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-chapter5- 休息
「はあっ!あっ!」
 シトゥリの自室のベッドの上。寝転がるシトゥリの、そのまた上に跨ったキリエが、輝く銀髪を振り乱しながら一心不乱に腰を使っていた。
 八十禍津日教団の母船を、半強制的に脱出してからしばらく経つ。肉体的にぼろぼろだったシトゥリと、精神的にぼろぼろだったクラを慌てて地上に連れ帰り、休養と補給を取った後に2度目の出航である。その間にシトゥリは正式に辞令を受け、制服も支給されて、ようやく一人前のクルーとしての自覚も出てきた。今のところ敵との遭遇も無く、タケミカヅチの航行はのんびりと穏やかである。
 そして、穏やかである象徴が女性乗員との色事だった。特にキリエはよっぽどシトゥリが気に入ったらしく、2晩と空けずに部屋へやって来ては、何かにつけて誘惑し、朝までベッドを共にしていた。
「キリエさん、そんなにしたら、もう……」
 奥へ奥へと誘い込む襞の列が、キリエの激しい腰の動きに合わせて、シトゥリのイチモツを快楽の境地へと導こうとする。複雑に入り組んだキリエの膣は、男を悦ばせるためだけに作られた妖しい器官のようだった。だいぶ慣れてきたが、それでもシトゥリはキリエの中に包まれてから、10分と持ったことが無かった。キリエも感じやすいため、それくらいで達するから問題は無いのだが、男としてはなんとなく悔しい。
「イって、イって!」
 天井を向いて喘ぎながら、キリエは忘我の叫びを上げた。もう少しで達しそうなのか、腰の動きがいっそう深さと激しさを増す。
 その時。
「こんにちはぁ――きゃっ!?」
 突然、部屋の空気圧搾扉が開き、シリンが叫んだ。ぎょっとしてシトゥリは目線をあげ、戸口を見ると、シリンが口元を押さえて立ち尽くしていた。その隣にはあらあらと言う表情のクラがいる。
「わ、わあ!クラさん、シリンさん!」
「……お邪魔だったかしら?」
 そう言って中へ入ってくる。シトゥリは真っ赤になった顔を両手で隠したい気分だった。キリエは腰を繋げたまま、シトゥリの上からどこうともしない。
「邪魔よ、もう。萎れちゃったじゃない」
 そのセリフを聞いて、さらにシトゥリは赤くなる。暗くした部屋の中でもそれを見分けたか、クラがベッドサイドに膝をついて、にっこり笑った。
「このおねーさんにはデリカシーが足りないわよね。こんなのほっといて、私たちと愉しいことしましょ」
「ちょっと、ダメよ!もう少しだったんだから」
 途中で中断された疼きが堪らないのか、キリエの口調は強くても声は擦れ気味だ。クラが、じゃあ、と続けた。
「みんなで一緒にしよっか。4人で」
 そう言われて、シトゥリは焦った。
「へ?いやちょっと」
 それはデリカシー以前の問題ではございませんか、と言おうとした口が、クラの唇に塞がれた。あいかわらずちょっと冷たい唇の中から、生き物のような動きで舌が割って入ってきた。
「あ。固くなった」
 キリエが嬉しそうに言い、再び腰を動かし始めた。いつの間にかベッドの上に上がりこんでいたシリンが、にこにこしながらシトゥリの裸の胸を撫でた。
「シトゥリさんって、かわいーんですねぇ。ほら、乳首立っちゃってますよ」
 シリンにまでそんなことを言われ、シトゥリは恥ずかしさで嫌になってきた。たしかに乳首の上を指が通るたび、こそばゆいような快感がある。
「どれどれ」
 シトゥリの口中を十分に堪能したクラが唇を離し、それを胸の上に持ってくると、そのまま乳首を口に含んだ。ころころと舌でころがされると、なんとも言えないものが背筋から駆け上がってくる。反対側の乳首をシリンが吸った。両方から与えられるその感覚に、シトゥリは大きく喘いだ。
「は……あ」
 その口の中へ、申し合わせたようにクラとシリンの指が入れられる。舌を弄ばれ、股間の上ではキリエが腰を使い、胸の上では2人の女が顔を伏せていた。その刺激的な光景が、シトゥリの射精感を一気に高めた。
「あ……出るっ!」
「え、待って」
 キリエの言葉が終わらないうちに、シトゥリは放っていた。どくどくと流れ込むその感覚に、キリエはうっとりと目を閉じたが、やがて不満そうに言った。
「ちょっとクラ、刺激的なことするからイっちゃったじゃない」
「じゃあ次はキリエを気持ちよくする番ね。シリンちゃん、あれ見せてあげて」
 クラが飛びっきりのいたずらっぽい笑みを浮かべた。それを射精後の気だるさの中見上げ、シトゥリは服を脱いだシリンを見て、目の玉が飛び出すかと思った。
「じゃーん」
 と、シリンが股間から掴み出したものは、紛れも無い男性器。思わず叫ぶ。
「シシシリンさん、そそそそれって!?」
「やだなぁ、オチンチンですよ、オチンチン」
 ひらひらと手を振り、シリンがさも当たり前のように言った。シトゥリはなぜそのオチンチンが生えているのか、それを訊きたかった。サイズはシトゥリの半分くらい。並みの男性よりも小さいものだが、女の子からそれが生えているのは、一種異様どころか全力で異様な図だ。
「アシリアさんに呪(まじな)いでつけてもらったんです。潮を吹く要領で射精もできるんですよぉ。出るのは精子じゃないんですけど」
 シトゥリは八十禍津日教の母船での時を思い出した。妙に待たされたと思ったが、そんなことをしていたのか。クラが苦笑気味に言った。
「あの人、いたずら好きだから。さ、シリンちゃん。それでキリエを気持ちよくしてあげて」
 シリンが腰の上に乗ったままのキリエの後ろに回った。はっ、と我に返ったように、キリエが慌てた。放心していたらしい。
「ちょちょ、ちょっと。いいわよそんなの!」
「遠慮しないでくださいよ~」
「そうよ、動かないで」
 クラがキリエの額を押さえた。こうすると人間は座った状態から立ち上がれない。もがくキリエが、びくん、と体を強張らせた。
「あ、や、どこに指を入れてんのよぉ!」
「え~、言わせる気ですかぁ?恥ずかしいです」
「やだ、やめて、抜いて!」
「あら、もしかしてお尻は初めて?」
 クラが妖しい表情で言った。おもいっきりサディストの笑みだ。自分の腰のあたりで3人の美女が絡み合っている絵に、キリエの中で再びシトゥリのモノは充血してきた。それが余計、キリエの脱出を困難にする。あきらめたのか、キリエはもう何も言わなくなっていた。しばらくいいように嬲られるのを見てから、クラが言った。
「おとなしくなったわね。そろそろ指以外のものが欲しくなってきたかしら?」
「え!?まさか、あれを……」
 驚いたキリエが声を上げた。
「大丈夫ですよぉ。もう指が3本も入っちゃってるんです。それより太くないですから、入りますよ」
「そ、そう言うことじゃなくて」
「じゃあ、行きますね」
「ちょっと待って、ああっ!」
 シトゥリは、シリンのモノの侵入を膣の中で感じだ。ゆっくりと棒状のものが薄皮一枚向こうをぬるぬると進んでいく。そのアブノーマルな感覚に、シトゥリは頭がくらくらするほどの興奮を覚えた。
「ああ……シリンさんのが、入っていってますよ」
 普段なら言わないような言葉が、口を突いて出た。その言葉に、びくっとキリエの肩が震えた。それを目ざとく見つけたクラが、さらに目を細く細めた。
「もしかして、お尻で感じてるの?」
「ち、ちがっ!」
 ぴくっとした膣の動きを、シトゥリは感じた。恥ずかしさからか、キリエの顔は赤い。
「じゃあ、こう言う状況が好きなんだ?前と後ろ、両方入れられて。この変態」
「…………」
 変態、と言うところで再びキリエの肩は震え、膣が引き絞られた。クラがおもちゃを見つけた子供のように嬉しそうな顔をして、言った。
「キリエの新しい性癖、見つけちゃった。この子、Mっ気あるわよ」
「え、M?」
 キリエ自身にも自覚はなかったようだ。呆然とした顔でクラを見つめる。
「そうよ?いじめられると感じるんでしょ」
 ぎゅっとクラがキリエの豊かな乳房を握り締めた。
「いたっ!……ち、違うわよ。あたし、Mなんかじゃ……」
「うそおっしゃい。乳首をこんなにしてるくせに」
 握り締めた手を移動させて、乳首をつねりあげる。苦痛にキリエの体が小さく跳ねた。同時に膣の中は、それと分かるほどに蜜が湧き出してきた。
キリエにその気があったとは、シトゥリも全く分からなかったが、考えて見れば初めてセックスした時、無理やり激しくしたら異常に感じていた。それはそのせいだったのかもしれない。クラはもう片方の乳首もつねりながら引っ張り、それを離した。ゴムが戻るように、ぷるん、と乳房が揺れる。クラは両方の乳首で何度もそれを繰り返した。キリエは喉の奥でしゃくるような声を上げながら、それに耐えた。
「いやぁ……やめてクラ……」
 ついに半分泣きそうな声で、キリエが哀願した。完全に折れたようだ。クラはあえてそれを弄うように、シリンに言った。
「そろそろ動いてあげて。最初はゆっくりするのよ」
「はーい」
 シリンが腰を動かし始めたのが、膣の向こうから擦れ合う動きで分かった。クラの手は額からはずされている。キリエは耐えるように俯いて、噛み締めた歯の間から息を漏らしていた。
「ああ……キリエさんのお尻、とってもいいです。なんて厭らしい体してるんですかぁ?」
「そうね、厭らしいわ。そう思うでしょ?シトゥリくん」
 クラに促され、シトゥリはうなずいた。
「はい……厭らしいです」
「どう?この子の膣(なか)、どんな風になってる?」
「シリンさんが動くたびに、きゅって締まって……中からはどろどろのものが、いっぱい……」
 みんなに言葉で攻められ、そして尻を犯される異常さからか、キリエの息は既に隠しようもなく荒くなっていた。クラが乱暴に髪を掴み、俯いている顔を上げさせる。
「ほら、やっぱり後ろの穴で感じてるじゃない。自分で言ってみなさいよ。感じてるって」
「…………」
「ほら!」
 クラが掴んだ髪をゆすった。目を閉じたキリエが、震えるように小さく言った。
「か、感じてる……わ」
「聞こえないわね。もっと大きく」
「感じてる。あたし、前と後ろに入れられて、ああっ!」
 叫んで、キリエが背を反らした。卑猥な言葉を言う自分に昂ぶって、達してしまったようだ。花弁から溢れ出した蜜が、シトゥリの腹をしとどに濡らし、臍に水溜りを作った。
「変態。なんて厭らしいの」
 クラが汚いものを触ったように髪を離し、続けた。
「そんな厭らしい子にはお仕置きが必要ね」
「……お仕置き?」
 蚊の鳴くような細い声で、キリエが聞き返した。はぁはぁと息が荒い。シトゥリには、どうひっくり返しても、お仕置きを期待しているようにしか見えなかった。
「そう、お仕置き。シリンちゃん、『あれ』持ってきて」
 クラが小悪魔の笑みを浮かべ、言った。



 その『あれ』を使用されたキリエの姿に、シトゥリは生唾を飲み込んだ。『あれ』とは、前時代的な荒縄のロープだった。それを鮮やかな手つきでクラがキリエの全身に巻きつけ、縛りこみ、足を大きく開かせたままの姿勢でまったく動けないようにしてしまっていた。亀甲縛りと言うのだろうか、ロープとロープの間隔はひし形で、豊かな胸は縄に強調され、肉感的な体は食い込みによる凹凸で、さらにその肉厚を増していた。目は目隠しされ、両手はまとめて縛られて、ベッドの柵に括り付けられている。
 シトゥリは別段SM趣味はないが、それでもこの姿には、感じたことがないまでの興奮を覚えずに入られなかった。ふと気になって、シトゥリは一仕事終え、満足そうに自分の作品に見入っているクラに訊いた。
「あの、もしかしてこれから、鞭とかローソクとか……?」
「さすがに私も、そこまでSじゃないわ」
 クラは肩をすくめた。
「せいぜいこのまま前も後ろもずぼずぼに犯っちゃうくらいよ」
 それは十分サディストなんじゃないだろうか。そのセリフを聞いたキリエが、びくっと体を震わせた。縛られている間、一言も発しなかったキリエは、ロープが体に巻きつけられるたび、言葉以上の雄弁さを持って花弁をひくつかせ、蜜を垂らしていた。クラによって急激に自分の知らない一面を開花させられ、混乱しているようだ。今なら何をしても受け入れてくれそうに思え、それがさらにシトゥリを興奮させる。
 シトゥリの後ろからクラが抱きついてきて、その固く猛ったモノをさすった。
「ねえキリエ、シトゥリくんのあそこ、どうなってるかわかる?もう、すごいわよ。あんたのその格好見てるだけなのに、今にも出ちゃいそうなくらいパンパンになってるわ」
「わ、わたしのもです」
 シリンが自分に生えた不釣合いなものをしごきながら、言った。
「キリエさんのおっぱい、とっても厭らしい……あそこだって、奥まで丸見えで」
 言われるたび、ひくっひくっと花弁は動き、涎を吐き出すように蜜を溢れさせた。クラがシトゥリの背中を押した。
「さ、もういいわよ。好きなように犯してあげて」
「は、はい」
 シトゥリはどこをどうしようかと悩んだが、いきなり挿入してしまっては自分のモノがひと時も持ちそうに無かった。キリエの体を跨ぎ、その唇にイチモツの先端を当てる。
「キリエさん、な、舐めて……」
 シトゥリはキリエの顎を持ち、下に下げた。だらっとだらしなくキリエは口を開く。全く抵抗する気はないようだ。5つも年上の女を、いいようにしていると考えるだけで、もう堪らなかった。シトゥリは太いイチモツをキリエの喉の奥目掛けて差し入れた。
「んぐっ!?んー!」
 キリエが呻いて、暴れた。興奮して奥に入れすぎたらしい。
「す、すいません」
 謝って身を引こうとすると、クラが後ろからシトゥリの腰を押した。
「いいから。そのまま、思うように口の中を犯すのよ。この子は変態だから、そういうのが大好きなの」
 変態はクラなのじゃないか、と言う疑問が浮かんだが、それは言わないでおいた。シトゥリは唾を飲み込むと、大きく腰をグラインドさせ始めた。
「んー!んんー!」
 キリエは苦しそうにもがくが、動くたびに縄はきつく締まるばかりで、どんどん身動きが取れなくなっていく。窒息しないようにときおり動きを緩めながら、シトゥリは存分に喉の奥まで味わった。
キリエを攻め立てても、あまりサディスティックな快感はない。自分にSの資質はないとわかって、シトゥリは少しほっとした。じゃあMなんだろうか、と思うと、それもぞっとしない。
「キリエさぁん、わたし、もう」
 後ろでシリンがキリエの股の間に入り込んだようだ。挿入する気配のあと、シリンの叫びが続いた。
「やっ!?すごい、熱い……」
 それから、パンパン、と腰を打ち付ける音が数度響いただけで、シリンは情けない声を上げた。
「ああっ、もう、ダメ、出ちゃいますぅ!気持ちいいっ」
「んんっ!」
 キリエが呻いた。シリンが中で射精したようだ。うしろをちら、と振り返ると、シリンは恍惚とした顔で、なおも腰を動かしていた。
「いいっ!いい!射精が、腰が止まらない!だめえ、どんどん出るっ!」
 どうやらシリンのモノは擬似的な物であるだけに、通常の男性の射精とは違うようだった。呆然とその狂態を見つめていると、服を脱いだクラがシトゥリの体を押しのけた。
「キリエ、私のも舐めてぇ……」
 擦れた声で言うと、クラは自ら広げた花弁を、キリエの口の上へ降ろしていった。やがて、ぴちゃぴちゃと言う音が響き始め、クラが熱い息を吐いた。
「ああ、舐めてる。キリエが私のを舐めてる……」
 そして自分の薄い胸をこするように撫でまわした。シトゥリはこの3人にどうやって混じろうかとキリエの足元へ回った。淫靡な空気が性欲を掻き立て、セックスを続けることしか思考が思い浮かばない。シトゥリは腰を振り続けるシリンの尻を掴み、その動きを止めた。
「えっ?」
 全く気付いていなかったシリンは、射精の恍惚から我に返った。まだ止まっていないのか、ふとももにかけてが小刻みに震えている。シトゥリは手に力を込めて、後ろからシリンの蜜壺の中へ、イチモツを一気に埋没させた。
「ああーっ!?」
 その衝撃で、キリエの中に埋もれた擬似男根が跳ね上がり、ホースのように中身をぶちまけたのが、シトゥリにもわかった。シリンのモノはクリトリスと尿道の部分が肥大して形成されているようだった。蜜壺は、いつか邪神に襲われたシリンを犯してしまった時より締まりを持って、シトゥリのモノを受け入れた。
 喉を反らし、シトゥリのイチモツが中を抉るたびに、シリンはがくがくと顎を揺らした。シリンの放つ精子のようで精子でないものは、すでにキリエの膣や子宮には収まりきらず、ごぽごぽと音が聞こえそうな勢いで花弁から溢れてきている。無意識の動きで、シリンがキリエの胸を無茶苦茶に揉みしだいた。
「ぁぁっ!気持ちいいっ!外と、中が、気持ちいいぃ!んぁぁ、ぁぁー!」
 うるさいぐらいに卑猥な言葉を叫び、シリンが男性と女性の快楽を一挙に味わって、狂わんばかりに震えた。その様子に、シトゥリの射精感も高まってくる。クラがキリエの口を塞いだまま、喘いだ。
「ああ、いいわ、上手いわよキリエ。私イきそう……い、いい、ああっ、イクぅっ」
 クラの体が痙攣し、それと同時にシトゥリも射精していた。中に出されているのを感じ取ったシリンが、喉がつぶれる様な声で意味のわからない叫びをあげ、キリエの中に更なる液体をぶちまけた。全員のオルガズムを受け、キリエもまた達し、収縮した膣から自分のものとシリンのものが混じり合った液体を、びゅっと弾き出すように噴出した。
 快楽の頂点の余韻を味わい、そして4人は絡み合うようにベッドへくず折れた。シトゥリはまだ痺れる脳の中、薄目を開けて1つの肉の塊になったような自分たちを眺めた。目の前にあるのが誰の手足なのか分からない。荒い呼吸を繰り返す音だけが、薄闇の中をいつまでも続くかと思われた。
 その時。
「シトゥリくん、入るわよー」
 サクヤの声がし、あっと思ったときにはすでに、空気圧搾扉は独特の音と共に開いていた。
「次の航行記録だけど――」
 と、そこでサクヤの言葉は止まり、ばさっと手に持ったバインダーが床に落ちた。どうしてこの艦の女性はみんなインターフォンを使わないのか。シトゥリは天を仰ぎたい気持ちだったが、誰かの足が頭の上に乗っていてそれも叶わない。
「な、ななななななななな、なにやってんのあなたたち!?」
 何度か言葉を発しようと、息を吸ったり吐いたりしていたサクヤが、ようやく金切り声を上げた。
「……まざる?」
 クラのセリフを聞いて、ふっと糸が切れるようにサクヤが気を失い、膝からくず折れた。このままこの記憶を失ってくれたらいい。シトゥリはそう願わずにはいられなかった。
-chapter4- 邪神の巫女
「宗教団体ってもんは、いつの時代も金が唸ってんのねー」
 キリエが周りを見回しながら言った。嫌味と言うより感想だろう。嫌味も通らないくらい、案内された客室は豪華な調度品で溢れていた。
 ここは八十禍津日教団と言う宗教団体の母船。全長数キロに渡る巨大なアーモンド型のコロニータイプ艦艇だ。タケミカヅチはその中に収容され、現在修理と内部のお払いが行われている。シトゥリたちは母船の客室でシリンの回復を待っていた。
「しかし、まさかあなたがこんなところでお偉いさん扱いなんてね」
 じろっとキリエはクラを横目で見た。八十禍津日教はシトゥリも知っている。八十禍津神を奉じる、有名な宗教団体だ。そしてその八十禍津日神は、イザナギの穢れから生まれたとされる邪神だった。ここは連邦と敵対する邪教団の中で、そして扱いは丁寧でも、立場は捕虜なのであった。
 クラはソファに腰掛けたまま、じっと腕を組んで宙を見据えている。キリエの言葉も耳に入っていないかのようだ。シトゥリは助け舟を出すつもりでキリエに返した。
「スパイ時代に潜入して、幹部に取り入ったんですよね?」
「えっ!?」
 キリエどころか、サクヤまで驚きの声を上げ、逆にシトゥリは驚いた。
「なんなのそれ、知らないわよ!シトゥリくんいつ聞いたの?」
 キリエが憤慨した調子で言う。
「え、いや、いつと言われても……」
 数時間前クラとセックスした時、とは言えない。もごもごと口をにごらせたシトゥリに、キリエが鋭い視線を当て、やがてにやっと笑った。
「サクヤ、これはクラにもお仕置きが必要よ。あたしのこと手ぇ早いなんて言っておきながら……」
「……もう好きにして頂戴」
 サクヤは取締りを諦めたようだった。呆れた表情でソファにもたれる。軽蔑されただろうか、と思うと、なぜかシトゥリの中はちくちく痛んだ。
「……言ってなかったことは謝るわ」
 相変わらず睨むような表情のまま、クラがぽつりと言った。客間に通されてから初めての言葉だ。その口調にこれ以上突っ込む気をなくしたか、キリエは肩をすくめて話題を変えた。
「でも、クラがこの船への専用回線を持っていて助かったわ。あのままじゃ正直やばかったし」
「私はここへ連絡しなかったわ」
 クラが言った。
「どういうこと?」
「連絡があったのは、この船の方から。わたしの専用回線にね……。きっと、最初から仕組まれてたのよ」
「仕組まれてた……」
 サクヤがそう言った瞬間、ドアがトントンとノックされた。いまどき珍しい、重厚な黒檀のドアである。返事をすると、それは重々しい音を立てて開いた。その先にシリンが立っていた。
「シリンちゃん!」
「ご心配をおかけしました~」
 そう言って笑ったシリンの横に、もう一人女性が居た。最初、子供が居るのかと思った。背の低いシリンより、さらに一回り小柄だったからだ。2人は部屋の中へ歩み入った。女性は手前で立ち止まり、一礼した。金色の巻き毛が軽く揺れる。
「八十禍津日神の巫女を務めております、アシリアと申します。お初にお目にかかりますわ、みなさん」
 静かな、小さくても部屋の隅々にまで行き渡る声。シトゥリは少し呆然として、アシリアと名乗ったその女性を見つめた。確か、巫女は教団に置ける重要なポジションだから、クラの取り入った幹部とはこの人のことだろう。客室だけでこれほど豪華な教団の幹部に対して、自然と華美な服装をイメージしていたのだが、着ている白いワンピースはむしろ質素な印象だ。だが、その上に乗っている顔こそ、どんな豪華な衣装よりも価値があるだろう。
思わず呆然と見つめてしまうほど、それは美しかった。目が大きく、顔の造作も中央寄りのため、幼く見えるが、ほっそりした顎や長い睫毛、氷から掘り出したような鼻筋が、子供っぽさを否定していた。何よりその女性の持つ雰囲気。中学生のような若々しさと、熟年の女性のような落ち着いたもの、両方を同時にかもし出している。そのせいで、まったく年齢が掴めなかった。シトゥリと同い年と言われても納得するだろうし、三十路と言われても、なるほどと思うだろう。
「は、はじめまして」
 慌ててサクヤが立ち上がり、礼を返した。同じく見とれていたらしい。女性から見ても惹きつけられるものがあるようだ。アシリアはその神秘的な眼差しを、クラに当てた。
「そして、お久しぶりですね、クラティナ」
「……お久し、ぶりです」
 クラは少し様子がおかしかった。途中で喉を詰まらせる。きっと胸中では、周りからわからないほどのものが葛藤しているのだろう。それをすべて理解し包み込むような微笑を送り、アシリアはシリンに視線を移した。
「シリンさんにはお払いをしておきました。もう邪神の影響はありません」
「何から何まで、お世話になります」
 もう一度、サクヤが頭を下げた。その瞬間、突然クラが立ち上がった。
「どうして、どうしてみんなには何も言ってないんですか、アシリア様!」
 引きつるような叫びに驚き、その場の全員がクラの顔に視線を当てる。クラの表情は青褪めていて、激昂しているのか恐怖しているのか、それすら傍目から判断できない。クラは下唇を震わせながら、続けた。
「どうして、私はスパイだったって――」
「みんなには言っておきましたよ。クラティナは連邦へスパイをしに行ったって」
「――!」
「あなたが去った後、部屋から見つかったレコーダー、あれはわざと置いて行きましたね。ほんの恩返しです」
「どうして、どうしてそんなこと……」
 クラの声は、はっきりと分かるほど揺れていた。
「あなたが、いつでもここへ帰って来られるように。あなたは本当にうまくわたくしたちを騙してくれました。今でもみんな、あなたの帰りを待っているのですよ」
 静寂が、部屋の中を支配していった。うつむいたクラの肩だけが、かすかに震えている。それが急に止まると、クラはさっと腰に手を回し、そして前方へ構えた。アシリアの方へ伸ばされた右手には、小さな拳銃が握られていた。
「あなたが!あなたがいるから、私は大切なものを捨ててしまう!これ以上壊したくないの、ここに居る仲間を裏切りたくないの!」
「クラ!」
「クラやめて!」
 止めようと飛び出したキリエが、見えない壁に弾かれたように立ち止まった。アシリアがそれを静止したのだ。片手を挙げる、ただそれだけの動作なのに、筋肉が本能的に活動を停止するような、強制力に近い威厳があった。
 拳銃を突きつけたクラに向かって、ゆっくりとアシリアが歩み寄っていく。小さなその体は、聖女のようにも、聖母のようにも見えた。クラは必死に何かを耐えるように奥歯を噛み締め、腕を伸ばしている。その手は近づいてくるアシリアに圧されるように、激しく震えていた。手前1メートル、どんなに震えてもはずしようの無い位置で立ち止まると、アシリアは言った。
「……わたくしは死に時を求めて生きています。この船で生まれて、巫女として育てられ、外の世界を知らないわたくしにとって、死までの時間は価値のないもの。あなたに黄泉へ還されるなら、これ以上の喜びはありません。……さあ、お撃ちになって」
 冗談だろうと誰もが思うような、平然とした口調だが、アシリアの胸の先には、もうほんの少し力を込めただけで発射されそうな銃口が突きつけられている。シトゥリは止めようと口を開いたが、止めるべき言葉が出てこなかった。気圧されたと言うのではない。止めるべき理由がないように頭が考えていたからだった。それは、呆然とただ事態を眺めるサクヤやキリエにしても同じのようだった。
 2人の間に糸が張られ、それは少しの均衡の変化で簡単に切れてしまいそうに思えた。やがて、時が経ちすぎた果実が落ちるように、クラの手から拳銃が落ちた。悲壮な表情のまま、首を折る。
「……不幸ですね、お互い。でもありがとう、わたくしにはまだやることがあるのです」
 アシリアが言い、つま先立ちをしてクラの肩を抱きしめた。くず折れるようにクラが膝を付く。キリエとサクヤが、ほっと息をついた。
 その時だった。
 くぉぉぉぉぉぉん
 遠くどこかで、大きな獣が鳴くような声が聞こえた。クラの頭を撫でていたアシリアが、はっと顔を上げた。
「八十禍津日神が、贄を求めている……まさか、この子?」
 視線を向けられた先には、シトゥリが居た。へ?と目を丸くしている間に、廊下の向こうからどたどたと足音が近づき、ノックもせずに扉が開いた。
「アシリア様!八十禍津日神が――」
「わかっています」
 凛とした声で言い、アシリアが立ち上がった。どこかさっきと別人のような表情だ。
「すぐ儀式と、禊の用意をなさい。贄は――この子です」
 まっすぐはっきりと、その指先はシトゥリを指していた。



「さあ、お出しなさい」
「うわっ、あっ!」
 シトゥリは、痙攣に近い動作を見せて、固くそそり立ったものから精液を放った。もう5度目だ。大の字の格好で手足を台座の上に固定されている。全裸の股間には、アシリアが顔をうずめていた。白いワンピースから、巫女の装束だろうか、煌びやかな服へその衣装は変わっている。場所は船の奥深くの神殿のような所だった。
 アシリアの小さな口は、カリの部分から少ししかシトゥリのモノを咥えられなかったが、それが尿道口を吸い、舌が傘の下を舐め、両手が竿をしごくたび、凄まじい快感が突き上げてくる。シトゥリは最初、立て続けに2度達し、それでも足りずに、さらに2度射精していた。
「神の贄になる前に、体の中の穢いものは全て出すのです。さあ、もう一度わたくしの口の中へ、その穢らしい精液をお出しになって。それとも顔にお掛けになりますか」
 そう言った瞬間、シトゥリはまた射精した。何度も出したとは信じられないほどの量の精液が、金色の髪も、聖女のような顔も、べとべとに汚していく。汚されていくことに昂ぶりを覚えたのだろうか、アシリアは恍惚とした息をつくと、それを顔中に塗りたくった。その姿にシトゥリは無限の興奮を覚え、さらに陰茎を固く勃起させた。
「ああ、なんて熱くて、臭くて、濃い精なのかしら。こんなものを体に入れたまま、神に捧げるわけには参りませんわ」
 アシリアは肩から服をはずし、胸を露出させた。白いワンピースを着ていたときは気付かなかったが、小さな体とはアンバランスなほど豊かな乳房だ。片手でそれを揉みしだきながら、アシリアはシトゥリのイチモツを掴み、再び口に含んだ。
 もはや恥じも外聞も感じなかった。シトゥリは異様なまでに高まってくる肉欲と快楽に溺れたまま、声を上げ、そこから数度果てた。ついに最後には、イチモツは震えるだけで、何も出なくなった。それでも陰茎は縮まることを忘れたように、天を向いたまま立ち上がっている。
「ついに、空になりましたね」
 アシリアが微笑み、ようやく股間から顔を離した。その表情は、男を知り尽くした艶やかな熟女のように見えた。着ている服を全て脱ぎ、シトゥリの上に乗りかかる。
「では、はじめましょう。あなたの魂を、わたくしの中へ」
 イチモツを手に取り、騎乗位で自らの膣へ導く。その細い手首ほどの太さのものが入るのだろうか、と場違いな心配をシトゥリはしたが、意外な包容力に包まれ、イチモツは中へと埋没していった。女性の中は熱いものだと思っていたが、アシリアは違った。氷のなかに突き込まれたように冷たい。それはあまりに精を放ちすぎたための錯覚かもしれなかったが、シトゥリはその味わったことの無い感触に、背筋から脳髄にかけて痺れ渡るのを感じた。
「くう……ぅ」
 苦痛に歪むような表情で、アシリアが呻いた。だが痛みを感じているのでないことは明白だった。じわり、と蜜が溢れてくるのが感じられる。
「こんな……こんな男が居たなんて……わたくしを感じさせる……ううっ!」
 少し自由になる腰で突き上げると、その上でアシリアは跳ねるように飛んだ。体が軽いので、ちょっと力を込めるだけで跳ね上がる。突き上げられた衝撃と、落下して腰がぶつかりあう衝撃に、アシリアは少女のように喘いだ。シトゥリは何度もそれを繰り返す。
「ああっ、ああっ、ああっ、ああっ!」
 肘から先の手をぶらぶらと揺らしながら、踊るようにアシリアの体はバウンドを繰り返した。規則的な喘ぎ声が、だんだんと高く、嬌声に近いものになっていく。シトゥリの中も、それに合わせて昂ぶり、もう空になったはずのイチモツは、何かを出そうとさらに固く絞られた。
「ああっ、いやっ、ダメです、おやめなさい!やめっ、やめてぇぇぇ!」
 最後の言葉は引きつるように伸び、室内に木霊した。折れそうなほど背を仰け反らせ、アシリアは体を震わせた。同時に、シトゥリも体が溶けるような感覚と共に、絶頂へ達した。まるでこの部屋全体に自分が広がり、それがイチモツの根元に集まって、膣の中へと注ぎ込まれていく感覚。事実、シトゥリのモノは、射精の時と同様の動きを示して、びくんびくんとアシリアの中で跳ね回っていた。それは通常の射精と違い、いつまでも続いていく。ぐったりとアシリアがシトゥリの胸に手をついた。内部のモノが跳ねるたび、その体は振動を受けたように震えた。
「あなたの、魂が入ってくる……。空になった精道を通り、わたくしの中へ……」
 呟く言葉は、恍惚に満ちていた。シトゥリはなにも考えられなくなっていく頭の中で、ただその快楽を悦んだ。射精は自分の子を作る作業だ。魂を分ける作業だ。その魂そのものが、体の外へと射精されていくのは、ただの性感を超えた、神秘的にすら思える快楽だった。この神殿には雑念を払う効果があるのか、最初から恐怖や絶望は感じなかったが、それにしても、自ら死に向かうであろうこの行為を悦んでいるのは、異常としか思えなかった。
 その最後の感情すらも溶けて流れ入ろうとした瞬間、シトゥリの中が、どくん、と鳴った。この感覚には覚えがあった。先ほど邇芸速水バリアを展開した時の、記憶の中に微かに残っている感覚。力強く、燃えるようなその感覚が、自分の深いどこかから、イチモツの根元に集まり、そして一気に精道を通って、アシリアの中に迸った。
「あああああああああああっ!?」
 それはアシリアにも感じられたのであろうか、絶叫を上げると、反射的に離れようとするが、それは出来ないようだ。腰と腰がつながったまま、激しくアシリアが悶えた。
「これはっ!これは何っ!?やめて、入ってこないで!わたくしの中に入ってこないでえぇっ!」
 どんどん、と小さな拳でシトゥリの胸を叩く。奔流はさらに熱く、アシリアの中へ突き入るように流れた。
「焼ける、心が焼けてしまう!壊れる!いやあああぁ、許して、許してください!あああああああ!」
 仰け反ったまま上半身が痙攣し、苦痛にもがく指はシトゥリの胸や腹を掻き毟って、赤い筋をいくつもつけた。チアノーゼを起こしたように、アシリアの白い顔が紫色になっていく。このままでは、この女性を殺してしまう。わずかに、ほんの少し残ったシトゥリ自身が、頭の中で呟いた。腕を動かすと、それを縛り付けていた戒めは簡単に外れた。もはや声も無く痙攣を繰り返すアシリアの腰を掴み、シトゥリは自分のイチモツから膣を外した。その瞬間、アシリアの中からたぎり落ちるように目に見えない何かがシトゥリの中へ戻っていく。それに合わせて、シトゥリは徐々に自分自身を取り戻していった。
「――壊されて、死ぬのはイヤ……」
 涙を流しながら、力を失ってシトゥリにもたれかかったアシリアが呟いた。
 ぉぉぉぉぉぉぉぉん
 その時、再び獣の唸りのような声が響いた。先ほど聞いた時より大分近い。ピピ、と通信音が響き、男の声が神殿に流れた。
『アシリア様、お変わりはありませんかっ!儀式の終焉が近づくと同時に、八十禍津日神が苦しまれ始めました!』
「……わたくしのダメージが流れ込んでしまったのね。それとも、受け止めてくださった……?」
『アシリア様!応答を!』
 アシリアは通信装置には向かわず、シトゥリから身を離し、言った。
「わたくしを助けてくださったのね。優しい方。男がみんな、貴方みたいだったら、少しは好きになれるでしょうに」
 シトゥリの脳は、靄がかかったように活動を停止していた。考えようにも、何も考えられない。
 どおぉぉぉぉぉん、と、今度は破壊音が遠くで響いた。違う場所から通信音が響き、別の男の声が叫んだ。こちらは相当に緊迫している。
『儀式中失礼します!収容した連邦艦タケミカヅチから突如バリアーが展開!分析コード、オ・オ・ハ・カ・リ、不明です!非常に攻性のものと思われます!』
「事故?いえ、……この子ね。大葉刈バリアを展開できるのは、この子だけ」
 アシリアは呟くと、今度は通信装置のスイッチを入れた。
「全作業員をドッグから退避させなさい。その後、メインゲートオープン」
『はっ!しかし、なぜゲートを』
「それを望んでいるのです。建御雷神(タケミカヅチ)が……」
 囁くような言葉は、相手に聞こえたか分からない。一方的に近い動作で通信を切ると、手元のパネルで何事か操作し、アシリアは再びシトゥリの胸にしなだれかかった。自らがつけた赤い爪の筋をなぞり、独り言のように言う。
「あなたも現人神なのですね。次に会う時、おそらくわたくしたちは神と神との戦いの中にいるでしょう。もう一度、クラティナとゆっくり話がしたかったのだけれど――すでに時は動き出してしまった。愛する人ともう一度体を重ねることすら、許されないなんて……」
 ビー、と警告音が鳴り、壁の一部が割れた。その先には自走路のような通路が続いていた。
「ドッグへの直通自動通路です。あなたは先に行って、神の怒りをなだめて差し上げなさい。クラティナたちは、後から追わせます」
「……ありがとう」
 やっとそれだけ言うと、シトゥリは人形のようなぎこちなさで起き上がった。
「礼を言うのはわたくしの方です。さあ、はやく」
 足の戒めは解かれていた。ふらつきながら、シトゥリは自走路を目指した。背後に、アシリアの悲しみを感じながら。それは、生まれながらにこの女(ひと)が背負った業のように思えた。
-chapter3- 発動する力
 地球の上にある宇宙を高天原、下にある宇宙を黄泉と言う。それら2つは地球を境界線にし、激しい戦いを続けていた。高天原の側に立ち、黄泉の軍勢と戦う人間の組織した軍、それがアスティア地球連邦軍だ。
 黄泉の軍勢。敵。それは邪神や戦いに敗れて死んだ神、そして死人たち。死の穢れを負ってしまった彼らは黄泉の国へ堕ち、生あるものへ襲い掛かってくることになる。それらを倒すのが連邦軍の役目だ。すなわち、シトゥリたちの敵は神や死人であった。
「目標まで、距離1200!依然こちらの通信には応じず!」
 ブリッジにはサクヤ、キリエ、クラの姿があった。普段の呑気な空気は消し飛び、空気自体の硬度が増したような緊張感が漂っている。その時、ブリッジの入り口からぱたぱたと足音がし、声が飛んだ。
「お、遅れましたぁ~」
 そう言って入ってきたのは金色の髪をショートカットにした、背の低い少女。オペレーターのシリンだ。年齢は17歳と、もっともシトゥリに近い。寝ていたのか髪の毛は色んな方向を向き、格好もパジャマの上に制服のジャケットを羽織っただけだ。ご丁寧に枕まで持っている。それでも、クラが賞賛の声をあげた。
「へえ、珍しいじゃない。自力で起きるなんて」
「当たり前ですよぉ、いつまでも子供じゃないんですから」
 胸を張ってシリンが言った。この年齢でオペレーターの仕事をベテラン以上にこなす彼女は、15歳で連邦大学を卒業した天才である。ただ、天才とはどこか常人とは外れているもので、普段のシリンはぼーっと何を考えているのか分からない。しかも、睡眠に対して貪欲すぎで、一度寝たら絶対に起きないのだ。遅刻だろうがなんだろうが、今回自力でブリッジまでやってきたのは、奇跡に近い偉業だった。
「はいはい、わかったからいつまでもあたしにオペレートやらせないで」
 キリエが言って、ヘッドフォンをはずした。
「すいませんー。5秒待ってください」
 シリンは席に着き、オペレーター用のヘッドフォンとマイクを身に付けた。とたんに表情がきびきびしたものに変わる。この辺の切り替えの速さは、さすがだ。
 シトゥリは出来ることもやることも何もなさそうだったので、とりあえずメインスクリーンに拡大された敵の映像をじっと眺めた。まだ相当距離があるらしく、最大望遠でも黒っぽい点が映っているだけで、それが何か分からない。初めての敵は一体何なのか。死人たちか、死神か、邪神か……どれも出会いたくはない。
 その疑問に答えるように、シリンが言った。
「目標の解析結果でました。チェトレ級戦艦の可能性が高いです!」
「うそっ!?」
 キリエが叫んだ。チェトレ級とは、戦艦の中でも最大規模の大きさだ。確か5000メートルを超える。全長300メートルのタケミカヅチの十数倍以上になるだろう。
「どーすんの、サクヤ」
 クラが艦長席を振り返った。ずっと黙っていたサクヤは、口を開いた。
「間違いなく、幽霊船ね。逃げましょう」
「目標との距離1000。交戦領域です。敵主砲の射程範囲まであと150!」
「簡易座標設定!」
 サクヤの声が飛んだ。
「了解、座標設定。XYZ座標、設定完了」
「進路、X20、Z40。タケミカヅチ、第一戦闘速度で前進!」
「了解、進路X20Z40、第一戦闘速度で全速前進!」
 復唱し、クラが操縦桿を倒した。スクリーンに映る光景に何の変化も無いが、所々に映る目盛りの類は、その数字をめまぐるしく変えていく。キリエが手招きしているので、シトゥリはその隣へ向かった。
「とりあえず、あなたの初陣は逃亡戦ね」
「ほっとしてますよ」
 シトゥリは苦笑した。砲手のキリエも逃げるだけなら今のところ仕事が無いのだろう。
「敵の主砲の射程外を掠めるようにして離れるわ。今から180度方向転換してたら、ずっと流されて射程内で無防備に後ろを晒すことになるし。敵はでっかい戦艦だから、この艦以上に融通が利かないのよ」
 その時、シリンの叫び声があがった。
「サクヤさん、変です!」
「報告を!」
 ただ事ではない様子に、全員がシリンのオペレーター席を振り返った。
「目標を中心点にして範囲1000に、突如力場が形成されました!現在分析中!」
「結界!?いえ、バインディング・フィールドなの?脱出は!」
「不可能です。すでに力場は形成済みです!力場結節点まであと距離100!」
「クラ、全力回避っ!!」
「やってるわよっ」
「シトゥリくん、危険だから席についてベルトを締めて!これは罠よ!」
 サクヤに言われ、シトゥリは慌てて席に戻った。回避が間に合わなかったらタケミカヅチの運命もないことは、全員の真剣な表情を見れば分かった。
「よーし、ぎりぎり、距離10で方向転換間に合いそうよ」
 クラが言った。サクヤがうなずく。
「そのまま、力場すれすれを円周航行。フィールドが縮まってくると思うから、距離に気をつけて」
「敵主砲射程内に入りました」
「いいえ、シリン、もう一度敵の分析をしてみて」
「え、あ、はい」
 しばらくパネルを叩いたシリンが、驚いたように顔を上げた。
「え、何これ……。目標、チェトレ級戦艦じゃありません。神……邪神です」
 狐につままれたようなシリンに、サクヤはやっぱりと言う表情を向けた。
「わたしたち、はめられたのよ。敵の邪神の偽装だわ。誘い込まれて、結界の中に閉じ込められたのよ」
「そんなの聞いたことないわよ……」
 キリエが天を仰いだ。
「ついでに全長5キロの神も聞いたことないわね。サクヤ、確かなの?」
 クラが舵を取りながら言った。
「おそらく風船のように体を膨らませているか、こちらの機器をなんらかの手段で狂わせているか。光学的にあの大きさに見えるから、わたしは前者だと思う」
「あんたが言うならそうなんでしょうね。シトゥリくん、怖くない?」
 クラの声は、心配しているのでも、からかっているのでもない。ただ確認の調子だった。
 不思議と怖くは無かった。結界の中に取り込まれた場合、脱出率は一割もない。それでも、サクヤが指揮を執っている限り大丈夫だと言う、根拠のない確信に近い想いがあった。これもまた、サクヤの艦長としての天性のものなのかもしれない。
 ――いましよ
 ふと、シトゥリは声を聞いた気がした。
「シトゥリくん?」
「あ、すいません。ぼーっとしてました、大丈夫です」
 それを聞いて、キリエがくすくす笑った。
「あなた、結構大人物なんじゃないの?並みの男――いえ、連邦の提督だって、この状況下じゃきっと真っ青よ」
「たぶん……状況が把握できてないだけだと思います。あと、サクヤさんに任せてたら安心かな、って」
 シトゥリは素直に本心を言った。キリエはサクヤを振り返った。
「だって、サクヤ」
 サクヤは照れたような笑顔で微笑んでいる。
「わたしに任せておいて。いきなり大ピンチに巻き込んじゃって悪かったけど、無事に脱出しましょう。キリエ、全砲門開いて。クラ、目標に第一戦速で全速接近!」
「了解」
「了解っ」
「目標、詳細データでました。やはり内部はほぼ空洞のようです。原寸ではEクラス邪神と推測されます」
「よし、こけ脅しよ。距離50まで接近したら、全砲門掃射の後、急速離脱!クラ、あなたのドライビングテクニックに賭けるわ」
「まっかせなさい!」
 みんな勤めて明るく振舞っているが、やはり緊張の色は隠せない。張り詰めていたブリッジの空気の中に、更なる緊張の糸が張り巡らされていく。
 ――いましよ
 再び、何者かの声が耳朶を打った。今度は聞き間違いではない。初めて聞く、深く錆のある男の声だった。シトゥリはなぜか、それが自分にだけ聞こえるものだと直感的に確信していた。
「目標まで距離600、590、――え?」
 シリンがまた驚いた声を上げた。
「どうしたの!」
「目標の様子が変です。映像をメインスクリーンに回します」
 映し出された邪神は、確かに戦艦にも見える形をしていた。その内部は内側から赤く息づくように光っている。まるで手のひらを太陽にかざしてみたような色合いだ。
「赤い……血のような色……」
 サクヤも同じような感想を持ったようだ。突然、席から身を乗り出した。
「シリン、何でもいいからレーザーをあれに照射してその反応を計測!」
「わかりました。通信用レーザーを照射します。反応解析終了まで12秒。目標との距離400」
「クラ、第二戦速まで減速」
「は?そんなことしたらヒットアンドアウェイなんて出来ないわよ」
「いいから!」
「あれ、レーザー照射は確認しましたが、反応が返ってきません。曲げられた……?」
 シリンが言った瞬間、サクヤは立ち上がった。
「いけない!通常バリア出力最大で展開っ!クラ、なんとか距離700まで目標から離れて!」
「りょ、了解」
「な、何がどうしたの?」
 キリエが焦ったように言った。シトゥリもそれを知りたかった。サクヤのこんな表情は初めて見る。
「あれの内部は、もとから小さかったんじゃないわ。収縮してるのよ。どんどん小さく!」
「で、それがどうかしたの」
「気付かない?レーザーすら曲げる重力場を形成するほどの密度を持っているの。これがこのまま収縮し続けたら……」
 そこではたと、キリエはコンソールを叩いた。
「超新星爆発!?」
「そう、あれは爆弾なのよ!」
 ――いましよ
 3度目の呼びかけ。そろそろシトゥリは、それがなんなのか気になり始めていた。頭の中で、誰、と呼び返しても、反応はない。その間にも、ブリッジ内は騒然とした雰囲気を増してきていた。
「つ、通常バリア、展開できません!」
「こっちもダメ、舵がロックされてる!?」
「どういうこと、まさか、ハッキング!?こんな時に!」
「いいえ、外部からの干渉ありません。原因不明!」
 その瞬間、スクリーンがまぶしく光り、真っ白になった。シリンの金切り声が響き渡る。
「目標、自爆!衝撃波到達まで5秒!」
「全員、耐ショック用意!」
 ――いましよ。しからばとつかつるぎをとり、かのわざわひをはらわん。
   汝與。然者十拳剣取、彼之妖払。
 次の瞬間、シトゥリの脳内にストロボを焚いたような閃光がはじけた。体の中に、異様なとしか言い表せない感覚が広がる。それは凄まじいエネルギーの奔流に思えた。自分の体が内側から爆発した、と錯覚したシトゥリは、喉を振り絞って絶叫を上げていた。
「うわああああああああああああああ!!」
 座席のベルトが緩かったのか、シトゥリはそれを跳ね飛ばし、頭を掻き毟りながら立ち上がった。
「シトゥリくん!?」
「シトゥリくん!!」
 周りからはシトゥリがどう見えているのか、この生死を分ける状況の中、口々にその名を呼ぶ。サクヤだけが、違う声を上げた。
「ダメよ、まだ、それは――!」
「衝撃波、到達!信じられません、すべてブロックされています!タケミカヅチへの被害0!これは――」
 シリンが早口で叫んだ。
「これは、邇芸速(にぎはやみ)水バリアです!信じられない、信じられません。勝手に、そんな!」
「いいえ、発動させたのはシトゥリくんよ」
 頭を押さえて苦悶するシトゥリに、サクヤが駆け寄った。肩を抱いたその表情は、自責からか苦い。
「この子は、そのためにこの艦へ配属されたの。でもまだ、耐え切れる状態じゃないはず」
「ぐああああああああああああっ!」
 サクヤの言葉に応じるように、シトゥリは首を仰け反らせ、叫んだ。壊れる。脳細胞が一つ一つ焼け、体の中から、もっと大きなものが膨らんでいく感覚。自分が違うものになってしまう。
「衝撃波、収束に向かいます。安全域です」
「キリエ、お願い」
 シリンの言葉を聞いて、サクヤが言った。やってきたキリエがシトゥリの体を受け取って、首の後ろを軽く突くと、シトゥリは気を失った。同時に光の中にあったようなブリッジも、もとに戻る。シトゥリの感じた閃光は、その体の中から実際発せられたものだったのだ。
 どぉん、と一回、艦が揺れた。サクヤが艦長席に戻りながら言った。
「この衝撃は?」
「邇芸速水バリアが消えたため、爆発の残滓の一部が衝突した模様。損傷軽微ですが、7番外部隔壁に穴が開いています。自動応急処置で7番ルートの隔壁は封鎖されました」
 シリンが報告した。声には、安堵の色が濃い。
「そう。みんな、お疲れさま。予定を変更して近くの特異点から地上に戻って、補給を受けましょう。このまま警戒航行を続けて」
 サクヤが言い、大きく息をついた。張り詰めていたブリッジに、ようやく和やかな空気が戻りつつあった。
「うう……」
 シトゥリが呻いて、目を開けた。キリエが優しく呼びかける。
「お疲れさま。あなたのおかげで、みんな生きてるわ。なんとか耐えたみたいだから大丈夫だと思うけど、どこか変なところはない?」
 シトゥリは柔らかい腕の中で、キリエの顔を呆と眺めた。頭がふらふらするが、それは気絶させられたショックのせいのようだ。体に力を入れれば、立ち上がって歩くことも出来そうだった。別段異常はないと言おうとした瞬間、声が詰まるほどの性欲が下半身から突き上げた。異様なまでのその感覚に、シトゥリは息を呑んだ。
「どうしたの?」
「いえ……大丈夫です」
 股間に目をやると、大きくテントを張っていた。目の動きに気付いたキリエが視線を追い、それを見てにっこり笑った。
「そうね、あれは精を使うそうだから。サクヤ!」
 キリエが艦長席を振り返る。
「あたしは、このコを自分の部屋で介抱するけど、いい?」
 自分の部屋で、と言うところを強調する。サクヤも分かっているのか、苦笑気味に返した。
「分かったわ。お願いします。本当なら、わたしが責任を取らなくちゃならないんだけど」
「聞いた?シトゥリくん。サクヤを抱くチャンスよ」
「いいいいいいいです」
 真っ赤になってシトゥリは首を振った。どうして男の自分が赤面せずにいられないことを平気で口に出来るのか。女だけのコミュニティーはそんなものなのだろうか。
「もー、押しが弱いわね。サクヤってあれで、あたしより巨乳なのよ。脱いだらすごいんだから」
「早く行って頂戴」
 サクヤが片手でコンソールの縁を叩いた。くすくす笑いながら、キリエがシトゥリの脇に肩を入れ、立ち上がらせる。シトゥリは歩けると言ったが、取り合われなかった。シリンが手を挙げた。
「艦長、トイレ行っていいですかー?」
「許可します。学校じゃないんだからいちいち言わなくてよろし」
 半ばうんざりした調子でサクヤが言った。扱いにくい連中だ、と言うところだろう。シリンを含めて3人で、シトゥリたちはブリッジを後にした。
「でもすごかったです、シトゥリさん」
 廊下を歩きながら、珍しく興奮した調子でシリンが言った。
「そうですか。ぜんぜん、覚えてません」
「なんかこう、体がぴかーって光った瞬間、邇芸速水バリアが展開されたんですよ。あれがなかったら、今頃わたしたち、宇宙の構成分子の仲間入りでしたね」
 今さらになって、ようやく恐怖が実感されてきた。自分の体が良く分からないことにならなかったら、宇宙の藻屑だったのだ。微妙な身震いを感じたか、肩を支えるキリエがぽんぽんと背中を叩いた。
 じゃあ、わたしはこれで、とシリンは女子トイレに入っていった。次の瞬間、悲鳴が響き渡る。
「きゃー!な、なにこれー!」
 振り返ると、トイレの入り口から、両手を組み合わせたシリンがあとずさりしていた。
「どうしたの!」
 シトゥリを離し、キリエが駆け寄った。トイレの中を覗き、同じく絶句する。シトゥリもそこへ行こうとした瞬間、トイレの入り口からびゅっと太い紐のようなものが大量に迸った。キリエは身軽に飛びのきそれをかわしたが、シリンはもろに飲み込まれる。キリエの叫びが響いた。
「邪神よ!爆発した邪神の欠片だわ!」
 それは芋虫と蛙を混ぜたような体を徐々に外へ現そうとしていた。天井につっかえるほど大きい。キリエはブリッジ側に避けていたため、シトゥリと分断されていた。シトゥリも逃げようとするが、始めて目の当たりにする邪神の威容に圧されたか、先ほどの影響か、足が竦んでなかなか動けない。ぬらぬらと光る触手が前面から大量に蠢いている。
「畜生、さっきの衝撃、こいつだったのね。まさか中に侵入されてるとは――。シトゥリくん、逃げて!あたしは武器を持ってくる!」
「わかりました!」
 そう、せっかく助かったのだ。逃げなければ。あえて触手の中にうずもれたシリンのことは考えないようにしつつ、シトゥリはふらつく足できびすを返した。
 その瞬間、どん、と壁のようなものにぶち当たる。
「え……?」
 目の前には灰色のぶよぶよしたものが広がっていた。視線を上げると、廊下いっぱいにそれは広がり、そしてびらびらと触手が端から伸びている。
「まさか、2匹……!?」
 叫んだ瞬間、足首を触手に取られ、逆さ吊りに持ち上げられる。トイレから出てきた邪神と、シトゥリを捕らえた邪神は、ナメクジのように歩み寄り、身を寄せ合うと触手を絡め合わせ始めた。くっついているのだ。
「ぷぁっ!やだ、助けてぇ!」
 逆さまのまま下を見ると、シリンが触手に手足を絡められたままもがいていた。叫び声が聞こえなかったのは、口の中に触手が入り込んでいたためらしい。すでに制服のジャケットは剥ぎ取られ、その下のパジャマもあちこちが破られて、肌が露出していた。17歳にしては、シリンの肉体は発達していないようだった。ふっくらした乳房も、まだ固さの残る太腿も、どことなく幼さを感じさせる。
見てはいけないと思うのだが、ブリッジにいた時から続く猛烈な性欲がそれを許さない。肌をうねる触手がびりびりと服を破いていくさまは、嗜虐心のような欲望の炎を掻き立てる光景だった。ついにシリンは下着も破り取られ、腰を持ち上げられた姿勢で大きく開脚させられた。
まるでシトゥリに見せ付けるように触手が花弁の端を押さえ、ぱっくりと開かせる。シリンの陰毛は無毛に近いほど薄く、まるで何も生えていないように見えた。開いた花弁の中には、ピンク色の肉が瑞々しい色合いで息づいていた。その端から、トロっと液体が滴ったのを見て、シトゥリは驚いた。
「やだぁ、見ないで、見ないでぇ」
 シリンがシトゥリの存在に気付き、上を見上げて哀願する。その頬は上気して息も荒かった。触手の1本がシリンの口に突きこまれた。
「んー、んー!」
 触手が脈打ち、何かを注ぎ込む動作を見せている。苦しそうに涙ぐんだシリンは、それを飲み込むしかない。同時に、花弁の中から大量の蜜が溢れ、流れ出した。ひくひくとまるでねだるように柔肉が妖しく蠢く。
「けほっ、けほ」
 ようやく開放されたシリンの表情は、いっそう上気していた。とろけたような目でシトゥリを見上げ、ああ、と呟く。どうやら催淫効果のあるものを触手は飲ませているようだ。無垢な少女が肉欲に溺れていくさまのような、倒錯的なエロティシズムがある。実際のところはシリンはクラのおもちゃにされているらしいから、無垢などと言うことは無いのだろうが。
 人差し指ほどの太さの触手が、水の溢れる泉のような花弁の上で、狙いを定めるようにしなりをつけた。シリンは潤んだ眼差しで、じっとそれを見つめながら、舌で唇を舐めた。シリンの視線の先で、それは一気に蜜壺の中へ突き刺さった。
「あー……」
 鳥が鳴くような、うっとりとした声をシリンは上げた。出入りを開始する1本を皮切りに、何本もの人差し指サイズの触手が立ち上がり、次々と柔肉の中へと分け入っていく。それが突き入れられるたび、シリンは体をびくっと震わせた。
「あうっ!あうっ!あうっ!」
 シリンの花弁は限界まで触手を受け入れ、丸く広がっていた。まるでコードの束を突き入れられているようだ。触手はそれ1本1本が独立した動きで、シリンの膣内を思うさま嬲っていた。素早く出入りを繰り返すものもあれば、ゆっくりと舐めるような動きをするものや、中を掻き回しながらうねるものもある。溢れ出した蜜は花弁の縁からだけでなく、触手の間からも染み出し、くちゃくちゃと音を立てた。入りきらない触手は、するすると下に下がり、花弁から垂れた蜜に濡れるアナルの入り口を摩った。
「やっ、ダメそこぉ」
 半ば焦点の合わない瞳で言われても、逆に欲しがっているようにしか見えない。触手はその蜜を潤滑液代わりに、ずぶっと中へ潜り込んだ。
「はぁぁぁ……!お尻、なんて……クラさんにしか許してないのにぃ」
 そんなことまでしてたのか、と逆さまのまま、シトゥリは半ば呆れた。頭に下がってくる血液のせいで、頭痛がひどい。考えてみれば、掴まれているのは片足だけだ。もう片方の足で何度か触手を蹴ると、シトゥリは開放され、下の触手の群れの中へ落下した。
 頭を振って起き上がると、シリンはアナルに3,4本、その上には10本近い触手を突き込まれて、嬌声を上げていた。触手同士はやがて震えながらくっつき始め、一本の太いものに融合した。それが激しい動きでシリンの膣とアナルへ出入りする。
「はー!ぁぁー!ぁー!ぁー!」
 突き上げられる勢いで肺から声が押し出されているような、擦れながらも妙に色っぽい喘ぎ声だ。なんとか助けようと触手を掻き分けてたどり着いたシトゥリは、それを聞いて急激に理性が失われていくのを感じた。
 奥歯を噛み締め、かろうじてそれを押さえると、シトゥリはシリンの花弁に刺さった太い触手を掴み、一気に引き抜いた。
「っっっ!!」
 シリンが目を限界まで開いて、口をパクパクさせる。抜き取った花弁からは、びゅっびゅっと白濁した液体が噴出していた。急激に触手が抜けていく感触に、絶頂へ達して潮を吹いたらしい。またしても脳髄を溶かすような欲情に、シトゥリはふらついてシリンの上に覆いかぶさってしまった。
「ご、ごめんなさいシリンさん……。僕、もう我慢できません」
 そう呟くのだけが、理性の最終抵抗だった。シトゥリはジッパーを下げると、中身を出すのももどかしくシリンの股の間に割って入った。アナルにはまだ触手が入ったままだったが、それを抜いてやる理性も残っていなかった。ようやく潮を吹き終えたばかりの蜜壺に、シトゥリは自分のモノを突き入れた。
「あああっ!」
 新たな刺激に、シリンが再び嬌声を上げた。もうシリンにも理性が残っていないのだろう、口元は与えられた快楽に悦んで、笑みの形に刻まれている。シトゥリは膣の中の自分のモノと、アナルから差し込まれた触手とが、内部でごりごりとこすり合わさっているのを感じた。それがこすれあうたび、シリンは獣の声を上げた。
「ぁあっ!ぁあっ!ぁあああっ」
 触手によって十分な広さに拡張されていた膣は、シトゥリのものをスムーズに出入りさせた。ぐちゅぐちゅと言う音が辺りに響き渡る。すぐ射精するつもりが、広がってしまったせいで締め付けが悪く、シトゥリはなんとか早く終わらせようとさらに激しく腰を動かした。そのせいで余計にシリンが快楽に狂う。
「ぁぁぁっ!ぁぁっ!ぁああー!」
 首を振り、体をよじろうとするが、しっかりと触手に固定されてしまって身動きは取れない。それが返ってシリンを高ぶらせているようだった。末期の患者のように白い腹を激しく上下させ、シリンが叫んだ。
「やあーっは!出るっ!吹いちゃうう!」
 突如、膣の中が複雑な動きをみせ、シトゥリのイチモツを挟み込んだ。その刺激に、シトゥリも中へ放っていた。つい1時間前、クラと一戦交えた後とは思えないほど、大量の精液が流れ込んでいく。シリンの花弁からも、液体が噴出して、シトゥリの腹に当たって飛び散った。
 背筋が痺れ渡る快感が終わると、シトゥリは身を離した。シリンのアナルを犯していた触手も力を失って抜け落ち、ぽっかり空いたその穴へ、花弁から逆流した白い液体が流れ込んでいた。だんだん頭が冷静になっていくにつれて、現状が混乱しそうなほどの勢いで雪崩れ込んでくる。
「な、何をやっちゃったんだ僕は!」
 とりあえず青くなって呟き、シトゥリはシリンを抱き起こした。気絶しているのかと思ったが、シリンはまだ媚液の影響から抜け出ていないようだ。薄く目を開けると、ねっとりとキスをしてくる。
「わわっ、それどころじゃないんですって!」
「うふふ、シトゥリさん、もう一回しよぉ……」
 くっついてくるシリンを離しながら、ふとシトゥリは周りがおかしいことに気付いた。巨大な邪神の体に包み込まれるようにして二人はその中にいるが、全ての触手がぐったりと垂れ下がり、色を失っている。
「これは……」
 と状況を理解しようとした時、聞きなれない男の声が、邪神の向こうからした。
「大丈夫かー!」
 それで分かった。外からの攻撃で、邪神は退治されたのだ。だが、一体誰なのか。よく聞くと数人の声と気配がする。
「はいー!でも、女の子が!」
 シトゥリは返事をすると、伏せろと指示があった。言われたとおり伏せると、勘違いしたシリンが嬉しそうに足を絡めてくる。出しっぱなしのイチモツに気付き、慌ててしまいこんだところで、邪神の上半分が吹き飛んだ。
「大丈夫かっ!」
 間髪いれずに武装した数人の男が雪崩れこんできた。すぐに抱き起こされ、毛布を当てられる。相当訓練した部隊のようだ。
「あの、あなたたちは」
「我々は、八十禍津日(やそまがつひ)教団のものだ。貴艦のSOSをキャッチし、母船に収容した。もう大丈夫だ。それより、怪我はないかね」
「僕は大丈夫ですけど、彼女が邪神に当てられたみたいで……」
「……のようです」
 シリンを毛布に包んで抱きかかえた黒人が、困ったように言った。シリンはその胸を撫で回しながら、首筋にキスの雨を降らせている。リーダー格の男は、表情を崩さずに指示を出した。
「すぐアシリア様の所へ連れて行け。危険はないだろうが、禍払いをした方がいいだろう」
「はっ!」
 黒人は足だけで敬礼すると、シリンを抱えたまま走っていった。入れ違いに、サクヤたちが走ってこちらへ向かってきた。
「シトゥリくん、大丈夫!?」
「はい」
「よかった……。ごめんね、助けに来られなくて。邪神が分裂していたみたいで、ここに来るどころかブリッジを守るので精一杯だったの」
 そう言ったのはキリエ。ところどころ制服は破れ、戦いの激しさを物語っている。シリンの様子を聞くクラに、シトゥリは大丈夫と返した。
 ふと気付くと、リーダーが敬礼していた。それにならってか、他の男たちも後ろに並び、こちらに向かって敬礼する。
「ちょ、な、なんなの……?」
 キリエが小声で焦った声を出す。リーダーは敬礼を解くと、頭を下げた。
「お久しぶりでございます、クラティナ様」
「クラティナ……様!?」
 シトゥリたちは声を合わせて驚いていた。それを気にした様子もなく、むしろ冷たい眼差しで男たちを見据えながら、クラは言った。
「3年ぶりになるかしら。さあ、私の仲間を母船に案内なさい」
-chapter2- 現在と過去
 シトゥリがタケミカヅチに配属されてから数日。操舵砲手補助と言っても仕事はただの雑用しかなく、また地底宇宙である黄泉を航行中とは思えないほど穏やかに日は過ぎていた。
 思っていたより艦は呑気で、緊張や不安はまだ少し残るものの、どうやら戦闘に入らない限り楽しくやれそうだった。が。
「あ、あぁん」
 キリエの喘ぎ声がブリッジに低く流れた。その後に避難めいた口調で続ける。
「ちょっと、やめてよクラ……」
「そんなこと言って、もう乳首はこんなになってるんだから」
「そ、それはあなたが上手過ぎるの。あっ」
「下はどうなってるのかしらね?」
 赤毛をポニーテールにした女性が、コンソール・チェアの横から抱きつくようにして、キリエに覆いかぶさっている。赤毛の女性の名前はクラ。本名はクラティナだが、みんな愛称のクラで呼んでいる。手足が折れそうなほど細くて長く、どこか爬虫類めいた雰囲気を漂わせた女性で、不思議な妖しい魅力がそれと相まって漂っている。
 今日はシトゥリとクラ以外の乗員は非番で、仕事の残っていたキリエが普段着のジーンズ姿でコンソールに向かっていたのだが、いつの間にかこういうことになっていた。シトゥリは横目でそれを見ながら、航行記録をつけるのを断念した。気になって集中できない。宇宙の女性は奔放な人が多いとは聞いていたが、これは単なる性の乱れなのではないだろうか。別段モラリストでもないが、そう思わざるを得ない。ため息をついて、シトゥリは二人の観察をすることにした。
 クラはキリエのTシャツの胸元から手を入れ、もう片方をジーンズの上から中に差し入れている。服の下でそれが妖しく動くたび、キリエの喘ぎが流れた。
「はぁっ、あぁ、あ、ぁぁん……」
「もうドロドロよ……。あんた感じやすいしすぐイっちゃうから大好き。ほら、ここをこうするだけで……」
 ジーンズの下で、クラの手がえぐるように動き、キリエは背を仰け反らせた。膣の上側の、あのぷっくりした場所をいじってるんだろうか、と前にキリエと体を合わせた時のことを思い出し、シトゥリは知らず生唾を飲み込んだ。股間を触ってみると、力いっぱい固くなっている。トイレに行ってオナニーでもしない限り、これから仕事になりそうにない。
「あー、あ、あああぁぁ……っっ!!」
 腰がチェアから浮くほど体を仰け反らして、キリエは身をよじらせた。達したのか、どさっと体を落とすと、荒い息をついたまま動かなくなる。満足そうにそれを眺めながら、手についた蜜を舐めているクラに、しばらくしてキリエは恨めしそうに言った。
「もー、あたしにそのケはないんだから、やめてって言ってるのに……」
「あいさつみたいなもんよ」
「あいさつ代わりに人をイカさないでよね」
「ふふっ……。あ」
 クラがシトゥリの視線に気付き、こっちを指差した。
「あー、いつからそこに居たのよ」
「……就業開始の時から居ました」
「混じりたいんなら言えばいいのよ?あんたみたいに線の細いタイプだったら、私も歓迎だから」
「ダーメ。あのコはあたしがいただいちゃったから」
「はやっ!あんた手ぇ早すぎよキリエ」
「……もう誘惑したの?キリエ」
「誘惑だなんて人聞きの……えっ!?」
 第三者の声に、キリエは驚いて飛び上がった。クラもまずいと言う表情をしている。ブリッジの入り口に、サクヤが腰に手を当てて仁王立ちしていた。初めて見る私服姿は、白いブラウスとブラウンのロングスカートだった。そんな女らしい姿も、眉をひそめた怒りの形相の前では、鬼のように見える。美人ほど怒れば怖いというのは本当だろう。
「ちょっとそこに正座しなさいね、キリエ」
 艦内唯一のモラリストは、つかつかと歩み寄ると、床の上を指差した。いつの間にかシトゥリの横に移動してきたクラが、小声で囁いた。
「こりゃ、雷が落ちるわ。くわばらくわばら。あんたにも落雷するわよ」
「うう……仕方ないです」
「あら、ずいぶん運命に受動的ね。怒られると感じるくらいのMじゃないなら、もう少し抵抗すべきだわ」
「え、M?抵抗ってどうするんですか」
「シトゥリくん、あなたもこっち来なさい」
 サクヤが目を三角にしてシトゥリを見た。びくびくしながら、立ち上がると、クラが言った。
「ほらきた。抵抗ってのは、こうするのよ!」
 クラがシトゥリの手を握ると、引っ張って走り出す。意表を突かれたシトゥリは、思わず一緒に走り出していた。
「あ、あのちょっと!?」
「ああー、非道い!」
「こらー!」
 焦った声はシトゥリ。避難の声はキリエ。怒声はサクヤ。それだけの音響と足音を残し、二人はサクヤの後ろを駆け抜けて廊下に飛び出していた。
 もはや共犯だ。妙に楽しそうなクラの表情が気に食わないが、シトゥリはとりあえず一緒に逃げることにした。考えてみればクラが逃げる必要はないのだが、その表情が十分に答えを示していたので、訊かなかった。
 クラは廊下の脇にあるドアを開けると、シトゥリを中に押し込んで、自分も滑り込むとそっと閉めた。中はまっくらで狭く、二人も人が入れば余裕が無くなるようなところだった。クラのポニーテールが顔に当たっている。ほのかなシャンプーの香りが鼻をくすぐった。
「あの」
「しっ」
 クラが指を口元に当てた。目が慣れるとなんとかそれくらいの判別はできる。廊下の向こうからサクヤの声がした。
「どこいったの二人ともー!あとでみっちりしごいてあげるわ」
 どうやらこれで、サクヤは探索を打ち切ったようだった。くくく、と可笑しそうにクラが笑った。
「あー楽しかった。良かったわね、逃げられて」
「あの、みっちりしごかれることになりましたけど」
「男なら先のことなんて考えない。宵越しの金は持たないって諺もあるでしょ?」
 ニュアンスは伝わるが用法はどうだろうか。クラはぴったりと体を寄せていた。狭い場所だが、もう少し余裕はありそうなものだ。さっきからシャンプーとクラの体臭の混じり合った、花のような香りが頭をくらくらさせている。
「そろそろ、出ませんか」
「まだよ。キリエのお説教が終わったくらいがいいわね。サクヤも疲れるだろうし」
「ええ……じゃあ、もう少し」
 相変わらずぴったりとクラはくっついている。身長が同じくらいだから、耳元に当たる息がこそばゆい。それより、不完全燃焼で終わった反動か、シトゥリのイチモツは香りを嗅いでいるだけで、固くなり始めていた。なんとかばれないように身を離そうとするが、うまくいかない。もぞもぞしていると、クラが急に耳へ息を吹きかけた。
「わっ」
 思わず声が出た。クラが小さく笑い、今度は抱きつくように体をくっつけてきた。首筋に唇が当たっているのが分かる。緊張で体をこわばらせたシトゥリに、クラが囁いた。
「ね、私って別に女の子しかダメってわけじゃないの」
「はあ」
「私は綺麗な人間が好きなだけなの。あんたみたいな綺麗な男の子も好きよ」
「はい……」
 なんと返していいか全く分からず、生返事みたいな調子でシトゥリは言った。頭の中とは別に、セックスへの期待からか下半身のモノは限界まで立ち上がっている。一瞬ミイラ取りがミイラになると言う諺が浮かんだが、おそらく用法を間違っているだろう。
「どうしてクラさんは女性に目覚めたんですか?」
 なんとか雰囲気の方向を変えようと、シトゥリは前からの疑問を聞いてみた。答えたがるような話題じゃないだろうと思ったのだが、そうでもなかったようだ。ただ、その答えはシトゥリを驚かせた。
「別に、元からってわけじゃなかったのよ。ここに配属される前、私は諜報部に居たの」
「え、スパイですか?」
「そう。邪神を奉じるような連中の所に潜入する仕事。女スパイの主な活動手段はね、もちろん色仕掛けよ。でも、ある宗教団体の幹部が、レズの女の人でね。うまく取り入ることは出来たんだけど、それがものすごく綺麗でかわいい人で……。結局、私のほうがはまっちゃって仕事は失敗。嗜好に性差がなくなったのはそれからね」
「なんだか……すごいですね」
「この艦は、一癖ある連中ばっかりよ。キリエだってここの前は連邦の裏組織で暗殺部隊にいたわ」
「暗殺っ!?」
「声でかい。あのコ、かなり鍛えてあるでしょ。それと抱かれたんなら分かると思うけど、セックスの技術も相当。女暗殺者としてはほぼ完璧なんだけど、感じやすいからベッドを使うような任務は出来ないし、人を殺せるほど強くは無かったから任務に当たる前にやめたって言ってたわ。優しかったんでしょうね」
「そうなん……ですか」
 キリエが人を手にかけたことはないと知って、シトゥリはほっとした。同時に、なんでこんな凄まじい経歴を持つ人のなかに自分が混じっているのだろうと思った。それを見透かしたように、クラが言った。
「あんただって、結構なもんよ?何にも知らないような綺麗な顔してて、ここはこんなに」
 突然、ぎゅっと股間を握られて、シトゥリは息を呑んだ。慌てて言う。
「ちょ、ちょっとクラさん」
「生き方を変えたら、すっごいホストになることだってできると思うわ。ここと、そのルックスを使ってね」
 まじめな口調なのだが、本気なのかからかっているのかわからない。クラの手がゆっくりとこねるように竿をしごき始めて、下がりかけていた欲情が再び煮えたぎってきた。なんとかそれを押さえながら、シトゥリは勤めて冷静に言った。
「あの、お願いですから……ちょっと」
「なぁに?もっとして欲しいの?」
「いや、逆ですよ逆」
「まさか、キリエには抱かれるのに私はイヤってんじゃないでしょうね」
「そ、そんなことないです!」
「じゃあよろしい」
 クラがベルトをはずしにかかった。性が乱れている。最後の理性が頭の中で呟いた。
 ズボンを下ろされると、固く勃ったものが暗闇に晒された。さすられたせいで、すでに先の部分からは透明な汁が溢れて筋を引いている。味わうような手つきで、クラがそれを撫で、竿全体にこすり付けた。
「男の人のって、何年ぶりかしら……。こんな立派なのは初めて」
 ふっと息を吹きかけ、チロチロと裏筋を舐めていく。片手は竿を上から包むように握って優しくさすり、もう片手は袋をやわく掴んで転がしていた。カリの付け根を舐められた時、シトゥリは電撃のような快感が走って、びくっと体を振るわせた。
「ここが弱いのね」
 クラがその付け根をチュッと吸い、口を付けたまま舌を何度も動かした。そんなところが感じるとは、シトゥリも知らなかった。イチモツはびくびくと何度も震え、シトゥリは声を出さないように奥歯を噛み締めて、壁にもたれ、指を立てた。
「どう、気持ちいい?」
「……上手過ぎです……」
「ふふ、しばらくぶりでも衰えちゃいないみたいね。もっと色んな性感帯を開発してあげる。……こことか」
 袋を撫でていた手が後ろに回り、突然アナルに指が差し入れられた。灼熱のような感覚に、思わず体が跳ねる。
「うわ、そ、そんなとこ」
 アナルの中で指が探るように何度か動き、そして入り口から少しのところで、ぐっとイチモツの方向へ押された。
「あ……は!」
 裏から前立腺を刺激される、未経験の感覚にシトゥリは混乱した。クラが竿を握り締め、カリを口に含んだ瞬間、我知らず射精していた。
 頭の中が真っ白になるような感覚がして、シトゥリは天を向いて仰け反った。暗闇の中、クラの喉仏が動くこくこくと言う音だけがひどくエロチックに響いた。出し終えると、クラは指を抜き、立ち上がった。逆にシトゥリは壁を支えにしないと、座り込んでしまいそうだった。
「かわいいわぁ。まだ自分を知らないコを開発してあげるのって、いいもんね」
「そんなこと、僕に言われても……」
 荒い息を吐きながら、そう返すのが精一杯だ。クラは腰をかがめ、スカートの中身を脱ぎ、後ろを向いた。
「さ、次は私を楽しませる番。うしろから犯して」
 壁に手を突いたその姿は扇情的で、シトゥリは見る見るうちにイチモツが回復していくのを感じた。汁がつかないように十分にスカートを捲り上げ、シトゥリはクラの腰を掴み、イチモツをあてがった。痩せ過ぎじゃないかと思えるほど細い腰は、少し力を入れただけで折れてしまいそうで、優しく押さえるようにしながら自分のモノを中に進めていく。
「ああ、あ、太ぉい……。待って、動かないで」
 クラの膣は十分に湿っていたが、器官はむしろ小さいようだ。カリから少し入ったところで、シトゥリはいったん腰を止めた。後から後から蜜が湧き出てくるので、そんなことは無いと思うのだが、痛いのだろうか。クラは、頭を壁に当てた手より下に下げたまま、喉に何か詰まったような深い呼吸をゆっくりと繰り返している。
「……痛いですか?」
 訊くと、ポニーテールが横に振られた。
「違うの。いいの。男のなんて、ひさしぶり、だから。……その」
「イっちゃいそうなんですね?」
 こくり、と頭が縦に動いた。さっきまでのS的な態度とのギャップに、シトゥリは少し仕返しをしたくなった。膣は食いちぎりそうなほどイチモツを締め付けているが、この濡れ方なら大丈夫だろう。シトゥリはなんの前触れも無く、いきなり奥まで貫いた。
「あああっ!?」
 クラが頭を仰け反らせて声を上げた。指が力いっぱい壁を掴んでいるのが見える。仰け反ったまま何度か首が痙攣した。いれただけでイったらしい。やがてがくりと頭を落とすと、高まった呼吸に喘ぎながら言った。
「なんで、私、こんなに感じてるの?最近不感症気味なんじゃないかって、思ってたのに」
「セックスは男とするもんなんですよ、きっと」
「……バカ。でも、そうかもね……」
 シトゥリは少し恥ずかしくなって、再び腰を動かし始めた。クラの膣は限界まで広がって、シトゥリのモノを締め付けている。一番奥まで挿入しても、シトゥリの根元まで届かなかった。その奥を突くたび、クラは声を抑えながら壁を掻き抱くように力を込めた。
「私、決め、たわ」
 喘ぎ声の合間から、クラがうわ言のように言った。
「もう一度、あの人に会ったら、どうしようってずっと悩んでたけど、今なら、きっと、決別できる」
 あの人、とは美しい宗教団体幹部のことだろうか。このクラを狂わせるような人物は、一体どんな人だろうと思った。
「そうじゃないと、私、大切なものを全部、壊してしまうから。だから、今は私を愛して。無茶苦茶にして!」
 シトゥリはそれに応え、腰の速度を速めた。クラの体重は何キロなのだろうか、腰を握る手にいつの間にか力が入っていて、ほとんど地面からつま先が浮いていた。腰を抱えあげるようにしながら、シトゥリは一心にグランドを深めた。
「ああー!あー!あー!ダメっ、イク!」
 クラが喘ぎ声をいっそう高まらせると、壁をかきむしった。同時に、締まっていた膣がさらに絞られる。あまりのきつさに、シトゥリも放っていた。
「うっ、ううっ、う……」
 オルガズムの絶叫を必死に出すまいと、苦鳴のような呻きをクラがあげた。完全に地面から浮いている足が、脚気の検査のように宙を掻く。お互い十分に余韻を愉しんだあと、シトゥリは腰を離し、クラを降ろした。そのままクラは、壁にもたれるようにして、ずるずると膝を付いた。
 荒い息を繰り返す音だけが、暗くて狭い空間を占めた。
「……ありがと、シトゥリくん」
 しばらくしてクラが言い、立ち上がろうとしてよろめいた。慌ててシトゥリは支える。
「だ、大丈夫ですか」
「もう、激しすぎよ、あんた。壊れちゃうところだったわ」
 そう言ってクラはシトゥリに口付けた。体温がそれほど高くないらしい。冷たいながらも柔らかい感触を残し、クラは身を離した。
「迷いが出たら、また抱いて。あんたなら、先を見せてくれそうだから」
「あ……はい」
「もちろん、色んなところを開発してあげるわよ。そうね、シリンちゃんと3人でって言うのもいいかも」
 クラからしおらしい表情が消え、またもとの掴み所の無い雰囲気に戻っていた。悪巧みするような笑みに、引きつり気味の笑顔を返しながら、シトゥリはこれからどうなるんだろうと言う一抹の不安を覚えた。
 その瞬間。
『アラート!アラート!こちらの呼びかけに応じない艦が一隻、急速に接近中!待機中の乗員は戦闘配置に付け!』
 キリエの声が、突如鳴り始めた警報と共に艦を揺るがせた。
「敵ね。行くわよ!」
 打って変わった鋭い声で、クラが言った。
-chapter1- タケミカヅチ
「宇宙、これが宇宙……」
 通路の窓から外を眺め、黒髪の少年は呆然と呟いた。いつか船に乗りたい、そう思って連邦大学付属高校に入って数ヶ月。早くもその願いが叶うとは思わなかった。興奮も混乱も通り越して、今はただ自分の運命に呆れ返っている。連邦軍の中でも屈指の最新艦と言われるタケミカヅチ。その中へ収容され、今こうして宇宙を見ているのだ。
「正確には地底宇宙(インナーユニバース)よ。いわゆる黄泉、わたしたちの敵の陣地の中だから、気を抜かないでね」
 隣に立つ亜麻色の長髪の女性が言った。
「あ、はい……」
 少年はその顔を少し見つめ、また窓へ視線を戻した。目をやるといつまでも見つめてしまいそうだったからだ。綺麗とか美しいとか、そう言う言葉では言い表せない女の魅力を湛えた女性。ふっくらした頬からすっと絞られた顎に渡る絶妙な輪郭や、大きくて落ち着いた雰囲気を放つ眼、顔の中心で整っている鼻梁など、全てが今まで会ったどんな女性をも超越していた。
 つい数時間前この人に会った時、運命が変わったのだ。女性は連邦軍高速駆逐艦タケミカヅチ艦長、サクヤ=シノと名乗った。少年は名乗られる前から知っていた。若干20歳にして類まれな才能を持ち、新型駆逐艦の艦長を任された女性。その雲の上の人が、自分にあるなんらかの才能を見抜き、突然船へと誘ったのだ。身震いするような出来事だった。乗艦してからまだ1時間、いまだにそのことが信じられない。
「それじゃ、わたしは仕事に戻るから、あとの説明は他の人に受けておいてね。確か、今キリエがオフだったから、彼女に任せておくわ。ああ、そうだ」
 と、サクヤ艦長は小脇に抱えたクリッブボードから、一枚の紙を抜き取った。
「これがあなたの配属と階級。急ごしらえだからちょっと粗末だけど、がまんして。じゃあ、あとでね」
「わかりました」
 少年は返事をした。サクヤがきびすと返すと、通信機で何事か連絡を取りながら廊下を歩み去っていく。相当に多忙らしい。少年は連邦軍のスーツに身を包んだその後姿を、消えるまで眺めてから、手もとの紙へ視線を落とした。そこにはこう書かれてあった。
『シトゥリ・レイヤー(15歳)男、砲手補助兼操舵手補助配属、3等兵卒』
 なんだか適当だな、と言うのが第一印象だった。
「ハーイ」
 じっと書類を眺めていると、廊下の向こうから声がかかった。顔を向けると、銀髪の女性が壁にもたれて片手を挙げていた。思わず片手を挙げ返す。
「あなたがシトゥリくんね。こっちいらっしゃいな」
 そう言って手招きした女性は、すらっとした長身のスレンダーな体型だった。同じ連邦のスーツでも、まったくサクヤとは印象が違って見える。近づいて見ると、スカートから伸びる足は細いながらかなり引き締まっていた。なにかスポーツをやっているのだろうか。視線を上に上げると、意外なほど豊かな胸が目に入って、シトゥリは少しどぎまぎした。
「ふーん」
 前に立つと、女性はシトゥリの上から下までじーっと目をやった。さらにどぎまぎして、何か言い返そうとした時、女性はすっと片手を出した。
「あたしキリエ。この艦の砲手をやってるわ。あなたは砲手補助だから、直属の上司はあたしってことになるわね。よろしく」
「よろしくおねがいします」
 シトゥリは手を握り返した。かっちりしたサクヤと違ってずいぶんラフな女性だ。こういう人が上司の方が助かるかもしれない。澄んだ声のせいかもっと大人に見えたが、歳はサクヤと同じくらいのようだ。そんなに背の高くないシトゥリより、10センチほど上背がある。
「で、あなたにレクチャーしろって言われたんだけど、そういうのって苦手なのよね。サクヤもわかってるくせに……」
 手を離し、キリエは頭の後ろを掻いた。そして少し腰をかがめ、顔をシトゥリに近づけると、にっこり笑った。
「でもま、こんなカワイイ子を部下に貰ったんだから、感謝しなくちゃね」
 笑うとちょっと目じりが下がって、妙に艶のある表情になる。シトゥリは急に早くなった心臓をごまかすように、なんとか笑い返した。
 ついてきて、と言って歩き始めたキリエの後ろを歩きながら、シトゥリはきょろきょろと周りを見回した。廊下から垣間見えるすべてが真新しい。
「この艦は新型と言うより試作型の駆逐艦だって言うのは聞いたことがあると思うけど、数年前発掘された最古の文書の技術を解読した粋を集めてあるわ。全長は300メートルちょいだけど、ほとんどが言霊制御によって自動化、省スペース化されてるから、見かけの割りに大出力で居住空間も充実してるのが特徴ね」
 とりあえずと言った感じでキリエが説明をしている。その程度の概略であればシトゥリも知っていた。たしか特殊なバリアを2種類装備していて、1つを防御用に展開しつつ、もう一つを剣状に前面に突き出して、高速で体当たりすると言う無茶な攻撃方法が可能な艦だったはずだ。
「で、ここからが居住区。一番端のこの部屋があたしの部屋で、その向かいがあなたの部屋になるわ。連邦規定で非常鍵以外に扉のロックはないけど、寝顔を見に来るのはやめてよね」
「は、はい」
「じょーだんよ。赤くなっちゃって。とりあえずあなたの部屋はまだ使えないから、あたしの部屋に入っておいて」
 どうも調子を狂わされっぱなしだ。シトゥリはあとについてキリエの部屋の中に入った。
中は想像以上に広く、連邦の寮よりも相当手が入った造りだった。照明や家具も洗練されている。キリエの人柄を表しているのか、その他は実用的なものが並んでいるのみだったが、殺風景な印象はまるでない。入り口で半分呆けていると、キリエが言った。
「そこ、ソファしかないけど座っておいて。何か飲む?」
「え、いえ。いいです」
「そう、遠慮しないでよー。あ、着替えるからこっち見ないでね」
 その言葉に面食らって思わずシトゥリは奥のクローゼットに向かったキリエに目をやると、こちらなど気にした様子も無くすでに上着を半分脱いでいた。あわてて視線をそらし、足早にソファへ向かって腰掛ける。こういう状況に慣れていないせいか、緊張で心臓の音が聞こえそうなほど鳴っていた。
「どうも制服ってのは気が詰まって好きじゃないわ」
 しばらくすると、キリエはボトルとグラスをテーブルに置き、隣に腰掛けた。シトゥリは息を吐いて肩の力を抜く努力をしたが、キリエの姿を見て再び緊張した。スーツの中に着ていたのだろうか、上半身は濃いブラウンのキャミソール一枚で、胸の半ばまでが露出し、ブラジャーのラインもくっきり出ている。豊かな谷間に銀色の髪がぱらぱらと散っているのを見た瞬間、シトゥリは別の場所が急激に緊張するのを感じて身をこわばらせた。
「悪いけど、照明落とすわよ。あたしこれから寝るから。昨日は夜勤だったのよね」
 隣のシトゥリの様子など意に介した様子もなく、キリエはリモコンを取ると照明をお互いの顔が見えるかどうかまで落とした。ボトルを開け、中身をグラスに注いで口をつける。芳醇な香りがシトゥリの鼻に届いた。これ以上ここに居たら不純な欲望がばれてしまいそうな気がして、シトゥリは口を開いた。
「僕の部屋、いつ使えるようになるんですか?」
「さあ?今掃除してると思うから、そろそろじゃない。それより、自分のこと、僕って言うのね。普段から?」
「ええ、はい」
「ふふ、そう言うの好きよ。俺って言うのは相手を見下した時に使う二人称だから、あまりよくないわ」
「そうなんですか」
 グラスを持ったまま、じっとキリエが見つめてくる。どこを見たらいいか分からなくて、シトゥリは部屋の中を見回す振りをした。ぐっと呷ってグラスを開けてから、キリエが言った。
「まだ、緊張してるわね。急な話だったから仕方ないか。なんにも説明しないままでこんなこと聞くのは悪いけど、やっていけそう?」
「自分に出来ることがどれくらいかわかりませんけど、それ以上の努力をする覚悟できました。船に乗ることは、僕の夢だったので」
「そう。あなた、歳の割にはしっかりしてるわね。そのうちあなたがこの艦に乗っている意味も分かってくると思うけど、たぶん大丈夫よ」
 キリエは言いながら2杯目を注ぎ、それも一気に飲み干した。その手元を見ていると、キリエはグラスを振った。
「飲む?」
「……未成年ですよ」
「つまーんないの。ま、いい男を隣においておいしい酒を飲めるのは、幸せよねぇ」
「あの、もう酔ってませんか……?」
「馬鹿言わないでよ」
 3杯目もすぐに小ぶりな口元へ消えた。シトゥリはボトルの表示に目をやって驚いた。アルコールのことは良く分からないが、水みたいに飲むような度数ではないはずだ。
「あの……」
「部屋が出来るまでと思って少し付き合って。この艦、女ばっかりだから男日照りなのよ。今年でまだハタチだってのにまいっちゃうわまったく」
「え、女の人ばっかりなんですか?」
「そうよ。知らなかった?あなた以外の4人は全員女。ハーレムだねーってちゃかしたいところだけど、……」
 キリエは言葉を切ってまたグラスを呷った。肩をすくめ、続ける。
「サクヤもあとの二人も一筋縄じゃいかないわね。まともなのはあたしだけよー?覚えといて」
 ぐっと身を乗り出して、キリエはシトゥリの鼻先に指を突きつけた。胸元が強調されて、せっかく下がっていた血液が再び戻り始める。体が触れないように少し仰け反りながらなんとか返事をした。
「は、はい」
「特にあとの二人はレズだから気をつけて」
「れ、れず」
「そうよー。シリンちゃんはまともなんだけど、クラがねえ……。あたしに目をつけてるらしくて、やたら体とか触ってくるし。浴場とかでも」
「よ、よくじょう」
「何?」
「いえ」
 キリエはやっと体を離したと思うと、じっとシトゥリの全身を眺めた。ふいに、にやっと笑うと、グラスをテーブルに置いた。
「もしかして、こういう話ダメ?」
「そんなわけじゃ、ないんですけど……。女の人とは」
「あらあらうれしい。あたしのことはちゃんと女って言う認識なのね」
 何がおかしいのか腕を口元に当ててくすくす笑い出す。キリエは足を膝までソファに乗せていた。下は制服のスカートのままかと思っていたのだが、上のキャミソールとセットの丈の短い夜着のようだった。暗い照明が、かえって太腿の白さを艶めかしく見せている。口の中が乾いているのに気付いて、お茶でも頼めばよかったとシトゥリは後悔した。
「ねぇ、二人とも勤務中じゃないんだから、もっとリラックスしてもいいのよ。ここじゃ階級なんて気にする人間は居ないし、みんな友達であると同時に同僚であり、戦友であるの。オフの時は肩肘張らないで付き合ってよね」
「あ、はい……」
 勤務中とか勤務外とか、それ以前にキリエとは歳が離れていたし、何より初対面だ。緊張するなと言う方が無理な上に、いきなり部屋に入れて半裸に近い格好で酒を飲んでいる美女を横に、体に力を入れるなと言うのも無理だった。まともなのは自分だけ、と言っていたが、他の人間に聞けば違う答えが返ってくるのは明白だろう。
「喉渇いてるでしょ。声が擦れてるわ。待ってて、アルコール入ってないもの取ってくる」
「あ、お願いしま――」
 ソファから立ち上がったキリエが、一歩歩いてバランスを崩し、シトゥリの後ろの背もたれに手を当てた。何がおかしいのか、またキリエはくすくす笑っている。
「少しはしゃいで飲み過ぎたみたい。一気に飲むと一気に回ってくるわね」
「そ、そうですか」
 自分でも上ずっているのが分かる声だった。キリエの手はシトゥリの耳の横にあった。ほとんど覆いかぶさるような形だ。目の前10センチのところに、柔らかそうな胸が揺れている。シトゥリはほとんど思考が止まったまま、それを呆と見つめていた。キリエの手がもう片方の耳の横に当てられた。はっと気付いた時には動こうにもキリエの体に触れずには動けない状況になっていた。何か言おうにも言葉が出ない。あせくっているうちに、キリエはシトゥリの膝をまたいで、その上に腰掛けた。しっとりとした重さとじかに肌が触れている感触が、どうしようもなく下半身を熱くさせる。
 いつの間にかまじめな表情になっているキリエの顔が近づいてきた。唇が重なる直前まで何が起こっているのか理解できなかったシトゥリは、慌てて目をぎゅっと閉じた。濡れた柔らかいものが軽く押し付けられて離れ、首筋に回る。キリエがそっと囁いた。先ほどまでの快活に澄んだ声とは違う、ぞくぞくするような擦れを帯びた声だった。
「……誰とでもこんなことする女だって思わないでね」
「は、はい」
「上司として最初の命令です。あたしを抱きなさい」
「――はい」
 キリエがソファの脇に手を伸ばしてスイッチを押し、背もたれを倒した。のしかかってきたキリエの腰が、シトゥリの固くなったものに押し付けられる。その感触に、思わず呻いた。
「……重い?」
「いえ、そんなわけじゃ……」
「こういうこと、したことある?」
「……中学時代に、少し」
「へえ、意外」
 キリエがひじをついて体を起こした。シトゥリの体をまたぎ直して、その頬に手を当てる。
「カワイイ顔して、やることやってんのね。じゃあ、今も好きなコとかいるの?」
「別に、そう言うのは……。昔からあまり、恋愛とかしたことないので。でも今は、キリエさんが好きかな」
「バーカ」
 照れたように笑って、キリエがシトゥリの胸に顔を押し付けた。
「けっこう言うのね。もっとおとなしいのかと思ってたわ」
「幻滅ですか」
 シトゥリは苦笑した。
「人の意外性を知るのは好きよ。特にあなたみたいな、叩いても埃の出ないタイプのは。……今日はサービスしたげる。中学生じゃ味わえないこととか、ね。脱いで」
 キリエが身を離し、シトゥリは上半身を起こしてシャツのボタンをはずした。さっきまでがちがちに力の入っていた体も、ここまで来たら度胸が据わったのか、リラックスしている。それよりも、『サービス』に期待している自分に、シトゥリは少し呆れた。
シャツを脱いでキリエを見ると、ちょうどキャミソールを脱いでブラジャーをはずすところだった。シトゥリの視線に気付いて、前を片手で隠し、紐だけ腕から抜く。腕で覆いきれない胸の肉と、外れて垂れ下がるブラシャーの紐が、ひどくエロチックだった。これが大人の魅力ってやつか、とシトゥリは変な納得をした。弄うように見せ付けてから、キリエは手を離した。零れ落ちるように白い果実が二つ、目の前に現れた。それはなんの補助が無くても瑞々しい張りを保って、桜色の突起を頂点に、ぴんと宙を向いていた。
「……そんなに見ないでよ」
 言われて、まじまじと見つめていた自分に気付き、シトゥリは動揺した。
「いや、あの、すごいですね」
「でしょ」
 訳の分からない言葉を気にした様子も無く、キリエはシトゥリのベルトに手をかけた。はずし方も手馴れている。少し腰を浮かすと、トランクスごと指をかけて、キリエは一気に足元まで引きおろした。固く屹立したものが飛び出し、それを見てキリエが息を呑んだ。
「え、ウソ。何、すごい……」
「何って……言われても」
 シトゥリは頭の後ろを掻いた。自分のイチモツは普通のより大きいらしい。キリエは違う感想を持ったようだった。
「なんか、惚れ惚れするようないい形ね。両手で握ってもカリが余るわ……。こんなヤサ顔のくせして」
「あの、恥ずかしい……ですから、そんなこと言われると」
「ふふ……あ、やだ。見てるだけで濡れてきちゃった。ねぇ、もう少しこっちへ座って」
 キリエはシトゥリをソファの淵に座らせると、自分はその前の床に膝を付いた。両足を開かせ、その間に体を入れると、天を仰いでいるシトゥリのモノを胸でぎゅっと挟み込んだ。あまりの柔らかさと不思議な感触に、シトゥリは思わず声が出た。
「うわ」
「どう?パイズリなんて中学生なんかには出来ないわよ」
 そう言って2,3度しごくように胸を揺らす。それだけで背骨の下から脳髄に向かって、白い快感の筋が駆け上がった。シトゥリのモノは胸に隠れ、カリの先端だけが見えている。その手の雑誌でしか見たことがない刺激的な光景を、自分自身が享受していると思うと、それだけでもう達しそうだった。
「ああ……すごい、びくびくって動いて……先から汁がこんなに」
 キリエも興奮してきたようだった。腹にかかる吐息が熱い。顎を引き、溢れ出した先走りの液を舌で舐め取る。ゆっくりとこねるように胸を動かしながら、チロチロと尿道口をそのまま刺激し始めた。シトゥリは息を荒げて仰け反った。眉をしかめて目を閉じる。視覚の刺激が入ると耐えられそうに無かった。唾液と先走りの液が交じり合ったものが谷間に流れ込み、潤滑を滑らかにしていく。ほとんど思考の止まった頭に、股間から快楽の塊が押し込まれてきて、シトゥリは焦って言った。
「ちょ、すいません、あの」
「出して」
 それだけ言うと、キリエは口を離し、激しく上下に胸を揺らし始めた。くちゅくちゅと摩擦で音が響く。ほとんど限界だったシトゥリは、耐えようとしたが無駄な努力だった。閃光で叩かれたように後頭部から真っ白になり、腰と足を痙攣させて射精した。
「あン」
 最初の1撃は顎に当たって胸に飛び散り、キリエが胸を離して手で竿を握ろうとしたため、2撃目はその顔を汚した。
「飲んであげるね」
 手で絞るようにしごきながら、キリエが丸くすぼめた口を先端に当てた。その喉がごくごくと何度も動いた。それを半ば放心しつつ見つめながら、ようやくシトゥリは射精し終わった。我ながら人生最大の量だったのではないかと思った。急激な収縮で睾丸がきしむように痛い。
 ふー、と息をつき、満足そうに萎れたモノを撫でながら、キリエは言った。
「若いっていいわねぇ。どうだった?」
「はい、すごく……」
「あ、ちょっとさっきのセリフ、おばさんっぽかったかな。ナシね、ナシ」
 苦笑しながらソファの上にキリエが上ってきて、下半身を覆っていたものを取り去った。淡い色の茂みが薄明かりの中に浮かび上がる。シトゥリの手を取り、キリエはそこへ導いた。
「ね、触ってみて。あたし、もう……」
 触れる前から、太腿にまで滴っているのが分かった。逆向きの泉のようだ。シトゥリの手を重ね、キリエが蜜壺の上をなどる。溢れた蜜が手のひらに粘りついた。キリエは自分の人差し指と、シトゥリの人差し指を重ねると、その2本を蜜壺の中へ差し入れた。
「あ……は……。どう、あたしの中」
 キリエの指と、シトゥリの指が絡み合いながら、熱い坩堝の中をかき回す。キリエの呼吸が深く荒いものに変わった。
「あ……これ、けっこう興奮するかも。一緒にこの中、いじって……ああっ」
 びく、とキリエが背を仰け反らせた。滴った蜜はシトゥリの手首までを濡らしている。キリエの中は襞が複雑に入り組んでいて、生き物のようにうねりを帯びていた。入り口から少しのところにある丘のような場所を押すと、その度にキリエはぴくりと反応した。
「そこ、ダメ。弱いの。あなた、もう弱点探り当てるなんて、才能あるんじゃないの?」
 切れ切れに息を吐きながら、キリエがもう片手をシトゥリの首に回し、唇を重ねた。そのまま後ろに押し倒す。反動で指が抜け、ああ、とキリエは息をついた。
「もうちょっと手玉に取るつもりだったのに。もー、癪だから、とっておきのでイカせたげるわ」
 シトゥリの上に馬乗りになったキリエは、すでに復活しているイチモツを手に取ると、その上へゆっくりと腰を降ろしていった。熱いぬるぬるしたものに食べられているような錯覚を覚える。襞がいくつもいくつも絡み付いては根元へと流れて行き、こらえきれずにシトゥリは声を漏らした。
「あ、あぁ……」
 根元まで飲み込まれたイチモツの先端が、ちょうどキリエの奥の壁に刺さっている。突然、ぎゅっと根元から締まって、シトゥリは驚いた。
「えっ?」
「締まるでしょ。あたしの特技よ。……ほら、中でしごいてあげる」
 根元から先端へと、締まりの圧力が移動して行き、本当に膣の中でしごかれている感覚だ。まるで襞が沢山付いた手のひらで握られているようだった。
「あ……すごい、とっても固くなったわ。それでね、次はこうするの。目を閉じて」
 キリエの両手がシトゥリの耳を塞ぐ。目を閉じていると、唇が押し付けられ、歯の間を割って舌がねっとりと侵入してきた。シトゥリの舌の根元から歯の裏、天井までくまなく嘗め回される。そうするうちに、頭の後ろからじんじんとしたものが広がってきた。耳と目の感覚が無いためだろうか、その分触感が鋭敏化されて、シトゥリの息は荒くなった。その瞬間、下半身のイチモツがぎゅっと膣の圧力で絞られる。思わず首が仰け反りそうになったが、キリエの手と口でしっかり固定されていて全く身動きが取れない。引き絞られる膣の動きに合わせて、自由になる腰が自然と動いていた。耳を塞がれているため、ぺちゃぺちゃと言う舌の音が直接頭の中へ響いている。それは堪らない感覚だった。突然射精感が下半身から流れ、シトゥリは呻いた。
「ん、んー!」
 出る、と言いたかったが、口を塞がれて呻き声にしかならない。キリエの膣が強く絞られた瞬間、シトゥリはその中へ思いっきりぶちまけていた。
「ああ、出てる……」
 口を離し、馬乗りのままシトゥリの頬を撫で、感じ入ったようにキリエが言った。その間も貪欲な生き物のようにキリエの膣は竿をしごき続け、最後の一滴まで搾り取ろうとする。
「あたし、腰を動かしてないのにイっちゃったねー。すごくイイでしょ、ここ」
 とろんとした目でキリエは股間に手を遣り、溢れた精液を指ですくい取って、舐めた。その表情を見た瞬間、シトゥリの頭に熱いものが爆発した。体を起こすと、今度はキリエを押し倒す。
「え?ちょっと」
「次は、キリエさんが気持ちよくなってくださいね」
 足を抱え上げ、腰と腰がぶつかりそうなほど中へと挿入する。突然のことに、キリエは身をよじった。
「あーっ!ちょ、ちょっと待って。待ってってば」
 シトゥリは取り合わず、そのまま腰を振り続ける。肌がぶつかり合う音に、溢れ出した精液の残滓がはじける音が混じった。
「どうして、さっき出したのに、元気なままなの、あ、あ、あ、ん~!」
 キリエの足を肩に乗せ、その腰を浮かせる体勢にすると、シトゥリのモノがキリエのGスポットを直撃する形になった。折れそうなほど体を横に反らし、キリエがソファのシーツを握り締めた。
「ダメ、ダメよ、あ、いい!いいっ、イク、イクイクイクってばちょっとぉ!」
 抱えあげた足が宙を掻いた。痙攣にキリエの上半身が踊る。シトゥリはそれでも腰を休めなかった。さらに激しく膣の中をえぐっていく。
「いやっ、もう、お願い、勘弁して、あ、あ、あ、イっちゃったのにぃ!激しすぎ、る!」
「もっと、僕よりイってください!」
「え、そんな、ああ、あ、ダメ、また来そう、やだぁ!ちょっとあたし、おかしい、わ、ぁぁあああああああっ!」
 絶叫を上げて再びキリエが身をよじった。必死に離れようとするキリエの腰を掴み、シトゥリはそれを後ろ向きに裏返した。脱力していたキリエはおとなしく獣の体勢になる。四つん這いになると、溢れ出した愛液がぱたぱたとソファへ滴った。シトゥリは体勢が整うと、すぐ腰を打ちつけた。キリエがまた悲鳴のような声を発する。
「ああ、あ!奥に、奥にくる、貫かれちゃう!そこ、やぁ、あ、あ、あ」
 振動でその声が震えた。思うさま後ろから突きながら、シトゥリは再び射精感が高まってくるのを感じた。柔らかい尻の肉を握り締め、叫ぶ。
「出しても、いいですか!」
「いい、いいわ!出してぇ、出して!」
「――っ!」
 キリエの中がぎゅっと収縮すると同時に、声にならない呻きをあげて、シトゥリは放った。キリエも同時に達したらしく、うつ伏せた頭と肩がびくびくと震えていた。十分に出し終え、腰を引くと、お互いの液体が交じり合ったものが滝のように溢れ出し、下へ流れていった。支えを失うと、ぐったりとキリエは横倒しに倒れた。乱れた髪が顔を覆っているのを払おうともせず、息を荒げている。シトゥリはその髪をかき上げ、呼びかけた。
「キリエさん?」
 気を失ったのだろうか、目を開ける気配は無い。急激に冷静になっていく思考を、あまり考えないように止めつつ、シトゥリは服を身に付け、ソファの汚れを軽く取ってから、ベッドから持ってきた毛布をキリエにかけた。寝息は穏やかだ。そろそろ自分の部屋も入れるだろう。移った方がいいに違いない。とんでもないことになったとぐるぐる考えながら、シトゥリは部屋を後にした。


 ドアの閉まる空気圧搾音が響くと、キリエはパチ、と目を開けた。
「これでなんとか、緊張も解けたみたいね。こんなことでしか打ち解けさせられないあたしも、不器用なもんだけど」
 ふ、と笑う。
「でも気持ちよかったからいいか。あんなにすごいなんて、人は外見と年齢に寄らないわ。これから楽しくなりそうね……」
 股間に手を遣ると、まだ濡れているそこは敏感に反応した。キリエは笑みを苦笑に変える。
「あれだけされたのに、まだ欲しがってる……あ」
 クリトリスを転がし、胸をもみしだきながら、荒くなっていく呼吸の中、キリエはうわごとのように呟いた。
「シトゥリ・レイヤー。彼が、この艦のバリアシステムを操り得るただ一人の人間だなんて――」
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