舐めると、居並ぶ紗由里たちはいっせいに、花が開くように微笑んだ。
「やっと姉様を受け入れてくれるのね……」
「うん……うふっ」
「うれしい小枝。じゃあほら、こうしてあげる」
 背中に紗由里が抱きついてくる。
 後ろからそのまま下半身を押し付け、男根を差し込んだ。
 それは小枝の体をつらぬいて、背中から臍へと突き抜ける。
「はあっ!」
 強烈な快感に小枝はにぎった男根を手放し、まだ精液の混じる涎を吐いた。
 すぐさま自分の腹から生えたそれを両手でつかみ、ぎゅっと力を込めてしごいていく。
 後ろの紗由里は派手に喘いだ。
「ああ――小枝、そこまでしてくれるなんて」
「いいのか、姉様ぁ……」
「いい。いいよ……いっぱいしごいて。もっともっと」
「ずるい。私も」
 背後にもうひとり割り込む気配。
 突然小枝は、首の裏から突き込まれ、口から男根を吐き出した。
「えぐっ!?」
 さすがに目を見開いて硬直する。しかしそれでも、感じるのは苦痛ではなく、脳髄が犯されるような甘美な快感だった。
「んぐぐぅ」
 頭をつかんだ紗由里が、首の裏を基点に律動し始める。
 奇怪な舌のように男根が口から出入りしていった。
 小枝はその男根も刺激しようと、舌で裏側をねぶり、くちびるをすぼめて締め付けを与える。
 反対側からの口淫だった。
「んふっ、んえう……」
 涎が零れ落ちるのも気にせずに、口中の力を使ってありえぬ位置から挿入された男根を吸い込み、舐めすする。
 その間もずっと、腹から生えた一本をしごくのはやめない。
 やがてその紗由里が、こらえきれぬように叫んだ。
「小枝、出ちゃうう!」
「ああ! 私も、私も――」
 同じように、首の後ろから犯す紗由里も叫んで、そして放った。
 口と腹、両方から突き出た怒張がびくびくと震え、射精を開始する。
 小枝は自分の口から精液が飛び出していく様子を、うっとりと見つめた。
 腹の男根も力いっぱいこするたびにどくんと脈動して、先端の溝から白いものを空中に放り投げていく。
 二本の男根は、繰り返し脈打って、ようやく果てていった。
 欲望の吐き終わった物がずるりと引き抜かれる感覚に、そのまま魂まで引き出されそうになって、小枝は一瞬白目を剥く。
 気を失いそうになった小枝を覚醒させたのは、紗由里の手だった。
 三人ほどがぐったりとする小枝の体に取り付き、それぞれ胸と股間へ手を当てている。
「入れられてばかりじゃ不公平だもんね」
「小枝も入れたいでしょ? どう?」
 にこやかな問いに、小枝は焦点の定まらぬ目を向けて答える。
「入れ……入れたい……」
「うふっ。じゃあ私と同じもの生やさないとね」
 ぐっとその手が、乳首の上から胸の中へ埋め込まれていく。
 がくがくと小枝は痙攣し、舌を突き出してその異物感に耐えた。
 胸の中で手が探るように蠢いている。
 それはつかみ上げるような動作で、ずぼっと胸からなにかを引き上げた。
「あああ――うそ……」
 それは男根だ。
 びくびくと震え、固く屹立するそれは、紗由里のものと比べても遜色ない立派な一物だった。
 そんなものが乳首から生えたのだ。
 もう片方の胸も、ずるっと引き抜かれて、男根がそそり立つ。
「こっちもね」
 陰部に手を差し込んだ紗由里が、そこからまた巨大な異物を引き抜いた。
「ひあああっ!」
 三本目の男根が股間から引き抜かれ、その刺激に耐え切れず小枝は絶頂に達する。
 びゅるびゅると三本ともが射精した。
 それは頭の中が真っ白になるほど刹那的で強烈な快楽だった。
「ああああああ」
「出してる出してるっ。ね、初めて射精する感じ、どう?」
「いいでしょ、とても」
「次は私たちの中で出してね」
 まだ精液の残滓を吐く男根をつかみ、紗由里が笑った。
 ふたりが背中合わせに小枝の胸の上に乗り、ひとりが股間の上で騎乗位の体勢を取る。
 三人の紗由里は、目配せしあって同時に小枝の男根を挿入した。
「せーのっ」
 ずぶっと三本とも、秘所の熱いぬめりに呑まれていく。
「あはああぁ!」
 小枝は味わったことのない感覚にのどを反らして嬌声をあげた。
 胸も、股間も、熱くぬるぬるしたところで溶かされるようだ。
「動くよ」
「私も動く」
 胸の上に腰掛けるようにしたふたりが、杵つきのように交代に腰を持ち上げ、下ろしていく。
 乳首がわりの男根がその中で締め付けられ、粘膜にこすりたてられていく。
 股間のひとりも上下運動を開始した。
 入りきらないとも思える怒張を根元までずっぽりと秘部へ収めて、ひざが伸びきるまで立ち上がり、そして座り込む。それでも亀頭の付け根くらいが紗由里へ入り込んだままだった。
「はあっ、はあ」
 淫靡な屈伸運動を始めた股間の紗由里のせいで、小枝の快楽はどうしようもないほど高まっていく。
 男根が刺激される感覚に慣れていない小枝は、はやくもまた絶頂へ向かっていった。
「姉様、あたしまた果てるっ」
「いいのよ、いくらでも果てて」
「たくさん出すのよ」
 胸のふたりもわざと膣を締め付けて、小枝の射精を促した。
 快楽に抗えず、小枝は二回目を放つ。
 目の前で星が散っていくようだった。頭の中から血液が全部、股間と胸へ流れて出て行くようだ。
「素敵、素敵……」
 奔流のような快感に流されるまま射精する小枝は、うわごとのようにつぶやく。
 その頭がぐっと後ろからつかまれた。
 快感に打ち震える瞳を向けると、男根をひくつかせた紗由里が額の上へそれを乗せてきた。
「小枝、自分ばっかり気持ちよくてもいけないのよ」
 乗せられた男根が移動し、脳天へ当てられる。
 なにもかも受け入れた小枝も、さすがに慌てた。
「待って姉様、そんなところ入れないで」
「ここが一番いいのよ。脳髄で交合されるの。想像してみて、小枝……」
「あああやめてぇ」
「いやよ。ほら、入った――」
 ぐぬぬ、と脳天から焼け杭のようなものが侵入してくる。
 それは快楽を受け取るべき脳を冒して、想像を絶する刺激を小枝に与えた。
 侵入してくるものが小枝の思考をすべて真っ白に塗りつぶしてしまう。
 のどから絶叫のような嬌声がほとばしった。
「ああああーっ!」
 収まりかけていた射精が、ふたたび跳ねるように開始される。
 膨張した男根によって、それを受け入れていた三人も体を震わせた。
「わ、私も……果てちゃう……」
「いっしょに果てましょ、ね?」
 胸の上のふたりは背を曲げてくちびるを合わせ、舌をからめあった。
 射精する男根は激しさを増し、子宮へと精液を叩きつけて、膣の中を荒れ狂っている。
 その感覚がふたりを絶頂へ導いた。
「ああ、そんなに出されたら私だって――」
 股間で大きな上下運動を繰り返していた紗由里も、射精の勢いに飲まれて自らの男根からも放ち、欲望のままに果てていく。
「あはぁ、あああ!」
 小枝は脳天から犯されつつ、この世ならぬ快楽を味わって絶叫を続けていた。
「いいでしょ、いいでしょ」
 こめかみを両手で押さえ、紗由里は頭の中へ思うがままに男根を突きいれ、腰を振るっている。
 果てた三人が体から降り、すぐにまた違う紗由里たちが小枝をむさぼり始めた。
 今度は胸の両脇からふたりが男根を差し込み、乳房の頂点から伸びる異物を口に含んで口淫しはじめる。
 太ももにもそれぞれふたり、足と腕にもまた紗由里が取り付き、あいている尻や腹の一部へも、なんとか屹立した肉の棒を収めようとのしかかってくる。
 体中が性交の場所にされてしまった。
 全身がはげしく突かれ、かき回され、ただ快楽だけが怒涛のように押し寄せる。
 脳天の紗由里がいよいよ動きをはやめていく。
 小枝の思考はすでに破り捨てられ、その跡にはただ真っ白な闇が快楽のままに存在した。
「小枝、出すよ、頭の中に出すよ!」
「はああぁー!」
 その宣言にも答えられず、ただ嬌声をあげて応じるだけだ。
 ひときわ熱いものが脳髄へと流し込まれてきて、ついに小枝は意識を失った。


***


 屋敷のちかくに戻った典太は、夜の闇のなかでも白く薄く輝く奇妙な霧がそのまわりに渦巻いているのを見て、息を呑んだ。
「これは……!」
 時折その中から雷のような筋が閃いている。
 遠巻きに屋敷を囲んでいる使用人たちのひとりが典太を見つけ、駆け寄ってきた。
「典太戻ったか!」
「一体なにが起こったんです?」
「わかんねえ。お館様と紗由里様が寝ている離れから突然白いものが溢れ出してきたんだ。おれたちは驚いてすぐ逃げ出したから無事だが……」
「ふたりは、あの中か」
 視線を強くして、異様な霧の漏れる門を睨みつける。
 いらない荷物を打ち捨てると、すぐさま典太はその門めがけて走り出した。
 慌てた使用人が叫ぶ。
「いっちゃいけねえ!」
「僕はこのために帰ってきたんだ!」
 叫び返し、霧の中へ飛び込む。
 まるで体に粘りつく糸のような霧だった。
 掻き分けるように両手を動かしながらでないと、うまく前にも進めない。
 水中を泳ぐようにして典太は庭へたどり着く。
 瘴気のような白い霧はますます濃く、まわりもよく見えない。特に離れの付近は、とりもちに呑まれたように真っ白だった。
「くっ……」
 まずは伝助を探さないと。
 あれでも竜の幼生、愛宕の子だ。
 竜は魚のような姿から徐々に試練をこなし、進化とも言うべき成長をするらしい。
 愛宕の話した内容では、おそらく伝助は滝登りを終えただけの第二段階。とてもこの状況を打破する力はないだろう。
 愛宕の目玉には一気に成体へと成長させる効果があると言う。
「伝助ー!」
 こんなに一生懸命、あの間抜け面の名前を呼ぶのは初めてだ。
 なんとか小枝の部屋のほとりの池へたどりつき、その中を覗くが、伝助の姿はなかった。
 まさかこの状況に脅えて屋敷から逃げ出したのだろうか。
 敵わないなりに立ち向かっているに違いないという想像をしたのが間違いだった。戻らないといけないが、体はなにかに捕らえられたように動きが鈍くなりつつある。
「くそっ」
 悪態をついたそのとき、どこからか潰れた蛙のような声がした。
「ゲコ」
「――伝助か!? どこだ」
 のっそりと、小枝の部屋からまんまるな瞳が顔を出す。典太はわめいた。
「お前そんなところで――いやいい、ほらこれ、いいもの持ってきた」
 懐から大事に包んだ目玉を取り出す。
 差し出そうとする手が、急に引っ張られたように動かなくなった。
 震える指先をぎりぎりと動かし、包みを解く。
 きらりと白い闇の中、金色の瞳が輝いた。
「伝助、行くぞ」
 手首だけの動きで目玉を放り投げる。
 放物線を描いたそれは、見事に伝助の鼻先へ落下し、魚のような竜はぱくりと口を開いて飲み込んだ。
「うわ!?」
 とたんにその体から、金色の光りが溢れ出す。典太の体にからみついた白い闇が、一気に消し飛ばされた。
「ほ、本当に――」
 ここまできても半信半疑だった典太は、輝きながら姿を変える伝助を見て度肝を抜かれた。
 不恰好な体は長く太く伸び、ひれだった足は立派な爪をそなえていく。まんまるの瞳はまぶたを備えた切れ長の眼へと変化し、その上辺りから竜の象徴たる角がにょっきりと伸びていった。
「しゃああああ」
 吹き上げるような声を一声上げて、伝助は四肢で庭に降り立つ。
 思ったよりは小さいが、それでも体高だけで典太の身長ほどあった。竜と言えば蛇のような姿を想像しがちだが、伝助は馬のように長く力強い足を持ち、太い首も短めの尻尾も草食蹄類を思わせる。あの間抜けな魚が、一瞬でよくもここまで威厳を備えたものだ。典太は感心した。
「礼を言うぞ、典太」
 太く響く声で伝助は言った。言葉を得たらしい。
典太は肩をすくめて応じる。
「礼なら愛宕さんに言ってくれよ。僕は運んだだけだ」
「ふっ。あいかわらずだな。……ここから先はおれの役割だ。お前は戻って待っていろ」
「僕も行く」
 じろり、と金色の大きな眼が典太を見据えた。口の端を動かすようにしながら伝助は言う。
「行けば戻れんかもしれんぞ」
「なら戻らないだけだ。戻るときはふたりを連れて帰る。邪魔になるなら、もちろん遠慮するけど」
「……邪魔にはならん」
 伝助は目を逸らす。
 その様子から、典太は伝助が自信を持てずにいると察した。
 成長の段階をいくつも段飛ばししたのだから、自分の力量も測れていないだろう。稚児が急に侍へ成長し、いまから果し合いをしようと言うのだ。
 そう一気にうまく解決するものじゃないらしい。
 愛宕が自信ありげだったことだけが、唯一心強いが――。
 考えても仕方ない。典太は白に塗りたくられた離れを指差す。
「行こう。あそこだろ?」
「おそらく。おれが道を拓く。あとをついて来い!」
 ざぁっと下草を揺らして伝助は地を蹴った。
 雄大なけもののあとを追って、典太も走り出す。
 大地を駆けるその姿は、やはり竜と言うよりも麒麟のような荘厳さだ。金色の輝きが燐粉のように散るたび、白い闇は掃き散らされるように消える。
「ジャッ」
 ひとつ吼えて、伝助は離れへと頭から飛び込んだ。
 伝助の突っ込んだところには、丸く金色の輪があく。典太もそこへ、ままよと走りこんだ。
 その瞬間、光景が一変する。
 そこは見慣れた離れの中ではなく、ただ真っ白いだけの空間だった。
 覚えがある。これは、紗由里を助けるために立ち入ったあの世の光景だ。
 伝助がとなりにいた。
 匂いを嗅ぐように有るのか無いのかわからない地面へ鼻を向け、そして走り出す。
「こっちだ」
 慌てて典太もそれに続いた。
 風景のない世界は、自分の速度感をまったく狂わせてしまう。
 一生懸命足を動かしているのに、止まっているような感覚しかない。前を走る伝助の波打つ体だけが、唯一進んでいることを教えてくれる。
 突然、ばりばりと引き裂くような音を立てて、伝助の前方が布を突き破るように歪んだ。
 典太がそこへ走りこむと、ようやく色のついたものを目にすることが出来た。
 いくつもの肌色の裸体が空間へ浮かんでいる。
 それは全部紗由里だった。
「え――」
 驚きで声が出ない。
 紗由里たちも驚いている様子だった。巨根を生やした股間を隠しもせず、こちらを見つめている。
 紗由里たちに取り囲まれた中に垣間見えたのは、ぐったりとする小枝だった。
 それを見た瞬間、典太は我に返る。
「小枝様!? し、死んでないかな」
「……だいじょうぶだ。気を失っているだけのようだ」
「よかった。じゃあ小枝様はいいとして……紗由里様はどれを連れて帰ったらいいんだ」
「馬鹿者。全部偽者だ」
 伝助がうなる。
 あやかしを見破る力は、さすがに竜と言うところか。
 そうこうするうちに、向こうも状況を理解したようだった。小枝の体から離れ、こちらへ向き直る。
 その中のひとりが言った。
「典太……迎えに来てくれたのね」
「――聞く耳を持つな」
 伝助が目を向ける。典太はうなずいた。
 紗由里たちは感激した面持ちで、口々に言葉を発し始める。
「ありがとう典太」
「いっしょに行きましょう」
「さあ、こっちへ」
「私と愛しあいましょう」
「ほら……早く」
 手を差し伸ばし、満開の花のように紗由里たちは笑った。くらっと眩暈がする。典太は頭を振ってそれに耐えた。
 頭では理解しても、どうしてもそこにいるのは紗由里だと思ってしまうのだ。
 愛する女性が何人も何人も自分を誘っている。
 脳内に矛盾が発生して思考が止まりそうだった。
「妖物め。紗由里を汚すとは許せん!」
 吼えた伝助が走り出し、紗由里へと突撃した。
 突進する巨体にぶちかまされ、ひとりが宙を舞う。それは途中でふっと呑まれるように消えてしまった。
「きゃあああ!」
「やめて伝助!」
「助けてっ」
 悲鳴を上げながら逃げる者。
 うずくまって泣き出す者。
 怯えきってすくむ者。
 伝助は美女を喰う大蛇のように紗由里たちへ襲い掛かり、牙や爪の餌食にしていく。
 致命傷を負った紗由里たちは、白く体を濁らせて消えてしまう。
 相手は妖物とわかっていても、正視に堪えがたい光景だった。
 それこそが相手の取る防御手段なんだろうが――。
 典太には伝助と同じことをしろと言われても、とても無理だろう。
 伝助にしても同じ気持ちかもしれない。一番かわいがっていたのは紗由里なのだ。
 そう思うとひどく哀しくなった。
 この状況で、やめてくれと叫ばないことだけが、唯一典太に出来ることだった。
「伝助……どうして……」
 涙を流しながら地面へ沈むように最後のひとりが溶けていく。
 見上げるその顔を頭から踏み潰し、伝助はしゅるる、とうなった。
 典太は吐き気をこらえながら立ち尽くす伝助に近づき、その背を叩く。いまはとにかく小枝の救出だ。見たところぐったりしているだけで、なんら外傷も見受けられない。
 裸身を抱きかかえると、腕の中で小枝は薄く目を開けた。
 か細い声で信じられぬものを見たように言う。
「典太……本物か?」
「ですよ」
 典太は目元に落ちた髪を払ってやる。とたんに小枝は涙ぐんだ。
「お前……いつからこんな格好のいい役になったんだ」
「いやまあ」
「気取っている場合じゃない。様子がおかしいぞ」
 伝助がそう告げたとたん、白い世界を地揺れが襲った。
 地揺れと言うべきか、空間そのものが揺れているのだ。水中で波に翻弄されているようである。典太は必死で小枝を落とさないように耐えた。
 そんな中でも平然とした様子の伝助が冷静に状況を分析する。
「世界の均衡が戻り始めている。第一の目的は達したが、まずいな。通路が閉じるぞ」
「なんだって?」
「お前たちふたりは先に戻れ。おれは紗由里を探す。このまま皆で残ることは出来ない」
「しかし――」
 しぶる典太に、伝助は首を振った。
 あの間抜け面からはとうてい想像できない威厳を込めた声で、行くようにうながす。
「おれに任せておけ。必ずつれて帰ろう」
「わかった……紗由里様を頼む」
 小枝を抱いたまま、典太はやってきた方向へ走り始めた。
「そのまま走れ! 後ろは振り向くな、白の切れ目が出口だ――」
 伝助の声が背後から追った。
 世界の揺らぎはますます激しく、走るどころか立っているのも困難だ。
 しかしどんなに体勢を崩しても転ぶことはなかった。上下も、右左も意味がないのだ。
 ただ足を動かしていれば前に進む。
 そう言う世界であることを、典太はようやく理解してきた。
 体の回りの空間が、あぶくのように沸き立ってきた。
 これが世界の臨界点であることは、直感的に感じられる。
 出口は見えない。間に合わないのかもしれない。
 その瞬間、あたりは金色に包まれて輝いた――。


***


「結局、戻らぬままか」
 ぼそりとつぶやいた声は、迫りくる夕闇に押しつぶされるように消えた。
 典太は屋敷の裏の小高い丘から、呆と夕陽を見ている。小枝がそのとなりでひざをかかえていた。
 離れにあの世の口が開き、そこから小枝を救出してはや数日。
 屋敷は元に戻ったものの、伝助と紗由里があの世から戻ることはなかった。
 典太にはもう、待つ以外打つ手はなかった。
 数日間の空白は、絶望と悪い想像が悪鬼のように膨らむのに充分な期間だった。
 あのまま紗由里はあの世に呑まれたかも知れない。
 まったく違うものへ変わってしまっているのかも知れない。
 よしんば無事だったとしても、それを連れ帰るはずの伝助が無事でいないかもしれない――。
 小枝も心労でやつれている。
 眠れていないのだろう。目の下の隈は痛々しいくらいだ。
「――なぁ、典太」
 力の無い声でささやくと、小枝は典太の肩へ体を預けてきた。
 しっとりとした重さがかかる。典太はその首筋に手を回し、さらさらと髪を撫でた。
「もしこのまま姉様が戻らなければ、お前はどうする?」
「……屋敷に居る意味は、なくなるでしょう。親父とまた旅空に戻るか――いや、それもないな」
 愛宕の顔が浮かぶ。約束は約束だ。
 ため息を吐いて、続けた。
「わかりません。だけど、ここからは居なくなるでしょう」
「……そうか。なら、そのときはあたしも連れて行ってくれないか」
「…………」
「肉親と呼べるのは姉様だけだ。肉親の居ない家などあたしも居る意味は無い。当主の座など親類の爺どもにくれやろう。もうあたしに残ったのは、お前だけなんだ……典太」
「それも、いいかもしれませんね」
 小枝は疲れきって投げやりになっている。それは典太も同じだった。
 ただ空の輝きだけが美しい。
 美事な夕暮れ。深い青から橙色、黄色に移って、まるで黄金が輝いているような光を放ち、夜の薄闇へ沈もうとしている。
 小枝がそれを眺めながら、つぶやいた。
「きれいだな。まるで山吹が咲き誇っているみたいな黄昏だ」
「……黄昏の意味をご存知ですか?」
「……いや?」
「あれはだれだ、と言う意味の『誰(た)そ彼は』が変化して、たそがれと言う言葉が出来たんです。昼でもない、夜でもない、あれが誰だかわからくなる時間……」
 典太は夕暮れを眺める小枝の横顔を見つめた。金色の光に映し出されたその顔に、ひどく紗由里の面影を見る。小枝が無言なのを見取って、典太は続けた。
「毎日ここから夕焼けを見ているのはね、この時間なら紗由里様が帰って来る気がするからです。逢魔が刻って言うでしょう。あの世とこの世がほんの少しだけ、どこかでつながるんですよ、きっと――」
 さらに無言が続く。典太も黙って、山吹色の空を見上げた。
 ざぁっと、湿気を含んだ風が丘を駆け抜けていく。
 ふたりの居る後ろから、夕陽の沈む方へ。まるで押し流していくように。
「――ん」
 ぐったりと、と言う表現が正しいような格好で典太にもたれていた小枝が、気づいたように後ろを振り向いた。
「……夕立か」
 暗くなったのは夜のせいと思ったら、厚い雲が立ち込めてき始めたためらしい。同じ方向を振り向いた典太は、反対側の地平から急速に黒雲が流れてくるのを見た。
「帰る、か」
 つぶやき、立ち上がる。典太もそれに習った。小枝が着物に付いた草っぱを払いながら、短く唄った。
「あめたんもれりゅうがんど――ってな。夕立のたびに思い出すよ」
「なんですかそれ?」
「あたしは覚えていないが、小さい頃やっていた雨乞いの音頭だよ。姉様が気に入って夕立のたびに歌ってた。雨を下さい龍神様って意味らしい」
「紗由里様らしいですね。夕立が降ってるのに歌うなんて」
「ふっ、そうだな。でも姉様らしい理論があってな。夕立って言うのはもともと雷をさしたらしい。雷ってのは竜のものだろ。雷が鳴ると龍竜(りゅうたつ)様が雨をくれるって言うのがなまっていって、夕立が雨をさすようになったそうだ。りゅうたつとゆうだちって、語呂が似てるからな」
「りゅうたつ……」
 典太は雷雲を見上げる。もうそれは頭上まで伸び、強さを増した風が運ぶ湿気は肌に直接水分を感じさせるほどだ。
 反対側を振り向く。黄昏はいまだ、黄金に輝いていた。
 暗雲と夕陽、黒と金色。相対する不思議な色合い。丘の上に立つふたりは、半分が輝き、半分が闇に染まっていた。
 典太はなぜか、確信を持って言った。
「僕、ここへ残ります」
「――姉様が帰って来る気がするからか?」
 見事に言い当てられた。目をしばたきながら肯定すると、小枝は笑ってうなずいた。
「実はあたしも、なんだか急にそう思ったんだ。見ろ、典太。まるで竜でも降りてくるような夕立だ」
 黒雲の下には目でわかるほどの土砂降りが、厚い壁のようにたぎり落ちていた。
 迫ってくるその壁を、避けようとせず、ふたりは立ち尽くす。いつのまにか手を握り合っていた。
 ざぁっ。
 重いものに叩かれるような雨粒を体中に受け、ふたりは目を閉じる。
 着物は一瞬で水を含み、まるで素肌へ直接雨が注いでいるような感覚が生まれる。
 これほど雨に打たれるなんて、何年ぶりだろう。
 いっそすがすがしい心地で、典太は目を閉じたまま天を仰いだ。
「遅くなって申し訳ございません」
 聞き覚えのある、やわらかな声が耳元でささやく。
「今回のことは特別。あの約束、きっと守ってくださいませ」
 はっと目を開ける。
 金色の巨大で長いものが目前を周回するように駆け抜け、ばっと空へ登った。
 光の塊となったその姿を目で追うことはできない。地上から逆にいなづまが雲へ刺さったように黒雲は煌き、そしてそこから円を描いて晴れ間が広がっていく。
 雨はやんでいた。
「……短かったな」
 何事もなかったかのように小枝が言った。気づかなかったのか、典太にしか見えなかったのか。たしかめようと口を開きかけたとき、丘の向こうに人影が見えた。
「姉様!?」
「紗由里様!?」
 発見は同時だった。大きな馬のようなものを連れたその影へ、すぐさまふたりは駆け出していた。
 その背を金色の残滓が照らし出す。山吹色の昏黒は、静かに暮れようとしていた。
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