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Keep to me... その1
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 おれには幼馴染がいる。
 産婦人科で隣同士のベッドだったころからいっしょと言う、筋金入りの幼馴染だ。
 名前はラン。
 ランの母親はイギリス人で、日本人離れした容姿から小さい頃はしょっちゅういじめられていた。
 よくおれの背中に隠れて泣いていたのを覚えている。
 それが中学に上がり、二次性徴を迎えたあたりから、事情は一変した。
 雪のように白い肌。同級生よりお椀ひとつ足したくらい大きな胸。なにより、男女問わず見とれてしまうほどきれいな顔立ち。
 アヒルの子は、みごと白鳥へ生まれ変わったのだった。
 同じ高校に入学したいまも、そいつはおれの幼馴染をやっている。
 ただすこし変わったのは――。
「シュウ! なにぼーっとしてんのよ」
 後頭部をはたかれ、おれは回想シーンから我にかえった。
 回想の中だけでなく、現実でもランはやっぱりかわいい。幼馴染の目びいきではないだろう。最高の女だ。
 ……これでもう少し、おとなしい性格だったなら。
「なぁに? 変な眼で見て。ヤラシイ」
「ちげーよ。もう帰るのか?」
「……まったく、聞いてなかったのね。生徒会の活動があるから、あんたも付き合えって言ってんの」
 高校全体の人気を牛耳っているランは、一年の後期から生徒会長をしている。二年に上がったいまでは二期目で、後期の三期目の当選も間違いないと言われている。
 ただし、おれは生徒会役員でも会長秘書でもなんでもない。しがない帰宅部なのだ。
「やだよ。どうせ荷運びか書類整理だろ?」
「そうだけど。文句あるの?」
 さも当然そうに胸をそらす。巨大なおっぱいがプルンっと揺れて、怒っていいのかどぎまぎしていいのかわからなくなったおれは、視線を外し、さっさと退散することにした。
「ありまくり。今日、夕方に塾の講習が入ってるから。わりーね」
「ちょっと。塾なんて――」
「また今度なっ!」
 ダッシュで教室を後にする。背後から叫び声が追ってくる。
「バカ! 死んじゃえ!」
 手伝いを拒否したくらいで死ねとは。
 いつもおれの後ろを金魚のフンみたいについてきていたランは、もういなくなってしまったらしい。
 もちろんいまの明るくて元気なランは、昔よりずっといいと思うし、好きだ。
 だけど、おれだけのものじゃなくなってしまった。
 週に一度は男子に告白され、会長としてバリバリ活動し、周囲の羨望と称賛を独り占めするアイツは、まぶしすぎる。
「いつからかな……」
 ランが、フツーの男であるおれと、つり合いが取れない存在になってしまったのは。
 身近なものがどんどん遠く離れたところへいってしまう。焦燥やいらだちの段階を経て、それがどうしようもないということに気がついたおれは、諦観と哀しみに支配される日々だった。
 こんな毎日はもう耐えられない。
 ならば、さっさと他の女でも好きになって、届かないもののことは忘れてしまうべきだ。
 ……そう思っているのに、なかなかうまくいかない。
 だからせめていっしょにいる時間を減らそうと、このところおれはランを避けるようにしていた。
「なにやってんだろうな……」
 アホらしいことだと思う。思春期の中学生みたいだと自嘲している。
 今日だって、塾の講習の話はもちろん嘘だった。
「ゲーセンでも寄ってくか」
 まっすぐ帰っても暇で落ち込むだけだ。おれは財布の小銭を確認すると、帰り道のルートを変更した。
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