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其の五 愛宕の竜 一
 山と山が折り重なるその中にぽつりと拓けた場所があった。
「ここか……?」
 旅衣装の典太は、山道の先に現われたその場所を前に、少々不信感を募らせていた。
 父が訪れたと言う場所はまさしくここであるはずだ。山中を切り取ったような里があって、そこは外界とほぼ接触を持たず、ひっそりと暮らす人々がいると。
 そう言う環境だからこそ、混じり気のない伝承が色濃く残っていた。そう言う話を聞いた。
 しかし……。
「家は一軒しか見当たらないな」
 庄屋のような立派な建物がそびえる以外は、ちらほら耕された畑と野原である。とても多くの人が住んでいる、もしくは住んでいた痕跡もない。
「間違えてはないし……」
 そう言う確信はあるのだが、どうも不安になる。とにかく典太はその大きな屋敷を訪ねることにした。
 門を押し、よく手入れされた庭園を抜け、屋敷の玄関へ立つ。
 立派な引き戸の扉だ。目隠しの格子には立派な竜の彫刻が施され、威圧感すら覚えた。
 典太は若干緊張しつつ、戸を叩いた。
「ごめんください」
「はい。開いております」
 待ち構えていたように返事があった。女性の声だ。
 引き戸を開けると、広い三和土(たたき)の向こうで、まとめ髪の女性が丁寧に三つ指をついて頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました」
 まるで由緒ある旅籠の出迎えのようだった。玄関の内部も信じがたいくらい荘厳で、床も光るほど磨き抜かれている。
 小枝の屋敷もあれはあれで立派だが、建てられてから歳月が経っているのと、大勢の人間が生活しているためなにかと気ぜわしい。
 ここにはそう言うものが欠如していた。言うなれば、人を迎えるための家。そんな印象だ。
 まったく予想しない展開に、典太はしどろもどろになって応じた。
「え、あ、これはご、ご丁寧に」
「わたくし、ここの主であります、愛宕(あたご)と申します」
 顔を上げた女性がにっこりと微笑む。
 目元のほくろが印象的な、三十路ほどのすばらしい美人だった。物腰、表情、言葉遣いなどすべてが洗練されている。まとめ髪のうなじがやたらと色気をかもし出していた。
 いくぶん呆然とする典太へやさしい視線を当て、手で奥を指し示す。
「遠いところお疲れでしょう。どうぞお上がりくださいませ。湯浴みの用意も整ってございます」
 本当に旅籠と間違えてないだろうか。
 本来の目的も忘れて、典太はそのことが気がかりになった。


***


「見て小枝。全部食べた」
 縁側で紗由里が無邪気に笑っている。手には空になった手桶。さきほどまでそこには、小魚が満載されていたのだ。
 小枝は首を伸ばして、縁側の向こうの池を見やる。
 池の端で、ぱんぱんに腹を膨らませた蜥蜴のような魚が、満足気に見つめ返してきた。
「暢気なことだ」
 その様子に思わず口元が緩む。
 伝助と名づけられたこの妙な魚が紗由里に飼われ始めていくぶんか経つ。
 鎧のようなうろこ、鋭い牙を持つ口、そして足のような形をしたひれ――奇魚とでも言うべきその姿に、不吉なものと屋敷の者ははじめだれひとりとして池に近づこうとしなかった。
 しかし紗由里があまりにもかわいがっているので、餌の魚をやる手伝いに、池の掃除の手伝いに――と徐々に人は集まり、伝助のよく見れば愛嬌のあるまんまるの瞳、のったりとした間抜けな仕草に毒気を抜かれて、今ではそう怖がる者もいなくなった。
 伝助と言う名前もよかったようだ。最初は小枝も呆れたが、今思うにこの魚をよく表現している。
「……別段不吉なことも起こらないし、このまま飼ってもいいかもな」
「そうでしょ。みんな心配しすぎなのよね。――ふぅ」
 一息ついた紗由里が縁側から部屋に上がりこんできた。
 あのころはなにせ、椿事が続いたのだ。不安になる気持ちもわかる。
 小枝は風通しのよいところでぱたぱたと顔を仰いでいる姉を見上げる。
 腰まで流れる黒髪。長いまつ毛の添えられた涼しげな眼、名工が研ぎ上げたような鼻筋とあご。これを美しいと言わずしてなにを言うだろう。
 帰ってきてくれてよかった。本当にそう思う。
 だがその体は未だに完全ではない――。
「疲れちゃった」
 呟くと、小枝の背にもたれかかるようにして座り込んだ。あご先で切りそろえた小枝の髪を、その吐息が軽く揺らす。
 ふっとため息を吐いて、紗由里は肩にあごを乗せてきた。
「……典太、おそいね」
 典太がひとりで屋敷を出てしばらく経つ。そう遠くに用があるわけではないから、もう戻ってもおかしくない頃だ。
 小枝は乗せられた頭を撫でる。
「あいつは旅慣れてる。心配ないさ」
「うん……」
 紗由里はさびしいのだ。
 それは小枝も同じだった。
「……いい匂い」
 髪に鼻先をうずめた紗由里がつぶやく。体をさらに寄せ、首筋をくちびるが這った。
 ぞくっと小枝の背筋を駆け上がるものがある。そのあたりが性感帯なのだ。
 はっと短く息を吐いたのを見逃さず、紗由里は舌を出してちろちろとくすぐった。
「う……姉様……」
「ここ弱いのね」
「そうだけど、どうしたんだ。ちょっと変だぞ」
「変じゃないよ」
「あっ」
 ちゅう、と吸われて、小枝は思わず小さく声を上げてしまう。
 紗由里の手が着物の上から胸をつかみ、もう片方がすそを割ってふとももを撫でた。
 そのたびにぞくぞくとしたものが体中を走る。
 紗由里の方から手を出してくるなんて、今までなかったことだ。どんどん濡れてくる股の付け根を感じながら、小枝は小声で拒否する。
「姉様、昼間だぞ。人に見られる」
「……そうだね……うん……」
 残念そうに紗由里は体を離した。
 しかし昂ぶってしまった小枝の体は、離れていく紗由里の手を欲しがっていた。火照りがますます高まる感覚に、小枝は頬を上気させて紗由里と見つめ合った。
 典太が居なくなったちょっとの間しか肉欲を絶っていないのに、この体はどうしたことだろう。いますぐにでも秘所に指をいれてかきまわしたい気分だ。
 それとも――この感覚は、紗由里のものなんだろうか。
 いまだにふたりは心のどこかで繋がっている。
 紗由里が興奮すれば、それは小枝のものにもなるのだ。
「ね、ねえ。小枝。……あの」
 もじもじと正座の太ももを押さえ、紗由里は上目遣いで言う。
 小枝はその姿に折れた。
立ち上がって縁側の戸を閉める。
「口でだけだぞ」
 それなら着崩れもするまい。身をかがめ、艶っぽい目の輝きで見上げる紗由里とくちびるを合わせてから、小枝はそのまま顔を下げていく。
 小用を足す時のように着物をまくり上げさせると、待ちかねたように男根が飛び出してきた。溝の先からすでに透明な汁が流れ、てらてらと濡れ輝いている。
「あ……小枝、ごめんね……」
「んっ」
 さっさと済まさないと本当に人が来れば洒落にならない。
 小枝は期待に震える歪なものに舌をからめつつ、ぐっと喉の奥まで飲み込んだ。
 いつもより熱くたぎっている。口に含んだだけでびくびくと激しく震え、今にも射精しそうだ。
「う……くうう……」
 喘ぎ声を必死にこらえた紗由里が、口元に両手を当てて必死に耐えている。
 小枝はくちびるをすぼめ、裏筋を舐め回しながらゆっくりと引き抜いていく。そして何度か素早く口の中に出し入れし、次はくちびるを離して雁首の付け根を吸いながらねぶり回す。
 これが典太なら、この動きを一生懸命繰り返しているうちに達してしまうはずだ。紗由里の男根を意識して奉仕したことはないが、似たようなものだろう。
 それよりも、紗由里の快感が小枝の体に流れ込んできて、自分にあるはずのない異質な器官の刺激が股の蜜園をしとどに濡らしていく。紗由里が満足すればするほど、小枝に返ってくるのだ。自分自身に口淫しているようなものだった。
「さ、小枝。手も使って。私の女もいっしょにいじって……」
 普段は物静かな紗由里も、こうなると貪欲だ。小枝は望みどおりに片手をすその奥へ突っ込み、蜜でむせ返るようなその闇の帷の中心を探った。
「あぐっ!」
 粘液を吐く二枚貝の割れ目へ、いきなり指を重ねて突き入れる。
 紗由里はうめくと、喉をそらし、小枝の頭をつかんだ。
 指をひねり動かすたびに、そこからはくちゅっと肉と蜜とが交じり合う音が響く。二本束ねた指を男根側にくっと曲げ、膣の前側の少し柔らかいところを押さえるようにかき回す。
「んんんう」
 紗由里は声が抑えきれないようだ。小枝は手探りで、書机の脇にかけていた手ぬぐいを取り、その口元へ持っていく。与えられた手ぬぐいをかみ締め、紗由里は体の火照りを熱くしていく。
 もう少しだ。
 ともすれば自分が声をだしてしまいそうになりながら、小枝は男根に奉仕し続ける。ひざまずいたその太ももをつーっと秘所から流れた蜜の筋がいくつも這っていく感覚がある。着物についたら汚れてしまうが仕方ない。
 小枝はもう片方の手を男根に添え、にぎりしめてしごいた。同時に膣の中の指も動きを激しくする。
「んふっ、んん! でる、でひゃう!」
 手ぬぐいを噛んだままくぐもった声を上げる紗由里。亀頭を強く吸って、射精を促す。
 やがて焼けるような怒張は、急激に膨らむと脈打ち始めた。
「んぐうーっ!」
 どくん、どくん、とひとつの動きが大げさなくらい激しい。精道を通って欲望の塊が駆け上る。それは天頂の切っ先から小枝の口内へ、痛いほどの勢いで飛び出した。
「ふ、うんっ」
 小枝の頭も、紗由里の快楽で真っ白になりそうだった。夢中で気持ちのいい方へいい方へと、手をしごき指を動かす。典太のものとは違う味の精液を必死に飲んでいくが、嚥下する速度よりも注がれる勢いのほうが早い。飲みきれずに口を離そうとしても、恍惚とした紗由里に後頭部を抑えられて、それも出来なかった。
「んっんっ!」
 結果、だらだらと口の端から精液を垂れ流し、小枝は飲むも吐くも出来ずに硬直した。
 もう少しでむせかえってしまう、その間際にようやく射精は勢いを止める。
「はあ……ぁ」
 満足した紗由里が手を離し、小枝を解放する。小枝はその間に一生懸命口の中のものを飲み干そうとしたが、濃くてどろりとしたそれはのどへからみついてなかなか飲みきれず、飲むのに失敗した一部は小枝のあごを伝ってのどまでを白く汚した。
 なんとか処理し、ぐったりと体の力を抜いて紗由里のふとももへ顔を乗せ、体を弛緩させる。
 そのときだった。
「小枝様、居ないんですか――あっ!」
 突然屋敷側の襖が開いて、小間使いの少年が顔を出した。
「紗由里様……す、すいませ」
「しっ。静かに。お昼寝中よ」
 紗由里はひざに置かれた頭をそっと撫で、なにごともなかったようにささやく。
「そ――そうでしたか。縁側が閉まっていたので居ないもんかと……あの、起きたら言付けされてることがあるんで、お願いします」
「はいはい。じゃあね」
 あくまで襖に背を向けたまま、紗由里はおだやかに言い――襖が閉まった瞬間、はぁっと息を吐いた。
「……危なかった」
「危なかったじゃないだろ、姉様。怪しまれなかったかな」
「私のふとももは見られちゃったかも……」
 紗由里の着物のすそはきわどいところまでまくられたままだ。まあこれも、暑いからだと小間使いは納得するだろう。
 小枝はけだるさで重い体を持ち上げ、畳へ落ちた手ぬぐいを取る。着物へもわずかに精液が流れていた。はやいうちに洗わないといけない。
 手ぬぐいで喉元をぬぐっていると、紗由里がまた、甘えたような声で言った。
「ねえ……小枝。今夜、いいかな」
「ん?」
「離れにきてほしいな……って」
「…………」
「さびしいの。ひとりで寝ないといけないし。……だめ?」
 訴えるような上目遣いは、小枝に対しても効果抜群だ。
 困りながらも小枝は、了解の返事をしていた。
 外ではつくつくぼうしが夏の終わりを告げていた。


***


 なんだろう。このもてなしようは。
 典太は湯につかりながら、ぼんやりと考えていた。
 この豪華な屋敷の主であると言う愛宕は、しかし自分が女中で主が典太であるような扱いで、丁寧に部屋へ案内し、すぐ風呂を用意した。
 ひのきの風呂は独特の香りが心地よく、旅の疲れが一気に抜けていくのがわかる。典太の考えなどしょうもないしがらみのような気さえしてきた。
 書院造と言うのだろうか、建物に典太はあまり詳しくないが、華美を押さえながらも計算され、造り込まれた各部屋の作りは、美とか麗とか、そんな陳腐な言葉では表現しきれない。
 それに加えて、あの愛宕の美しさ。静かな屋敷の廊下にひっそりと立つ、そんな情景があれほど似合う女性は他に見たことがない。
 穏やかな紗由里、活発な小枝の美しさとは別の、静止の美とも言うべき姿だった。
「失礼いたします」
 突然風呂場の戸が開いて、その愛宕の落ち着いたよく通る声が言った。
 慌てて手ぬぐいで前を隠した典太が入り口を見ると、湯浴みのときに着る薄い湯文字ひとつの姿の愛宕が、手桶とぬか袋を持ってひざをついていた。
「あ……あの?」
 手に持っているのが体を洗う道具だと言うことはわかっていても、典太にはその意図がわからない。あんぐり口をあけていると、微笑みながら戸を閉めた愛宕は、湯船の近くまで進み出た。歩くたびに豊満な乳房が大きく揺れている。
「お体をお流しします」
「け、け、けっこうです」
「そうおっしゃらず。さ、こちらへ」
 愛宕の湯文字は蒸気で早くも透け、大きく盛り上がった隆起の丘でふたつの桜色をはっきりとにじませていた。旅の間女色を絶って長い典太は、それを見ただけで股間が反応してしまう。
 しかしあまりに自然な愛宕のいざないは、どこか抗いがたいものがあった。抵抗すればこっちが不自然な気がする。
 思い切り前を押さえた典太は、しぶしぶ湯を上がって指し示された木の椅子に腰掛けた。
「それでは……」
 後ろではなぜか、衣擦れの音。確認するのが怖くて、典太は前を向いたまま硬直していた。
 すっと手が胸元へ回されたと思いきや、いきなり背中へやわらかい塊が押し付けられる。裸体の感触に、正直な一物は急激に勃起した。
 さすがにこの展開は読めず、典太は焦る。
「あ、愛宕さん、ぬか袋は?」
「見れば日に焼けて肌を傷めているご様子。荒い布でこすってはなおさら傷めてしまいます。わたくしの体を濡らし汚れを落として差し上げましょう」
「あ、はぁ。お気遣い、どうも……」
 誘っているのかいないのか。いや、やっている行為は誘惑そのものなのだが、口調も態度もどちらかと言えば慇懃で、とても淫らな行いに及んでいるとは感じられない。
 どう対応していいのかまるでわからず、典太はなすがままになっている。
 信じられないくらいやわらかいふたつの塊が背中でつぶれながら上下した。腰の上から背筋を沿って、肩甲骨のあたりまで。たまに失敗して上に行き過ぎ、ふるんっと飛び出すように典太の肩の上へ乳房が乗る。
 背中を充分にこすると、愛宕は典太の腕を取って横に伸ばさせた。その上に足を通してまたぎ、陰唇ではさみこむように股を閉じる。
 そしてそのまま腕を行き来し、股の付け根でこすりたて始めた。
 震えそうになるほど気持ちいい。典太は愛宕の表情を見る。愛宕は潤んだ瞳でこちらを見つめ返し、微笑んだ。
「いかがですか?」
「と、とても心地いいです……」
「お喜びいただけて幸いです。それでは指を曲げてくださいませ」
 言われたとおりにすると、手のひらの上で股を開いて立った愛宕が、指の一本一本を手に取り、膣へ差し込んでいく。
 きゅっとしまったそのひだで、指先まで洗われる。まるで典太の指で慰めているように、何度も出し入れした。
「はぁ……」
 指の動きに合わせ、愛宕は熱いため息を吐く。ぬめったものが指へからみついていく。
その行為を小指までしっかりと繰り返すと、今度は腕を離して反対側へ移った。
 もう片方の腕も同じように股へ挟まれる。愛宕の秘所からは隠しようもない蜜が滴り始めていた。腕にそれをこすりつけるたびに、ぬるぬるとしたものが広がっていく。それがなおさらに気持ちいい。
 腕が終わると今度は足だった。
 横に寝かせられた典太は、片足を持ち上げられて、今度は愛宕の全身を使って愛撫される。胸の谷間ではさみ、陰唇をこすりつけ、いくつものやわらかいものが足全体を溶かしていくようだった。
 足の指先はねっとりと舌で舐められ、指股までねぶられて、ついに典太は小さく快楽の喘ぎを放った。
「うあっ」
「……いかがなさいました?」
「いや――あ、気持ちよくって、つい……」
「ふふ。殿方も洗って欲しくて苦しそうですね」
「うっ!」
 つい、と愛宕の指と指で亀頭を挟まれる。それだけで典太は腰を跳ねるように動かした。
「もう片足残っておりますが――仕上げとまいりましょう」
 股の間に正座した愛宕が、ぐいっと典太の腰を引っ張り上げてふとももの上に乗せる。
 自然と固く立ち上がった男の矛は、その豊かと言うにはあまりにも雄大な乳房の前へさらされることになる。
「それでは失礼いたします。楽になさってくださいませ」
「わ、わ、わ」
 白い隆起の山に一物ははさみこまれた。痙攣するように跳ねるその暴れ馬を、ぎゅっと両手を使って締め付けた乳房で押さえ込み、愛宕は胸を上下にこすって揺らし始めた。
「うわ! すご……い!」
 思わず正直な感想が口をついて出る。
 膣の中とは違った、ひたすらにやわらかい感触が一物全体を包み込み、飲み込んでいる。
 愛宕の肌はとても三十路ほどとは思えぬきめの細かさで、触れれば吸い付いて離れないかのようだ。それが典太の一物へぴったりと一部の隙間もなくからみついてくる。
 胸が動かされるたび、途方もない快楽が腰へと奔流のようにたぎり落ちた。
 てろっと舌を出した愛宕が、唾液を垂らしながら出ては引っ込む亀頭の先を舌先でつつくように舐めた。
 なにより、そう言う視覚的な刺激がたまらない。
 会話もほとんどかわさぬまま、色目ひとつで国を落とせそうな美女に淫らな奉仕をされているのだ。
 意味が分からない。
 ただもう、ひたすらに気持ちよくて意味なんかどうでもよかった。
「あ、はあっ、ああ!」
 忘我のうめきが自然と喉を突いて出る。
 愛宕の胸は両手が上下するたびに、典太の腰とぶつかってぱんぱんと濡れた音を上げた。
 唾液と先走りの汁が胸の潤滑を助け、いよいよ典太は快感を強めていく。
「好きなときに溜まった汚れをお出しになってくださいね」
 頬を上気させた愛宕が艶然と微笑む。
 はさまれた胸と胸との圧力が典太の限界を速めていった。まるで膣の中へ突っ込まれて、それをどこまでもやわらかいものでしごきつけられているようだった。
 もう限界だった。
「で、出ます!」
 一言宣言すると、典太は腰を反らして射精した。
 搾り取るようにぎゅっと胸で挟み込まれ、どくどくと流れる熱い精液が胸の谷間を汚して、そして動かされた胸によって亀頭が外に出ると、あごめがけて勢いよくそれが飛んでいく。
「はあっ、熱い……」
 初めて愛宕は慇懃な口調を崩し、情欲の滲んだ言葉を吐いた。
 細かく何度も胸の肉をゆすって、出すものを全部出させようとするように一物が刺激される。溜め込んだ何日もの欲望が一気に解き放たれていく。
 自分でも驚くほどの濃い精液だった。
 くずした杏仁豆腐のような塊が、愛宕の胸の頂やあご、鼻先にまで飛び散り、ふるふると揺れている。
 頭の奥がまたたくような射精の快楽が収まっていき、典太は全身の力が一気に抜けて洗い場へ大の字になった。
 頭の血が全部股間へ集まって、それが流れていってしまったようだった。目を開けてもうす暗くてよく周りが見えない状態が、少しの間続いた。
 半分人事不詳になっているうちに、愛宕によって湯がかけられ、体に散った精液などが流されたようだ。
 ようやく復活して半身を起こしたころには、湯煙の美女は湯文字を身につけたところだった。
「それでは、ごゆっくりなさってくださいね」
 にこやかに笑い、立ち上がる。典太はその背に声をかけた。
「愛宕さんは入っていかないんですか?」
「わたくしは料理の用意を。それから――色々訊ねたいこともあるでしょう。それは、夕餉のあとに時間をお取りします」
「はあ」
 やはり、愛宕はわかってやっているのだ。
 なにを意図してかはもちろん典太にはわからない。その疑問も夕餉が済むまでのことだ。
 色っぽい後姿が風呂場を出て行く。
 典太は湯船に移ると、再び浴槽へ肩まで体を沈めた。


***


「うんっ、あっ……姉様、激しい……」
 夜になって離れを訪れた小枝は、たどり着くなり布団の上に押し倒されて、体をむさぼられていた。
 着ていた浴衣はたちまち剥ぎ取られ、美しいお椀型の乳房へ紗由里の顔がうずめられる。
 ここまで紗由里が欲していたとは思わなかった。
 まるで飢えたけものにがっつかれているようで、それはそれで小枝を燃えさせる。さして拒否もせずに紗由里を受け入れ、逆に淫らに足をその腰へからめた。
「小枝……もう私、欲しくて欲しくて……」
 半ば焦点の合わない目で、紗由里が見つめる。片手は自らの男根をしゅっしゅとこすり、小枝の広げた足の付け根の上で物欲しそうにしている。
「そんなにか?」
「だって……この子、いさめてもいさめても収まらなくて」
「姉様の男の部分?」
「うん……一日に五回も、六回も抜かないとだめなの。知らないでしょ? 私が厠や、裏の物陰や、この離れで、毎日慰めてること。でもこの数日は何度抜いても固いままで……気が変になりそうだった」
 それは知らなかった。紗由里の言うことが本当なら、その性欲は異常過ぎるだろう。典太が居ればなんと言うか知らないが、日常生活に支障をきたしはじめているのだ。やはり紗由里の体はもとに戻さないといけないらしい。
 しかし小枝は紗由里の欲求が心を伝わって感じられると言うことはなかった。ふたりの共有感は純粋に距離に比例するらしいことは最近気づいてきたが、それでも射精すれば屋敷のどこにいても、小枝の腰が砕けそうになるほどの快楽を伝えてくるはずだ。
 まったく感覚の共有がなくなったのかと言えばそうでもなく、昼間は紗由里の射精に合わせて、何も触れてない小枝まで同時に絶頂感を味わっている。ふたりがむつみあうほど接近しなければ、感じられなくなっているのかもしれなかった。
「いいよ、姉様。今日はあたしの中で抜いたらいい」
「うっうっ、小枝、ありがとう……」
「――あぁ!」
 半泣きで紗由里は感謝しながら、容赦なく一物を突き入れてきた。いきなり奥までつらぬかれ、小枝はあられもない声を上げる。
 ぐっと腰を押されるたびに、前までは届かなかった膣の奥まで、こつこつと届いていた。小枝はそこが一番感じてしまう。ただでさえ、紗由里の男根の快楽を共有してしまうのだ。
 小枝は少し焦って体を離そうとする。
「姉様、ちょっと成長したんじゃないか」
「え? わかんない」
「あんっ、そ、その奥まで、やめて……あたしそこが――あっ!」
「うふ、小枝の奥まで入れたら、とっても気持ちいいの……ねえもう、最初の一回出してもいい?」
「い、いいけど、奥に当てるのはやめて――ああん! やだ!」
 小枝の言うことなど聞かず、紗由里は執拗に腰を限界まで打ちつけ、奥の奥へ当たるよう振り続ける。
「ああ――気持ちい――いいよぉ」
 表情は快楽におぼれて、むしろ浅ましいと言ってもいい。しかしその可憐な容姿が、天女が行為に耽っているような、一種の妖しい倒錯までも醸し出している。
「ね……さまっ、ああ! っあ!」
「はやいけど出すね。受け取って。はあっ!」
 腰と腰を密着させて、小枝の太ももを脇に抱え、紗由里が背を反らした。びくびくとその背が震え、脈動が伝わった一物が精液をほとばしらせ始める。
 ぐっと子宮の入り口へこすり付けられた亀頭から、その中へ直接射精されているかのような感覚が小枝をのた打ち回らせた。奥の一番弱いところへ熱いしぶきが感じられるのだ。紗由里の絶頂感とともに、脳みそを焼き尽くしそうな快楽だった。
「ああ――果てる、あたしも……っ」
 その焼け付くような感覚に飲まれて、小枝も達していた。
 膣の中では、まだどくどくと紗由里が精液を吐き続けている。その淫らな一物が脈打つたびに小枝のひだはぎゅっと悦びを示し、精液を逃すまいと本能の引き締めをみせて、奥へといざなうように膣全体を収縮させている。
「あ――うう、ねえさ……まっ」
「小枝、小枝、止まんない、ああ! 出るの止まんないよ。そんなに締めたら――ぁあ」
 いやいやと頭を振り、紗由里はそれでも快楽を味わいきろうと一物を小枝の奥深くへ埋め込んだまま、膣のきつく甘い収縮を愉しんでいる。
 数回腰を痙攣させるように動かして、紗由里は糸が切れたように小枝の上へ倒れた。
 まだその背は細かく震え、膣の中の男根は精液の余韻を思い出したように搾り出している。
 先に絶頂の忘我から我に返った小枝は、その黒髪をやさしく抱きしめた。
「姉様、どうだ? 少しは楽になったか」
「あふ……うん。でも、もっと……」
「典太が戻るまで毎晩相手してやるから。今日はこれくらいにしてくれ。な?」
「うう……あと一回だけ。……お願い」
 このところ、このお願い攻撃にやられっぱなしだ。
 小枝はため息まじりに応じる。
「じゃあちょっと、休憩してから……」
「やった。好きよ、小枝」
 子猫のような仕草で紗由里が頬に口づける。
 これで強烈な一物がこちらの秘部へ突き刺さったままでなければ、なおかわいらしいのだが。
其の四 シフ
 ケイフはシフを呼ぶ
 その小径(みち)を塞ぐため
 この世とあの世を分けるため
 シフはケイフを探す


***


「うーん、これはなかなかすごいな……」
 書机の上に開いた本をぱらりとめくりながら、小枝はつぶやく。
 先日の大風も雨どいをひとつ壊していっただけで、不吉なことが起こるとぶつぶつ言っていた典太の心配も杞憂となった。
 太陽は熱い夏の輝きを取り戻し、蝉の鳴き声もいよいようるさい。
「ケイフはシフを呼ぶ……その小径を……」
 縁側の向こうの庭をなにやらつぶやきつつ、典太が通りかかった。
「なんだ? その唄は」
 小枝が声をかけると、暑さに参った様子の典太は、ぼんやりした目を向けた。
「ああ、小枝様。昨日発った親父が、ケイフに関して新しい情報を仕入れてきたんですよ。どこぞの民謡に残っていた歌詞らしいんですけどね。意味がさっぱりで」
「ふぅん……」
「書き物ですか? ここ、涼しいな」
 典太が縁側に腰を降ろした。
 小枝の部屋は大楠の陰になって、しかも風通しがいい。縁側のすぐほとりには池もあるし、涼を取るには最適な場所だ。
「いまは休憩中さ。これを読んでた」
「をんな……緊縛……術?」
「図解つきだぞ。女体を縛るやり方が、こまかに書いてある」
「そんなもの、どこで……」
「あれ、知らんのか? お前の父上が例によってうちへ預けていった本だ」
 ぱん、と勢いよく典太は額に手を当てて、天を仰いだ。
「……あの親父……」
「亡くなったうちの父はこう言うのと無縁だったし、例の艶本もお前の父上のだったかもな」
「ああ……申し開きがたちません……」
「気にするな、見てると面白い」
 小枝は笑った。
 そのとき、廊下の向こうからばたばたと言う足音が響いて、小枝の部屋の前で止まった。
 なにやらただならぬ様子だ。
 小枝は察して本を閉じ、声をかける。
「どうした。なにかあったか」
 襖の向こうから、使用人の声が応じた。
「へ、へぇ。ちょいと」
「はっきりせんな。大事か?」
「いえ、とにかくちょっと、見てもらえませんか。みんな炉辺の広間におります――」
「わかった。行こう」
 小枝は立ち上がる。典太もそれにならった。
「なんでしょうね」
「わかるわけないだろ。見てから訊け」
「ごもっとも……」
 縁側から上がりこんだ典太を従え、玄関近くの炉辺へ急ぐ。
 炉辺には屋敷中の人間が集まっていた。
 なにかを囲んでざわめいている。
「お館様――」
「紗由里様が拾ってきたんです」
「なにをだ。見せてくれ」
 小枝が近づくと、使用人たちは道をあけた。
 輪の中心には紗由里が座っている。その前には大きめのたらい。
 たらいの中には――。
「なんだ、これは」
 おもわずうなる。
 水を張ったその中に居るのは、見たこともない奇天烈な形相の魚だった。
 くちばしのように尖った口元、貨幣を縫いつけたように大きく銀色の鱗、長く伸ばしたような三尺ほどの胴。
 そして一番奇怪なのは、四本の足のようなひれだ。まるでこれから陸にあがろうかと言うような、蜥蜴にも似る魚だった。
「ああ!」
 典太が大声を上げた。
「どうした、知ってるのか」
「大風の前に見たの、こいつですよ。あれは幻じゃなかったんだ」
 見ただけでは正体を探る役に立たない。
 紗由里に訊く。
「姉様、こいつをどこで?」
「門のところを這っていたの」
「地面の――上をか?」
「うん。水が無くても平気みたいよ。ほら」
 覗きこんだ紗由里を見つめ返すように上を向いた魚が、ぱしゃんと跳ねた。
 そして前側の二本のひれで器用にたらいの淵をつかむと、水面の上に顔を上げて、人間たちを見回すようにまんまるい瞳を左右へ向ける。
「ゲコ」
 しわがれた蛙のような声で鳴いた。小枝は若干呆れながら、指で魚を指す。
「典太……妖物(あやかしもの)か? これ」
「いや……なんとも。妖物ってのはもっと、単純な造りをしてるもんですし……。でもこいつも、まともな生き物じゃないですよ」
「まともじゃないって、失礼ね」
 愛着があるらしい紗由里が怒る。典太は困ったように言った。
「なにせ僕が見たときには空の上を這って行ったんですから」
「それは幻だ」
 小枝は暑さで朦朧としているらしい典太を切り捨てると、その魚をじっくり眺めた。
 空中でも息が出来るようだ。と言うより、水の中で生きる必要もないのかもしれない。体の形状を見れば、水棲なのは明らかだったが。
「うーむ……」
 腕を組む。使用人たちは脅えた声をあげた。
「お館様、典太が大風の前に言ってた不吉の元がこれだってんなら……」
「こんなもん屋敷にいれちゃいけねえよ」
「でも紗由里様がなぁ……」
 紗由里に目をやると、暢気な姉は訴えかけるまなざしで小枝を見つめていた。
「……姉様」
「小枝、これ、飼っちゃだめ?」
 なんでそうなるんだ。小枝にはときおり紗由里がわからない。
 昔はこういう常識はずれは、よく自分の方がやらかしたものだが。いつの間にか立場が逆転してしまった。
「おい、典太」
 将来の夫として、びしっと言えと言うつもりで、小枝は典太の脇を肘でつつく。同じく腕組みして考え込んでいた典太は、ひとつうなずくとたらいへ進んだ。
「なにを食べるかな、こいつ」
「どうしたんだ、お前まで……」
 小枝は呆れた。
 典太が振り返って、語気を強くする。
「僕はいま猛烈にかきたてられているんです。こいつが空を這うところを、僕はしっかり見てる! 正体がなんなのか、調べるのは僕の務めです。いや、学者として義務だ」
 いつもは暖簾に腕押しみたいな男の瞳が燃えていた。
 けっきょくこいつも、学者の血はしっかり受け継いでいると言うことか。
 使用人のひとりがそんな典太に反駁する。
「でもよ、典太。不吉なものを見たって言ってたじゃねえか」
「たしかにあの時は不気味だったけど、大風もなんともなかったし、それに一番不気味だったのはこいつじゃなくて、その前に見た白く光る蛇みたいなのなんだ。僕は別にこいつを指して不吉って言ったわけじゃない」
 渋面の使用人に、早口でまくしたてる。普段は見られない光景だ。
「わかったわかった」
 小枝はひらひらと手を振ってなおも気を吐いている典太を抑える。
「あたしもその、理由もなく不吉だの言うのは好きじゃない。みんな、ここはひとつ、これが凶のものか吉のものか様子を見ると言うことで、このふたりのわがままを聞いてくれ。学者殿がきっちり調べてくれるんだろ?」
「吉か凶かは専門外ですけど――こいつの正体なら必ず」
「と言うことだ。さあ、仕事に戻ってくれ!」
 ぱんぱん、と手を叩いて使用人たちを持ち場へ戻す。
 不承不承ながら、みんなちりぢりに去っていった。紗由里は手を打ち合わす。
「やった。飼ってもいいんだ」
「姉様、典太も。貸しだぞ。それは覚えておけよ」
「名前は何がいいかな。ん~そうだ、伝助ってのがぴったりね」
「なんだそれ……」
 聞いちゃいない。
 脱力して小枝はため息を吐いた。


***


「で、だ」
 その夜、小枝の姿は離れにあった。手には例の『をんな緊縛術』の本。典太と紗由里は、その前に正座させられている。
「さっそく昼間の借りを返してもらうぞ」
「あのー、小枝。そんな本いったいどこで……」
「典太と同じことを訊くな。姉様、こう言うの興味あるだろ?」
 わざわざ頁を開いて縛られた女の絵を紗由里の目の前に持っていく。目を逸らした紗由里は、蚊の鳴くような小声で答えた。
「ちょ、ちょっとだけ……」
 ちょっとどころでなく興味はあるだろう。はずかしめられて燃える性癖があることは紗由里本人も自覚している。言葉で責められるだけで達しそうになるのだ。
 その体を縛り上げてみたい欲求が小枝をうずうずさせる。
「でははじめよう。典太、姉様を裸に剥いてくれ」
「あ、はい」
 典太が紗由里の帯に手をかけほどいていく。毎夜やっているから手馴れたものだ。着物を脱がせ、その下の白い襦袢の帯もはずす。小枝は眺めながらうっとりした。
「何度見ても姉様の身体はきれいだな」
 襦袢の合わせ目から零れ落ちる雪のような胸。蝋燭の炎が豊かな陰影をつけて、清楚なはずのそれをひどく淫らに彩る。紗由里の体に淫らさを与えるのはそれだけではない。女らしさを存分に備えたくびれを持つその腰の下には、男の器官がかわいらしく備えられているのだ。紗由里の男根はもう半分立ち上がって、期待を膨らませている。
 典太がそでをはずすのも待ちきれず、小枝は用意した縄を紗由里の首へかけた。
「あっ」
 紗由里が小さく声を上げる。
 二重にした縄をぐるりと股の下へくぐらせて、男根を挟み込み、それを背中へまわす。縄がこすれるたびに体は敏感に揺れ、ぎゅっと目を閉じた紗由里は頬を染めてうつむいている。
「あれ。なかなかうまく括れんな」
 不器用な小枝が縄の結びにてこずっていると、典太が横から手を出してきた。
「十字結びはこうです」
 ぱっと手際よく結んでしまう。小枝は感心した。
「お前、こういう経験あったんだな」
「いやまさか。旅をしてると結んだり縛ったりってのはすごく重要なんですよ」
「あたしには向きじゃないかもなぁ。代わりにやってくれ」
「亀甲縛りでいいんですよね」
「ついでに後手に縛って股も広げさせてくれ」
「むずかしいな」
 そう言いつつも典太は、本をちらちら参考にする程度で、すばらしい手際のよさを見せていく。
 紗由里の体は菱形の凹凸がいくつも刻まれ、手は後ろに固定され、開かれた股はひざを折り曲げた格好で閉じることが出来ないよう、後方へ回した縄で括られていった。
 小枝はその様子を呆気に取られて見守る。
 旅をしているとそんなに縛る技術がつくのだろうか?
「できた」
 典太が満足げにうなずいたころには、紗由里は一個の芸術作品に仕上がっていた。
 乳房はその豊かさを強調されて縄の間から張り出し、先端の突起をぴんと上へ向けている。菱形の縄は肉のやわらかさを見せ付けるように食い込んでいるし、開帳された股の間では男根の下の秘所がぱっくりとその割れ目まで広げられて、奥の柔肉をのぞかせていた。
「……これも才能か?」
 呆れた小枝の言葉に、典太は複雑な顔をする。
「もともと手先が器用ではあるんですが……」
「お、おわった?」
 ぎゅっと目を閉じたままの紗由里が、おずおずと訊いた。
小枝は部屋の隅にあった姿見の鏡を、その前に移動させつつ答える。
「動けないか? 姉様」
「動けない……。胸の中が切なくて苦しいの。早くほどいて……」
「なに言ってるんだ。自分がどんな格好をしてるのか、目を開けて見てみろ」
 小枝は縛られた肩に手を置き、耳元でささやく。
 顔を逸らしたままの紗由里は、おそるおそる薄目を開けた。
「あ……」
 その視線が目前の姿見へ釘付けになる。
 目を開ければ、大股を開いたまま動けずにいる自分が映っていたのだ。
 想像よりも一段とはずかしい姿をさせられていることに、ようやく気づいたようだった。
「やだ……やだぁ」
 泣きそうな声で首を振るが、目は姿見に映る媚態に吸いつけられたように離れず、男根はみるみるうちに固さを増して、広げられた秘所からは透明な汁が溢れ始めた。
「なにがいやなんだ?」
 小枝は黒髪を掻き分け、その首筋へ舌を這わせる。
「こんな格好……こんな格好いや……」
「どういうところがいやなんだ?」
「ああ……こんなに股を広げて、こんなの、いやらしい……」
「じゃあ閉じればいいだろ?」
「閉じれないの……動けない……ああ……」
「そうか、動けないのか……」
 典太を手招きする。紗由里の目の前に立たせ、小枝はそのすそに手を入れて下帯をはずした。
「じゃあ姉様は、あたしが目の前でこいつをいただいてもどうすることもできないんだな」
 屹立した一物を取り出す。
 小枝の手につかみ取られたそれは、紗由里の顔の直前でびくんと脈打った。
 紗由里が焦りの声を上げる。
「いや、やめて。取らないで」
「ふふふ。どうしようかな」
 ぺろり、と亀頭の先を舐め、先走りの液を舌先にすくい取る。ぬらりと光るそれを見せ付けるようにしながら、口の中へしまいこんだ。
 紗由里は物欲しげにそれを見送った。
「だめよ……それ、私のなんだから……」
「独り占めはよくないよな。じゃあいっしょに舐めようか」
「あ……」
 典太の腰を押して、紗由里の顔に突きつける。
 ぼうっと蕩けた表情をした紗由里は、舌を伸ばして自分から舐めはじめた。濡れて震える紅色の淫靡な塊が、典太の欲望へからみついて、その固さをほぐすようにぬめりついていく。
 小枝もその反対側から怒張へ吸い付いた。
 典太の一物は熱く、浮き出た血管を舌の感触で知ることが出来る。それはどくどくと脈打ち、男の欲望の大きさを誇示しているようだった。
 紗由里が典太の右側を、小枝がその左側を。いつの間にかそう言う向きになって、ふたりは一心に竿にくちびるを当て、伸ばした舌で裏筋をなぞりながら、雁首の付け根までを往復する。
「ん……」
 先に小枝が口を離し今度は亀頭の先端から喉の奥へ飲み込んだ。力強いものが侵入し、苦しさを我慢できないぎりぎりで引き抜く。口が小さいから限界まで開けなければならず、それでも吸引とくちびるのすぼまりで男を悦ばせるのは至難の技だったが、この二年の鍛錬でそれもすっかり身についた。
 同じくらいおちょぼ口の姉にはまだ真似できるまい。その優位ははっきり感じる。
 紗由里は竿から陰嚢へ顔を移動させていた。
 下から体を曲げて袋をちろちろとくすぐり、たまにそれを一個ずつ口へ含む。口の中ではたっぷりと舌全体で舐め回して開放し、そして次へ移る。玉と玉の中間を紗由里がねっとりと舐め上げると、典太が声を上げた。
「あ、あの。もう出してもいいですかっ」
「なんだ……はやいな」
 小枝は中断すると、手を使ってしごきながら言った。
 一物は確かに限界まで固く膨れ上がり、しごいているだけで透明なねばりをだらだらと流している。
「ふ、ふたりでされると、興奮して――その」
「いいぞ。出してしまえ。これはあたしがもらう」
「え、やだ……」
 動けない紗由里から一物を遠ざけ、小枝はしごきながら先端を口へ入れた。典太がうめく。
「ううっ」
「だめよ……典太。出しちゃいや。あなたの子種は私のなんだから……」
「そんなこと、言っても……も、もう」
「じゃあ姉様、おねだりしてみろ」
 もう一度口を離し、小枝はいじわるく微笑む。
「典太の前で口を開けて、この中へくださいって言うんだ」
「や、やだ」
「じゃあこれはあたしのだな」
「まって。あ、あの……」
「ふふ。――ほら」
 一物を紗由里の顔の上に向ける。小枝はそれをしごきながら紗由里を促した。
 はずかしさで真っ赤になった紗由里が、うつむき加減で小さく言った。
「あ、あの、く、くださ……」
「聞こえないぞ。もっと顔を上げて。口を開きながら言うんだ」
「く――くださ……い」
 なやましげに眉をひそめ、あごを持ち上げた紗由里が、下唇に舌を乗せながら細い声を出す。縛られた体は自由が利かず、唯一自由になる顔さえもいまや小枝の言いなりだ。
 小枝のぞくぞくと背筋を駆け上るものがある。
「もっと言え、姉様。もっとなまめかしく」
「ああ……いや、もう、ちょうだい……」
「どこへだ?」
「私の……私の口の中へ……」
「なにをだ」
「熱い精液を……。はぁ、精液をちょうだい……」
「いっぱいか、それともすこしか」
「いっぱい、いっぱい……!」
「どろどろに?」
「うん、どろどろにしてっ」
 興奮した紗由里はなにも言われなくても淫らな言葉を続ける。
「顔中を汚して! 白いもので! ああっ! 典太はやくぅ」
 紗由里が舌を宙に伸ばし、なりふり構わない様子で叫んだ。
 首を振る動きに合わせて黒髪は体をさらさらと流れ、その隙間から見える縄の食い込んだ肉の凹凸が、清楚さを逆に倒錯的な色気へ変換している。
 あのおしとやかな姉がこんな媚態をさらすなど、だれが想像できるだろう。
 男なら、その姿だけで達してしまうに違いない。典太もそのひとりのようだった。
「さ――小枝様、僕もう、がまん――」
「いいぞ出せっ」
 小枝はひときわ強く竿を握り、上下にこすりたてる。
 びくびくっと震えた一物が、欲望の権化を脈動しながらほとばしらせ始める。
「ううっあっ」
 喉を反らした典太がうめき、腰を震わせる。
 先端の溝からびゅっと解き放たれた欲望が、紗由里の舌から口の中へと着地して、雪だまを投げたように白い染みを広げた。
 とても濃くて、量が多い精液だ。相当がまんして放ったせいらしかった。
 小枝は脈打つものをしごきながら射精を助け、紗由里の言葉通り口の中だけではなく顔の上にも白い絵の具を塗りたくっていく。
 たちまち紗由里の顔は白い欲望で汚されていった。
「おいしいか? 姉様」
「うん……おいひい……」
 上を向いたまま、目を閉じて恍惚と紗由里は言う。
 典太の射精が震えながら終わったのを見取って、小枝はその顔の上に口を寄せた。
「独り占めはよくないだろ? あたしにも分けてくれよ」
「……あ……」
 舌で顔の上のものを舐め取っていく。眉の上、まぶた、鼻先、頬と。
 紗由里が精液を口へ溜めたまま、抗議した。
「らめよ……わたひのなんらから」
「姉様、口の中の、まだ飲まないで」
 小枝は念入りに紗由里の顔を舐めまわし、きれいにしていく。
 あらかたを舐め取ると、くちゅくちゅと舌の上でそれを味わった。
「姉様はいつのまにそんな欲張りになったんだ……。ほら、返すよ」
 紗由里の頭を抱いて、くちびるを合わせる。
 精液と唾液の混じり合ったものを紗由里の口内へ流し込んでいく。
「んっ……ん……」
 それを流し終えると、舌を差し込んで向こう側の口の内側を舐めまわした。
 最初の方に飛ばした、ぷるぷるとした精液の塊を舌先で追いかける。紗由里もそれに合わせて舌を動かし始めた。
 ごくりと一口飲み込んだ紗由里は、残りの精液を小枝の口の中へ戻してくる。
 反対に差し込まれてきた舌に翻弄されながら、小枝も一口嚥下する。
 そしてまた残りを紗由里の口の中へ。
 ふたりは精液をお互いの口の中で混ぜあい、舌をからめ合いながら、愛の印しを飲み干していった。
「んふ……」
 くちびるを離すと、てろっとよだれの糸がお互いをすじでつなぐ。
 上気した頬で艶然と小枝は訊く。
「おいしかった?」
「うん……すごく」
「じゃあ次は、あたしを満足させてくれ」
 紗由里の体を畳の上へ押し倒す。縛られた足が宙を向き、無防備な秘所がさらされた。
 小枝はその濡れてひくつく甘い蜜の園へ指を這わせる。
「こっちもいいけどな……あたしはまだ、姉様の入れたことないんだ」
 つっと指を上げ、その上の男根をつかむ。
 典太のものよりもいくぶんか小ぶりであるものの、固さは紗由里の興奮に比例して申し分ない。
 ひとつひとつの指をからませる様に、やさしく撫でながら愛撫すると、その動きのたびに面白いほどびくびくと跳ねた。紗由里の男根は、跳ねる動きに合わせて射精したように先走りを滴らせ始める。
「あたしの中に入れたくてたまらないだろ? 典太じゃ出来ないものな」
「う……うん」
「じゃあおねだりできるよな?」
「うん……。わ、私のその……一物を、小枝のなかへ……」
「そそり立った肉棒、だ」
「そ……そそり立った肉棒を――」
「濡れそぼった肉唇へ突っ込ませてください」
「わ、私のそそり立った肉棒を――濡れそぼった、肉唇へ突っ込ませて、ください……」
「よーし、お望みどおりに……」
 紗由里の体をまたぎ、男根を自分の秘所へすりつける。溢れ出した蜜が太ももまで滴っているそこは、男根に吸い付いてちゅぱっと音を立てた。
「はやく、はやく……」
 紗由里のつぶやきはうわごとのようだ。
 小枝は天を仰がせたその男根を一気に下の口で飲み込む。
 想像以上の衝撃が、小枝の脳にも響いた。
「ああっ!」
「あふぅ!」
 ふたりともその瞬間に喉を反らし、背を反らして体を硬直させた。
 お互いの感覚を共有しているのだ。
 紗由里は小枝の膣の蠢きを、小枝はつらぬかれる熱さを感じ、それが同時に相手へと伝わって、快楽を倍にも増幅させる。
 小枝は手を畳の上へ突くと、荒い息を吐いた。
「はぁ、姉様、あたし――ちょっと果ててしまった」
「姉様はまだよ……我慢したんだから」
「が――我慢出来るか? こうでも?」
 絶頂の感覚にまだ震える膣をぬるりと持ち上げ、紗由里の異物を咥え込んだまま落とす。
 膣と男根の隙間からしぼり出された愛液が、泡のように白く紗由里の陰毛を濡らした。
「くっ」
 小枝は眉をしかめ、ともすれば力の抜けそうな腰を奮い立たせて、執拗に紗由里の上で上下した。腰の動きが十数回を数えた時点で、紗由里は突然身じろぎする。
「だっ、だめっ!」
「出して、姉様出してっ!」
 ますます激しくなる責めの動きから紗由里は逃れようとするが、しっかり縛られた体は動けないと言う事実を改めて教えるだけで、それが逆に被虐心をあおってしまう。
「あああ、やめて小枝、私……」
「い――妹に、犯されて、出ちゃうのか?」
「あ――出ちゃ、出ちゃう、果てる……」
「あた、しも、また……!」
「果てる! 出るう!」
「ああーっ!」
 ふたり同時に嬌声を上げ、また体を反らして伸び上がった。
 今度は紗由里が我を忘れ、わずかに動く腰を少しでも深く小枝の中へ突き入れようと、なまめかしくくねらせている。
 小枝はその上で恍惚状態のまま、紗由里の一物がその精液を膣の中へ吐き出していく熱い流れを感じていた。びくっと痙攣する内ももが紗由里の腰を挟み、絶頂の収縮でその男根をきつく締め付けて中に溜まっているものを搾り取ろうとする。
「小枝……小枝の中きつくて、いっぱい出ちゃう――」
 うわごとのようにつぶやきながら、紗由里はなおも射精を続けた。注ぎ込んだ精液はもはや小枝の中に納まりきらず、蜜とからみあって溢れ出したそれは自分の腹の上へ淫らな川のように流れ出し、臍へ池を作っていく。
「っ――あ」
 上を向いて硬直していた小枝は、長い射精が終わると同時に糸が切れたように紗由里の上へ倒れこんだ。
 目を虚ろに開き、肩で息をしながら、まだつながったままの部分を引き抜く気力もない。
「小枝ぇ……」
 そんな小枝に、紗由里が甘えた声でささやく。
「すごくいいの……。もっとして、小枝。まだ固いの直らない……」
「え……あ……。まだ、したりないのか?」
「うん……ほら」
 紗由里が男根に力を入れると、膣の中でそれはびくんっと弾け上がる。小枝はその刺激に肩をすくませた。
「ひうっ」
「ねえ……だからもっと……」
 紗由里の目は熱くうるんで、淫靡に艶光っている。蕩けた女の表情、いや、淫欲に飲まれた雌の顔つきだ。
 それが清楚さに溢れる容姿と乗算しあい、ぞくりとしたものが背筋を駆け上がるほど淫らに紗由里を見せる。
 紗由里を縛っておいてよかった。そうでないと、ここで逆に犯されていただろう。腰も立たないような状態で責められてはたまらない。
「典太、起きてるか」
 小枝は後ろに目をやり、畳の上へうつぶせになっている男に助けを求める。
「寝ませんよ」
「お前じゃない、せがれの方だ」
「おふたりのもつれ合うところを見せられて、立ち直らないほど年食っちゃいません」
「よくわからない理論だが、よろしい。その若々しいもので姉様を満足させてやってくれ。あたしはもう、限界だ」
「え、はやいですね――」
 言いながら体を起こし、紗由里の足元へやってくる。腰をはずそうとした小枝の肩を、なぜかぐっと押さえつけた。
「まあまあ小枝様。ふたりともつながったまま、楽しみましょうよ」
「――え?」
「……逃してはならんと、紗由里様が眼力で訴えるのです。と言うわけで、失礼しますよ」
「なにがだ――あっ!」
 小枝は典太の持っている縄を見て、焦りの声を上げた。
「あたしまで縛る気か!?」
「紗由里様だけじゃ不公平でしょ」
「不公平って、お前はいいのか!」
「僕はほら、縛る係りだし――」
「なにが係りだ。あうっ」
 わめいているうちに縄は器用に小枝の腰を巻き、広げた紗由里の足と腰へつなげられ、固定されていく。
「やめっ」
「暴れないでください。よっと」
「うわ!」
 ぎゅっと手を後ろへ回されたと思ったら、両手を後手に合掌しているみたいな格好で縛られてしまう。
「背面合掌縛りって言うらしいですよ」
 典太が本の内容を解説する。
 小枝の抵抗がなくなると、典太がじっくり小枝と紗由里の結合を深めていった。
 試行錯誤しながら何度も縄を通す。
 やがて完全に腰と腰がつながったまま、ふたりは身動きできなくなった。
 小枝は恨みを込めてにらみつける。
「て、典太お前、覚えていろ……」
「うるさいなぁ」
 突然後ろから布を掛けられ、小枝は視界を奪われた。頭の後ろでぐっと括られる。目隠しされたのだ。
「あ……ああ……」
 手も足も自由が利かず、周りも見えなくなってようやく、小枝は恐怖心を覚えた。
 いまから何をされるかもわからない。動けないし、どうしようもないのだ。
 怖い気持ちが湧き上がってくるのに、なぜか秘所は逆にその蜜の分泌を多くしていった。
「小枝様、いまからたっぷり可愛がってあげますよ」
 あごを持ち上げられ、耳元で典太がささやいている。小枝はわずかに震える唇で反駁した。
「お前……姉様と態度が違う……」
「なすがままの紗由里様より、反抗的な小枝様の方が燃えるんです」
「ば、馬鹿なこと……」
「うらやましいな、小枝。典太に愛してもらえるんだって」
 紗由里が微笑を含んだ口調で言う。
「いやだ、こんなの……」
「でもあなたの中、さっきからぬるぬると動いて……まるで悦んでいるみたい」
「そんなことな――あんっ!」
 後ろから典太に胸をわしづかみにされると、小枝は敏感に反応した。
 全身の筋肉が収縮して、膣も急激に締まり、紗由里の男根を愉しませる。
 典太は耳へ息を吹きかけるようにしながらささやく。
「紗由里様の中へ入れても、小枝様だって感じるんでしょう?」
「あ、ああ」
「じゃあつながっていても、離れていても同じじゃないですか。それならこのまま、愉しみましょう」
「う、や、やだ――ああ」
「はあぁ」
 ずぶり、と紗由里の陰唇へ亀頭が差し入れられる。熱い吐息をふたりは漏らした。
 そのままゆっくりと奥へ。
 一物がひだを掻き分けて進むにつれ、ふたりの吐息は熱さとなやましさを深めていく。
 全部は差し込まず、途中で止めて、またゆっくりと引き抜く。
 ぬるぬると惜しむようにひだがからみつき、先端が抜け切る直前でまた前進を開始する。
 ゆっくりとじっくりと。先ほどより少しだけ深くに差し込み、また抜いていく。
 そうやって徐々に深めていく運動を数度繰り返すと、紗由里がねだりはじめた。
「奥まではやく……。熱くて変になりそう。もっと入れてぇ……」
「……小枝様はどうです?」
「う……あ、あの、待ちきれないと姉様のがあたしの中で暴れて……奥に、届いちゃうんだ……」
「もっと欲しいんですね?」
「ほ、欲しい。あ――あたしも熱くて、変になりそうだ」
 典太は無言で腰の位置を定めると、そのまま一気に腰を紗由里の中心へ突き入れた。
 ――ずちゅっ
 粘液が摩擦で立てる卑猥な響きが響き渡った。
「あぁーっ!」
「あぅん!」
 突然の深い衝撃にふたりは派手に体をのけ反らせる。
 小枝はそのまま、上体を維持できずに紗由里の胸へ倒れこんだ。不自然な格好で手足を縛られているから、腰の半分で折れ曲がったような格好だ。
 そのまま典太は奥深くまで叩きつけるように腰を律動させ始める。
「あ、あ、あ、あ、あ」
「ああっ、いい! 典太もっと!」
 喘ぎ声しか上げられないのは小枝で、淫らに乱れきった言葉を発するのは紗由里だ。
 紗由里の足を持ち上げるように抱きしめ、回した手で小枝の胸のあたりを抱く。
 結合部はより深くまで典太を受け入れた。
「あんん――私、私また、果てちゃう、深いの。深いのが奥に当たって――」
「紗由里様、果てちゃいましょ、ね?」
「ああ……うん、私――果てる、果てるっ!」
「ああうっ!?」
 紗由里の膣が細かく震えて絶頂を示すと同時に、小枝の体が激しく揺れた。
 肉ひだの蠕動が典太の一物へ絶妙な刺激を与え、耐え切れない典太も同時に欲望を放つ。
 ぎゅっと力いっぱい小枝の胸を握り締めて、射精感の突き上げるままけもののように典太は腰を振った。
 紗由里の一物も脈打ち始め、ふたたび精液を小枝の中へ送り込み始めた。
 典太が腰を動かすたび、それは射精の大きなうねりを伝えてくる。
 どくどくと熱い奔流がほとばしっていく。
「――っ!」
 射精されながら女の悦びと男の悦びを同時に味わった紗由里は、声なき声をあげて表情を歪ませた。
 その感覚を共有する小枝もまた、紗由里の胸の上で口を半開きにし、よだれを垂れ流して快楽を享受していた。
「……小枝様?」
 よもや気を失ってしまったのかと思い、ふたりの昂ぶりがひと段落してから、典太は声をかける。
「……は、あ、ああ」
 息も絶え絶えながら返事があった。何度かぱくぱくと口を動かしてから、か細い声で訴える。
「な、縄をはずしてくれ。苦しくて息が出来ない……」
「あ、はい」
 典太は小枝の上体を起こすと結び目をほどきにかかったが、よほどしっかり結んでしまったのかはずすことができない。
 切った方が早そうだ。次からははずすときも考えて結んだほうがいいだろう。典太は鋏を取りに立つ。
 ふたりの縄を切りはずし、小枝の目隠しも解いて自由にすると、ぐったりとした女体がふたつ、畳の上へ転がった。
 お互いに秘所からどろりと白いものを垂れ流し、特に小枝は何人に注ぎ込まれたのかと言うくらい大量の汁が溢れている。
「ちょっと、きつかったかな。すりむけちゃった」
 先に復活したのは紗由里だった。手首をさすりながら体を起こす。
「だ、だまされた……」
 恨み言を言いながら小枝は上目遣いに典太をにらむ。あの人畜無害な男に嗜虐心があるとは思わなかった。しかしそれ以上に、小枝の中に被虐心の塊があることに気づいたことが大きな発見だった。
 典太の足元まで這っていき、そのひざの上に顔を乗せる。
「でもまぁ、よかったからゆるす。また姉様といっしょに縛ってくれ」
「もう、調子に乗らないの」
 紗由里がすねた。
 蝋燭の明かりがじりじりと明滅した。磨り減ってしまって消えようとしている。
 長居してしまった。ここは紗由里と典太の部屋だ。けだるいが戻らねばならない。
 ひざから顔をあげようとしたとき、典太の手がそっと頭に乗せられて、小枝は気勢を殺がれた。そのままやさしく髪を撫でられる。小枝が一番好きな手の動きだった。
「……小枝様。紗由里様」
 改まった調子で典太が声を発した。
「お願いしたいことがあるんです」
「なんだ」
「僕は旅に出ようと思うんです」
「は?」
「ええ!?」
 姉妹のおどろきが重なった。髪を撫でる手はそのままに、典太は静かに告げる。
「紗由里様のそれ、男の物についてですけど、やっぱりそのままにしておけない。それはケイフが作り出したものです。妖物が作ったものはいずれこの世に綻びをもたらす。あってはないものなんです」
「それはわかるが……治すあてはあるのか?」
「そうよ。あてもなく旅に出て何年も戻らないなんて、私はいや。そんなの認めない」
「あてはありますよ」
 かたくなな調子の紗由里を手招きし、典太は肩を引き寄せて腕に抱く。
「親父が民謡を拾ってきた場所、そこにはまだ隠されたものがある。そんな気がするんです。そこに行けば紗由里様が元に戻るってわけでもないでしょうが……僕しか、動ける人間はいないし」
 確かにいまの状態はまともではない。小枝とも心がどこかでつながったままで、本人は気に入っている様子でも男根なぞ生やしているのは正常とは言いがたい。
 小枝はあたたかいひざのぬくもりを感じながら、そこに顔を伏せて言った。
「……いいぞ。好きにしてこい」
「小枝!?」
「そのかわり三つほど約束しろ。必ず成果を持ち帰ること。必ず無事に戻ること。それから――旅に出る前に、姉様と婚約を交わすこと」
「え」
「ええっ」
 顔を上げる。ふたりの丸くなった目が見下ろしていた。
「なにを驚いてるんだ。もし典太が成果を上げて姉様を治してみろ。半陰陽が治れば親戚の狒々爺どもが由緒だなんだを気にしだす。そのまえに手を打っておけと言う話だ」
「た、たしかに……」
「色々考えてくれているのね、小枝」
 感動した面持ちの紗由里に、くちびるを尖らせながら言う。
「姉様がもっと考えてくれたらいいんだ。それにあたしは、お館様だからな。みなの幸せを考えるのは当然さ」
「自分の幸せは?」
 それを言うか、と思う。悪意の無さもここまでくれば凶器だ。
 くっくっく、と笑いながら体を起こす。
「あん? 姉様、じゃあちょっと分けてくれ!」
「きゃあっ!」
 紗由里の体を押し倒し、叫ぶ。
「典太、縄の新しいの持って来い! それから鞭もだ!」
「いやあー!」
 夜はまだまだ、長そうだった。
其の三 空を這う魚
脇息(きょうそく)に肘をついて窓から見える庭を眺めていると、はらりと大楠の葉が落ちた。
 風が出てきているようだ。今夜は荒れるかもしれない。
 葉は一枚二枚と枝を離れ、宙を舞って屋根を越えていく。
 書机に目を落とすと、立てかけた手鏡が自分の顔を映していた。
 押さえた色合いの小紋を羽織り、くちびるにはうすく紅をひいている。
 一時伸ばした髪は、やはり自分の好みではなかったので、再び切ってしまっていた。あご先に横髪が被るのはそこだけ癖毛だからだ。逆にそれが自分らしくていいと小枝は思っている。
 あごから鼻にかけては姉とよく似ていると思う。
 口が小さく、歯も小粒。すっと筆で引いたような鼻筋が、それを引き締める。
 目元は姉と違って吊り気味だ。眉も少し細く削ってある。多少表情のきつさは増すかもしれないが、それもまた自分らしさだ。歴々の親類一同を相手にする時も、凛とした威厳が出てよい。
 ふっと息を吐く。
 手元には陳情書の束。土地を治める地主から持ち込まれてきたものだ。地主たちをまとめる名主の家系の当主が、いまの小枝なのである。
齢十八。異例の若さを支えるのは、小枝の持つ天性の采配力と、寝る間も惜しむ努力であった――が。
 これらに目通しして印をつかねばならないのものの、さっきから一向にはかどらない。
 このところずっとそうだ。
 夜だけではなく、昼の仕事にも差し障りが出始めている。
 体の芯が熱く火照っているような感覚。
 ざわざわと本能を刺激するうずき。
「――またか……」
 もう一度息を吐くと、小枝は窓の障子を閉じた。
 宵の口だと言うのに、お盛んなことだ。
「あうっ」
 突如、熱いものを下半身に突きこまれたような感覚が襲う。
「はぁ……あ」
 じわりと秘所が蜜をにじませはじめるのが分かる。
 小枝は着物の合わせ目を開くと、着崩れも気にせず胸をまろびださせた。
「あたしだって……あんっ」
 乳房を撫で回し、桜の突起をつまむ。
 ずん、ずん、と肉ひだをかき回す、力強いものを感じる。
 その感覚をこらえきれない小枝の秘所は、降参したように蜜の涙を流し始めた。
 腰巻きから垂れていきそうだった。着物を汚すのはまずい。
 小枝は帯をほどき、すそを開く。
 少し思いついて、わざといやらしく股を開いてみた。
 あわい草むらとうすく充血した陰唇は、わかさとみずみずしさを存分に湛えて、まさに女の一番旨い時期を示している。
 手鏡が小枝の表情を映している。
 崩れた着物から覗く乳房。凛とした瞳はいまや熱く蕩け、大股を開いたはずかしい格好で痴態を晒している。
「あ……あっ」
 なにも刺激していないのに、小枝の秘所はぱくぱくと閉じたり開いたりを繰り返し、どろりと愛液を流した。
 感覚だけではなく、体も男を受け入れている様子を示しているのだ。
 新しい発見だった。
 それが興奮を掻きたて、指を突き入れて自らの中をまさぐりたい欲望をこらえた小枝は、両手で太ももと陰毛をさすって感覚を誤魔化す。
「く、くぅっん……うん……」
 声が我慢しきれない。小枝は帯を歯で噛みしめ、それを耐える。
 ずぶり、と深いつらぬきがきた。
 喉を反らし、帯をふりまわして、なんとか声を出さずに収める。
 小枝は手鏡を取ると、秘所の前にあてがった。
 ひくひくと誘うように蠢くそれは、女の悦びを垂れ流しつつ、突き上げる感覚があるたびにめくれ上がるような収縮を繰り返している。
「いやらしいあそこだ……」
 口の中でつぶやく。
 指を使って広げてみる。
 うす紅のひだが、ぬらぬらと光りながら奥まで続いている。
 どんな男だって、このなかに一物を突きこめば、この上ない悦びとともに果てるだろう。小枝には自信がある。
 だが欲求不満が限界に達しつつある今でも、例えば男娼を屋敷に呼んだりしようとは微塵も思わない。
「典太……」
 小枝が想うのは、ひとりの男だけだ。
 けっしてたくましくはないが、やさしい腕のぬくもり、髪を撫でる指先、そしてどうやら、人の物より一寸立派であるらしき男根。
「あふっ!」
 想うと我慢できず、小枝は指を濡れた熱い肉の中へ突き込んだ。
 細い指が二本、ずっぷりと埋没する。
 まだだ。
 三本目を入れても、奥へは届かない。
 典太のあの、太いものが子宮の入り口をこつこつと叩く、途方もない悦びは味わえない。
「うう……う……」
 体はいよいよ熱い。下半身を突き上げる感覚も激しさを増す。
 しかし指だけでは、小枝は満足出来なかった。
 このままでは生殺しのまま体の火照りを明日へ持ち越してしまう。
「ええい、もう!」
 一声あげて指を抜く。
 やけになって立ち上がると、小枝は着物を脱ぎ捨て、腰巻きも脱ぐと、うすい浴衣を衣掛けからはずして羽織った。
 この時間なら、厨(くりや)にはだれもおるまい。
 小枝は足音を忍ばせて屋敷の闇を歩き、しんと静まり返った厨にたどり着いた。
 明かりを消す前、だれぞがもいで冷やしたままの胡瓜が、桶の中に浮かんでいたのを知っている。下世話な女中たちが、男根にそっくりな一本を差して、げらげら笑っていたので覚えていたのだ。
「はぁ……はぁ……」
 ここまで移動しただけなのに、ひどく息を切らしてしまった。
 垂れた蜜がひざにまで流れている。人に会わないでよかった。
 桶の中には何本も胡瓜があったが、目的のものはすぐにわかった。
 水の中から取り出し、持ち上げて差し込む月明かりに照らしてみる。
 雁首に似たくびれまでついている、なんともひわいな形状だ。大きさも太さも申し分ない。
「うん……いい形だ」
 思わずつぶやき、小枝は流し台に腰を下ろすと、浴衣のすそをまくって、胡瓜の雁首を秘所へすりつけた。
 ちゅく、と濡れた音が小さくあがる。
 小枝はもう片手で陰唇を広げ、ゆっくりと胡瓜を差し込んでいく。
「――っ!」
 ぞくぞくとした快感が、背筋を駆け登った。
 あまりに予想外の感触に、声を上げるのも忘れてしまったが、そうでなければ大声を上げていただろう。
 ひやりと冷たいものが、熱くたぎる小枝の感覚をより鋭敏にしている。
 それだけではなく、胡瓜のいぼが内壁をぶつぶつと刺激して、味わったことのないような快感を与えてきた。
 声を我慢出来そうにない小枝は慌てて浴衣の肩口を口元へ持っていき、咥え込む。
 軽くしか止めていなかった帯が緩み、小枝の体を半裸に露出させた。
「んっ――ふっ――っ!」
 夢中で小枝は胡瓜を押し込む。
 まずは半分くらいまで、愛液の潤滑が充分に絡みついたところで引き抜き、また差し込む。次はもう少し奥。ぬめった胡瓜が月明かりでてらてらと光る。
 何度かそれを繰り返し、小枝はいよいよ最奥めがけて、思い切り突き込んだ。
「あふっ!」
 思わず浴衣を口から離して、小さく声を上げてしまう。反射的に痙攣した足が胡瓜の桶を蹴った。
 大きな声をあげてしまったように思えたが、そうでもないらしい。どちらにせよここは母屋から少しはなれているので、物音程度ではだれも様子を見に来ないだろう。
 それより胡瓜が奥の壁を叩いただけで、軽く果ててしまった。
「これ、いいな……」
 もっと味わいたい。とびきりいやらしい格好で、自分を慰めたい気分だった。
 小枝は流しの横の、いつもはまな板を並べるところへよじ登り、体を横たえた。
 まな板の上の鯉を想像する。
 男たちがもし、こんな自分の姿を見たらどうするだろうか。
 もはや体を隠していない浴衣からこぼれた乳房、誘うように開らくすらりと伸びた足、濡れそぼって蕩けた秘所。
 がっつくようにむしゃぶりつくに違いない。
 何人もの男に犯されるのを思い浮かべて、小枝は握った胡瓜を出し入れしはじめた。
 秘所には入れ替わり立ち替わり、男が欲望を突き刺していく。
 口にも男根が差し込まれ、胸は乱暴にもみしだかれ、小枝は汚れた精液を降り注がれながら、何度も執拗に秘所を責められる。
「くぅ……う、――あっ!」
 両手で胡瓜を握り、脳天までつらぬくように力いっぱい動かした。
 奥の奥へ、地響きのように響いてくる。
 太い一物が小枝の子宮をこじ開けるように、叩きつけられる。
「はあ、ああぅ!」
 いつの間にか想像の中で、小枝を抱いているのは典太になっていた。
 その腰が動くたびに、小枝の秘所は蜜の滴りを増やし、とめどない快楽のるつぼへ誘い込んでいく。
 頭の奥が真っ白になるような、酩酊感が襲ってきた。
「てん――典太っ!」
 その体を抱いているように足を宙に開くと、小枝は全身を痙攣させた。
 うすく目を開いていると、天井を蹴るようにびくびくと足先が震えているのが見えた。
 膣は胡瓜を食いきらんばかりに引き締まり、自分の手で動かすのも困難だ。
 何度も背筋を跳ねるように反らして、小枝は果てた。
「ふ――う、うあ……」
 絶頂の快楽がじょじょに引いていき、小枝は足を下ろす。
 冷たい台の上に寝転がったまま、呆と暗闇の厨房を眺める。
「……なにやってるんだ……」
 仮にも当主とあろう者が、股間に胡瓜をはさんだままこの格好では、示しがつくとかつかないの話ではない。火照りが覚めるにつれて、なんだか情けなくなる。
「くふっ」
 深々と差し込まれた胡瓜を引っこ抜き、地面に降りて愛液にまみれたそれを汲み置きの水で洗った。
「これ……どうしようか」
 まさか自慰に使ったものを喰わせるわけにはいくまい。かと言って捨てるにもあやしすぎる。
 明日の朝、輪切りにして典太の皿に出してやろう。
 思いついてにやりとする。久々に手料理をつくると言えば、屋敷の者も気づくまい。
 小枝が自慰に耽っている間に、体を弄ぶあの感覚は消えていた。
 あちらはさっさと終わってしまったみたいだ。
 このところ小枝を悩ませているのは、性感を刺激してくるこの感覚だった。
 どうやらまだ、小枝は紗由里とどこかでつながっているらしい。
 それも、性的な快楽だけが、小枝に流れ込んでくるのだ。
 つまり紗由里が情事をするたびに、こうやって小枝は悶々とせねばならぬのである。
「勝手なことだ」
 紗由里はいま、典太と離れで暮らしている。
 正式な婚儀はまだまだ先になるだろうが、紗由里を助け出した傑物と屋敷の者は典太を認めているし、身分云々にうるさい親戚の連中は、紗由里の半陰陽の状態を教えると黙り込んだ。典太くらいしか嫁の貰い手もないのである。
 けっきょくあのふたりは、そのおかげでうまくいっている。
 それはいいのだが、小枝の気持ちはすっきりしない。
 小枝もまた典太を愛している。嫉妬めいた感情はないが、たださびしい。体だけの関係でもいいから、また典太に抱いて欲しいと思う。
「……ん?」
 胸に舌先が這ったような感覚。
 ふたたび刺激がはじまった。乳房の先端を吸われながら舐めまわされている。
 直した浴衣を開いて胸元を見ると、みるみる乳首が固くしこり立っていくのがわかった。
「もう一回か。ああもう、こっちの身にもなってくれ!」
 ようやく火照りの収まった秘所へも刺激が始まった。
 ゆるやかに股間を撫で回す感覚に立っておれず、桶のそばへしゃがみこんでしまう。
 むらむらと沸きあがる性欲と同時に、理不尽さに対する怒りがこみ上げてきた。
 小枝は胡瓜を握り締めると、立ち上がった。
「今日と言う今日はゆるさん!」
 息巻くと厨を飛び出し、離れへ向かった。


***


「あんっ。……もう、まだし足りないの?」
「紗由里様だって」
 典太は紗由里の胸に顔を押し付けると、そのまま布団へもつれこんだ。
 今日は一度出しただけでは収まらなかったのだ。
 元気ね、と紗由里が半立ちのままの一物をもてあそぶので、火がついてしまった。
「ああ……胸ばかり、そんなにいじめないで」
 典太の頭をかき抱き、熱いささやきを放つ。
 典太はその裸身の下部へ手を這わしつつ、訊ねる。
「紗由里様は、胸が感じるんでしょう?」
「うん……でも胸ばかりだと、こっちが切なくなって……」
「こっちって、どこです?」
 秘所の上を、つっと撫でる。
 ぞくりとしたように、紗由里は身をすくめた。
「いや、はずかしい……」
「言って欲しいな」
 かり、と乳首に歯を立てる。はっと吐息の塊を吐き、紗由里の肌が軽く粟立った。
 紗由里はいじめられると燃える気がある。
 所を押さえてはずかしめたり、強い刺激を与えたりすると、こうやって肌を粟立てて享楽を示すのだ。
 典太はその所をよくわきまえている。
「ああ……私の陰(ほと)、陰の割れ目が切ないの……」
 ついに淫語が口を割った。
「よく言えましたね。ご褒美です」
 はずかしさに赤くなった紗由里の、その陰を愛撫する。
 期待に昂ぶった女の亀裂は、撫で回す指につぎつぎと蜜をからめていく。半陰陽の男根も、固く屹立していた。
 熱いその蜜をすくいとってさらにすりつけながら、典太は陰唇をもむようにてのひら全体を動かした。
「ぁはあ……うぅ……」
 紗由里は声を抑えようとしているが、どうしても閉じたくちびるの端から漏れてきてしまう様子だ。
 典太はまたいじわるくささやく。
「がまんしないで、大きな声をだしちゃどうです?」
「やだ……母屋に聞こえちゃう」
「聞こえてもいいでしょう。僕たちはもう認められた仲なんですから」
「そうだけど……はずかしい……」
「みんなに聞かれたら、困りますね?」
「うん……みんな……ふ、うっ!」
 自分の淫猥な声に聞き耳を立てられたところを想像したのか、また紗由里は肌を粟立てて反応した。
 典太の指は、ちゅぴちゅぴと水遊びの音を立て始める。
 紗由里は無意識に、自分の胸を撫で回していた。
 両手でお椀を作っても隠し切れない豊かな乳房は、ぐにゃりと自在に形を変えてやわらかさを視覚的にも伝えてくる。
 汗の流れる白い首筋に顔を寄せ、典太はささやいた。
「紗由里様、もう入れたいです……」
「い、いいよ。入れて……典太」
 体勢を変えて、紗由里の両足首をつかみ、大きく広げる。
 はずかしさに目を逸らした紗由里は、しかし期待に頬を上気させていた。ひくひくと男根も震えている。
 典太は限界の固さに復帰した怒張を紗由里の泉へ添える。
 入れずに上下にすりつけると、紗由里は軽い喘ぎを放った。
「あっ、くふっ、……はやく……ちょうだい」
 蝋燭の炎に照らされた横顔は、これを越えるものはないと思うほど、艶っぽい――。
 腰を定め、亀頭の先を沈み込ませようとしたとき、
「たのもう!」
 がらっと離れの扉が開いた。
「きゃあっ!?」
 反射的に体を離した紗由里に蹴り飛ばされる。
 典太は箪笥に背をぶつけた。
 背と後頭部を打った典太が、涙目で戸口を見ると、小枝が仁王立ちしていた。
 あの白いあじさいの浴衣を着ている。
 だが着衣は乱れ、胸元は大きく開いて中身をまろびださせそうだ。帯の止め方も適当である。
 そしてなぜか、太い胡瓜をにぎりしめていた。
「さ――小枝? なに、一体」
 混乱した様子で紗由里が訊く。布団の端を持ち上げて胸元を隠しているが、逆にそれが色っぽい。
「姉様、気づいているか知らないが――」
 扁平な声で小枝は話し始めた。目が座っている。
 小枝が語ったのは、紗由里の感覚が流れ込んでくると言う話だった。
 毎夜毎夜、気が乱れて仕事が出来ぬと。
 仕事を抜きにしても気持ちだけかきたてられ、翌日の昼も呆とすることが多いと。
「けものみたいにさかりつきおって。あたしの身にもなれ!」
 はやくちにまくし立てて、小枝は胡瓜を振り上げるとそれで紗由里を差した。
「そ、そんな……」
 真っ赤になった紗由里は泣きそうな顔で典太にまなざしを向けた。
「えーっと、小枝様」
「お前はだまっていろ」
 なんとか助け舟を出そうとした典太はぴしゃりと言いはたかれ、二の句を継げない。
 小枝は畳へ上がりこむと、いきなり紗由里の肩をつかんで、布団の上へ転がした。
「きゃっ」
「と言うわけで、姉様、相手をしてくれ」
「ええっ!?」
「典太に抱かれたのではあたしも未練が残る。さいわい姉様には男のものもついていることだ――」
「なにそれ、やめて小枝っ」
 おびえた顔の紗由里に、くっくっく、と邪悪な笑みを向ける小枝。
 完全に暴走している。
 手に持った胡瓜を、ぺろりと舐めた。
「だいじょうぶだ。いいものも持ってきた」
 男根そっくりなそれを、紗由里の秘所へあてがうと、抵抗する間もなくずぶっと差し入れる。
 典太のものを受け入れるために準備万端になっていたそこは、あっと言う間にその胡瓜を飲み込んでいった。
「あはうっ!」
「いー声だぞ姉様。もっと鳴いてくれ」
「や、だめっ! ああん」
「気持ちいいだろう。なんせ実証済みだ。あたしも、いいぞ、姉様」
 口では拒絶する紗由里も、下半身は開ききったままで閉じようとしていない。小枝はもう片手を浴衣のすそへ入れ、自分を慰めはじめた。
 濡れた音が二箇所から立ち昇った。
「あん、やあ……あふっ。ごめんなさい小枝、ゆるして……」
「だめだ。それより姉様、その旨そうなものを喰わせろ」
 紗由里の股間へ顔を寄せた小枝が、いきり立った男根を口に含んだ。
「はふっ!」
「んん!」
 ふたり同時に、ひときわ嬌声をあげる。
 小枝の顔が紗由里の股間の上で上下に動き、緑の肉棒と化した胡瓜が秘所の蜜肉を抉り取ろうとするごとく暴れ回った。
「ううう――くぅっ、さ、小枝やめて、お願い」
「ひやだ」
「だめなの、私、両方されると……」
「ひいんだりょ?」
「ああ、だめ。はあっ、あっ、だめよやめて!」
「なにがだめだ」
 突然顔を上げた小枝は、胡瓜からも手を離して身を起こす。
 急激に刺激の去った紗由里は、いっしゅん呆然とした。
「あ……」
「わかってないな、姉様。あたしを愉しませないかぎり、ゆるしてやらないんだぞ。それに、隠したってわかってるんだ――」
 小枝は大きく股を広げると、横になった紗由里の前に自分の秘所を見せつけて、そこに指を入れた。
「うっ――」
 顔を歪めたのは紗由里の方だ。小枝は秘所の中をいじる手を止めず、言う。
「あたしの火照りが伝わるだろ? あたしも姉様の快楽が直接わかるんだ。どこをどうしたら悦ぶか、いまからたっぷりと味あわせてやろうと思ったのに……」
「うう……」
 紗由里が小枝の指に合わせて、眉を寄せていく。小枝は浴衣を完全にはだけて、胸をもみ股間をいじり回した。
「はっ、ああ!」
 その感覚が伝わる紗由里は、我慢できずに自分の胸に手を当てる。
「さあ、続きをしてほしかったら、自分でそのまたぐらに刺さったものを動かして。ほら!」
「いや……もう……」
 紗由里は半分泣きそうだ。小枝はその胸を足で踏みつけ、ぐりぐりともむようにこねくりまわす。ぞくっとした震えが走る感覚を、小枝は見逃さない。
「どうした姉様。鳥肌が立ってるぞ」
「ああ……やめて、言わないで……」
「感じるのか? いや、答えなくても全部わかってるんだ。姉様のはずかしいところ全部」
「いやっ! いやあっ!」
 顔を覆って紗由里は首を振り、すすり泣き始めてしまった。
 小枝は困った顔をする。
「あや……いじめすぎたか。な、姉様。あたしに協力すると思ってさ」
「…………」
「でないとあたしは、典太を取ってしまうぞ。いやだろ?」
「いや、取っちゃだめ……」
「じゃあ自分でその胡瓜を動かすんだ。はやくしないと、そこで間抜けな顔をしてるやつを襲ってしまうかもしれん」
「だめ……」
「ならわかってるだろ?」
「……うん」
 間抜け呼ばわりされた典太は、ようやく我に返った。
 姉妹の痴態があまりに強烈過ぎて、呆然としていたのだ。
 典太は箪笥から背を離すと、布団のそばまで移動した。
「手伝うなよ」
 最初から釘を刺される。
 見通された典太は、仕方なく紗由里の足元へ座った。
「ほら、姉様。典太に見せてやれ。自分の一番いやらしい姿を」
「あ……」
 ちらりと視線を向けた紗由里は、とろんとした目を逸らし、ゆっくりと胡瓜へ手を伸ばした。
「典太……見て……」
 たのまれてもいないのにつぶやくと、つかんだ胡瓜を動かしはじめる。
 おずおずと引き抜いて、ゆっくりとまた埋没させていく。
「あ……は……」
 くちびるはひめやかな喘ぎを漏らした。
 動かし方が慣れていくにつれて、その速度は徐々に速くなっていく。
 ちゅぷちゅぷとまた水音が響きはじめた。
「……紗由里様」
「見てるの? 見てるの、典太」
「ええ……紗由里様のあそこが、緑のをくわえ込んで、濃い汁を流してるのを」
「はぁん……言わないで、お願い」
「ぬらぬらに光ってます。胡瓜が引かれるとまるで吸い付いてるみたいにひだが伸びて――差し込まれるとそれがたたまれるように飲み込まれていく」
「やめて、私、こんなことして、いやらしい女みたい――」
「紗由里様はいやらしいです」
「ああっ!!」
 典太がそう言った瞬間、紗由里は大声を上げて喉を反らした。胡瓜を奥まで深々と突き込んで押さえたまま、震えている。
 びくん、と足先が痙攣した。
 典太の言葉で絶頂を感じたのだ。
「やうっ!?」
 姉の卑猥な様を見ていた小枝も、つられて声を上げると、体をすくませた。
 紗由里の絶頂が乗り移ったのだろう。
 そのまま紗由里の胸の上にばったりと顔を乗せる。
「はぁ……はぁ……ね、姉様、辱められると感じるんだな」
「そ、そんなこと……」
「はずかしいだろ? あたしにばれちゃったぞ、姉様の性癖」
「う、うぅ……」
「でもよく出来たな。ご褒美にたっぷりしてあげるから。――典太、お前もいいぞ」
「え? あ」
 混ざれと言う趣旨を理解して、典太は紗由里の股間から胡瓜を引き抜いた。
 真っ白い粘液の塊がこびりついている。
 まるで男の精液のようだ。
「どういうかっこうがいいかな……。うん、姉様、四つん這いになれ」
「う――うん」
 紗由里が様子を伺いながら体を起こし、布団の上で犬の体勢になる。
 小枝がその髪を撫でて言った。
「いいかっこうだ。さかりのついたけものにぴったりじゃないか」
「ひ、ひどい」
「うるさい。あたしがおかげでどれだけ迷惑をこうむったと思うんだ。典太、けものみたいにしてやれ」
 小枝が立腹しているのは本当のようだ。
 こっちはまあ、逆らえる状況にもないし、一刻もはやく紗由里の滴る蜜の中心へ一物を埋めたくてうずうずしている。
「じゃあ紗由里様……」
 すべすべの尻に手を当てると、紗由里は入れやすいように腰を持ち上げた。なんだかんだ言って、紗由里も欲しくてたまらないのだ。
 典太は猛りきった怒張の狙いをつけ、指で軽く陰唇をかき分けると、一気につらぬいた。
「うんんっ!」
「ああ!」
 紗由里どころか、小枝までも甲高い声をあげた。
 小枝は紗由里の顔の前で、股を開いてみせる。
「ね――姉様が交わってるあいだ、あたしがどんなことになってたのか、見せてやろう」
 典太が一物を抜き差しするたびに、小枝の秘所はぱくぱくともの欲しげに開いたり閉じたりして、白濁の汁を流していた。
「どんなだ、姉様。あんっ! あたしのここ、いやらしいか?」
「うん、いやらしい。濡れて光って――っあ、は、とっても」
「こんな妹の姉様なんだ――姉様も、いやらしいだろ?」
「うん、うん! 私も、淫乱なの! ああっ! 小枝っ!」
 背筋に鳥肌を浮かせる。
 紗由里は目の前に濡れる亀裂に顔を寄せると、腰に手を回して舌を這わせた。
「ひゃっ!? 姉様、そこまでしなくても――ううっ」
「私も、小枝の気持ちいいところ、全部わかるんだから!」
「ああっ! やっ! だめっ!」
 見えない男根につらぬかれているかのような秘所を舐め上げられて、小枝はあられもない声をあげると紗由里の頭を太ももではさんだ。
 今度は小枝が責められる番だった。
 典太も紗由里に協力することにする。腰の動きは休めずに、紗由里の股に手を伸ばして、宙ぶらりんでさびしそうな一物をしごきはじめた。
「あああ! いい、気持ちいい、姉様……!」
 恍惚の表情で小枝が目を閉じる。
 すぐに体に力を入れ始めると、小枝は叫んだ。
「やあっ! あたし、もう」
「果てて、小枝。姉様が果てさせてあげる」
「ああ――そんな、ああ、あうううっ!」
 ぎゅっと目を瞑ると、小枝は紗由里の髪の上で体を丸めて硬直した。
 握り締めたこぶしが白くなっている。
「うっ、うっ、う――」
 絶頂の叫びを必死で耐え、小枝は責めを受けながら細かく痙攣した。
「んんっ――!」
 その股間でくぐもった声を上げると、紗由里の背もびくびくと震える。
 一物の埋められた膣はきつく収縮し、しごきたてる典太の手の中で紗由里の男根は大きく脈打った。
 射精している。
 出るのは子種ではなく、愛液に近いもののようだが、それは男のものと違って女性特有の、果てなく何度でも絶頂のたびに放たれるのだ。
「姉様、姉様っ!?」
 射精の感覚が間近で伝わってきた小枝は、自分のものとは違う異質な感覚に戸惑いながら、続いていく絶頂の酩酊に翻弄された。
 飛び散った紗由里の精液が、布団に白い染みを作っていく。
「――は――」
 末期の息のような声をあげると、小枝はばたりと力を失って倒れた。
 紗由里も布団の上に顔を伏せ、肩で大きく息をしている。
 この中で達していないのは典太だけだ。
 満足そうなふたりに告げる。
「僕も忘れないでくださいよ」
 一時止めていた腰の動きを、大げさに開始する。
 ぱんっと肌の打ち合う音が離れの中に響き渡った。
「ひゃう!」
「あっ!」
 突然の刺激に、けだるさに身を任せつつあったふたりは不意打ちの喘ぎを放った。
 紗由里が顔をあげ、目を閉じたまま髪を振り乱した。
「ああ、典太! もっとして、もっと激しく」
「だめ姉様、そんなことしたらあたしが――」
「いいの。典太のそそり立った剛直が、私の奥まで当たってる! ああっ!」
「やあぁ!」
 わざと卑猥な言葉を発する紗由里の中を、その言葉通り奥までつらぬく。
 汗に濡れた肌がぶつかるたびにぱんぱんと打ち合わせる音が鳴った。
 息も絶え絶えな小枝が、紗由里の横に転がったまま両手を股間に当て、のたうっている。
「姉様ぁ、変になる、ああ! いじめてごめんなさい、ゆるして!」
「だめよ、小枝っ。姉様、怒って、るんだからっ。はんっ。ゆるしてほしかったら、私に奉仕しなさ、い」
 紗由里も無我夢中で、切れ切れに言う。
 小枝がその体の下に顔を入れて、張りを保ったまま揺れる乳房へ吸い付いた。
「んうっ!」
 その刺激が余計自分の快楽を増す。紗由里は乳房に吸い付く顔をつかんだ。
「む、胸もいいけど、もっとおいしそうなところがあるでしょう」
「あ……やだ、そこを舐めたら、あたし……」
「いいから!」
 紗由里に押されて、小枝はさかさまのままふたりのつながった部分へ顔を持っていく。
 結合部分から垂れた愛液が、ぽたぽたと小枝の顔を汚した。
 典太は紗由里の男根をつかむと、小枝の口元まで持っていく。受け取った小枝が、それを手でさすりながら口に含んだ。
「あああっ!」
 今度は紗由里が嬌声をあげる。
 今にも達してしまいそうだ。膣はまたぎゅっと絞られてきた。
 そのきつさに思わず出そうになった典太は、腰の動きをゆるめる。
 その隙に紗由里は転がっていた胡瓜を手に取り、自分の顔の下で開かれている小枝の秘所へ突き込んだ。
「――っぐ!?」
 一物を含んだまま、小枝は驚きの声を発する。
 紗由里は奥深くのもう入らなくなるまで埋め込んで、一気に引き抜き、また差し込んだ。
 同時に腰を深く落として、小枝が口の中のものをはずせないようにする。
「姉様の、方が、強いんだからっ」
「んんうぅーっ!」
「ああ、でも、いい。私、果てちゃう」
 潮時のようだ。
 典太は再び腰の動きを激しく再開した。
 肌の打ち合う音がまた響き始め、紗由里はあられもない声を飛ばした。
「ああ、典太、いいっ! いい! もっとぉ」
「紗由里様、僕も、もう、いいですかっ」
「ええ、出して、小枝にかけてあげて!」
「ううっ!」
「あはぁっ!」
 紗由里の絶頂と重なり、典太は腰を引いた。
 のどの奥まで一物を突っ込まれてうめき声も出さない小枝の顔へ怒張を向けると、典太はしごきはじめる。
 射精した精液は小枝の髪と額を汚し、紗由里の一物に降りかかって、小枝の口元へ流れた。
「んぐう……んんん!」
 紗由里の一物もどくどくと脈打っている。
 紗由里の絶頂に合わせて、一物も射精を始めていたらしい。
「ぷぁっ、はぁ、あ、あああああ!」
 のどの奥へ直接注ぎ込まれていた小枝は、なんとか窒息寸前でそれを引き抜くと、息を吸い込むと同時に嬌声を上げる。
「小枝、男の人が出す感じって、すてきでしょ?」
「これ、いい、もう、あたし――何度も果てて――」
 意味のわからない言葉を発している間にも、典太と紗由里の一物はふたり分の精液をその顔に降り注いでいった。典太は自分だけでなく、小枝のものもしごいて出していく。
「あうう……っく」
 ひとつうめいた紗由里の射精が収まり、ぐったりと力を抜いた。典太の一物もそのころには、震えながら脈動を止めていく。
 小枝の顔の上から体をどけて、紗由里が倒れこむように横になった。
 ふたりの精液でたっぷり汚された小枝は、呆然と天井を仰いだまま、焦点の合わない目で喘ぐ息遣いを繰り返している。
 典太は大きく息を吐いて呼吸を整えた。
 女ふたりは気を失いかねんばかりだ。
 投げ飛ばされたみたいにてんでばらばらに手足を投げ出し、動かない。
 紗由里はいいとしても、小枝はこのまま朝までここにいるわけにもいかないだろう。
 なんとか復活して戻ってもらわないといけないが、だいじょうぶだろうか――。
 後始末はなんだか、いつも典太の役割だ。
「ふぅ」
 しばらく座り込んだまま体を休めて、典太は軽く衣をひっかけると、手桶を持って離れを出た。
 そとは思いのほか蒸している。
 先ほどまで出ていた月は厚い雲に覆われて、形も見えなくなっていた。
 しばらく前まで吹いていた風がまた出てきている。
 このまま明日は大風を迎えるだろう。
 この屋敷は里から少し離れたところに位置しているが、頑丈な造りだ。少々の風では屋根瓦も飛んだりしない。
 井戸にたどり着いて、滑車を回していると、ふと視界の端を白いものが走っていったような気がした。
「ん?」
 目を向けると、なにやらぼんやりと輝く蛇のようなものが地面に居た。
 ただし輪郭がとなりの茂みとはっきりせず、しかも頭が四つに分かれて獲物を咥え込む牙のような形をしている。
 それはすぐ体をうねらせながら茂みの中へ消えていったから、目にしたのはほんの一瞬だったが――。
 典太の腕には鳥肌が立っていた。
 なぜだか本能的にぞっとしたのだ。
「妖物……だよな」
 どこか、本で見たような気もする。
 寒気がやまない。自分の腕で体を抱きしめ、もう一度空を見上げる。
 黒い雲が風に流れて押し寄せてきていた。
 それに混じって、大きな影が空中に漂っていた。
 はじめは折れた枝が何かの拍子に空中で絡まっているのかと思ったが、明らかに形状が違った。
 それは魚だ。
 のたり
 そう言う音で表現するのがふさわしい。
 四本の足のようなひれをもった奇怪な魚が、典太の頭上を過ぎて、這っていった。
 夢でも見ているのだろうか。
 その魚は風を受けてよろけもせず、鎧のようなうろこをわずかな明かりに輝かせながら、ゆっくりと屋根の上に降り立った。
 いつの間にか半分口を開けていた。
 そいつは呆然と立ちすくむ典太の方にまんまるい目を向けると、
「ゲコ」
 とつぶれた蛙みたいな声で鳴き、今度は屋根をすばやく這って消えていった。
「……なんなんだ」
 大風がこの世ならぬものを連れてきたのだろうか。
 あの大きな魚も妖物?
 それとも幻覚か……。
 突然人恋しくなって、典太は急いで水を汲むと、離れへ駆け戻っていった。
其の二 ケイフ
 なにもかもが真っ白く塗りつぶされた場所。
 なにもないところ。無の世界。
 つないだ手を引く。
 つながれた赤い紐をたどる。
 小径が閉じる前に。色をなくす前に。
 それは世界の出口。帰るところ。
 あるべきものはあるべきところへ……。
 そして紗由里は、典太と小枝の手によって、あの世から戻ってきたのだった。


***


 それから二年後。
「雨だな」
「雨ですねぇ」
 しとしとと振る雨を縁側で眺めながら、典太と小枝は涼を取っていた。
 チリン、と風鈴がかすかに鳴る。風はほとんどない。
 団扇をゆるく動かしながら、小枝は砂糖菓子をつまんでいる。
 庭の上に積もって行くような雨音以外、まったくの無音と言っていい静寂。
 屋敷の者は盆の休みで、みんな暇を取っている。
 小枝にとっても、久方の静かな時間だろう。典太はその横顔を見やる。
 二年で小枝はずいぶん変わった。
 髪を伸ばし、くちびるにはあわく紅を引いている。着ているものはおさえた色合いの友禅。うすい生地の浴衣だ。以前ならそれが元気な印象を与えただろうが、今は匂いたつような女の香りを引き立てている。
「蒸し暑いだろう」
 典太が見つめていることに気づいた小枝は、すっと身を寄せ、団扇の風を寄越してくる。
 典太はその柄を取り、自分の力で動かした。
「お館様に扇いでもらうなんて、恐れ多い」
「ふふ。遠慮するな」
 小枝が柄をにぎる典太の手に自分の手を重ねる。
 少しひやりとした、冷たい指先。
 吐息が首筋をくすぐる。
 そのまま小枝は、典太の胸元へ体を預けてくる。
「……小枝様、昼陽中ですよ」
「いい。だれもいないんだ」
 うすく笑って、小枝はすりつけるように身を寄せた。
 豊かさを増した乳房が、典太のわき腹でやわらかくつぶれる。
 典太はその髪をそっと撫でる。
 当主である小枝の父が死んで、もうすぐ一周忌。その座を継いだ小枝の苦労は、典太がよく知っている。
 あわよくば当主の座を奪おうともくろむ親戚や、小枝の力量を疑問視する土地の者をまとめあげたこの一年は、まさに血のにじむ日々だっただろう。
 しかし今では小枝の聡明さに意を唱える者は誰も居ない。
 特に長年くすぶっていた利水問題を短時間で解決してからは、名君と言う者も現れたほどだ。
 それは小枝の天性の力もあるだろうが、努力の賜物でもある。
 毎日遅くまで明かりの消えない小枝の部屋を、典太は私室からいつも見ている。
 だからこんな時こそゆっくり休めばいいのだ。
 支えることしか出来ない典太は、心からそう思う。
「なぁ、典太……」
 鼻にかかった甘い声で、小枝がつぶやく。
 爪で掻くように、典太の胸に指を滑らせる。
 典太は意を察すると、小枝の小さなあごをくっと持ち上げ、くちびるを重ねた。
「ん……」
 小枝の方から舌を絡めてくる。
 典太の首筋に手が回され、典太は小枝の腰を抱いた。
 けっきょくあれから、こういう関係がだらだら続いてしまった。
 けじめをつけねばならないと小枝も思っているはずだし、克己心が足りないと典太も思うのだが、小枝の体はあまりに魅力的だ。加えて淫の気の少し強いらしい小枝は、激務のはけ口を典太との交わりに求めている。それを跳ねのけるのも、酷な気がしていた。
「んん……は……」
 くちびるを離した小枝の瞳は、はやくもとろんと溶けていた。
 もう一度かすめるようにくちびるを合わせ、典太は小枝の耳から首筋へと口元を這わせていく。
 急所であるあごの付け根あたりは、特に念入りに舌で舐め上げる。そうするだけで小枝は息を荒げ、首筋に回された手には力がこもってくる。
 そこから舌先をつつつと下げ、くびれた鎖骨、そして胸元へ。
 そっと情事の期待に火照る体を畳へ寝かせる。
 黒髪がさざなみのように広がる。小枝はなすがままに力を抜き、頭の横で腕をだらりと開いている。
 浴衣の合わせ目はわざとはずさず、生地の上からふくらみの丘をたどり、その頂点を探る。肌の張りが急にやわくなったところが、果実の先端だ。典太がそれを舌先で転がすようにつつくと、すぐに固く浮き上がってきた。
 もう片方の胸に移り、同じようにささやかなしこりを発掘する。
 典太は顔を離し、ぷっくりと浴衣の生地を盛り上げているものを見つめる。
 唾液でしめったそれは、うす布の下の桜色を、はっきりとにじませていた。
「小枝様、やっぱりこの浴衣、生地がうす過ぎますよ」
「……うん? そうか? すずしくていいぞ」
「白地にあじさいの柄だけじゃ、透けそうになるんです」
「いいだろう。別にだれが見るわけでもあるまい」
 こういうところは昔のままだ。自分がどれだけ色気に溢れているか、ちっとも認識していない。庭掃きのおやじが小枝を今晩のおかずにしていないか考えるだけで、典太は冷や汗がでるのだ。
「お前はなんでも、まじめに考えすぎなんだよ」
 小枝が手を伸ばし、典太の顔を引き寄せた。
 そうかもしれないが……。お互い足して割ればちょうどよくなるだろう。
 小枝の上にのしかかり、くちびるとくちびるを触れ合わせながら、典太は片手で乳房をまさぐる。
 うすい生地は触れれば地肌のぬくもりを直接伝えてくるかのようだ。こりこりとした乳首の感触を、てのひらで楽しんでいるうちに、浴衣の合わせ目が乱れて白い果実が露出する。
「……脱がせてくれ」
 小枝の要求にしたがって、典太は浴衣の帯をほどく。
 しゅるりと帯をはずし、布を左右にかき開くだけで、小枝は生まれたままの無垢な姿になった。
 上半身を起こして腕から浴衣をはずしつつ、小枝は典太の着物も脱がせにかかる。
 お互い全裸になると、ふたたび畳の上へ沈み込んだ。
「昼間に自分の部屋でお前と体を重ねるなんて、普段じゃ想像できないな」
 くすくす小枝が笑う。典太がもう一度乳首に吸い付くと、笑い声にあられもないさえずりが混じった。
 声を押し殺さなくていいから、小枝も解放的になっている。
 典太の頭をかき抱き、はずかしげもなく腰へ足を絡めてくる。
 その中心の茂みは、もうすでに熱く濡れそぼっているようだった。典太はひざを当てて確かめる。
 ねっとりとしたそこは、いつもより多く蜜を滴らせていた。
「典太、はやくお前のをくれ」
 うるんだ瞳で小枝がそうねだる。がまんしきれないように秘所を典太のひざへこすりつけながら、隆起した一物を手で探った。
「そんなに焦らなくても」
「みなが戻るまでに一回でも多くお前としたい。今宵は寝かせないぞ」
 その台詞は男女の立場が逆な気もするが。
 典太は小枝の体を抱きしめ、腰の狙いを定めながらささやく。
「小枝様は淫乱ですね」
「そうだ、淫乱な女だ――あああっ!」
 熱い隆起がぬめりの奥を一気につらぬくと、小枝は派手なくらいのけ反った。典太は一番奥へこすりつけるように、ぐりぐりと腰を押し付ける。それからのがれようとするかのように、小枝は手でさかしまに畳をかきむしった。
「ああ! はあっ!」
 まだ動いてもいないのに、小枝は息も絶え絶えな表情だ。
「入れただけで、果てちゃいました?」
「うん――あたし、今日、変だ……感じすぎる……」
「もっとよくなりましょうか」
「あっ、あああっ!」
 いきなり典太は腰を大きく動かし始めた。
 小枝の肉ひだはきつく絡みつきながらも、高く上がる嬌声に応じてねっとりした蜜を吐き出し続ける。特に入り口のすぼまりは痛いくらいにぎゅうと典太を締め付けるが、溢れた甘い快楽の汁が、その締め付けを快いものにした。
 怒張の先端が小枝の最奥を小突くたび、あられもない声が上がった。小枝は身体の悦びを隠そうともせず、全身を使って典太の与える刺激を表現している。
「典太、はげしっ! い!」
「このほうが、いいでしょ?」
「でもまたくる、あたし、また! ああ!」
 るつぼのような熱さを持った茂みの奥が、何度も何度も叩きつけられた快感の塊に耐え切れず、ぎゅっと絞っていた締まりを開放した。
 膣奥が空洞のように広がる。絶頂の合図だ。典太はさらに勢いをつける。
「やああ! もう、だめ! ああぁん!」
 小枝の爪が畳のいぐさをちぎり取った。
 それと同時に、絶頂へ達した小枝は激しく体を震わせて、いくども痙攣した。
 広がっていた膣奥は、急激にすぼまって典太のものをのがすまいとするように、奥へ奥へと誘い込んでくる。
 強烈なその刺激を必死で耐えてかわしながら、典太は小枝の媚態を抱いた。
「あっ……はぁ……」
 ときおりぴくんと震えながら、小枝の呼吸が落ち着いていく。
 典太は汗で乱れたその髪を撫でつける。
 赤く上気した頬は、えもいわれぬ美しさだ。
 小枝は目を閉じて大きく息を吸い、吐き出してから言った。
「……もう。お前ばかりずるいぞ」
 目を開けて典太の下から這い出し、今度は逆にその上へ馬乗りになった。
 顔にかかる髪を跳ねのける。
 珠の汗が首筋を伝い、胸元に沿って下腹へ落ちた。
「今度はあたしの番だ」
「休まなくていいです?」
「無用だ。思い切り果てさせられた敵を取らないと」
 笑って言い、小枝は固さを増した怒張をつかむと、ずぶりと自らの中へ埋没させた。
「うっ……ふぅ」
 口に手を当てて喘ぎをおさえる。
 もう片手を典太の胸に置き、馬乗りの状態で小枝は腰を動かし始めた。
 ゆっくりと上へ。それから勢いよく下に。
 腰が持ち上がると、竿に滴り落ちた愛液が茂みのすきまからぬらぬらと光り、降りてくると広がった陰唇が太く血管の浮き出たものを、貪欲に食い尽くしていく。
 その様を見ているだけでひどく淫猥だ。
 この体勢だと小枝の一番弱い、子宮の入り口へ先端が当たらない。このまま動かれては、いずれ典太の敗北だろう。
 本当に敵を取ろうと言うのだろうか。ならば受けてたつしかない。
 しばらく小枝の動きたいように動かせていた典太は、突然その動きに合わせて腰を突き上げた。
「ひゃぁう!」
 悲鳴のような嬌声を小枝は上げる。
「ひ、ひきょうだぞ」
「なにがです?」
 もう一度突き動かす。小枝の奥にこつんと当たる感覚。
 典太の上で、びくっと体を跳ねさせた。
「あんっ! ――あたしが動くから、じっとしていろ」
「じゃあいっしょに動きましょう」
「ばか、それじゃあたしがだめになる」
「どうして?」
「いじわるだな、お前は。はずかしいから言わない」
「はずかしいことを言ってる小枝様、もっと見たいです」
「うっ、く。この、調子にのりおって」
「わっ」
 小枝がふたたび腰を上下させ始めた。
 今度は力を入れてきゅっと膣全体を締め付けながら、典太を刺激する。
 雁のぎりぎりまで持ち上がって、入り口のすぼまりが亀頭の下に絡みついてから、ずぶりと一気にまた飲み込まれる。
 肉の筒が中の複雑なひだを使って、一心に怒張を舐めまわしている様だ。
 先ほどとは比べ物にならない刺激に、典太は焦る。
「あ、あの、ごめんなさ――」
「あたしだって進歩しているんだぞ」
 同じように膣を締めながら、小枝は肌のぶつかりあう音がするほど勢いよく、何度も腰を振った。
「このっ! 出してしまえ!」
「わ、わ、いやほんとに、やばい――」
 急激に背筋を快感の鳥肌が駆け登ってくる。
 気をよくした小枝はそれこそ調子に乗って腰の動きを強くする。
 典太に逃げ場はなくなった。
「出るときは言えよ。中はまずい」
「いやもう、出るっ!」
「もうか? こらえ性のないやつ」
「だれだって無理ですよ! っていうか早くどいてください!」
 小枝が腰を抜いた瞬間、典太は射精していた。
 すばやく一物を小枝が握り、しごきたてる。
「うう! うっ!」
 この二年で小枝の技量も絶妙になった。
 細い指をうまくからませながら、なんとも言えぬ力加減で欲望を吐く怒張をしごいていく。
 最後まで絞りとられそうだ。典太の飛ばした精液が、腹や畳、小枝のひざにも散っていく。
 がまんしてしまったせいか、加減知らずに射精してしまった。
 絶頂感が去る頃には、典太の頭の奥は真っ白に焼け付いたようにしびれている。
「かわいいぞー。いい顔だ」
「よ、よしてください」
 くつくつ笑いながら体を寄せてきた小枝を抱く。
 けだるい脱力が全身を沈ませた。
 これはしばらく、動きたくもない――。
 このままひと眠りも悪くないな、と思った瞬間、
 ガラリ
 と襖が開いた。
 座敷の闇の向こうには、白い着物に身を包んだ姿。
 腰までながれる美しい髪の持ち主は、紗由里だった。
「わわわ! こ、これはですね」
 典太は弾かれたように体を起こすと、小枝から離れた。
 と、同時に思い出す。
「この状況でどう言い逃れするんだ」
 あきれたような小枝の声。
 その通りだ。本当だったらそうだろうが――。
言い逃れする必要はない。
紗由里の瞳は呆と前を向いたまま、全裸のふたりも、しぶき散る雨も、その向こうの山のどれも、その目に映しながら見てはいなかった。
白痴のごとき無表情。
意志のない足取りで部屋の中まで進んだ紗由里は、なにも言わずに座りこんだ。
典太はため息を吐く。奇遇にもそれは、小枝と重なった。
「お前もいい加減、受け入れろ」
 紗由里は帰ってきた。
 蝉の抜け殻のように、心をなくした身体だけが。
 二年前、屋敷の皆がどれほどのよろこびと絶望を味わったことか。
 目を覚ました紗由里が言葉を発することは一度もなく、ただ虚ろにして過ごすだけ。
 その状態が、変わることなく続いている。
「わかっては、いるんですけどね」
 手は尽くしている。
 屋敷に立ち寄った典太の父に事情を話し、旅先で知り合いの学者連中に同じ症例はないか訊ねてもらっているし、小枝も忙しい合間をぬってあらゆる伝手から医者を呼んだ。
 結果は同じ。
 小枝を診たどの医者も学者も、同じことを言う。この体には心が入っておりません、と。
 ケイフと言う妖物(あやかしもの)がいる。
 それ自体は紐状の矮小な存在だが、ひとたび人体に寄生すると体に融合し、気血の通路である経絡(けいらく)の流れを操って人間を自在に動かし始める。正確には気の縦の流れ、経だけしか操作できないことから、経腑と呼ばれる。
 と言っても知恵も思考もない妖物に出来ることは、日がな一日ふらふらと彷徨い、食物を摂るくらいだ。
 その症状が、いまのところの紗由里に酷似している。
 だが妖物としては異色の部類のケイフも、心までは喰わない。
 そこが紗由里の状態と、似て非なる最大の点だ。
 小枝が起き上がり、鏡台から櫛を持ってきて、紗由里の髪を梳かし始めた。
 いとおしげに髪を撫でつけながら、口を開く。
「なぁ典太。姉様はやはり、心を向こうに置いてきてしまったんじゃないだろうか」
「……僕も、その可能性を考えています」
「ときどき思うんだ。連れ戻して本当によかったのかどうか。姉様の姿を見るたびに、心が割れるように痛む。あのまま失われてしまったものと、記憶のものにしてしまえば、こんなこともないだろうに」
 雨が小枝を弱気にしているようだった。
 髪を梳る手を止め、紗由里の肩にしなだれかかる。
 裸の妹が、人形のような姉にもたれかかる姿は倒錯的で、ひたすらに美しかった。
「僕はあきらめません」
「……すまんな。そう言うつもりじゃなかったんだ。典太、聞いてくれるか。ひとつだけお前に言ってなかったことがある」
「なんです?」
 小枝は半分目を瞑ったような表情で、典太を見つめた。
「姉様の手を引いてあの世から戻った瞬間、姉様の全部があたしの中に流れ込んできたんだ。子供の頃の記憶、見上げた空、路傍の石ころ、どうでもいいことから、とても大事にしていることまで。あたしと姉様は、そのときつながったんだと思う」
「…………」
「だからわかるんだ。お前がどれだけ姉様に愛されていたのか。あたしでは及びもつかないくらいだ。お前も姉様を想う気持ちに嘘がないなら――姉様はこのままのほうがいいんじゃないか」
 小枝が言わんとすることはわかる。
 紗由里が正気を取り戻せば、いずれしがらみに乗っ取った相手と結婚させられるだろう。紗由里が人のものになることを典太が恐れている。小枝はそれをよく知っている。
「そうすればお前は姉様と添い遂げることが出来る。姉様もそう望むはずなんだ。きっと……」
 小枝の口調は弱い。
 本心ではないだろう。虚ろな紗由里の姿にもっとも心を痛めているひとりだ。
 小枝も板ばさみなのだ。自分の気持ちと、紗由里を想う気持ち、そして典太への愛情に折り合いをつけられずにいる。
「それでも、僕は紗由里様が元に戻ることを願っていますよ」
 典太に答えられる答えはひとつしかない。
 小枝は少々自虐的に、ふっと嘲った。
「そうだな。……このところ、不思議な感覚があるんだ。まるで姉様を腹の中に孕んでいるように、身近に感じることがある。姉様を包み込んでいるような、そんな感覚。あの世から連れ戻してずっと、そんな気持ちはあったのだが、最近特に強く思う。だからあたしは、さびしくないのかもしれないな」
「孕むって……あの、小枝様。月のものは?」
「顔が引きつってるぞ。心配するな、ちゃんと来てる。でも赤子をみごもるというのは、こう言う感覚かもしれないな」
「うーん……」
 典太は腕組みして考えた。
 紗由里の心が向こうに置き去りにされたとして、それはいったいどこにどのような状態で存在したのだろうか。
 典太たちは肉体を見つけることは出来た。でも見えない心は見つけられなかった。自分が紗由里の立場なら――その時点で心と体が分離していたとして、肉体のそばから離れてしまうだろうか? 体のそばに、心も居ないだろうか。
 ケイフと言うのは、もう一つ字がある。
 径不だ。
 小さき道、通り道と言う意味だと、本にはあった。
 一説に過ぎずその原義も未詳だが、古くから伝わっていることではあるらしい。中途で伝承が失われてしまった可能性もある。
 もう少しでなにか閃きそうだ。典太はうなる。
「通り道……」
「どうした?」
「いや、ケイフについてちょっと引っかかることが。もう一度調べてみようかな」
「じゃあその前に、姉様の体を拭いてやってくれ。あたしひとりでは世話しきれん。別に裸を知らない間じゃないだろ?」
「ま、まあ。そうですけど。じゃあ手ぬぐいと水を用意してきます」
 典太は立ち上がった。
 紗由里の世話は小枝や女中が行っているので、典太が体に触れることはない。
 ひさしぶりに紗由里の裸を見ると思うと、少しどきどきした。
 軽く着物を引っ掛け、裏手へ出た典太は、井戸から冷たい水を汲んでたらいに移し、手ぬぐいを浸す。
 少し雨も小降りになってきたようだ。
 それを持って戻っていると、小枝の部屋の方からばたばたと暴れるような音が響いてきた。
 部屋を覗くと、お互い全裸の小枝と紗由里が、畳の上でくんずほぐれつしている。
 組み伏せられた小枝が、典太の姿を発見してなさけない声を上げた。
「て、典太。急に姉様が」
「どうしたんです?」
 とりあえずたらいを置いて、そばに駆け寄る。紗由里の表情はあいかわらずだったが、意思があるかのように小枝の手を押さえ、股を割って自分の腰をもぐりこませていた。
「着物を脱がせたら覆いかぶさってきたのだ。それより姉様の股間を見てくれ!」
「股間……」
 目をやった典太はぎょっとする。
 紗由里のまたぐらからは、小ぶりながらも隆々とした、男の器官が反り返っていたからだ。
「な……な……」
 絶句して二の句が告げない。
 それはぴくぴくと震えながら、小枝の秘所の手前で、獲物を狙うように定まっている。
「なじゃない、助けてくれ。姉様に犯されてしまう」
「そ、そうですね」
 典太は紗由里の肩をつかんで引き剥がそうとするが、男の力でもびくともしない。
 紗由里は典太など気に止めず、小枝の胸にくちびるを這わせ、その先端を口に含んだ。
「あんっ!」
 甲高い声を小枝は上げた。典太はびっくりして目を向ける。
自分でもおどろいた表情で小枝は口走った。
「――嘘……なんだこれ、気持ちいい……。ああん! 姉様、やめてくれ」
 胸を舌が這うたびに、小枝は異常なほど感じている。
 典太は急に閃いた。
「ひょっとすると……」
 紗由里の体に手を伸ばし、その胸をつかむ。小枝よりもふた周り豊かな乳房の突起を、こりこりとつまんだ。
「小枝様、感じます?」
「え? いや、よくわからない……」
「もしかしたらこれこそ手がかりかもしれません。少しそのままで」
「わかった――あはっ、は、早くしてくれよ」
 典太はどこがいいだろうと少し悩んで、一番敏感なところへ手を伸ばした。
 半陰陽となった紗由里には女性器も口を開いている。
 そこへ指を当て、典太は少しほぐしてから、内部へ差し入れた。
「あうっ!」
 びくっと小枝の体が反応する。典太は指をぐるぐると動かした。
「へ、変だ。典太。あそこの中がかき回されてる。ああ!」
「やっぱりそうだ。紗由里様の感覚が、反射されてるんです!」
「ど、どういうことだ」
「紗由里様の体は、例えるならただの鏡なんですよ。その実体は、ようするに鏡に映っている本体は、小枝様の中にあるんです」
「い――意味がわからない」
「あの世から戻る時、紗由里様が流れ込んできたと言いましたよね。あれですよ。紗由里様の心は、そのとき小枝様の中に宿って、おそらく今も――」
 典太は小枝の下腹へ手を当てる。
「この中にいる。たぶん紗由里様と交われば、心が元に戻るはずです!」
「本当か!? しかしなぜ」
「ケイフですよ、これは」
 典太は興奮して、紗由里の一物をつかみあげる。
「肉体に融合したケイフが通り道としてこう言う風に変化したんです。紗由里様が、小枝様の子宮から心を吸いだすために」
「あ、あたしは姉様と交わらないといけないのか?」
「それしか方法はないかと……」
 小枝はしばらく考えて覚悟を決めた。
「よし、信じるぞ典太。さっさと済ませてくれ」
「じゃあ、行きますよ」
 典太は紗由里の一物を恥丘の割れ目の中へあてがう。典太との情事の余韻か、はたまた紗由里が与えた刺激のせいか、小枝の秘所は充分に湿っていた。
 手を離すと、紗由里は自分からずぶりと腰を沈めた。
 とたんに小枝が嬌声を張り上げる。
「っああああ! いい!」
 押さえられた腕を振って、のたうちまわらんばかりだ。典太はなんだか悔しくなって訊く。
「そんなにいいんですか?」
「お――お前のよりだいぶ小さいが――その、なんだこの感覚は。はあぁん!」
 ひょっとして紗由里の一物の感じるものが流れ込んでいるのだろうか。自分の膣から受ける刺激と、未知の快感が小枝に押し寄せている。
 紗由里がだんだんと腰の動きを規則的に速めてきた。
 まぎれもなく快楽の産物であろう愛液が、ふたりの間からぬちゅぬちゅといやらしい音を上げている。
「あんっ! あんっ! あんっ!」
 小枝ははやくも忘我の状態だ。典太に見られ、姉に犯されていると言うのに、はずかしげもなく甲高い喘ぎを放っている。
 典太はそこで、はっと気づいた。
 異物を生やした姉が妹を責め続けている。それだけでもかなりな倒錯なのに、両方とも神様すら愛でそうなほど美しい。
 紗由里の豊かな乳房が、動きに合わせて大きく揺れている。
 振り乱したふたりの髪は、畳の上で混じりあい、黒い川のように流れている――。
「う……」
 学術的にしか状況を見ていなかった典太は、少し冷静になって逆に興奮してしまった。衣を持ち上げ、みるみる怒張が固さを増していく。
「ああ! あたしもう、果ててしまうっ。い、いや! ぁあああ!」
 小枝が背を反らし、しぼり出すような声を上げた。
「ああっ――っあ!」
 宙に伸ばされた二本の細い足が、がくがくと痙攣した。
 紗由里の責めから逃れようと腰がうねる。それを押さえつける紗由里の体はびくともしない。
 絶頂を迎えながらも、小枝は何度となく紗由里につらぬかれ続けている。
「あっ! はっ!」
 喉から空気の塊を吐き出すように喘ぎをあげる。
 小枝の絶頂が過ぎても、まだ紗由里は動き続けていた。
 紗由里の方に感覚はないのかどうか、遠くを見るような無表情のままだ。
 典太は汗にまみれる小枝の額をぬぐう。
「どうですか?」
「あ……もう……ゆるしてくれ……」
「うーん、小枝様が達するだけじゃだめなんですね」
「あはっ、ああ、典太、交代だ。もうおかしくなる」
「僕じゃだめでしょ」
 典太は笑い、ふと思いついた。
「いや、そうか。僕も混ぜてもらったらいいんだ」
「え?」
「紗由里様も達することが出来るように、お手伝いします」
「そ――それって」
 典太は着物を脱ぎ捨てると、ぎんぎんに勃起した一物を紗由里の秘所へあてがった。そこは小枝のものと遜色ないくらい、どろどろに蜜をしたたらせている。感覚を共有しあっているから、感じていないわけではなかったらしい。
「行きますよ」
「待って、そんなことしたらあたし――はぁああ!」
 紗由里の中へ固い欲望を埋め込んでいく。小枝がまた、甲高い声とともに喉を反らした。
「はいってくる! はいってくるぅ!」
 泣きそうな声だ。それに混じって、静かな声が流れた。
「う……ふっ……」
 見ると、紗由里の表情が初めて歪んでいる。口元が荒くなった呼吸を吐き出した。
 紗由里の膣は典太のものをぎゅっと捕らえて、別の生き物が潜んでいるかのようにそのひだで誘い込んでくる。つながっただけで溢れた愛液が、典太のふとももにまで垂れ落ちていくのがわかった。
 腰を引き、また押し出すと、その勢いで紗由里の腰が押され、小枝につながった内部へ沈み込んで行く。
「あっ、ああっ……」
 ひかえめだが、なやましげに眉を寄せた紗由里が喘ぎを放ち始めた。
「やああ! あたしまた来る! 来てしまうっ」
 小枝の方は身も世もない声を上げている。
 まだほんの少ししか動いていないのに、小枝に流れ込む快感は相当なもののようだ。紗由里の膣と一物、それから自分のものと、単純に考えても三つ分の刺激だから、小枝がいまどんな快楽を味わっているのか、想像もつかない。
 典太は紗由里の尻をつかむと、大きく怒張を抜き差しし始めた。
 くねりきった複雑な内部のひだの動きは、蠕動をともなってその刺激を紗由里に伝え、それが小枝の中へ流れ込んで行く。
 小枝が紗由里に抱きついて、声を搾り上げた。
「いやっ! いやぁあああ!」
 その肩が激しく震える。
「――っ!」
 その快楽がまた紗由里にも跳ね返ったのか、紗由里も声なき声を吐息とともに漏らし、小枝を押さえていた手を離すと、お互いに抱き合った。
 典太のそばで、小枝の足が絶頂の痙攣を繰り返している。紗由里の体の下から、いまの際のようなくぐもった喘ぎが低く響き続ける。
 その間も典太は動きを止めない。
 紗由里の体はますます上気し、蜜の滴りはとめどない滝のようだ。
「もっ――やめ、て――典太、たすけて、はぁっ! ああああ! あっ!」
 達したばかりの小枝が、すぐにまた快楽の淵へ叩き落とされた。
 びくん、びくん、と壊れた滑車のように足を宙へ蹴り上げている。
 達しても達しても果てがない。
 絶頂がまた絶頂を呼んでいる。
「もう少しです、小枝様! 紗由里様も――。紗由里様の体を刺激してあげたら、早まるかもしれません」
「そんな余裕……んぅっ! こ、この!」
 小枝がやけくそに、紗由里の胸をつかんで、先端の突起を指でこすり上げた。
 ぴく、と紗由里の体が反応する。
「あうっ!?」
 それと同時に、感覚が跳ね返ってきた小枝が敏感に反応した。
 紗由里の肉ひだのすぼまりが、いよいよきつくなってきた。
 きゅっと締まった肉の動きに、典太も果てそうになる。
 それを無理やり押し殺して、腰の動きを強めた。
「あああああ――っ! あ、んっ――」
 がくり、と小枝から力が抜ける。
 気を失ってしまった。だらりと口を半開きにしたまま、紗由里と典太の動きに揺られて、頭を畳の上でふらつかせている。
「あはっ、ああああ!」
 突然紗由里の方が嬌声を上げた。
 限界まで絞られていたと思った膣のひだが、さらに痛いくらい締め付ける。
 小枝が気を失って、その感覚が一気に押し返されたのだ。
「紗由里様――紗由里様っ!」
 後ろ抱きに紗由里を抱え、典太は獣のように腰を振った。
 これだけ締められてはもうがまんできない。
 なら最後の瞬間にかけて、思いっきり突き上げるだけだ。
「あああん! はあうっ! う、ふっ――」
 紗由里がぐっと背を反らし、天井を見るように体を硬直させた。
 畳をつかみ、爪を立てる。
 体が細かく震え始めた。快楽の頂点へ登りつめたのだ。
 紗由里の一物がびくん、と脈打ち始めたのを典太は感じた。
「僕もっ、出ますっ!」
 典太も限界を迎え、思い切り放っていた。
 腰と体を密着させ、両手で紗由里の胸をつかむ。
 溶け合ったような一体感が、背筋から一物へ流れ、白濁した悦びの塊を紗由里の中へ解き放った。
 どくどくと脈打つそれを受け入れ、紗由里の膣は絞りたてるように収縮を繰り返す。
 子宮に送られる子種を、一滴も逃すまいとする本能の動き。
 その動きが典太の精液を最後まで放出させた。
「――っあ……」
 あまりの快感に眩暈がする。典太の腰も砕けそうだった。
 射精の余韻が終わり、体を離すと、紗由里も横倒しに小枝の隣へ倒れた。
 ふたりとも気を失っている。
 紗由里の秘所からはどろどろと愛液の混じり合ったものが尻を伝って畳を汚している。
 小枝の秘所は、洪水でもあったかのような様相で、いまも蜜の塊をぱくぱくと動く陰唇の中央から吐き出していた。
「あ……紗由里様の中に……」
 呆とした頭でそう思うが、もはやささいなことにしか思われない。
 ひたすらに気だるかった。
 このままふたりの横で眠りたい。
 それは山々だが、時刻を見ると、夜番の者がしばらくするとやってくる頃合いだった。
 大きく息を吐いて呼吸を整え、典太は立ち上がる。
 運んであったたらいを寄せ、手ぬぐいを絞った。
 とりあえずふたりの体をぬぐって、服を着せておかないと、ただの昼寝に見えない。
 冷たい布で、まずは紗由里の顔を拭いた。
「ん……」
 ちいさくうめいた紗由里が目を開ける。
 そのまぶたが数回瞬き、そして瞳が典太を向いた。
「……ありがとう、典太」
 しばらくなにが起こったのか理解できず、典太は呆然として首筋を拭く手を止めた。
「紗由里様……?」
「うん。もうだいじょうぶ。おかげで、もとに戻ることができた……」
「紗由里様!」
 微笑む口元。やわらかなまなざし。
 それは、昔見たままの紗由里の表情だった。
「紗由里様ぁっ!」
 思わず抱きつくと、典太は号泣した。
 よかった。
 ほんとうによかった。
 それだけが頭の中を覆い占める。紗由里の手がやさしく髪を撫でてくる。
「ん~……うるさいぞ、典太……」
 典太の大声に、小枝も目を覚ました。となりの状況に気づき、自分も大声を上げる。
「ね、姉様っ!?」
 うなずく紗由里。
 とたんに涙で目をうるませた小枝が、典太の隣に抱きつく。
「姉様ぁ!」
「あらあら」
 紗由里はふたりを両手で抱きしめ、それから縁側の外を眺めた。
 雨が上がり、雲間から青空が見えている。
「明日は晴れね」
「暢気なこと言ってる場合じゃないだろ! 姉様、これでみんな元通りなんだな」
「ええ」
 典太は鼻をすすりながら、体を起こす。
 これでようやく、いままでの過去を埋められる。
 これから先はまた、先の問題があるだろうが……。
 いまはただ、喜ぶべきを喜ぼう。
 典太は畳に横たわる美しい紗由里の裸身を眺め――。
 そして顔を引きつらせた。
「あの、紗由里様」
「ん?」
「股間のそれ……治らないんですか?」
「あ……」
 紗由里の体には、いまだに男性器がぶらさがっていた。
 元通り、には少し遠いようだ。
 典太はため息を吐いた。
其の一 シギョ
「典(てん)太(た)! 典太はいないか」
 とたとたと板の間を赤い着物が駆けていく。
「お嬢様。走るとあぶのうございますよ」
「大事ない!」
 見かねた使用人の注意に、元気よく返すと、赤い着物の娘は足を止めずに奥へ駆けていった。はだしの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、使用人はつぶやいた。
「まったく小枝(さえ)様も……」
 ため息だけが後に残る。
 小枝は今年で十六。そろそろ女の匂いをさせはじめる年頃だと言うのに、好んで着るのは稚児の晴れ着みたいに派手な小袖、髪をのばしもせず、あごの下で切りそろえたおかっぱ頭だ。勉学は飛びぬけてよくできるのだが、落ち着きがなくひとところにじっとしていない。
 加えてあの事件以来、小枝は奇行と呼んでいいほどおかしな振る舞いをするようになった。
「沙由里(さゆり)様さえあんなことにならなけりゃね」
 三年前突如行方不明になってしまった小枝の姉。以来屋敷の当主も病に伏せがちになり、跡を継ぐべき小枝もこの調子だ。
 使用人たちは思い出すようにそう言っては、ため息をつくのだった。


***


 典太が私室の襖を開けると、中に赤い着物が突っ立っていた。
 短い小袖のすそから伸びるすらりとした足。細い足首。
小枝だ。
「典太。どこに行っていた」
 怒ったように振り向きざま言う。典太は困って首のうしろを掻いた。
「どこって、厠ですけど」
「もう。探し回って損をした」
 ペタ、と畳の上に座り込む。
 よく見れば首筋にはうっすら汗をかいていた。
 障子越しのあわい光が横顔を照らす。
 血の道の透けそうな白いうなじ。氷を研いだような細い顎。きらりと光る濡れた瞳。
 時折ぞくりとするほど、小枝は女の色香を漂わせることがある。
 それを隠そうとするように、子供染みた服装を選んでいる――そう典太には思われる。
 なぜか、と言われれば、わからないが。しかし普段の子供っぽさとの差が時に煽情的でもあった。
「で、息せきってどうしたんです?」
 典太は小枝の前に腰を降ろす。
 小枝はうなずくと、懐にはさんだ本を取り出した。胸元が一瞬、きわどいところまで広がる。思わず視線をやりそうになった典太は、なんとか自分を律して本に目を向けた。
「この妖物(あやかしもの)を見たのだ」
 指し示した頁には、魚と虫を合わせたような、奇妙な姿の生き物が描かれていた。
 妖物――あの世から綻びの通路を通ってくる、無の具現。
 小枝が見たというのは、シギョと呼ばれるものだ。魚を上から見たような体に、長い二本の触角。尾にも同じような触覚が三本生えている。動きはすばやく、ゴキブリのそれに近いが、飛んだり跳ねたりはまったくできない。小指の先ほどの大きさの、おとなしいと言えばおとなしい妖物である。
「……ふむ。こいつをどこで?」
「地下の書庫だ。姉様の居なくなった場所」
「なるほど……」
 シギョは紙の魚と書く。
 文字を喰い、そこに書かれてある意味を無意味とすることで、『無』を生むのだ。
 妖物とは現世の物がすべて有を作り活動するのに対し、無を作ることで存在する。まったく逆の法則で生きる物だ。
 無は時として集まり、広がり、固定される。
 非常にまれな場合だが、それが人の通ることの出来る通路として、あの世と繋がることもある。
 つまり小枝は、書庫の闇に住みついたシギョが無の通路を開け、紗由里を飲み込んだ――そう考えたのだ。
「調べてみる価値はありますね」
 典太は言い、立ち上がった。
「そうだな!」
目を輝かせた小枝が部屋を駆けだし、書庫へと向かう。
 あいかわらず元気のいいことだ。
 典太もこの屋敷では異色の存在だった。
 各地の妖物を調べる学者をしていた父の助手として、典太は旅をしていた。
 屋敷の当主と父は古い友人で、この地へ寄った際には必ず長く滞在した。典太が紗由里、小枝の姉妹と親しくなったのもそのせいだ。
 一年前、いつものように父とここへ立ち寄った典太は、紗由里の行方不明を知らされた。書庫で本を探している途中、霞みたいに消えたと言うのだ。
 これは妖物が関係しているに違いない。父と出した結論はそうだった。
 ここへ残って紗由里を助け出せ――父にはそう命じられた。しかしそれ以来、たいした成果もあげられず、今に至っている。
「緊張するな」
 小枝が多少こわばった顔で笑い、地下書庫の入り口の錠をはずす。
 紗由里の行方不明よりここは厳重に封じられ、典太や小枝がたまに出入りする以外、まったく人の踏みいることはない。
 錆かけた鉄の扉は、きしみながら開いていった。典太は入れるだけの隙間で止めると、燭台の上の蝋燭へ火をつけ、中へ身を滑らせる。
「う」
 後に続いた小枝が、袖で鼻を押さえた。
「何度来てもこの湿気はなれんな」
「換気してませんからねえ。待っていますか?」
「馬鹿を言うな」
「じゃあ扉を閉めてください。連中は陽の光を嫌う」
 典太は燭台を片手に、ぎしぎしと鳴る階段を降りる。書庫にはさまざまな本が置いてあった。この屋敷に伝わる文書もあれば、ただの娯楽の読み物もある。典太の父が預けた本も多い。
 本棚がずらりと並ぶ中、小枝が典太の手を引っ張り、奥を指した。
「あそこだ。たくさん、見慣れぬものが群れていたのでわかった」
 典太は明かりを向ける。娯楽のものが置いてある箇所で、典太が調べ物をするときにもあまり立ち寄らなかった一角だ。
「ふむ……」
 ためしに、それらしき一冊を抜き出してみる。
 頁のところどころに、抜けたような白い部分があった。文字がぼろぼろにかすれているのに、紙は痛んでいない。
「これは」
 次も、その次の本も同じ状態だった。
「どうだ?」
「――間違いないです。お手柄ですよ、小枝様。ここにはシギョが大量発生してる」
 シギョはこう言う場所ならどこにでもいる妖物だ。もっと他の、大きな要素にばかり気を取られて、身近な可能性を忘れていた。
 シギョの生む無はとても小さい。それでも大量に沸けば、それなりの大きさの通路を開けることも出来る。
「あった」
 本をとっかえひっかえしていた典太は、目的の物を見つけた。
 頁の大部分が真っ白になっている。内容がほとんど喰われ、あと少しで無そのものになってしまう本だ。
「それがどうした?」
「シギョが食い尽くした本は、本のかたちそのままに無の塊となるそうです。この本はあと少しで通路の役割を果たすかもしれない」
「そしたら……姉様は帰ってこられるのか?」
 典太は考える。期待に目を輝かせている小枝には申し訳ないが、その可能性はひどく低かった。
「そう信じましょう。一度くらいなら、僕たちが通路を通って向こうの世界へ行くこともできるだろうし」
「そうか。あとどれくらいだ」
「うーん……一ヶ月かもしれないし、一年かもしれないし。このままってこともありえます。この程度の量なら、無理に開くこともできますけどね」
「それはどうやるんだ」
「本の内容を実行すればいいんです。字には言霊が宿っている。それを意識して取り出すと、おそらくそのすきに他の無がこの程度の量なら飲み込んでしまうでしょう」
「やろう、典太」
 小枝の口調は決意に固い。
「もう一日たりとも姉様を放っておきたくないんだ。生きながらあの世に放り込まれるなど、どれほどのことか想像するだにつらい」
 典太は紗由里の顔を思い出す。
 おっとりとしたやさしい性格の持ち主。小枝のほか、いろいろな人に慕われていた。聡明で将来は父の跡を立派に継ぐだろうと。
 目を閉じれば、うつくしい黒髪をいまもありありと思い浮かべることができる。
「わかりました。そのために僕もここにいる」
 本を開く。
 残った頁は少ない。典太は蝋燭の明かりを向ける。
 覗きこんだ小枝が声を出して内容を読み始めた。
「ああ、ああ、ああ、と。突き上げられること三度四度、女は男のまたぐらの――ん、これはなんと言う意味だ。矛?」
「うん?」
 典太は内容をよく読んで血の気が引いた。
 男と女がむつみあう文章が、延々続いている。
 小枝が指で差しているのは男性器の隠語だ。
 つまりこれは、艶本(つやぼん)だったのである。
「えーっと、小枝様。よしましょう」
「なぜだ」
「これはですね、えっとですね、どうも艶本みたいです。つまりは――」
「まぐわいすればいいんだな。簡単じゃないか」
「あ、はあ……」
 たしかに、里見八犬伝みたいな内容よりは簡単かもしれないが……。
 あっけらかんとしている小枝に、典太は訊ねる。
「あの、意味わかってます?」
「わかってる。お前に抱かれればいいんだろう。はじめてだからやさしくしてくれ」
 するっと小枝が近づいてきて、思わず典太はあとずさった。
 小枝は怒る。
「あたしでは不足か」
「そんなわけじゃないんですけど、い、色んなしがらみとか考えると……」
 これでも次期当主となる娘だ。軽く手を出せるものではない。
 その辺りのことも少しは考えてもらいたいものだ。
 すねた表情で小枝は視線をそらす。
 典太は燭台をかたわらに置き、ため息をついた。他に方法があるはずだ。なんとか納得してもらわないといけない。
「なにも、小枝様が――」
「姉様は抱いたのにか」
 ドキリとする。
 うす明りに照らされた瞳は、ひどく揺らいでいた。
 涙を乗せた目を典太に向ける。
「あたしが知らないと思ったか。ふたりはよく、妖物の勉強とやら理由をつけて離れに行っておったな。あたしも一緒させてくれと言っても、なにかと理由をつけて断られた。悔しくて覗いたのだ。そしたら――」
「小枝様……それは……」
「姉様とはどんな間柄だったのだ。愛していたのか? はっきりしろ」
 厳しい表情で問い詰められて、典太は観念した。
「……たしかに、紗由里様とは愛し合っていました」
「姉様に遠慮しているのか」
「それもありますけど――」
 典太はゆるく首をふる。
「当時は僕も若かった。先のことなどどうにでもなると思っていた。でも現実は、大地主の娘としがない学者の息子。親同士が親友でも釣り合うもんじゃない。紗由里様が消えて、僕はどこかほっとしたところもあるんです。いずれ人のものになるくらいなら――」
「わかってるんだろう。それが卑怯だってこと」
「――ええ」
「姉様に会いたくないのか」
「会いたい。もう一度だけでも、と。その気持ちも本物です」
「……お前の気持ちはよくわかった。だったら、姉様を助けるためだと思ってあたしを抱いたらいい。あたしはそのための道具だと思え」
「……小枝様」
 目を伏せて笑った小枝の顔が、突然紗由里と被って見えた。
 ほの暗い明りのせいかもしれない。
 どこかあきらめたようなその表情は――紗由里が将来の話をするときによく見せた、さびしそうなものとおなじだった。
 なんとなく、わかったかもしれない。
 小枝が子供っぽく振舞うわけを。
 そう演じているのだ。紗由里に似てくる自分を周りに気取らせまいと、必死に隠している。
 そしてその理由は、おそらく典太にあったのだ。
「こんな話をするはずじゃ、なかったんですね」
 典太はやさしく微笑む。
 小枝はくちびるを噛んでうなずいた。
 全部知っていたのだ。シギョの性質から、本の内容まで。そうやって典太を誘ったが、すんでのところで本音が出てしまった。小枝にしてもぎりぎりの行動だったはずだ。
 小枝を落ち着きがないだけだとみんな思っているが、そんなことはない。紗由里と比べても遜色ないほど、聡明な娘だ。
「あたしもいずれ決められた者と結婚する。なら処女くらい好いた男にやりたいのだ」
「僕は卑怯者ですよ」
 小枝の肩を引き寄せ、腕の中へ入れる。
 典太を見上げる瞳は、またうるんでいた。
「あたしもそうだ。策略を練って、自分の気持ちを隠して、そうでないと素直になれない」
 くちびるを合わせる。
 小粒な歯が、典太の前歯にコチンと当たった。
 顔を離した小枝が、照れたように笑う。
「お前の味がする」
 典太はもう一度肩を抱き寄せ、くちびるを合わせた。
 あまい香りが髪から漂う。香をふっているのだ。
 今度はくちびるとくちびるの合わせ目を割って、舌を差し入れた。
 おどろいた小枝が身を固くするが、ぽってりとしたその舌を舌先で弄んでいるうちに、じょじょに力が抜けてきた。
 背に手がまわってくる。
 小枝も、おずおずと典太の舌の動きに合わせ、舌を絡めはじめた。
「ぷぁっ」
 突然また、小枝が顔を離し荒い息を吐く。くちびるから唾液の糸がつながった。
「くるしい。息はいつすればいいんだ」
「そんなの、鼻ですればいいですよ」
「くすぐったいじゃないか」
「そうですかね」
「あ……」
 典太は小枝の体を横たえる。書庫の板の間は痛そうだ。
「ここで大丈夫ですか?」
「ああ。それより、本はどこだ。その通りにしてくれ」
「別に、意識の問題でまったくそのままじゃなくてもいいんですが……」
 本を開き、内容に目を通す。
 比較的おとなしめの描写だった。この程度なら初めてでも苦痛ではないだろう。
「まず男は女の乳首を……」
「よ、読みながらしなくていい――わっ」
 小枝の胸元を広げ、胸を露出させる。
 小ぶりだが張りのあるふたつの乳房。先端の桜色の突起は、呼吸に合わせて上下する。
「……興奮するか?」
 殺される前の魚みたいな表情で、小枝は目を閉じている。
 浮き出た鎖骨に典太は手を当てる。
「もちろん。なんなら証拠を」
「いやいいから。はやく続きしてくれ」
 きめの細かい肌をなぞって、そこから手を下にもっていく。
 肌はじょじょに隆起とやわらかさを帯びていく。
 典太はちょうど片手におさまる乳房をほぐすようにこねる。
「う……はぁ……」
 ため息のような吐息を小枝はもらした。
 両方の胸をじっくりほぐし、今度は人差し指と親指で、ささやかな突起をつまみあげる。
 ぴくっと体を反応させた小枝が、目を開いた。
「痛かったです?」
「いや……こそばゆいような、変な感じが……うんっ」
 こするように指を動かすと、みるみる乳首は固さをまして尖っていく。上気させたほおがかわいらしい。感度はかなりいいようだった。
「それ、そうすると……なんだか、声が出てしまう……」
「ええ。小枝様の声、もっと聞きたいです」
「そ、そうか? 姉様みたいに艶っぽい声は、出せるかわからんぞ」
「比べなくていいんですよ」
「あんっ!」
 両方の乳首をつまむと、また体を反応させて、小枝は軽くのけぞった。薄紅のはじらいは、しこりのように固くなっている。
 典太は顔を寄せて、その果実のしこりを口に含んだ。
「んん。うん……」
 口の中でねっとりと舐め上げ、舌先で転がすと、そのたびに小枝はむずがるように腰を動かした。
 背と頭に手が回される。
 もう片方の乳房に口を移すと、耐え切れず小枝は声を上げた。
「ああっ、あ――」
 典太は攻めの手を休めず、空いている手でまだ唾液でぬめるもうひとつの乳首を転がす。
「典太、典太。あたし、ちょっと変になりそうだ。頭の奥が真っ白になりそうでこわい――」
 気がつくと小枝は、ひとっ走りした後みたいに息を荒げていた。
 もしかして胸をいじるだけで、達しそうになっているのだろうか。
 たしかめてみようと、典太は裾の間から太ももに手を入れた。
「あっ!」
 反射的に足が閉じられる。少々無遠慮に過ぎたようだ。小枝はすぐに力を抜いた。
「す、すまん。つい」
「いえ……」
 安心させるように小枝とくちびるを合わせ、ひざのあたりからじょじょに手を上げていく。
 すいつくような肌だった。
 若木のような固さを芯に残していながら、ふくよかな女のやわらかさを身に着けている。
 年頃の娘だけが持つ、季節の特権だ。
 太ももに指を滑らせ、何度か上下にさすりあげ、感覚に慣れさせる。
 充分に気持ちがほぐれてきたところで、耳元にささやきを入れる。
「もう少し、足を開いてください」
「こうか?」
「ぜんぜん。もっと大きく――できればひざを立てて」
 典太は指で押しやり、足を広げさせる。
「そ、そんなに開かなくてもいいんじゃないか」
「まだ僕の体が入りきらないくらいですよ。でもまずはこれくらいで――」
「あっ」
 手を差し入れるには充分な開き具合だ。
 典太は指を股の付け根に滑り込ませる。
 ――ぴちゃ
 と言う音がした。
 もちろんそれは気のせいだが、そう感じるほど小枝の秘所は濡れそぼっている。
「小枝様、すごい……」
「え……?」
「こんなに感じてくれて、うれしいです」
「なにがだ。変か? ああっうっ」
 小枝が感じていると言う事実に押されて、典太の欲望がむらむらと頭をもたげた。
 差し入れた左手をぬめりに沿ってやわらかく上下にさすっていく。
 また小枝の息遣いが激しくなってきた。
「どう? 気持ちいいです?」
「はっ、あ、ああ。自分でするよりずっといい……!」
「自分で? 自分でするんですか」
 失言にはっと小枝が息を呑む。
 典太は愛撫の手を止めず、いじわるくつっつく。
「た、たまにだぞ」
「どんなときにです?」
「んっ! ――変だぞ、典太。いじわるしないでくれ」
「男は欲望に負けると、いじわるくなるんです」
「負けたのか、典太」
「ええ。小枝様があんまりかわいいから。教えて欲しいな」
「う――」
 小枝が上気させた頬をさらに赤く染める。
 典太の指の動きに合わせ、軽く喘ぎを漏らしながら、おずおずと答える。
「お前と姉様の、むつみあう姿が、どうしても頭から離れない夜があるのだ。ひ、頻繁にではないぞ。そんな夜は自分の体に手が伸びてしまう……」
「だれを想像しながら?」
「う、ふっ……。お前だ、典太。お前の手を想像しながら、お前の体を想像しながら、あたしは自分を慰めておったのだ。ああっ! あんっ!」
 小枝の体がびくびくと震え始める。
 典太は首筋から胸へ下を這わせながら、だんだんと指に力と速度を入れる。
 喘ぎはもう、我を忘れた感じになってきた。
「あああ! あっ! 典太ぁ、なにも考えられない。体が熱い。変だ、真っ白になる――」
「そのまま身を任せて。僕を抱いて」
 ぎゅっと、まわされた手に力がこもる。
 もう気のせいではなく、小枝の股間からはくちゅくちゅと言う水音が響き始めていた。
 体の震えは一段と激しい。
「ああん! いやぁっ!」
 びくびくっ、と痙攣が襲い、細い体を逆に折り曲げて、小枝はのけぞった。
 吹き出したような蜜が典太の指を濡らす。
 それをすくいだすように指を動かしながら、ゆっくりと愛撫の手をゆるめていく。
「あ――は――」
 小枝は焦点の合わない目を天井へ向け、茫然自失の感で荒い息を繰り返している。
 振り乱れた髪が、汗でうなじに貼りついていた。
 左手を股間から引き抜くと、立てていたひざがぺたりと崩れた。どろどろと言っていいほど濡れている。
「よかったですか?」
 汚れていない右手で小枝の髪をととのえる。こくこくとうなずき、小枝は大きく息を吸って吐いた。
「……まだ夢心地だ。典太がこれほど技量に長けているとは思わなかった」
「小枝様が感じやすいだけですよ」
「そうか? いやらしい女は嫌いか?」
「とんでもない」
「うん。じゃあいやらしいついでに、お前のにも奉仕してやろう」
 体を起こした小枝が、典太にのしかかる。
 下半身に手が伸び、すでに力いっぱい立ち上がった一物をにぎった。典太は焦る。
「さ、小枝様?」
「経験はないが知らんわけじゃない。下町の友人には嫁に行った者もちらほらおる。どうすればよろこぶかぐらいわかっているぞ」
「お友達とそんな話してたんですか」
「女三人かしましいと言うやつさ」
 違うぞそれは、と言おうとした瞬間、典太のすそを割って入った手が、下帯をほどいた。
 内容物の張力でそれはあっと言う間にはずれてしまう。
 小枝は現われた屹立を遠慮せずにつかんだ。
「ううっ」
 今度は典太がうめく番だ。小枝のたおやかな指が欲望の怒張に絡み、それをさすり撫でていく。小枝の痴態に我慢の限界を迎えていた一物は、先走りの液を滴らせた。
「どうだ、よいか」
 小枝は典太の上に乗って、耳たぶを噛んだ。
 その間も手は休まずしごき続けている。
「ま、まだまだ」
「強情なやつめ」
 小枝は顔を下半身へ持っていく。
 吐息が下腹をくすぐり、典太は小枝がなにをしようとしているか悟って、上半身を起こした。
「あの、あんまり無理しなくても」
「やりたいのだ。……うん、間近で見るとやっぱり奇怪な形状をしているな」
「いや、奇怪って……」
「お前も姉様に口に含んでもらって、よろこんでいたじゃないか」
「あ! 小枝様、覗いたの一回だけじゃないでしょう!」
「ふふ、覗くのにいい場所があってな」
 上目遣いで笑った小枝が、亀頭に舌を這わせた。
 ちろちろとくすぐる、その遠慮がちな動きが逆に新鮮だ。
 飴でも舐めるように、下から上に、舌全体を使って丁寧になぞりあげていく。
 唾液が根元まで滴り落ち、ときおり思い出したように動かす手の潤滑となって、快感を膨らませた。
 背筋にぞくぞくとしたものが走って、典太は再び床に身を横たえた。
「……小枝様、ちょっとお手柔らかに……」
「ん? どうした、痛かったのか?」
「そうじゃなくて……小枝様にそんなことしてもらってると思うと、我慢できないかもしれません」
「くっくっく。お返しだ。あたしで感じてくれているんだな。お前はどうなんだ? あたしを想像して慰めることはなかったのか?」
 舌を這わせながら訊いてくる。
 正直、子供だと最近までは思っていたが、このところ花が開いたように女らしさを身につけていく小枝を、まったく欲望の対象としなかったわけではない。特に典太の前では無防備な小枝の、くっついてきたときに感じた体のやわらかさや、開いた胸元から覗いた乳房を、悪いと思いつつあとで思い出して慰めることもあった。
「どうなんだ?」
「あ、あります。あの――」
「よかった。こんなあたしでも、ちゃんと女と見てくれていたんだ」
 そう言った小枝の口が、亀頭の先から竿の半ばまでを、ぐっと飲み込んだ。
 小枝が口淫している。ほんの少し前の自分には信じられないことだ。
 ちらりと目をやると、少し苦しそうに眉をしかめた小枝は、いっしょうけんめい典太の欲望を口に含み、限界まで飲み込むとそれをくちびるをすぼめて引き抜き、また飲み込んでいた。髪がおどり、太ももの辺りをくすぐっている。
 あんまり見ていると興奮して達してしまいそうだった。
 何度か繰り返した小枝が、息を荒げて口を離す。
「こんな感じでいいか? 歯は当たってないか?」
「初めてとは思えないくらいです……。って言うか、くわしいですね」
「しっかり教わったからな。まあ遠慮せず、溜めているものを一回吐き出しておけ」
 顔を沈めた小枝がもう一度口に含み、今度は手も使って一物をしごきはじめた。
 たしかに一度出しておいたほうが、思い切り固い帳を入れるよりマシかもしれない。小枝もそのへんのことを友人に吹き込まれたのかもしれなかった。
 典太は床に横たわったまま、快感に身を任せることにした。
 くちびるを使って締め付け、それに合わせて舌が敏感なところを刺激する。ぎゅっと絞った手が竿をしごき続ける。
 小枝の口が小ぶりな分、どうしても歯が当たってしまうことがあった。そのあたりは慣れだろうが、今は唾液でぬめりを帯びた手が気持ちいい。
「小枝様……そのまま……」
「ん」
 小枝は亀頭を口に含んで、付け根の裏側をちろちろと舐める。くちびるは上下させず、力を入れた手で大きく竿をこすりはじめた。
 濡れた手先が、ちゅくちゅくと滴るような音を立てる。
 典太は急激に昂ぶってくるのを感じ、小枝の髪を思わずつかんだ。
「さ、小枝様っ、出――」
「ひいぞ、ほのまま、出せ」
「でも口に、あ、」
 腰を引こうとした典太を小枝が押さえた瞬間、達していた。
 思わず目を向ける。
 どくどくと脈打ちながら自分の一物が、欲望の産物を小枝の愛らしいくちびるの中へ注ぎ込んでいる。純真で無垢な顔が、猛りを含んで歪んでいる。
 それを見ているだけで、もう一度達しそうなくらい煽情的だ。
「あ、あ!」
 脳裏に叩きつけられたような快感が典太ののどを反らせ、手は力任せに小枝の髪をつかんでいた。
「んう、うう」
 うめいた小枝が口を離す。
「やっ!」
 まだ射精の途中だった一物は、白濁した液を小枝の顔に振りかけた。
 目をそらしながらも小枝はそれを受け止める。
 やがて何度か跳ねるように痙攣し、一物はその動きをゆるやかに止めた。だらりと流れた最後の精液が、竿を伝って小枝の手を汚す。
「あ、す、すいません」
 我に返った典太は、つかみっぱなしだった手を離す。
 小枝は何度かうなずくようにして、口の中の物を嚥下しようとした。
「ぷるぷるして、飲みづらい」
「あの……別に飲まなくても」
「せっかくの証だ。礼儀と言うものだろう」
 そうだろうか。男としてはうれしいものだが。
 小枝は手と顔についた精液も、すくいとって舐めていく。
「ニガいな、これは」
 子猫が顔を洗っているようにも見えるが、それは典太の子種を舐め取る行為だ。
 小枝の美しい横顔を汚した興奮が抜けきらず、典太の猛りは収まりそうもない。
「小枝様」
 体を起こし、横座りをした小枝の腰を抱く。
 帯をほどき、半裸の小枝から衣を剥いで行く。
 小枝はあらかた顔のものを舐め取ると、笑った。
「だいじょうぶか? しばらくは立ち直らんのだろう」
「元気いっぱいですよ」
「ふふ。よかった」
 衣からそでを抜くと、今度は小枝が典太の着物を脱がせた。
 お互い裸になり、絡み合うように床へもつれ込む。
 小枝の股に太ももを入れると、小枝も足を組ませてきた。手と手でしっかり背中を抱き合い、ひとつになろうかとするように肌を合わせる。
 くちびるを合わせ、舌を求め合う。まだ少し青臭いが、そんなことは気にならない。
 上になり下になり、床を転がるうちに、典太の頭に何か当たった。
「――あ、本」
 途中からすっかり失念していた。小枝が笑う。
「心配するな。本に書いてある通りだ。次にお前が抱いてくれればな」
 もう恥ずかしくないぞ、と言いながら、小枝が足を広げる。
 典太は身を離して、その中心を見つめた。
 草原のような薄い陰毛。あわい色のひだが、その狭間で見え隠れする。蝋燭の不安定な明かりでもはっきりするほど、そこは透明なぬめりに覆われていた。
「いきますよ」
 典太は足の間に体を入れる。
 一物の先端をぬめりの中央へあてがう。
 ほんの少し先を沈めると、さすがに小枝は身を固くした。
「力を抜いて。少し痛いかもしれませんけど」
「だいじょうぶだ、たぶん」
「じゃあ……」
 そこからぐっと、秘所の奥へ肉の棒を差し入れる。
 途中でかすかな抵抗があった。
 そこを押し入るとき、小枝が小さく息を呑んで、典太の首筋に手を回した。
 濡れていて思いのほかすんなり、根元まで入れることが出来た。それでも握り締められているような締め付けだ。
 典太は訊く。
「痛みます?」
「いや……なんとか。昨日小指を箪笥の角にぶつけたときの方が痛かった」
 なんて例えだ。笑いそうになったのをこらえて、典太はゆっくり腰を動かす。
 初めて男のものを受け入れたひだの筒は、まるで自分の一部だと思い違いしたように一物へまとわりつき、典太が動くたびに引きつるようにきしんだ。
「っく、さすがに、動くと痛いな」
「しばらく休みましょうか?」
「いや、かまわない。それより早く終わらせて欲しいな」
「わかりました」
 希望に沿えればいいのだが、さきほど果てて一寸も経たずにもう一度と言うのは厳しい。逸ったのは失敗だったかもしれなかった。
「僕が気持ちいいようにしていいです?」
「ああ。どうやっても痛いものはおなじだ」
 典太は小枝のひざの裏に手を入れ、そこを起点に床に手をついて、腰を持ち上げさせた。
 ぐっと体を丸めた体勢に、小枝が慌てた声を上げる。
「あ、あの、繋がったところがあたしから見える……」
「こうすると、早めに出せるかも。さっきより痛いですか?」
「いや、角度がいいのか痛まなくなったが……その……」
「じゃあ動きますよ」
「ああんっ!」
 突然あがった大声に、典太は驚いて腰を止める。小枝もびっくりしたように手を口元へ当てていた。
「い、痛いですか」
 首を横に振る。
「……続けてくれ」
 今度はゆっくり、しかし奥深くまで突き入れる。
 怒張の先っぽが小枝の秘所の最奥をつついた瞬間、また小枝はあられもない声を上げた。
「ああっ!」
「ひょっとして、気持ちいい?」
 ぶんぶんと否定するように小枝は首を振るが、痛みとは別のうるみかたをしてきた瞳が、その嘘を物語っている。
 典太は何度か、たしかめるように行き止まりをこつこつ叩いてみる。そのたびに押さえきれない声を小枝はあげる。
「動いても、だいじょうぶですよね」
「ま、待って。ちょっと――」
 典太は聞かず、腰を大きく振り上げて、打ち下ろした。
 ぱんっ、と肌のぶつかり合う音が響く。
「はあぁっ!」
 同時に小枝の嬌声が飛んだ。
 典太は続けて、何度も腰を動かした。
 小枝は身もがくが、しっかり組み伏せられて逃れられない。
 ぱん、ぱん、と音がなる度に、小枝のあられのない声が闇の中へ響く。
「も、許し――て、ああん、あんっ! まだあんまり動くと、痛い、から」
「痛いのと気持ちいいの、どっちが上です?」
「ふぅんっ、気持ちいい! 気持ちいいから!」
 無我夢中の小枝が、典太の背中に爪を立てる。
 その乱れようがかわいらしくて、しつように一物をぶつけていると、いままでぎゅっと締まっていた膣奥が、とつじょ空洞を開いた。
「あああ! やだ! また来る、真っ白いのが、やぁあ!」
 それと同時に小枝が叫び、いっそう手に力を込めた。
「やだっ、きたぁー!」
 喉を反らし、髪を振り乱して、忘我の声を上げる。
 びくびくびくっと何度も細かく震え、小枝は絶頂に達した。
 典太はそれに合わせて、腰の動きをゆるめる。
 何度か身をよじるように悶え、一気に体の力が抜けていった。
 息も絶え絶えな小枝の体は、絶頂の余韻でまだぴくぴくと痙攣している。
 それを抱きしめて、耳元でささやく。
「ずるいですね。ひとりで先に達してしまって」
「――え? お前、まだなのか」
「もう少し付き合ってくださいね」
「か、かんにんしてくれ。腰が立たなくなりそうだ――」
 小枝の泣き言に耳を貸さず、典太はもう一度体勢を立て直すと、繋がったままの腰を動かし始めた。
「ちょっと、もう、ああ……また、待って」
 支離滅裂な言葉で止めようとするが、典太ももう少しで出そうなのだ。またいじわるくささやく。
「感じる小枝様が悪いんです」
「だって、気持ち、ああう、いいっ! いいんだから、仕方ない」
「僕ももうちょっとなんです」
「だったら、あたしが、変に――変になる前に出してくれ、な?」
「善処します」
 そう言いつつ、先ほどより激しく勢いをつけて、腰を動かす。
「ああっ! いい! 気持ちいい!」
 強要しないのに淫らな言葉を小枝が口走る。
 廊下を走り回っていたあの姿からは想像のつかない艶やかさだ。
「典太、典太ぁ! あたしもうまた、きちゃう! 変になる!」
「僕も――達しそうですっ」
「じゃあいっしょにだ、いっしょに――」
 あきらかに処女の血とは別の、粘液質なものがふたりの腰と腰の間から、淫靡な音を上げている。
 肌と肌は汗が混じりあい、それが重ねあわされるたびにお互いを溶かしあうようだった。
「小枝様、僕も!」
「出してくれ、あたしの中に、お前のを注ぎ込んでくれっ」
「ううっ!」
 ひとつうめいて、典太は射精した。
 小枝の下の口は、上の口と同じように注ぎ込まれたものを受け入れ、飲み込んでいく。
 小枝の処女肉の中にどくどくと、大量の欲望が吐き出されていった。
 女を孕ませたい、もっとも原始的な昂ぶりが典太の脳を白く焼いて、理性を捨てさせた。
 最奥の奥に届かせるように、射精しながらも一物を突き入れる。
 小枝は声も出さずにのけぞったまま、床を爪でかきむしるようにつかんでいた。
 そのまま固着すること数瞬――。
 最後の一滴まで搾り出すように射精を終えた典太は、力を抜いて小枝の体の上に身を投げ出した。
 さすがに息が荒い。同じように荒い呼吸を繰り返している小枝の喉が、目の前で脈動している。
 それからだんだんと冷静になってくるにつれて、とんでもないことをしてしまったことに気づいた。
「さ、小枝様。あの、中に出しちゃいましたけど」
「いい。月のものの後は孕みにくいし、なにより本がそういう内容だ」
「それなら、まあ……」
 いいんだろうか。
 小枝はぐったりして薄目を開き、宙を見つめている。
「お前は、気持ちよかったか?」
「ええ。小枝様の体の方は障りないですかね」
「じんじんする。でも平気だ。――あ!」
 小枝が身を起こそうとしたので、典太は体をよける。
 床に転がっている本を取り上げて、頁を繰り始めた。
 典太は横から覗きこむ。
 どの頁も真っ白のようだった。
 本当に成功したのかもしれない。典太は小枝の手を止め、本を取り上げた。
「なにする?」
「危ないです。いまここにはあの世への穴があいている。不用意に触ったら紗由里様の二の舞になりかねません」
「そうか。でもこれで取っ掛かりは出来たわけだ」
「そうですが……まずは体を拭いて、服を着ましょう」
「そうだな。あたしの中からお前のものが垂れてきている」
 どろりとした白いものが小枝の太ももに流れていた。
 典太は慌てて、手ぬぐいを探しに立ち上がる。
 汗をぬぐって着替え終わると、ふたりは本を前に正座して、今後の話を練った。
 消えかけた蝋燭を新しい物に替え、典太は言う。
「このまま本を開いているだけでは、紗由里様は戻ってこないと思います」
「うん」
「僕たちがあの世へ探しにいけるのも、おそらく機会は一度きり。戻れば通路は消えるでしょう。それでも賭けますか?」
「もちろんだろう。なんのためにお前に処女をやったのだ」
「いや、その話と絡めないでくださいよ……」
「とにかく行く。いますぐに。どうすればいい」
「じゃあこれを」
 典太は赤い紐を渡す。書庫の中で使えそうな長さの紐はこれしかなかった。
「紐を手首に巻いてください。僕も同じように巻きます」
「それで?」
「もう一方の端は柱へ巻きつける。これを手繰って行けば、あの世から迷わず戻れるってわけです」
「そんな簡単に行くのか……」
「あの世へ行って戻った人の話は多く残ってます。みんなこれで戻ってきた」
 しかしあの世へ消えた人間を連れ戻したと言う話はない。
 世界の法則は違う。あそこは無の世界だ。
 一年もそこでさまよって、無事でいるかもわからない。
 いまはただ、信じるべきを信じるしかなかった。
 典太は本を開く。
「覚悟はいいですか」
「いいさ。お前となら」
 小枝が笑い、お互いを結びつけた手を握る。
 それを重ね合わせ、真っ白い頁に深く沈みこませた瞬間、目の前のすべてが白いものに吸い込まれているような眩暈が襲った。
 懐かしいような感覚。
 なにもかもに手が届く。
 すべてがそこにあるような感覚を――。
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